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早慶の国際評価が下がり、地方大が上昇のワケ

プレジデントオンライン / 2019年8月8日 6時15分

※写真はイメージです(写真=iStock.com/mizoula)

国際的な大学ランキング調査で、東京の大学がランクダウンし、地方の国立大学が順位を上げる現象が起きている。大学ジャーナリストの木村誠氏は「大学生活や教育への満足度が高いのだろう。地域活性化を使命に位置づけた、大学改革の成果もある」と分析する――。

※本稿は、木村誠『「地方国立大学」の時代 2020年に何が起こるのか』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。

■英語で論文を書かなければ評価される機会が減る

世界大学評価機関であるクアクアレリシモンズ(Quacquarelli Symonds)は2019年6月、世界大学ランキング2020を発表。それによると、ランクインしている日本の41大学のうち、大阪大学や東北大学、名古屋大学など、実に24校が順位を落としたことが分かった。ただ、クアクアレリシモンズのみならず、近年の世界の大学ランキング調査全般で、日本の大学は概ね苦戦を強いられていると言っていいだろう。

高度成長期などであれば、高度な研究論文であろうと、あくまで国内向けに、日本語で発表できればそれで済むことも多かった。論文を英訳する手間をかけないぶん、研究に没頭できた。

しかし、グローバル化が進んだ結果、研究論文が海外で引用される率が、研究力の国際的評価基準の一つとなった。英語になっていなければ論文の内容が一定のレベルに達していても、正当に評価される機会が大きく減少する。そのため、今では日本でも理系の論文はほとんど英語で発表されるようになっているが、こうした背景がランキングの低迷などに直結してきたと考えられる。

そのうち「THE 世界大学ランキング」は、今やマスコミらがその情報ソースとして盛んに取り上げるようになっている。各大学を評価しようにも、入試の偏差値は予備校などの出どころで違うし、もちろん学部によって大きく異なる。その点このランキングは、一定の指標に基づいてランク付けされたものだし、誰の目にも分かりやすいからだろう。

■「THE 世界大学ランキング」には日本版がある

実はその「THE 世界大学ランキング」には日本版があることをご存じだろうか?

図に「THE 世界大学ランキング 日本版」の上位20位までを紹介したいと思う。なおスコアの規準は次のとおりだ。

●教育リソース――どれだけ充実した教育が行われているか。5項目で構成され、全体の34%を占める。①学生一人当たりの資金(8%)、②学生一人当たりの教員比率(8%)、③教員一人当たりの論文数(7%)、④大学合格者の学力(6%)、⑤教員一人当たりの競争的資金獲得数(5%)

●教育充実度――どれだけ教育への期待が実現されているか。5項目で構成され、全体の30%を占める。①学生調査:教員・学生の交流、協働学習の機会(6%)、②学生調査:授業・指導の充実度(6%)、③学生調査:大学の推奨度(6%)、④高校教員の評判調査:グローバル人材育成の重視(6%)、⑤高校教員の評判調査:入学後の能力伸長(6%)

●教育成果――どれだけ卒業生が活躍しているか。「教育成果」は次の2項目で構成され、全体の16%を占める。①企業人事の評判調査(8%)、②研究者の評判調査(8%)

●国際性――どれだけ国際的な教育環境になっているか。4項目で構成され、全体の20%を占める。①外国人学生比率(5%)、②外国人教員比率(5%)、③日本人学生の留学比率(5%)、④外国語で行われている講座の比率(5%)

前年度までと違うのは、教育充実度の学生調査を新たに加えた点である。

THE 世界大学ランキング 日本版(上位20位まで)(画像=『地方国立大学の時代』)

■「合格難易度」以外の評価が数字で示された

このスコアの項目の中で、受験生が一般的に気にするのは、教育リソースの④大学合格者の学力、すなわち入学偏差値であろう。次に気にする就職率は、実態が正確につかめないためか、「企業人事の評判調査」(具体的には、日経HR作成による「企業の人事担当者から見た大学のイメージ調査」)で代用されたとされる。

一方で学部構成によってデータがとれないためか、国家試験合格率は指標にない。さらに近年注目度が増している退学率、留年率なども使われていない。

こうした部分は将来改善されていくと思うが、ともあれ、従来は合格難易度だけに頼りがちだった大学の評価が客観的数字で示されたことは、意義があるだろう。

■九州大学や北海道大学の評価が上がり、東大や早慶は下がった

図のうち、2018年と2019年を比べランクアップした大学は九州大学、北海道大学、名古屋大学、国際教養大学、国際基督教大学、広島大学、神戸大学、金沢大学である。

逆にランクダウンは、東京大学、東京工業大学、早稲田大学、慶應義塾大学、一橋大学、上智大学、東京外国語大学である。

この変動からは、全般的に地方国立大学と公立大学が伸び、東京の大学がダウンしていることが分かる。表にはないが、20位以下から50位までを見ても、地方国立大学を中心に、ランクアップする例が目立つ。

それはたとえば、38→29位豊橋技術科学大学、42→31位京都工芸繊維大学、43→40位長崎大学、51→45位新潟大学、54→46位信州大学、58→48位秋田大学などである。

一方、23→33位立命館大学、同志社大学28→35位、関西学院大学31→37位など、関関同立(関西・関西学院・同志社・立命館)と呼ばれる有名私大で、軒並みランクダウンが起こっていた。

■大学生活や教育への満足度が高いのではないか

ではなぜ地方国立大学でランクアップが目立つのか? その理由として、2019年から新たに学生調査を導入し、それをランキング指標に反映させたためでは、と著者は考えている。ランクアップした多くの大学が、学生へのこうした調査でよい数字が出た可能性がある。おそらく地方国立大学は、その大学生活や大学の教育に対する満足度などが比較的高いのではないだろうか。

もちろん地方国立大学の大学改革の成果もあるだろう。

特に文部科学省が進める「国立大学再ミッション」施策の影響は大きい。

2016年より文部科学省は全国に86ある国立大学各校にミッション(使命)の再定義を求め、特色ある大学づくりを促してきた。その施策において「地域活性化」をそのミッションとして選んだ大学の中で、地域貢献を視野に入れた新学部創設が相次いだ。こうした新学部設立が結果として、近年目立つ「大学改革」へとつながることもあったようだ。

■懸命な取り組みを財務当局は評価できているか

ともあれこのランキングの成果からは、地方国立大学が、それぞれのミッションに従い、懸命に取り組み始めていることが浮かび上がってくる。特に地域貢献を前面に出した新しい学部やカリキュラムの創設などがもたらす成果は、その先にある地方、そして日本の復活へ直結するため、大変重要だと著者は考えている。

しかし大学の予算を担当する財務当局はそれらを正当に評価できているのだろうか、もしくは、昔と変わらぬ伝統的な大学観にとらわれてはいないだろうか、という懸念はやはり残る。

日本の国立大学の教育や研究や現状についてよく言われる形容句は「タテ割り」「タコツボ状態」「相互不干渉」だ。つまり、大学の研究組織が縦割りで深く掘り下げた結果、相互に不干渉となってしまった状態を指している。これは日本の官僚組織や大企業にも当てはまるだろう。特に学問の専門化が進んで高度化、細分化されたことで、大学でのこの傾向はさらに深刻になっているといわれる。

だが限られた人員や財源の中では、学内でも戦略的に重点配分する必要が出てきたのは事実であり、運営費交付金が減らされている国立大学ではなおさらである。タコツボ組織は居心地がいいのかもしれないが、今やそれが許されるほど甘い社会状況ではない。

■教員の研究時間が減り、研究力は下がっている

大学教員も教務に駆り出される一方、学生教育も大教室での授業から少人数のアクティブラーニングにシフトし、その準備や評価にこれまでの数倍の時間が要されている。そのため大学教員の研究時間は減少し、それが研究力の低下につながっている。

ではそのような現状を踏まえ、改善するための大学財政政策が、実際に進められているのだろうか。

木村誠『「地方国立大学」の時代 2020年に何が起こるのか』(中公新書ラクレ)

2016年2月29日付読売新聞の記事「異見交論26『今のままの大学では生き残れない』」によると、当時金融庁参事官の神田眞人氏(現・財務省主計局の大学担当次長)は、「(大学の)改革を推し進めるためにも、『評価』が必要です」という記者の発言に対して、次のように答えている。

「ここが難しいところです。国が評価するより、学界、アカデミックコミュニティーが自浄作用として厳しいピアレビュー(学者同士での評価)をしてほしいのです。学者が学者に対して、大学が大学に対して、『おまえたちはそんなことではだめだ』と言うような。ところが、それができない。先ほどの『タテ割り』で隣に駄目だという能力も志もない。学問の細分化でもっと酷くなっています」

この発言の中で重要なのは「できない」という事実認識にある。

■「競争」よりも「連携」を目指す方がいい

あくまで著者の私見ではあるが、今日、学者や研究者が大学内で、あるいは大学間で、相互を評価・批判するようなシステムはむしろできつつあると感じている。「おまえたちはそんなことではだめだ」という決めつけでなく、その教育研究活動を正当に評価し、批判すべきは批判するというシステムの構築は、十分に可能と思える。

大学学内では法人化で学長権限が増え、大学のガバナンスが進んだと言っても、競争的資金の獲得にハッパを掛けるだけになってしまっては意味がない。大学内で研究者同士、あるいは大学間で相互に評価する流れが生まれれば、大学同士で争わせて第三者が短時間で査定する「競争と集中」政策よりも、大学間連携による大学全体の教育、研究力の向上が果たされる可能性も高まるはずだ。

そう考えると、百貨店のようになった東大モデル志向の総合大学より、専門店のように魅力ある得意分野を持つ地方国立大学の間でこそ、大学や研究者の連携によるメリットは大きい。そして国の大学政策は競争より、連携による共創を目指すべきではないだろうか。

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木村 誠(きむら・まこと)
教育ジャーナリスト
1944年神奈川県茅ヶ崎市生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、学習研究社に入社。『高校コース』編集部などを経て『大学進学ジャーナル』編集長を務めた。著書に『就職力で見抜く! 沈む大学 伸びる大学』『危ない私立大学 残る私立大学』『大学大倒産時代』『大学大崩壊』(以上、朝日新書)など。

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木村 誠(きむら・まこと)
教育ジャーナリスト
1944年、神奈川県生まれ。早稲田大学政治経済学部新聞学科卒業後、学習研究社に入社。『高校コース』編集部などを経て『大学進学ジャーナル』編集長を務めた。現在も『学研進学情報』などで活躍。

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(教育ジャーナリスト 木村 誠 写真=iStock.com)

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