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イタリアの「コロナ危機」から見えた日本に必要な決断

プレジデントオンライン / 2020年3月19日 18時15分

衛生作業員が新型コロナウイルスの感染防止のため、ごく普通の道を消毒している=2020年3月17日イタリア、ナポリ - 写真=ABACA PRESS/時事通信フォト

■“ホットスポット”イタリアに飛び交う良くない噂

世界保健機構(WHO)から「震源地」と称されるほど、欧州では新型コロナウイルスの感染拡大が顕著だ。イタリアではすでに感染者数が3万5000人を超え、スペインではおよそ1万人、ドイツでは1万2000人、フランスでは9000人となっている。彼らは必ずしも発症しておらず、また発症しても重篤化する人々は少ない。

しかし欧州の場合、感染者数に占める死亡者数の割合が高いという特徴があり、それが恐怖心の高まりにつながっているきらいは否めない。発祥地とされる中国でさえ、感染者数8万人に対して死者は約3000人(ただし武漢のみ)であるのに対して、イタリアの場合は感染者数3万5000人に対して死者数は3000人に迫っています。

統計の信憑性などもあり、単純な比較はできない。とはいえ、数字が持つインパクトは大きく、特にイタリアの状況が非常に深刻であるという印象はぬぐえない。イタリアがホットスポットである理由としてさまざまな仮説のみならず根拠のない噂(うわさ)も飛び交っており、医学や疫学の専門家による詳細な検証が求められるところだ。

イタリアだけではないが、外出禁止や国境封鎖が実施された関係で、すでに欧州の景気は腰折れ状態となっている。イタリアの場合、2月ごろからヒトとモノが徐々に動かなくなり、3月に入りそれらが完全にストップしてしまった。そのため1~3月期のイタリアの実質GDP(国内総生産)の前期比成長率は記録的なマイナスになることは間違いない。

■金融市場で進む「イタリア売り」

このような異常事態を受けて、イタリアの金融市場も大荒れの展開となっている。主要な株価指数であるFTSE MIB指数は執筆時点(3月18日)の終値で15,120.48ポイント、年初来からの下落率は60%近くと欧州の他の国のみならず先進国一般のなかでも大きい。イタリア経済に対する悲観が、イタリア株の弱さにつながっている。

他方でイタリアの債券市場では、イタリア国債の金利が急騰している。通例、リスク資産である株式が売られるとき、安全資産である国債は買われる。ドイツではそのセオリーが通じているが、反してイタリアでは長期金利が3月前半だけで1%前後から2%台半ばまで急上昇する事態となった。債券市場でもイタリア売りが加速したわけだ。

背景には、景気の腰折れでイタリアの財政が悪化するという懸念がある。もともとイタリアの公的債務残高はGDPの130%程度まで膨張しており、安定・成長協定(SGP)で定められたEUの財政ルール(同60%以内)違反の状態が続いていた。一方でイタリアは、単年度の財政収支をGDPの3%以内に抑えるというルールは順守していた。

しかし今回の景気腰折れで、イタリアの財政赤字は大幅に膨らむことが予想されるようになった。景気悪化にともなう歳入減と景気対策による歳出増が見込まれるためだが、ジュゼッペ・コンテ現政権はEUとの関係も決して良好とはいえず、イタリアが抱えることになる巨額の財政赤字をEUがアシストする気があるのか、市場は疑心を強めたのである。

■イタリア危機を招くくらいならルールを変える

3月12日、欧州中銀(ECB)の定例理事会後が開かれたが、その後の会見でのクリスティーヌ・ラガルド新総裁の発言も市場関係者の失望を誘った。記者からイタリアの財政が非常事態に陥った場合、それを支える気があるかを問われたラガルド総裁は、原則論に基づく慎重な言い回しに終始してしまい、市場とのコミュニケーションに失敗してしまったのだ。

危機時に必要なものは、政策当事者が「不退転の決意」を示すことにほかならない。その点でラガルド新総裁は稚拙であったと言わざるを得ないが、中銀実務の経験が皆無である以上、致し方なかったともいえる。彼女だけを責めるわけにはいかないだろうし、本来ならEUの執行機関である欧州委員会こそ、そうした決意を示すべきである。

なおECBは3月18日に緊急声明を出し、12日の理事会で拡大したばかりの量的緩和をさらに拡大、今年末までに7500億ユーロ(約89兆円)の金融資産を購入すると発表した。同時にイタリアを念頭に、特定の国の国債を重点的に買い増す可能性を示唆するなど、タイミングは遅かったが金融当局としてはかなり思い切った手に打って出た。

何事にも原則はあるが、一方で例外もある。コロナショックという言葉が聞かれるようになった現在は、まちがいなく例外の局面だ。このタイミングでイタリア危機を招き、すでに疲労しきったイタリアのみならず、欧州全体の社会や経済にさらなる悪影響を及ぼすような状況になるくらいなら、いっそゲームのルールを変えてしまった方がいい。

たとえばSGPで定められた財政ルールの弾力化や、欧州安定メカニズム(ESM)による国債買取プログラムの要件緩和などで、イタリア財政を支援するスタンスを欧州委員会が見せる必要があるだろう。具体策は何でもいいが、最悪の事態に備えた準備ができていることを明言してくれれば、市場の動揺は早期に収まったはずである。

■意思決定に時間がかかるEUの脆弱性

1月末の英国の離脱で初のサイズダウンを経験したEUだが、それでも27カ国という多くの国々を抱えている。EUの意思決定は良くも悪くも時間がかかるが、危機という非常時においてこの意思決定のあり方はとても脆弱(ぜいじゃく)だ。ギリシャ危機など欧州債務危機の際に、こうしたEUが持つ脆弱性があらわになったはずだ。

コロナショックを受けて欧州各国の経済が冷え込んでいるが、感染者数の多さと市場の反応のひどさが示すように、イタリア経済は特に悪化している。イタリアのみならず各国が対策に追われているが、欧州統合の理念に基づくならば、今こそイタリアを救う「不退転の決意」をEUは早急に示すべきなのだろう。

ヒトとモノが動かない経済危機に直面し、それを不安視するカネも危機的状況に陥りつつある状況、それが今のコロナショックかもしれない。では最低限、カネの不安を和らげるためにはどうしたらよいのだろうか。それは政府や中銀が、何でもやるという不退転の決意を市場関係者に示すことに他ならない。

同様のことは米国にも言える。強気のドナルド・トランプ政権は3月17日になってようやく1兆ドル(約100兆円)の経済対策パッケージが発表したが、大統領がコロナ対策のためなら何でもやるという決意を示したわけではない。むしろコロナ発祥の地である中国を批判するなど、トランプ大統領は危機管理の本質とはほど遠い言動に終始している。

日本もまた煮え切らない。野党は政権の初動対応を批判するばかりだが、今大切なことは挙国一致でこの問題に立ち向かう姿勢を政治が示すことだ。立場を超えた協力関係に基づく「不退転の決意」を各国が示すとともに、また国際的な協調体制で臨むことをアピールできない限り、残念ながら市場の混乱は続くだろう。

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土田 陽介(つちだ・ようすけ)
三菱UFJリサーチ&コンサルティング 調査部 研究員
1981年生まれ。2005年一橋大学経済学部、06年同大学院経済学研究科修了。浜銀総合研究所を経て、12年三菱UFJリサーチ&コンサルティング入社。現在、調査部にて欧州経済の分析を担当。

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(三菱UFJリサーチ&コンサルティング 調査部 研究員 土田 陽介)

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