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「週休2日」を実現した京都の有機農家の働き方

プレジデントオンライン / 2019年9月27日 6時15分

「京野菜の本場」と言われる大原で有機農業を営む渡辺雄人氏 - 画像提供=渡辺雄人氏

有機農業は普通の農業よりも手間がかかる。しかし有機農業に取り組みながら、「週休2日、17時終業」でしっかり稼いでいる人がいる。京都・大原でヴィレッジトラストつくだ農園を営む渡辺雄人氏に、『農業に転職!』著者の有坪民雄氏が聞いた——。

■「京野菜の本場」大原の農地は意外と狭い

【有坪民雄(専業農家/『農業に転職!』著者)】三千院や寂光院でも知られる京都の大原といえば、聖護院大根や九条ネギ、万願寺とうがらしといった京野菜の本場というイメージがあります。渡辺さんもそういった野菜を中心に育てているのですか?

【渡辺雄人氏(ヴィレッジトラストつくだ農園)】実は、この大原は全部で40町歩くらい(約40ヘクタール)の農地しかないんです。その中には棚田も多いうえに、山に囲まれているのでイノシシやシカなどもいるので、農業がやりやすい場所だとは言えません。

ですから、「大原が京野菜の本場」というのは、イメージが先行してしまっているように感じます。見ていただければわかるように、農村地域であることは間違いありませんけども。

【有坪】実態はどうなのですか?

【渡辺】農家の数としては100戸超です。「里の駅 大原」という農産物の直売所があるのですが、そこの出荷者も100戸くらいです。

「京野菜の本場」というイメージがあるのは、メディアの影響かもしれません。というのも、大原は市街地から20分ほどとアクセスが良いので、京都の料理人さんとじかで取引している農家さんがおられます。その様子がテレビで紹介されることがあるからです。

そのうえ、うちも含めた複数の有機農家がインターネットやマルシェなどで露出していることも関係しているかもしれません。

■9割が業務用、個人への販売は1割

【有坪】その中で、渡辺さんが経営している「ヴィレッジトラスト つくだ農園」では、どのような農業を行っているのでしょうか?

【渡辺】僕が大原に住み始めたのは2006年で、本格的につくだ農園を始めたのが2009年ごろになります。あまり大きくない農地をあちこちに持っていて、全部を合わせると約1ヘクタールです。

有機JAS認証は2009年からずっと取っていて、年間40種類の野菜を作っています。その中には九条ネギや金時人参、海老芋、聖護院大根、万願寺とうがらしなどの京野菜や、大原の特産である赤紫蘇もあります。

【有坪】売り上げ構成比も教えてください。先ほど直売所の話もありましたが。

【渡辺】基本的には業務用への卸販売が多いです。売り上げでいえば9割が卸しで、1割が個人への販売です。業務用への卸販売は、京都生協などのスーパーマーケット、八百屋さん、レストランなどです。

直売所に出荷することもありますけど、売り上げ的にはそんなに大きくありません。個人への販売は、基本的にインターネットによる注文を受け付け、宅配便で送る野菜ボックスとして販売しています。

画像提供=渡辺雄人氏
個人への販売は1割だ - 画像提供=渡辺雄人氏

■大原に住んだきっかけは「大学院の研究」

【有坪】業務用の卸販売先は、ご自分で探したのですか?

【渡辺】自分で開拓したところもありますし、紹介で取引が始まったところもあります。それから大原では「朝市」が週に1回行われるのですが、農家になってから2016年2月までの10年間、ほぼ休むことなく参加していました。そこでの出会いも販売網の確立につながっています。

【有坪】紹介というのは、どなたからですか?

【渡辺】それを説明するには、僕がこの大原に来たきっかけから話さないといけません。少し長くなりますが……。

【有坪】大丈夫です。なぜ2006年に大原で住み始めたのですか? そもそも渡辺さんは京都の方ですか?

【渡辺】僕は岐阜出身なんです。大原に住んだのは「田舎で暮らしたい!」と強く願ったというわけではなくて、大学院生として同志社大学大学院総合政策科学研究科のソーシャル・イノベーション研究コースに通っていたからです。

当時できたばかりの研究科だったのですが、実際に起きている社会問題を解決するというミッションの下、大原の空き家を大学で借りることになったんです。それで、自然やアウトドアが好きだった僕が指名されました。「それなら行ってみます」ということで、来ました。

■大学が借りた農地の管理を任された

【有坪】最初は学生として来たわけですね。

【渡辺】はい。そのときに大学は農地も借りたので、そこの管理も任されました。いきなり「農地の管理をしろ」と言われても何をしたらよいかわからなくて……。

とりあえず何か野菜を育ててみようと思って、まわりの農家さんに聞きながら、自分たちで食べる野菜を作り始めました。案外、素人でも野菜はちゃんと育つもので、それなりに収穫できました。

同志社小学校の食育プログラムで利用したり、地元の子どもたち向けに簡単なワークショップをしたりしても食べきれないほどだったので、隔週で朝市に出させてもらいました。

画像提供=渡辺雄人氏
最初は大学院生として大原の地に来た - 画像提供=渡辺雄人氏

■「京都における有機農家の第一人者」に弟子入り

【有坪】そのときからすでに有機栽培を意識していたのですか?

【渡辺】そうですね。自分たちで食べたり、子どもたちが畑の中に入って遊びながら収穫体験をしたりしていたので、無農薬で有機栽培にすることで、できる限り安全・安心なものを作りたいなと思っていました。

次第に、本格的な農業をやってみたいと思うようになり、たまたま同じ大学院に一回り以上も年上の有機農家さんがいたので、弟子入りをしたんです。

その方は、京都市右京区の太秦というエリアで有機農家をしている長澤源一さん。「京都における有機農家の第一人者」と呼ばれることもある方です。

約3年にわたって、有機栽培のノウハウを学ぶとともに、さまざまな経験をさせてもらいました。その中で、販売先を見つけるための方法を教えてくださったり、実際に取引先を紹介してくださったりしたこともありました。

【有坪】販売先の見つけ方以外で、その3年間の経験はどのように生きていますか?

【渡辺】実際に有機で野菜を育てる中での考え方や野菜の状態を知る方法、土作りなど、本当にいろいろ学び、それが今もすごく生きています。中でも最も勉強になったのは作付計画です。

1年間で、どの時期にどの野菜をどれだけ作るかという計画で、自分ひとりでやっていたときはまったくそういうものを考えていませんでしたので。

■自分で考えて実行しないとうまくいかない

【有坪】具体的にどのような勉強をしたのですか?

【渡辺】今でも長澤さんで行っている「作付検討会」をしました。そこではお弟子さんたちが集まって、長澤さんや複数いる弟子同士が、それぞれの作付計画をチェックしていきます。

そこで「レタスはどういう理由で作付けするのか。なぜこの量なのか」といったことを聞いたり、答えたりしていきます。そのうえで、定期的にそれぞれの農家を訪れ、「なぜ計画の2倍もレタスをやっているのか」といった実態を踏まえたやりとりをします。

つまり計画を基にした実際の営農も見ることで、いろんな意見や考え方、それぞれの事情などを聞くことができるので、すごく勉強になりました。

それから、有機農家としての考え方も学びました。といっても、「こういう考え方でやれ!」ということではなく、「自分で考えてやらないとうまくいかない」ということを学びました。

■農業を経営するうえでの「軸」が必要

【有坪】どういうことでしょうか?

【渡辺】いま僕自身も研修生を受け入れたり、自分の出身である大学院で開催している有機農業塾で講師をしたりする中でも常に伝えていることですが、「なぜ農業をやりたいのか。その中でもなぜ有機農家なのか」という目的を明確にしないと、続けていくことは難しいということです。

「環境に良いから」「自分のライフスタイルに合っているから」でもいいし、僕のように「安全・安心なものが作りたい」でもいいし、「お金もうけがしたい」でもいいんです。そういった立ち返る場所、農業を経営するうえでの軸を持っておくべきだということです。

【有坪】それはなぜですか?

【渡辺】有坪さんもご自身で農家をされているのでご存じだと思いますが、有機農家は忙しいからです。少ない種類の作物を大規模に栽培すれば、大型の機械などを使って効率よく作業ができたりしますが、多品種を栽培する小規模の有機農家は、細かな作業がたくさんあります。

販売網も複数あるのでそれだけ手間もかかります。加えて病害や獣害に遭うこともあります。繁忙期には、人を雇わないと作業が追いつかないので、人件費もかかります。

■終業時間は17時、週2日は休みと決めている

【有坪】つくだ農園では、何人くらいが作業をしているのですか?

【渡辺】現在のつくだ農園は、基本的には、僕や妻を含めて週5日の勤務が4人、週3日の勤務が3人の7人体制です。それから、わが家は手のかかる年頃の子どもが3人いることもあって、終業時間は17時で、週2日を休みとしています。繁忙期以外は、残業や休日出勤はやりません。家族の時間を作業時間に充てて、夜も寝ずに働けば、収入は増えるでしょう。でもそれはしません。

なぜなら、僕らはお金もうけのためだけに有機農家をしているわけではないからです。あくまで「安全・安心な食べ物を作りたい」という軸があり、その中には「家族を大切にしたい」という思いも含まれています。ですから、基本的に仕事は17時で終わりにしている。つまり、農家をする目的、その栽培方法を選ぶ目的というものをしっかり持っていれば、ブレることなく農業を続けていくことができるということです。

【有坪】でも、もちろん食べていくだけのお金は稼がないといけない。

【渡辺】当然です。そのバランスの取り方が難しいわけですけども、なんとかつくだ農園ではそれを成り立たせることができています。中には、子どもが寝てから作業をしているという人もいますけど、僕はそうしません。

また、日曜と月曜がうちの休みになるのですが、なるべく日曜日はどこかに出掛けるなど、家族全員で過ごす時間を大切にしています。月曜は、子どもが保育園や学校に行って夫婦だけになる時間があるので、必要な買い物をしたり、できていなかった家事をしたりして、過ごしています。

■10年続けた「朝市」への出店で学んだこと

【有坪】これから有機農家をやりたいという人に向けて、何か具体的なアドバイスはありますか?

【渡辺】自分の過去を振り返ってみると、10年間続けた朝市への出店がすごく貴重だったと感じています。朝市は自分が店に立って、じかにお客さまと会話をしながら販売する場になります。

そうすると、まわりの農家さんのお店ではなく、なぜ自分のところで買ってくれるのか、どんな野菜が選ばれるのかといったことを肌で感じることができます。同じ種類の野菜でも、どんな状態のものが、どんな値付けだと売れるのかも感覚でわかってきます。

【有坪】具体的なエピソードでも教えてください。

有坪民雄『農業に転職! 就農は「経営計画」で9割決まる』(プレジデント社)

【渡辺】大原は料理人の買い付けも多いので、農家側も目で見てすぐにわかるような特徴的な野菜を作るケースが多いんです。中には「どうやって食べるのか」と疑問に思うような野菜が並ぶこともあります。

そういったパッと見で美しい野菜を買うお客さんは、一般的な野菜も同時に買ってくれる傾向が見られたので、次の出店のときに値付けや商品の陳列を工夫したこともあります。すると実際に売り上げが変わったりするんです。そういう経験は、取引先との交渉時や、出荷のときに生きていると感じます。

【有坪】その他にも何かありますか?

【渡辺】あとは、子どもを産む前は、なるべくお金を貯めたほうがいいってことですかね(笑)。夫婦2人だけのときは、今に比べて本当に金銭的にラクでしたから。

【有坪】実は、私も子どもが4人います。本当にお金がかかりましたね。びっくりしました(笑)。本日はどうもありがとうございました。

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有坪 民雄(ありつぼ・たみお)
専業農家
1964年兵庫県生まれ。香川大学経済学部経営学科卒業後、船井総合研究所に勤務。94年に退職後、専業農家に転じ、現在に至る。1.5ヘクタールの農地で米、麦、野菜を栽培するほか、肉牛60頭を飼育。著書に『農業に転職する』(プレジデント社)、『誰も農業を知らない』(原書房)、『農業で儲けたいならこうしなさい!』(SBクリエイティブ)、『イラスト図解 農業のしくみ』(日本実業出版社)などがある。

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(専業農家 有坪 民雄)

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