高齢者採用「絶対ほしい人・不要な人」の分岐点

プレジデントオンライン / 2019年11月7日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/hyejin kang

定年後、再雇用される人材とされない人材はどこが違うのか。日本総研の小島明子氏は、「働く意欲のある高齢者のうち、約2割は働いていないという実態がある。大事なことは、成長意欲を忘れずに、専門的な能力・スキルを磨き続けること」という——。

■高齢者採用「絶対ほしい人・不要な人」の分岐点とは

厚生労働省によれば、日本人の健康寿命の平均は、男性が72.14歳、女性が74.79歳です。この数値は年々上昇傾向にあり、今後も医療技術の発展に伴って伸びることが予想されます。

現在の法律は、企業に対して「定年廃止」「定年延長」「65歳までの継続雇用制度の導入」のいずれかを選択することを義務付けていますが、政府は、雇用期間を70歳まで引き上げることを柱とした高年齢者雇用安定法改正案を来年の通常国会に提出する予定です。就業意欲の高い高齢者の活躍推進は、高齢化する日本社会にとって重要課題のひとつといえます。

本稿では、日本の大手製造業に技術者を派遣しているメイテック広報部に協力いただき、就業を希望する高齢者の現状と課題について述べます。

■働きたいのに働く場を与えられないシニアの「理由」

1.就業継続への意欲について

メイテックでは、2017年と2019年の2回にわたり、65歳以上の男女1700人(以下、高齢者)に対して「シニアの労働観・実態調査」という調査を行っています。

2019年の調査では、「今後も働きたい」(とても働きたい+ある程度は働きたい)と考えている高齢者は38.2%であり、2017年(44.4%)と比べるとやや減っているものの、約4割の高齢者が就業意欲を持っていることがわかります。

働きたい理由としては、「収入を得たいから」(75.9%)がもっとも多く、2017年(71.2%)の傾向と変わりません。一方で、以下のように2019年と2017年の調査で大きな違いも見られます。

・「社会との接点がほしいから」 2019年 41.2% 2017年 25.1%
・「生活習慣を維持したいから」 2019年 41.2% 2017年 25.1%
・「職場で必要とされていたいから」 2019年 17.0% 2017年 40.0%

2017年から2019年の間に、「職場の中で活躍をしたい」というより、「健康や社会との接点を求める」高齢者が増えたといえます。日本人は、諸外国に比べて、家庭や職場以外の人間関係が希薄な傾向があるため、仕事を通じて社会との接点を得ようと考える人が多いのではないでしょうか。

写真=iStock.com/takasuu
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2.再就職が難しい高齢者の現状

働きたいと考えていても、実際には働く場を与えられない高齢者は少なくありません。

メイテックの2017年の調査では、働く意欲はある(「とても働きたい」「ある程度は働きたい」)のに働いていないと回答した高齢者は20.8%でした。

そのうえで、調査では応募しても採用されなかった理由(高齢者自身が分析した理由)を尋ねています。

それによると、「人事責任者が高齢者雇用に消極的だった」(31.4%)が最も多く、「職場全体に高齢者雇用に消極的な雰囲気があった」(18.6%)、「自分の専門的な能力・スキルが評価されなかった」(14.0%)と続きます。

調査の中の自由記述でも、年齢や専門性のミスマッチを指摘する声は少なくありません。

「求人では『年齢制限なし』としながらも、実態は高齢という理由だけで、面接さえ受けられなかった」
「年齢で勤められる職種は限られていると思った。何十年もやってきた職種であるにもかかわらず年齢で頭からシャットアウトされ狭き門を実感した。定年後継続雇用はあるものの、一般の中途採用の枠に高齢者雇用はほとんどないのではないか」
「資格を有効に活かせる求人数が少ない。応募企業内に知人がいないとマイナスとなる場合が多いと感じた。面接では『会社内に保証人になってもらえるような人がいますか?』とよく聞かれた」
「技術は日進月歩であり、古い技術や経験は評価されないと思いました」
「もっと積極的に働ける場を提供してもらえれば、意欲のある人は認知予防にもなると思いました」

■再就職・再雇用されるシニア人材の「条件」

国内では、労働人口の減少により、人手不足の業種や業態が出ているにもかかわらず、いまだに高齢者の再就職は簡単でないことがうかがえます。健康面への不安などから高齢者の雇用に消極的にならざるを得ない状況もあると想像します。

しかし、採用する企業側が、業務内容を上手に切り分けするなどして工夫すれば、時間や体力に制約のある高齢者でも活躍できる余地はあると考えます。活躍できる高齢者を増やすことは、企業にとって人手の確保につながるだけでなく、若手の長時間労働の削減や休暇の取得率向上など副次的な効果も期待できるはずです。

3.再就職できる高齢者は何が違うのか

メイテックの2017年と2019年の調査では、現在働いているシニアに、どのように今の仕事を見つけたのかを尋ねています。

2017年では、「自分で起業をした」(30.0%)が最も多く、「取引先・仕事仲間・知人などが紹介してくれた」(14.5%)、「以前からの勤務先で定年を迎えたが、退職した後に再雇用された」(13.0%)と続きます。

2019年時点では、「取引先・仕事仲間・知人などが紹介してくれた」(16.4%)、「自分で起業をした」(15.5%)が逆転しており、「以前からの勤務先が定年延長をしてくれた」(11.6%)と続きます。

制度整備の効果か、起業が減り、取引先などから紹介や継続雇用で就職する人が増えていることが見て取れます。

写真=iStock.com/AZemdega
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2017年の調査では、「65歳以上になっても働けている理由(再就職及び再雇用いずれも含む)」も尋ねています。それによると、「自分の専門的な能力・スキルが求められているから」(36.5%)が最も多く、「自分のこれまでに残した実績が評価されているから」(30.5%)、「自分の健康面に不安がないから」(26.5%)と続きます。

自由記述でも、やはり「専門性に対する評価」を理由に挙げる声が多く聞かれました。

「過去の経験と人脈が活かせており、今の会社に貢献できているため」
「専門性の強い職種職場だから、非常勤として引き続き以前の業務を継続して担当。これまでの実績や対人関係をすっぱり切るのではなく、余韻を残しておいたほうが良いと思ったため」
「自分の技量が活かせる職種にした。家電製品の販売に関わる第二種電気工事士免許者としての電気工事、エアコン取り付け工事、テレビアンテナ工事などの需要はかなりあります」
「過去に得たスキルが活用できる。教育の場なので、仕事に対する情熱、責任感、知的刺激などを感じることができ精神的に充実できる。若い人と接するので活性化する」

■若い頃から自分の「市場価値」を意識することがとても大事

なかには、成長意欲を見せる高齢者もいます。

「自分の経験と努力が報われたと考えている。今もスキルアップを目指しながら仕事をしている。この歳になっても現在の仕事が好きである」
「ひとつの仕事をしていれば、自ずと経験が増え、今まで気がつかなかったことが見えてきたり、できなかったことができるようになったりするなど積み重ねの結果が活かされるので、仕事が面白くなってきた。人間は何歳になっても捨てたもんじゃありませんよ」

今まで培ってきた専門性やそれにひもづく人脈が、高齢になっても働ける理由となっていることが、今の状態に安住せず勉強し続ける姿勢につながっていることがうかがえます。

メイテック広報部・部長の三宅隆弘氏は調査結果を踏まえ、次のように分析します。

「メイテックは、エンジニアという職業で生涯働き続けられる働き方をサポートしている会社です。その視点で申し上げると、若い頃から自分の『市場価値』というものを意識することがとても大事なことです。そして、その市場価値を高めるために、自分の技術力と人間力を最大限に高める努力と、世の中に貢献し続けたいという飽くなき思いがあれば、長く働き続けられるのだと思います」

前述した「就職したくても採用されなかった」という高齢者からは、古い技術や経験が評価されない、という意見もありました。また、営業や企画・総務などの職種の人は、エンジニアのような専門職よりも採用されにくいかもしれません。

しかし、外部環境が目まぐるしく変化する現代社会においては、好奇心や社会に貢献をしたい強い思いと自己成長の意欲が大切になると感じます。

写真=iStock.com/pixelfit
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世の中の変化が速くなっていることから、年齢を問わず、将来の雇用への不安を抱える人は少なくありません。慶應義塾大学名誉教授でキャリア論の第一人者である花田光世さんは『「働く居場所」の作り方』(日本経済新聞社)の中で、「不安を持つのは当たり前。でもだからこそ、自分で楽しむ一歩を踏み出してみる」と不安を受け入れることの大切さを指摘しています。

不安はなくそうと思ってもなくなりません。将来働き続けられるかどうか不安に思っている自分を客観視し、とにかく一歩踏み出し前に進むことが重要なのではないでしょうか。

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小島 明子(こじま・あきこ)
日本総合研究所 創発戦略センター スペシャリスト
女性の活躍推進に関する調査研究及び環境・社会・ガバナンス(ESG)の観点からの企業評価業務に従事。主な著書に「女性発の働き方改革で男性も変わる、企業も変わる」(経営書院)

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(日本総合研究所 創発戦略センター スペシャリスト 小島 明子)

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