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「独身伯母2人」の介護に挑戦した40代甥の後悔

プレジデントオンライン / 2020年1月29日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kuppa_rock

身寄りのない親族が要介護になったらどうすればいいか。フリーライターの石渡嶺司氏は「実子でない以上、法的には扶養義務はなく、放置すればいいとも言えます。しかし母親代わりに育ててくれた伯母の力になりたい。東京から札幌の家に通って、介護に挑んだ結果、出入り禁止を言い渡されてしまいました」という――。(第1回/全3回)

■伯母の逆鱗に触れ実家から出禁に

実家から出入り禁止、と聞いて読者の皆さんはどう思われるでしょうか。

そこまで言われるとは、このライターはよほどひどいことをしたのだろう、と思われるかもしれません。先祖代々の骨とう品を勝手に売り飛ばした、借金を重ねて踏み倒した、マルチ商法の怪しげな商品を売りつけた……。

だが、私がしたのはそのいずれでもないのです。

水道管工事を手配し、総額43万円のうち、その一部である13万円を負担しました。これが回り回って実家の伯母の逆鱗に触れてしまい、出入り禁止となったのです。

これは、母親代わりに私を育ててくれた2人の伯母と向き合った記録です。少々、長い話になりますが、お付き合いください。

■母親代わりで面倒を見てくれた伯母

私の母親の実家は札幌市郊外にあります。母親は3男3女の6人きょうだいで、私が高校生のときに亡くなりました。おじ3人はそれぞれ地元から出て、首都圏で就職、結婚。そして伯母2人は結婚せず、2人でずっと実家に在住しています。

上のR伯母はもともと体が弱く、デパートなどで働いた後、ここ20年は特に仕事をしていません。現在は87歳。下のE伯母は化粧品の営業を去年まで続けていました。しっかりしているころは所長までやって、営業成績の良さから全国表彰を受けたこともあるほどです。現在は82歳の高齢者です。

私の母が亡くなった後、母親代わりとして世話をしてくれたのがこのR伯母とE伯母です。社会人になってからも、男性用化粧品や野菜などを送ってくれていました。ありがたい話で、だからこそ、いずれ恩返しをしたい、と考えていました。

さて、E伯母は5年前から少しずつ、体が弱くなっていったのです。視野が狭くなるのを感じて、大事故を起こすよりは、と4年前には免許を返納、車も売却してしまいます。これは後期高齢者による交通死傷事故を考えれば正しい判断だった、と私は思います。

ただ、車がなくなったことで、いくら100万人都市とは言え、不便になったこともまた事実です。化粧品の営業も思うようにいかなくなり、規模は大きく縮小していきました。

■入退院を繰り返す2人の伯母

さらに、E伯母は2018年あたりから体も弱り、何度か入院もしました。なお、入院を何度か繰り返したのはR伯母も同じです。そこで私はフリーランスの特権を活かして、できるだけ実家に行くようにしました。伯母たちには「取材、打ち合わせや講演などが入った」と説明します。これ、ウソではないが本当でもない、というやつで。

地元の新聞で就活連載を持っていますので取材や打ち合わせ、というのはウソではありません。講演も同様です。が、講演料や交通費まで発生するものはほぼありません。そりゃあそうでしょう。記事を書く以上、被取材者から交通費を受け取るわけにはいきません。仕事相手も同様で顔合わせや情報交換程度で交通費が発生しないのは、どの業界でも常識です。

2017年ごろからほぼ月1回ペースで実家に寄りましたが、交通費まで発生したのは数回あったかどうか。あとは完全な持ち出しです。そうまでして、実家に戻るようにしたのはやはり伯母の様子が心配だったからです。と言って、単に「実家が心配だから戻った」では伯母たちに気を遣わせてしまいます。

そこで「仕事の都合」という名目にしておいて、実家の雪かきや買い物、手続きの代行などは、あくまでも「仕事のついで」というスタンスにしておきました。今思えば、このあたりの戦略からして、まずかった気がしないでもありません。が、当時は戦略がどうこう、と考えられないほど、伯母2人の状況は深刻でした。

■E伯母の認知症が進む

伯母2人の生活は、E伯母が働いて家計を支え家事の一部と諸手続きを担当、R伯母が家事の大半を負担というすみ分けで成り立っていました。しかし、2人とも入退院を繰り返すようになると、そうもいきません。いわゆる、「老老介護」の状態に陥っていました。

さらに、私が実家に戻るようにしてからわかったことですが、E伯母は認知症が少しずつ進んでいたのです。出かけるときのバッグや財布をどこにしまったか忘れる、仕事の電話をしていると後で「私の悪口、言ってなかったでしょうね?」と詰問する、お茶を入れる動作も忘れる……。

さらに2019年2月、R伯母が入院中に、E伯母が雪道で転倒してしまいました。以降、首がずっと下を向いたままになります。当然ですが、仕事の継続が難しく、化粧品販売も2019年で辞めてしまいました。そうなると、ますます、認知症が進みます。

そのE伯母の面倒を誰が見るのか、と言えばR伯母しかいません。が、もともと体が弱いので、ただでさえ無理がある老老介護などさらにうまく行くわけがありません。認知症や「老老介護」と並んで大きな問題が除雪作業です。

■後期高齢者には無理がある雪かき

北海道札幌市は雪まつりが観光資源として有名なほど、雪が降ります。市の中心部はロードヒーティングですし、幹線道路は除雪車が稼働していますから、そこまでひどくはありません。問題は個人住宅で、これは個人個人で除雪するしかありません。このあたりは雪国の地方であれば当たり前と言えば当たり前なのですが。

実家にファミリー世帯が住んでいれば、雪かきを後期高齢者がしなくても済みます。しかし、R伯母・E伯母のように後期高齢者しか住んでいない家だと、個人負担となります。入退院を繰り返すほどの伯母2人が雪かき作業をすること自体、無理があります。

札幌市には福祉除雪という制度があります。市と契約した除雪業者が高齢者の個人住宅を除雪する、という制度です。高齢者の負担は一世帯あたり年5000円と非常に安価です。当然ながら伯母2人もこの制度を申し込みました。

ところが、担当の除雪業者は雪が降っても「今は×センチ以下なので除雪しませんでした」などの言い訳をするだけで除雪しません。見かねた私が除雪をすると、「本日はすでに除雪済みだったので作業はしませんでした」。伯母が除雪業者や担当の社会福祉協議会に連絡しても、全く埒があきません。

私が連載をしている地元紙の記者にこのことをこぼすと、「石渡さん、福祉除雪はね、もう駄目ですよ。当てにならないことで有名です」と話しました。

■隣近所や友人もあまり付き合いがない

除雪については、隣の家が家庭用除雪機を保有していました。この家に数年前までは除雪を依頼(多少のお礼はしていたようです)、引き受けてくれていました。が、この家の雪が庭に落ちることをR伯母がとがめたのでしょう。詳しくは不明ですが、こうした近隣トラブルのこじれから、除雪作業を断られてしまいました。

それで福祉除雪を依頼してもほとんど機能しません。特に私が正月に戻った2019年は全くと言っていいほど作業をしてくれませんでした。

反対の隣の家とは少しは交流があります。ゴミ捨て場は実家から離れた場所にあるのですが、この隣の家の方は雪道を行くのは大変だろう、と気遣ってくれています。冬になると、「ごみ捨ては大丈夫?」と収集日のたびに来てくれています。ただ、お互いに行き来するほどの付き合い、というほどではありません。

伯母2人の友人は、と言えば、元々、北海道中央部から引っ越ししたこともあり、友人は近くにはいません。引っ越し後にできた札幌の友人は老人ホームに入ったか、遠い場所に住んでいるか、亡くなったかのいずれか。親族との付き合いは兄弟は全員、首都圏に在住。他の親族との交流はほとんどないようです。つまり、まとめますと、近隣で何かあったときにすぐ駆けつける親族や友人・知人はほとんどいない状態です。

■職員の態度が気に食わずデイサービスをやめる

近所付き合いも親族付き合いも多くないのであれば、デイケア・デイサービスを利用する手があります。が、このデイケア・デイサービスも利用したがりません。まず、デイサービスを利用できるようになってもR伯母が頑なに行こうとしませんでした。その説得に数年かかり、ようやく行くようになったのが2016年ごろ。数年近く、週1回ペースで通っており、そこで友人もできた、と聞いています。

ところが、2019年の春ごろに、急に行かなくなりました。どうも、職員の料金の徴収の仕方が横柄だったとか。R伯母としては許せないところがあったようです。そんなの年長者として受け流すなり、どうしても横柄で許せない、ということであれば、施設長に抗議するなど他に方法はあるはずでした。

しかし、R伯母はそのいずれでもなく、デイサービスをやめる、という選択を取りました。まあ、感情のすれ違いはよくある話ですし、それなら、他のデイサービスに行くようにすればいいだけです。ところが、E伯母の認知症が緩やかに進み、R伯母も体調不良、という決して良くない状態が2019年春ごろから現在まで続いています。

■ついに「老人ひきこもり」になる

週に1回のデイサービスでも、外出するのが大変だったのでしょう。つまり、職員の態度がどうこう、というのはきっかけで本心は単に外出したくないだけ。そのため、デイサービスに行かなくなってから、私や地域のケアマネージャーが別のデイサービスを勧めても、「もうちょっと待って」を繰り返すだけで行かずじまいです。

こうなると、ひきこもりそのものです。ひきこもりと言えば、若年者や最近だと中年世代のそれがよく話題となります。R伯母・E伯母は、2人とも後期高齢者ですから、いわば「老人ひきこもり」。だったら、老人ホームに入るのが最善ではないか、と思う方もいるでしょう。しかし、そうもいかない事情がありました。(続く)

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石渡 嶺司(いしわたり・れいじ)
大学ジャーナリスト
1975年札幌生まれ。北嶺高校、東洋大学社会学部卒業。編集プロダクションなどを経て2003年から現職。扱うテーマは大学を含む教育、ならびに就職・キャリアなど。2018年は「大学ジャーナリスト」として、テレビ出演が急増。主な著書に『大学の学科図鑑』(ソフトバンククリエイティブ)『キレイゴトぬきの就活論』(新潮新書)『女子学生はなぜ就活に騙されるのか』(朝日新書)など累計28冊。取材で移動が多いこともあり、ANAはダイヤモンドクラス、JALはプレミアまで到達するほどのマイラー。

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(大学ジャーナリスト 石渡 嶺司)

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