1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 経済
  4. ビジネス

「2泊3日で15回搭乗」航空ファン向け修行の中身

プレジデントオンライン / 2019年10月26日 11時15分

喜界空港のターミナルビルは、見渡せば全ての施設が視界に入る - 撮影=北島幸司

「2泊3日だが、空港からほぼ出ず、飛行機に15回搭乗するだけ」という航空ファン向けのニッチなツアーがある。どんな客が、何のために利用するのか。航空ジャーナリストの北島幸司氏が、このツアーの醍醐味を解説する――。

■奄美群島と沖縄の離島をめぐる「アイランドホッピングの旅」

乗り物趣味を楽しむ層がいる。なかでも鉄道を趣味とする「乗り鉄」は、鉄道各社が専用の列車やプランを企画するなど根強いニーズがある。これを参考に、ジャルパック(JALPAK)では2007年に、新千歳と那覇を結ぶ日本最長路線1往復を含めたツアーを売り出した。羽田から北海道と沖縄を組み合わせた行程で、1泊2日8フライト、最長3.5時間のフライトを含む商品が10万円で楽しめるお得な商品だ。

このツアーは1カ月で売り切れたが、意見が出た。参加者アンケートには、「長距離フライトは疲れる」「短距離の路線にたくさん搭乗したい」とあった。航空ファンだからといって、とにかく長く乗れればいいわけではないのだ。

そこで「短距離の路線にたくさん搭乗できる」というテーマから、2008年に奄美群島と沖縄の離島をめぐる「アイランドホッピングの旅」という企画が生まれた。

■飛行機に乗るだけの「修行」という旅行スタイル

この企画は現在、「跳び飛びの旅」という商品名で継続販売されている。羽田と伊丹空港を起点とし、1泊で8フライトから2泊3日で15フライトまでの4種類のパッケージプランだ。

鹿児島空港や那覇空港を経由して離島を次々と乗り継いでいくため、観光の時間はほとんど無く、移動だけのツアーだ。それでも達成感を求めるマニアが飛びついた。自身で航空券とホテルの手配は大変だが、ツアーだと簡単に手続きが済むからだ。

撮影=北島幸司
徳之島空港に到着後、機体を降りてターミナルビルに向かう様子 - 撮影=北島幸司

当初はなかなか客足が伸びなかったが、2015年に始まったテレビ番組『沸騰ワード10』(日本テレビ系)で、飛行機に乗るだけの旅が「修行」という呼び方で紹介されると、徐々に注目を集めるようになった。2008年の発売開始から2015年までの利用客は約3000人だったが、2016年から2019年までの利用客は約8000人だという。

ジャルパック広報は「ニッチな商品で、一定数の売上にとどまると思っていたが、現在では奄美方面への送客を支える基幹商品の一つとなっている」とツアーの好調さをアピールしている。

■ジェット機とプロペラ機の「加速の違い」を体感

筆者は今年6月、2泊3日で15フライトするパッケージプランに参加した。

羽田から福岡空港へはJALのフライトで、ボーイング767‐300は252席。那覇に入る子会社のJTA日本トランスオーシャン航空のボーイング737‐800は165席だ。その後、離島の旅はJAC日本エアコミューターの新型機材、フランスATR社のATR42‐600の48席機材を中心にフライトがつながっていく。路線によっては、同じJALグループの琉球エアコミューターや、J‐Airのフライトも体験できる。

撮影=北島幸司
徳之島空港で翼を休める日本エアコミューターのATR42‐600型機 - 撮影=北島幸司

誘導路の無い空港では機体は滑走路を走り、離陸位置まで移動する。そこで180度方向を変え、離陸していく。滑走路端にしるされた磁方位の数字も近くで確認できる。

ジェット機とプロペラのターボプロップ機では、離陸時の加速の違いがわかる。ジェットエンジンはスムーズに加速するが、ターボプロップ機はプロペラのピッチが離陸位置にセットされると背中がシート押し付けられる加速感も感じることができて、新鮮だった。

■「おらが町の空港」という雰囲気を味わえる

離島を結ぶ路線の各空港は、空港ビルに入ってから搭乗まで4~50mほどの移動で済む。これは航空機本来の搭乗の方法だといえるだろう。航空ファンにはたまらない。

ローカル鉄道の駅舎を思わせる空港ビルに入ると、到着口から搭乗手続きカウンター、観光案内所やお土産屋、レストランまでがひとめで見渡せる。見送りと思われる地元の人々が駆けつけて、少ないベンチが埋まり、立ったまま見送る人もいる。この「おらが町の空港」という雰囲気もいい。

撮影=北島幸司
海の見える沖永良部空港で出発準備中の日本エアコミューターのATR42‐600型機 - 撮影=北島幸司

離島に高校までしか設置されていない場合は、大学教育を受けに鹿児島や那覇へ行く。実際に、沖永良部島から那覇へ同窓会に参加するご高齢者のグループを見掛けた。客室乗務員は、「急患が出た時のお医者さんの利用も多いですよ」と教えてくれた。

■空港からは出ないが、旅としての満足感はある

経由便であってもフライト毎に降機と乗機を繰り返す。面倒なようでいて、これが気持ちの入れ替えとなる。空港の規模を確かめ、土産を買い、航空機を眺めて、再度乗り込む。座席をフライト毎に変えてみれば視点が様々で、機窓からの眺めも新鮮だ。すぐに次の便に乗るので、空港の施設を巡るのが楽しみとなる。

展望デッキはツアーに盛り込まれた鹿児島県の離島5空港のうち4空港にあり、3空港では機体とともに海も望める。どの空港でも保安上の理由で柵を設けている。徳之島空港では、柵の両脇に間隔の広いところがあって、存分に写真が撮れた。

喜界空港の売店では、その場で搾りたてのさとうきびジュースが飲める。希望すれば機械にさとうきびを投入する様子も見せてくれる。空港から出ることはないが、旅としての満足感はしっかりある。

■「究極の非日常感」を簡単な手配で味わえる

国際線は、テロ、感染症や自然災害などのイベントリスクで、乗客数が急減する恐れがある。くらべて国内線は比較的安定的に収益をもたらす。

JALには「国際線中心」というイメージがあるかもしれないが、2018年の収益構成の実績を見ると国内線が5280億円に対し、国際線が5306億円の売り上げとなっており、比率はほぼ拮抗している。国土交通省の「国内定期路線旅客実績」によると、国内路線のうち「ローカル線」の旅客数は58%で、「幹線」よりも多い。ローカル線は本業の中でも将来長きにわたって安定して育てていかねばならない路線なのだ。

撮影=北島幸司
那覇空港から与論空港への航路の機窓からの眺め - 撮影=北島幸司

このプランに参加してみて、航空ファン以外の一般客にも訴求できる魅力があると感じた。ガイドブックに載るお仕着せの観光地を巡るだけの旅に飽きたリピーターは一定数存在する。その中で、このツアーは短期間に10数回ものフライトを繰り返す。参加者は「本当にできるだろうか」と一抹の不安を抱くはずだ。

それを乗り超えて行く小さな「冒険の旅」が、簡単な手配でできるのが最大のセールスポイントだろう。一度に多くの離島を巡ることができるのはツアーならではだ。個人手配で多くの便を乗り継ぎ時間を考えながら予約するのは難しい。このツアーならおススメの便をインターネット上で選んでいくだけで、「究極の非日常感」を手軽に味わえる。

■年間を通じた「安定集客」のための商品

しかも宿泊地への往復以外は空港から出ないため、観光地を巡るためにスケジュールを考えたり、タクシーやレンタカーなどを手配したりする必要がない。それでも旅の充実感が得られるのは、これまで書いてきたとおりだ。

航空会社は国内ローカル線の旅客数を増やすために、さまざまな施策を打っている。たとえば観光客誘致で、国立公園への指定や、世界遺産登録の好機を逃さない。地震や豪雨の被災地への復興を観光で後押ししようとするプランもある。

そのなかで今回の商品は「乗るだけ」という大胆さで際立っている。ほかの国内路線に波及していく可能性もあるだろう。利用客の少ない路線を維持するためには、年間を通じた安定集客のための知恵を絞らなければいけない。今回の企画は、その一歩となるものだと感じた。

----------

北島 幸司(きたじま・こうじ)
航空ジャーナリスト
大阪府出身。幼いころからの航空機ファンで、乗り鉄ならぬ「乗りヒコ」として、空旅の楽しさを発信している。海外旅行情報サイト「Risvel」で連載コラム「空旅のススメ」や機内誌の執筆、月刊航空雑誌を手がけるほか、「あびあんうぃんぐ」の名前でブログも更新中。航空ジャーナリスト協会所属。

----------

(航空ジャーナリスト 北島 幸司)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください