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40代会社員が「仕事帰りの畑仕事」に夢中なワケ

プレジデントオンライン / 2020年1月9日 11時15分

大手家具チェーン勤務の後藤光輝さん。本業では効率重視だが、天候次第の畑仕事をすることで、新しい視点が得られたと語る。

■あの味の濃い野菜を子供にも

都会暮らしを送る中で、ビジネスパーソンが職場でも家庭でもない「第三の居場所」を求める。どんな例があるだろうか。

まずはアウトドア編といこう。自然と触れ合うパターンの居場所には、畑仕事や釣りなどが考えられる。農家ではない一般の人が都会で畑仕事をするには、自治体が関与する区民農園や市民農園を借りるという形がある。

ところが区民農園や市民農園の場合は、一般に農地よりも希望者数が多く、抽選を経ないと利用できない。また、年度をまたいで利用し続けることができない仕組みになっていることが多く、勤め人には使いにくい。

そこに目を付けたのがアグリメディアというベンチャー企業だ。同社は「シェア畑」というブランドで、全国に100カ所近くの小規模な貸し農園を展開している。

利用者の声を聞くことができた。場所は東京都葛飾区のシェア畑である。取材日はあいにくの曇り空だったが、晴れたらさぞ気持ちいいだろうと思われた。

「ここに来て、土と触れ合うようになってから、よく笑うようになりました。職場の後輩からも『やさしくなりましたね』と言われます」

大手家具チェーンの東京本部でバイヤーを務める後藤光輝さん(49歳)がニコニコ顔でそう言った。後藤さんは畝が4つほどのシェア畑の小さな一角で、2019年5月からサークル仲間の丹羽春海さん(48歳)と一緒に野菜を栽培している。

「1年半前に離婚してシングルファーザーとなり、子供3人(現在は高校3年と2年の女子、中学1年の男子)を引き取ってから、食の安心・安全が気になりだしました。当時は朝からレトルト食品といった不摂生な生活。それを変えたいと思ったのです」

「食」を追求する自己啓発サークルに入り、知ったのがこの畑だった。

■無農薬の野菜を食べさせたい

「サークルで活動するうちに、子供たちに無農薬の野菜を食べさせたいと考えるようになったのですが、それだったら自分でつくってみたらいいねということになりました。それで丹羽さんから紹介してもらったのが、シェア畑なんです。自宅からは車で40分くらいかかるので、畑を毎日見に来るわけにはいかないのですが、その分、この近所に住んでいる丹羽さんにケアしてもらっています」

それだけではなく、後藤さんには「北海道北見市の牧場で牛や馬や豚とともに育った」というバックグラウンドもあった。

「ぼくが子供のころに両親が運送業で独立起業したため、忙しくてよく祖父母のところへ預けられていたんです。北見市といっても山奥で、まだまだ運搬用に馬そりを使っていました」と後藤さんは振り返る。

祖父母の牧場には隣接して畑もあり、出荷用の野菜を育てていた。それだけではなく、牧場の隅のところで自家消費用のトマトやニンジンを栽培していた。こちらの作物は、ろくに肥料や農薬もやらない、野育ちの野菜。だからこそ「形は悪いけど味が濃かった」(後藤さん)。

シェア畑を前に、その思い出がよみがえってきた。

「ここでつくったトマトを食べてみて、思い出したんです。『トマトの味がする』って。牧場で食べたあの野菜を子供たちにも食べさせたい。そう思ったんですよ」

地元の高校を卒業してから後藤さんは群馬県の高崎経済大学へ進学した。「田舎が嫌で東京へ出ようとしたんですが、ちょっと方角が違いました」と笑うが、念願かなって関東へやってくることになった。いまも埼玉県に住み都内の会社に通っている。

ところがシェア畑に通って作物の手入れをするうちに、嫌だった「田舎」の感触が懐かしくなってきた。しみじみと言う。

「天候にも左右されて思い通りにいかないのが、逆に面白い。教えてもらった通りに作物を育てても、隣の畑と全然違うこともあります。四季だけでなく、処暑(19年は8月23日)や寒露(同10月8日)のような二十四節気を感じるときも。ここに来ると落ち着き、癒やされます。子供の体質も改善され、息子は作業にも興味を持っています。土と触れ合うのはいいですよ」

都内とはいえ、郊外の趣がある場所で、後藤さんの笑顔は絶えなかった。

■スナックで嫌われる行動は

さて、次はインドアの「居場所」をのぞいてみよう。すぐに思いつくのが、バーやスナックだ。居酒屋に比べて1人でふらりと立ち寄る客も多い。東京・麻布十番の「スナックひきだし」は、夜ではなくなんと昼間に営業している。しかし写真にある通り、本格的なバー設備で客を迎える、ごく普通のスナックである。

老若男女が訪れる昼スナックのママ、木下紫乃さん。知らない者同士が対話することで「自分自身に気づき、新たなステップを踏み出せるようになれば」と語る。

来店客を迎えるのは「しのママ」こと木下紫乃さん(51歳)。本業は人材育成、特にミドル支援が専門のコンサルタントだ。

「ママ経験ゼロ」と話す木下さんが各地のスナックを回り、ベテランママに質問して学んだことがスナックひきだしの運営に生かされている。

スナックを仕事や家庭とは異なる「第三の居場所」とするには、客としてどんな心得がいるのだろうか。

「スナックのよさは、普段はつながらないような人たちがつながること。だから私も、お客さん同士が自然に会話を始めるように、あまり出しゃばらずにお客さん同士を紹介するくらいにしています」(木下さん)

もともとこの店は「チャーリーズ・バー」の名前で営業する夜のお店だ。木下さんが本業のヒントにしようとチャーリーズ・バーのオーナーに相談して昼の間だけ店舗を借りて営業を始めたが、いまでは多くのお客が集まる「昼営業のスナック」になった。

お客の中心は40代と50代の男女だが、学生もいれば専業主婦もいるのは昼のスナックならではかもしれない。

スナックに来るお客に、企業名や肩書、年齢は関係ない。ふさわしくない行動というものも当然ある。昔から言われる「長話・昔話・自慢話」だ。しかし、つい話が長くなったり、自慢になったりすることはあるだろう。これはスナックだけではなく、フラットな交流の場では気を付けなければいけないポイントである。

【心得】思い通りにいかない自然から「学ぶ」姿勢で

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高井 尚之(たかい・なおゆき)
経済ジャーナリスト/経営コンサルタント
1962年名古屋市生まれ。日本実業出版社の編集者、花王情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画・執筆多数。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)がある。

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(経済ジャーナリスト/経営コンサルタント 高井 尚之 撮影=永井 浩)

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