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韓国発「教会でコロナ感染」を日本の宗教界はどう受け止めるべきか

プレジデントオンライン / 2020年3月12日 11時15分

2020年3月2日、新型コロナウイルスの集団感染が発生した韓国の新興宗教団体「新天地イエス教会」の教祖、イ・マニ総会長(88)がソウル近郊の京畿道・加平で記者会見を開き、謝罪した。集団感染が発生してからイ氏が公の場に登場するのは初めて。 - 写真=YONHAP NEWS/アフロ

韓国で宗教団体が新型コロナウイルスの感染源として問題視されている。この問題を日本の宗教界はどう受け止めればいいのか。ジャーナリストで僧侶の鵜飼秀徳氏は「韓国の教団の対応は問題だ。だが、宗教行事をすべて自粛すればいいとは思えない。政府の専門会委員の呼びかけを守りつつ、やれる行事は実施していくべきではないか」という——。

■「教会で新型コロナ集団感染」させたカリスマ教祖の“罪”

世界各地へ広がりをみせる新型コロナウイルス。アジアで脅威にさらされているのは特に中国、日本、韓国だ。このうち韓国では宗教団体が感染拡大の火種を作ったとして問題視されている。

その教団とはキリスト教系の新宗教団体「新天地イエス教証しの幕屋聖殿」だ。設立は1984年で、信者数は21万5000人。教祖である李萬煕(イ・マニ)氏が絶対的指導者として君臨している。

感染源は、韓国第三の都市・大邱(テグ)の教会と言われている。新天地イエス教会は毎週日曜日と水曜日に、多数の信者を集めて礼拝を行う。礼拝は、信者同士が触れ合うほどの密着度だったという。さらに、信者が各地の教会を巡礼することが日常化しており、連鎖的に感染が拡大していったようである。

■殺人罪で刑事告発されるとテレビカメラの前で土下座謝罪

日本の伝統仏教の場合も、礼拝や巡礼を伴う儀式は確かにある。だが、良くも悪くも檀信徒への強制力・団結力が弱いので、数千人単位の信者が一堂に会する機会はめったにない。仮に、このコロナ騒ぎの渦中にあって、どこかの宗派が集団儀式をやろうとしても、檀信徒のほうから拒否反応が出るであろう。

カルト教団にありがちだが、新天地イエス教会は一般社会や他宗教に対して強い排他性を示していた。このためか、当初、新型コロナウイルス検査にも非協力的であった。「だれが信者なのか」を知られたくなかったのだ。

行政は教会の閉鎖命令などを出したが、当初、教祖の李萬煕氏はSNSなどを通じて「われわれが急成長しているのを悪魔が阻止しようとして、今回の新型コロナウイルスの蔓延が起きている」などと、独自の主張を繰り広げた。

だが、教祖が殺人罪でソウル市から刑事告発されると態度を一転させる。テレビカメラの前で土下座して謝罪。また、コロナウイルス対策のために、大邱市社会福祉共同募金会に120億ウォン(約10億7000万円)の寄付を申し出た。大邱市はこの寄付を拒否しているという。

新天地イエス教会のニュースは、韓国社会の混乱の事例として、日本のテレビでは興味本位で取り上げられているようだ。しかし、伝染病と宗教との関わりは、日本においても深遠だ。むしろ日本では、伝染病との戦いがこそが、仏教や神道を興隆させたといって過言ではない。

■100万人以上が死亡の8世紀の天然痘は遣唐使がウイルスを蔓延させた

仏教が日本に伝来したのが6世紀にさかのぼる。百済の聖明王から、1体の仏像がもたらされた。時の欽明天皇は、臣下に仏教受容の是非を問うた。その時、仏教の受容派が蘇我氏であり、排仏派が物部氏であった。

だが、にわかに疫病が蔓延した。すると、物部氏は「外国の神を祀(まつ)ったせいで疫病が流行(はや)ったのだ」として、渡来した仏像を運河に投げ捨てた。

これを発端にして蘇我氏・物部氏の争いが過熱。蘇我馬子・聖徳太子の手によって物部氏は滅ぼされ、仏教興隆の詔が発せられた。以降1500年以上にわたって仏教が、わが国に土着することになる。

天平時代(8世紀)には、天然痘が大流行した。このため当時の人口の30%前後、100万人以上が死亡したと言われている。

発生源は大陸と見られる。当時、遣唐使や遣新羅使が船で往来していた。彼らが帰国し、日本でウイルスを蔓延させたと見られている。天平の疫病大流行によって、政治の中枢を担っていた藤原四兄弟(武智麻呂・房前・宇合・麻呂)が相次いで死亡。政治の枠組みが大きく変わるきっかけとなった。

■疫病封じ祈願の祭ほか仏教文化が花開いた背景に「伝染病との戦い」

また、疫病の大流行によって仏教への帰依を深めたのが聖武天皇だ。聖武天皇は国ごとに国分寺と国分尼寺の造立も命じた。奈良の東大寺は全国の国分寺の頂点に君臨する総国分寺として位置づけられた。そして、東大寺に大仏が造立された。聖武天皇は、仏教の力で国を治めていこうとしたのだ。いわゆる「鎮護国家仏教」の誕生である。鎮護国家仏教の枠組みはその後、江戸時代が終わるまで為政者に影響を与え続けた。

奈良の東大寺にいる鹿たち
写真=iStock.com/kokkai
東大寺 - 写真=iStock.com/kokkai

日本各地の祭祀に目を転じれば、「疫病封じ」を祈願した祭りが多数見られる。日本三大祭のひとつ、京都の祇園祭がまさにそうだ。発祥は9世紀の祇園御霊会にさかのぼる。きっかけは、やはり疫病だ。現在の二条城の南側にある神泉苑に、当時の国の数である66の鉾(ほこ)を立てて、祇園の神を祀り、疫病退散を祈願したのがその最初である。

今日にいたる日本の伝統的宗教文化が花開いた背景には、伝染病との戦いがあったのだ。

仏教や神道といった伝統宗教だけではない。新宗教も、「病気直し」によって発展してきた。例えば、「手かざし」による浄霊を行う世界救世教や崇教真光などがそれに当たる。今回のコロナ騒ぎにおいては、きちんとした防疫措置や治療行為の妨げになるとして、特に新宗教団体の動きを警戒する動きもある。

■新型コロナで既存仏教教団が過剰に「自粛」に走るワケ

ところが新型コロナウイルス流行において、既存仏教教団の対応はこうした歴史とは正反対だった。

浄土宗総本山の知恩院では4月13日から開催予定であった、国宝御影堂落慶法要の中止措置を発表した。知恩院御影堂大修理は380年ぶり、9年間におよぶ大事業であっただけに、中止は大きな話題となっている。

また、毎年数千人が参列する東本願寺の「春の法要」(4月1日〜4日)についても、一般参列者を入れない僧侶による読経のみとした。東京の築地本願寺も3月以降、法話や各種講座などが軒並み中止。調布市の深大寺でも4月から5月にかけて実施予定だった秘仏元三大師像のご開帳が秋に延期になっている。

寺院の鐘
写真=iStock.com/Yue_
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Yue_

全国の末寺でも法事の中止が相次いでおり、ある京都の寺院は、「回忌法要などはしばらく檀信徒の参加を受け付けず、僧侶のみの読経で済ます」という。3月の彼岸会を中止する寺院も出てきている。こうしたに「自粛ムード」は仏教界だけでなく、宗教界全体に広がっている。

■日本の寺社において感染が拡大するリスクは小さいと考えられる

これまでどちらかといえば、既存宗教は良くも悪くも社会の動きに「鈍感」であった。しかし、コロナウイルス騒動においては、びっくりするほど行動が早い。仏教界の場合、わずか数人規模の法要も中止されているうえ、5月の仏事の取りやめも起きている。宗門の議決機関である宗議会の短縮措置も取られ始めた。

だが、一律に自粛すれば、社会不安を煽(あお)ることになってしまう。宗教界が社会パニックに取り込まれてしまってはいけない。そうではなく、社会に不安が蔓延する中、心の平安を取り戻すための「祈り」や「寄り添い」を行うのが宗教界の役割ではないだろうか。

政府の専門家会議は、3月9日に「新型コロナウイルス感染症対策の見解」という文書を出し、これまで集団感染が確認された場の共通点として、①換気の悪い密閉空間であった、②多くの人が密集していた、③近距離(互いに手を伸ばしたら届く距離)での会話や発声が行われた、という3つの条件をあげ、これらが同時に揃(そろ)う場所や場面を避けるように呼びかけている。

この文書を踏まえると、韓国の事例とは異なり、日本の寺社において感染が拡大するリスクは小さいと考えられる。多くの寺院は空間が広く、和の空間なので戸を開けば十分な換気ができる。また、法要中はおしゃべりをすることもない。墓参りなども「濃厚接触」に当たるとは思えない。文部科学省も「子どもが公園で遊んだり、散歩などは問題ない」という見解を示している。地域の寺院での小規模な法要や仏事のリスクは、「公園遊び」や「散歩」と同程度と考えてよいのではないか。

地域の寺はこうした状況だからこそ、人々に門戸を開いてほしい。

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鵜飼 秀徳(うかい・ひでのり)
浄土宗僧侶/ジャーナリスト
1974年生まれ。成城大学卒業。新聞記者、経済誌記者などを経て独立。「現代社会と宗教」をテーマに取材、発信を続ける。著書に『仏教抹殺』(文春新書)など多数。近著に『ビジネスに活かす教養としての仏教』(PHP研究所)。佛教大学・東京農業大学非常勤講師、(一社)良いお寺研究会代表理事。

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(浄土宗僧侶/ジャーナリスト 鵜飼 秀徳)

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