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「GSOMIA失効」で困るのは、日本ではなく韓国だ

プレジデントオンライン / 2019年11月20日 18時15分

日米韓防衛相会談を前に手をつなぐ(左から)韓国の鄭景斗国防相、マーク・エスパー米国防長官、河野太郎防衛相=2019年11月17日、タイ・バンコク - 写真=時事通信フォト

■「11月23日午前零時」に軍事情報協定が失効する

日本と韓国が結んだ「GSOMIA(軍事情報包括保護協定、ジーソミア)」が11月23日午前零時に失効する。

日本と韓国が北朝鮮のミサイル発射などの情報を交換するための協定だが、韓国は8月22日、日本が輸出管理を厳格化したことを理由に一方的に破棄を決めた。

韓国の同盟国であるアメリカは、破棄の決定を覆すよう強く求め続けた。11月15日にはエスパー国防長官がソウルの韓国大統領府で文在寅(ムン・ジェイン)大統領と話し合った。17日にはタイのバンコクでエスパー長官も出席して日米韓の防衛相会談も開かれたが、成果は得られなかった。

韓国の文政権はかたくなで態度を変えようとしない。失効まで秒読み段階である。日米韓の安全保障の協力関係が崩れ去ろうとしている。

■北朝鮮が次々とミサイルを打ち上げたらどうなる

韓国はこのまま破棄決定を押し通すに違いない。ならば韓国の希望通りに一度、協定を失効させてみるのもひとつの手ではある。

GSOMIAが失効しても、日本は2014年に締結された日米韓防衛当局の取り決めによって、アメリカを介した情報のやり取りはできる。ただ、GSOMIAよりも時間がかかり、迅速さは失われてしまう。

それは韓国も同じだ。文政権は北朝鮮に対して融和政策を採ってきたが、北朝鮮の核・ミサイルの開発は止まっていない。北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長は、GSOMIAの失効を拍手喝采し、祝砲のミサイルを次々と打ち上げるだろう。

北朝鮮がミサイルを発射した場合、韓国は情報を得るのに手間取るだけでなく、アメリカの軍事支援を受けにくくなる面も出てくる。そのとき困るのは日本より韓国である。そうした事態に陥らなければ、失効の深刻さに気付けないのかもしれない。

■なぜ文大統領はGSOMIAの破棄を決めたのか

なぜ、韓国の文大統領はGSOMIAの破棄を決めたのだろうか。

もともと韓国内には日米韓の連携強化に消極的な左派勢力が存在し、文大統領の政権下でその勢力が力を増していった。経済政策で失敗した文氏は政権を維持するため、左派勢力の求めに応えようとした。

文氏はアメリカが日本と韓国の間に入り、GSOMIAの破棄を回避するために日本に圧力をかけると判断した。そうなれば、日本政府に対し、輸出管理の厳格化の撤回を迫ることができると、文氏は踏んだ。

だが、アメリカは破棄の決定を覆すよう韓国側に強く求めた。文氏は自らの政権の求心力の低下を避けるため、アメリカの求めに応じなかった。その結果、アメリカは文政権への不信感を強めた。いま文政権はかなり追い込まれている。

■失効をよろこぶのは、北朝鮮や中国だ

「日本と韓国の両政府とも、国民の安全の確保に役立つと考えている。その大切な防衛協力をなぜ、捨て去るのか。韓国の文在寅政権は、破棄の決定を撤回すべきである」

こう書き出すのは11月16日付の朝日新聞の社説である。見出しも「日韓情報協定 文政権は破棄の撤回を」と朝日社説にしてはストレートだ。

韓国に対し、好意的な朝日社説でさえ、今回の韓国の態度に強い違和感を覚え、決定の撤回を迫っている。朝日社説は書く。

「ソウルできのう開かれた米韓安保協議では、エスパー米国防長官が翻意を促した。記者会見で、協定の破棄や日韓関係の悪化で『利益を得るのは中国や北朝鮮だけだ』と述べた」
「米国にとって、この協定は世界に広がる米軍展開のネットワークの一部を担う取り決めだ。中国との覇権争いという大きな戦略のなかでも悪影響になることを懸念しているようだ」
「だが、韓国大統領府の幹部は日本の態度に変化がなければ、変更は困難との認識を示した。徴用工問題への日本側の事実上の報復措置である、輸出規制強化の撤回を求めている」

朝日社説が指摘するように、GSOMIAの失効を喜ぶのは、北朝鮮や中国である。そのことを韓国の文政権はどこまで理解しているのだろうか。

■歴史問題と安全保障を同次元で捉える韓国が間違っている

さらに朝日社説は書く。

「協定の破棄決定は、輸出規制への対抗策として出されたが、この間、北朝鮮はミサイル発射を活発化させた。韓国国内でも協定を維持するほうが賢明だと専門家らが指摘している」
「協定維持が国益にかなうことは、文政権もわかっているはずだ。残る1週間内に、賢明な判断を下してもらいたい。そのためには日本政府も、かたくなな態度を緩める必要がある」

もちろん文大統領も協定の維持が韓国にとって有益なことは理解しているはずだ。だからと言って日本政府の態度を「かたくな」と批判し、「態度を緩めよ」と求める朝日社説の主張はどうだろうか。

同盟国のアメリカに説得されても態度を変えない韓国政府のほうがかたくなであると沙鴎一歩は考える。そもそも徴用工などの歴史問題と安全保障を同次元で捉える韓国が間違っているのである。

■「韓国は前提条件なしにGSOMIA維持を表明すべきだ」

韓国問題で、はっきりとものを言うのが産経新聞の社説(主張)である。11月16日付の産経社説は、従来の立場を崩すことのない韓国に対し、こう訴えている。

「極めて残念な態度である。輸出管理の問題を絡めるのは筋が通らない。韓国は前提条件なしにGSOMIA維持を表明すべきだ」

分かりやすい主張である。この辺りが産経社説の真骨頂だろう。

産経社説は指摘する。

「日韓で軍事上の機密情報を共有するGSOMIAは、日米、米韓という2つの同盟を結び付けてきた。それを破棄すれば、地域の脅威である北朝鮮や中国、ロシアに対してにらみをきかせてきた日米韓の協力が後退してしまう」

日本と韓国は同盟国ではない。だが両国を同盟国のようにしてきたものがGSOMIAなのだ。アメリカの軍事的な支援もGSOMIAに頼るところがある。

「すでに、韓国が今年8月、日本に破棄を通告して以来、北朝鮮による短距離弾道ミサイル発射は拍車がかかった。非核化をめぐる米朝協議でも、米韓合同軍事演習の廃止や経済制裁解除を狙っての揺さぶりが露骨さを増している。中露両国は、9月に大規模な合同軍事演習を実施した」

北朝鮮のミサイル打ち上げによる挑発や中国とロシアの軍事演習は、韓国のGSOMIA破棄決定によって日米韓の軍事協力が弱体化しつつあるとみなされた結果だろう。

■「米韓同盟に亀裂が生じて米国を追い出したい中国が喜ぶ」

一度、日韓の軍事協定を失効させてみるのもいいだろう、と考える沙鴎一歩と違い、産経社説はかなりGSOMIAに重点を置いている。

最後に産経社説はこう主張する。

「GSOMIAがなくなれば、朝鮮半島をはじめとする北東アジア地域の有事への米国の即応態勢に大きな支障が出る。米韓同盟には深刻な亀裂が生まれる。地域から米国を追い出したい中国は喜び、米韓同盟を消滅させるべく、韓国に硬軟両様の働きかけを強めるに違いない」

アメリカのエスパー国防長官と韓国の鄭景斗(チョン・ギョンドゥ)国防相が11月17日、バンコクで会談して11月中旬に予定していた米韓両空軍による合同訓練の延期を決めた。

アメリカが合同訓練に反発する北朝鮮を忖度し、米朝非核化協議を再開させる狙いがあるのだろうが、沙鴎一歩の目には米韓同盟の亀裂の始まりのように見えてならない。

韓国に駐留するアメリカ軍の来年の経費をめぐってアメリカと韓国の両政府による3回目の協議も、11月18日からソウルで行われていたが、米韓の考え方や立場の隔たりが大きく、19日に協議は夕方までの予定を早く切り上げて終了した。協議の決裂だ。年内の妥結は難しいというが、これも亀裂の始まりかもしれない。

(ジャーナリスト 沙鴎 一歩)

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