橋下徹「なぜ宮迫さんの会見は完璧か」
プレジデントオンライン / 2019年7月24日 11時15分
(略)
■タレント側に有利な展開だが、ここで攻めすぎてはならない
写真週刊誌「フライデー」の第一報によって、反社会的勢力のパーティーに参加しギャラをもらっていたことが発覚した宮迫博之さんと、ロンドンブーツ1号2号の田村亮さん。宮迫さん、田村さんに謹慎処分が下り、事態が推移する中、フライデーの第二報によって宮迫さんが、キャバクラで金塊強盗犯と一緒に酒を飲み、ギャラをもらったという報道が出た。そしてあれよ、あれよという間に、宮迫さんは吉本から契約解消を伝えられた。
この時点では、宮迫さんに対する非難の大きな流れができていた。
最初、宮迫さんたちがギャラをもらっていないと嘘を付いていたことが尾を引き、第二報によって、やっぱりか……という雰囲気になっていたことも確かだ。一部報道では、宮迫さんの引退会見が開かれる予定のところ、急遽宮迫さんが拒否したという宮迫さん不利の情報も流れていた。
そして、宮迫さん、田村さんは7月20日に記者会見を開いた。会社を辞めた後に、自ら主導的に開いた会見である。
嘘を認め謝罪し、反社会的勢力による犯罪の被害者にも謝罪し、嘘は自らの保身から出たことを素直に認めた。ただし、反社会的勢力であったことは知らなかったという点は貫いた。
さらに、会見を開きたいと思っていたのに会社に止められた経緯、吉本興業・岡本昭彦社長の「会見を開くなら全員クビや」という暴言の事実、吉本への感謝の想い、先輩・仲間やファンへのお詫びなどをしっかりと述べた。
認めるところは認め、謝罪するところは謝罪し、反省するところは反省し、そして自ら主張すべきところは主張する。
記者からの質問には全て答える真摯な態度。
完璧な記者会見だった。
この会見によって、流れは完全に変わった。吉本のタレントたちも一斉に会社を批判するようになった。
このメルマガの趣旨から、あえて言わせてもらえば、これほど完璧な、そしてこれほどピンチの流れを変えた記者会見はない。
不祥事について政治家や企業経営陣が開く会見は絶え間ないが、下手なコンサルなんかに高額な報酬を払ってアドバイスを受けるよりも、今回の宮迫さんたちの会見を血肉になるまで勉強すべきだ。
そして吉本側に不利な流れができつつあるなか、22日、吉本側が会見を開いた。メインは岡本社長である。
岡本社長は、宮迫さんや田村さんとの契約解消を撤回し、再度協議をしていくという。コンプライアンスの確保と同時に芸人ファーストの考えを徹底して、芸人・タレントとのコミュニケーション・信頼関係を一から築き直していくと涙ながらに宣言した。
吉本側にも、宮迫さんたちにも違法行為がないのであれば、会社内の揉め事として、いったんここで収束に向かうことは望ましいことである。吉本側と芸人さんたちの信頼関係が強化されるための取り組みがしっかりと始まることを期待する。
ただ残念だったのは、岡本社長の言葉に、不明な点や、誤魔化しているなと感じる点がいくつもあったことだ。宮迫さんたちの関係を一からやり直すと宣言するのであれば、暴言めいた言動については一切言い訳せずに、全部そのまま認めてしまった方が良かった。下手な言い訳に聞こえてしまったところが多々あったと思う。どうせ謝るのなら、全面的に、しかもここまで謝るのか、というくらい謝った方がいい。宮迫さんと田村さんの会見が手本である。
吉本側の会見を聞けば、宮迫さんたちの会見にも不明な点が沸いてくる。両者の言い分の食い違いもある。
しかし、違法行為がなければ、そこは大した問題ではない。吉本側と芸人さん側で、きっちりとコミュニケーションをはかって解決する問題だ。
ただし、この騒動において注意しなければならないのは、これを機に、芸人さん側が一気に経営陣を過剰に攻めることである。
芸人さん側は、主張すべきことは主張しなければならないが、やり過ぎは禁物である。
この手の話には、いったん勢いに乗った側がやり過ぎてしまい、反転攻勢を受けるということがよくある。
経営陣の非はどこなのか。そしてその非についてのペナルティーはどこまでの範囲なのかは、専門的に確認していかなければならないことだ。感情的になってはいけない。
経営陣に対して、その非を上回るペナルティーを突き付けると、また必ず流れが変わり、経営陣を攻めていた側が今度は攻められる側になる。
(略)
■契約書問題、ギャラ配分……「昔のまま」は通用しない
吉本側も色々な思惑があったのであろう。宮迫さんや、関連する芸人を守るために、宮迫さんたちの会見をコントロールしようとしていたのかもしれない。とりあえず様子を見ることが芸人を守ることだと判断したのかもしれない。しかし、このような経営判断は時代の流れを読み間違えた。危ないと思うことほど、きちんとオープンに会見をすることが、現代の危機管理の鉄則だ。
さらに、6000名ともいわれる契約芸人をコントロール・統治するために、どうしても言うことを聞かないタレントには厳罰を加えて、組織を束ねようとしたのかもしれない。芸人個人の言い分をそれぞれ認めていては収拾がつかないと判断したのかもしれない。しかし、これも一種の恐怖統治であって、今の時代には沿わない。
芸人を守ろうとしたところから出発しながら、結局、違法行為をしていない芸人を斬り捨てるという事態に陥ったというのであれば、それは本末転倒である。
吉本側が芸人を守るために色々と考えていたにせよ、そのやり方が時代に合わなかったことが、今回の問題の根本原因だ。
(略)
芸人あっての吉本興業である。もちろん芸人も吉本興業があるから、仕事ができる。両者がウィン・ウィンの関係になるためには、今の時代、しっかりとした法的関係の整備=コンプライアンスの確立が必要である。
吉本側は、会社員や芸人が反社会的勢力に関わらないことを宣言し、それを実行するためのコンプライアンスの確立に力を入れるという。これは対外的なコンプライアンスだ。しかし、このような対外的なコンプライアンスを確立しようと思えば、組織内の内部的なコンプライアンスもしっかりと確立しなければならない。今の吉本に欠けているのは、その視点だ。
(略)
反社会的勢力との接触を、会社員や芸人に完全に断ち切らせるというコンプライアンス意識を醸成するためには、まずは組織内部でのコンプライアンス意識をきっちりと醸成しなければならない。その第一歩が、会社と芸人との権利関係の整備である。これくらいのコンプライアンスを実践できない会社が、反社会的勢力との関係を断ち切るコンプライアンスを確立できるわけがない。
岡本社長は、芸人さんたちとの信頼関係を築くことが第一だと言っていた。芸人さんたちは、ギャラの配分方法についても不満を持っているようだ。昔は、昔のやり方で収まっていたのであろうが、個人の権利意識が高まってきている現代において、昔のやり方はそのまま通用しない。それが時代の流れというものだ。
吉本の大崎洋会長は、新聞各社のインタビューに応じ、契約書がないやり方が吉本には合っていると答えていた。しかしそれは、現代社会ではもう通用しないだろう。これだけの問題が生じたのに、契約書をまだ作らないというのは大問題だ。特に、会社の方から一方的にギャラが配分できたり、契約解消ができたりする契約構造は大問題だ。場合によっては独占禁止法が適用されることもあるだろう。
この点の権利関係の整備、透明化、書面化ができなくて、会社と芸人さんたちの信頼関係を強化することなど、もはや不可能であろう。吉本側は、芸人ファーストで行くと宣言した。そうであれば、まずは会社と芸人の間の権利関係をしっかりと整備し、書面化することに努めるべきだ。ここは吉本の経営陣も、素直に時代が変わったことを認めた方がいい。
そしてくれぐれも、芸人さんたちは、やり過ぎにならないように注意して欲しい。経営陣の非に釣り合う攻め方を心掛けて欲しい。
(略)
(ここまでリード文を除き約3200字、メールマガジン全文は約1万2700字です)
※本稿は、公式メールマガジン《橋下徹の「問題解決の授業」》vol.160(7月23日配信)を一部抜粋し、加筆修正したものです。もっと読みたい方はメールマガジンで! 今号は特別増大号《【参院選総括】自公圧勝・負けを認めない者は政権を獲れない/【激震芸能界】流れを一変させた宮迫さん・田村亮さんの謝罪会見》特集です。
(元大阪市長・元大阪府知事 橋下 徹 写真=時事通信フォト)
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