なぜ安倍首相と小池都知事は「不要不急の会見」を繰り返すのか
プレジデントオンライン / 2020年3月31日 13時15分
■なぜ安倍晋三首相と小池百合子都知事のコロナ会見はダメダメなのか
新型コロナウイルスの世界的大流行という未曾有の危機にあって、リーダーたちの「真価」が試されている。
日本はこれまで最前線の医療や行政関係者の地道な努力で乗り切ってきたが、ついに感染が爆発的に拡大するかどうかの重大局面に差し掛かっている。そうした状況における不安材料が、安倍晋三首相と小池百合子都知事のリーダーシップの欠如だ。3月下旬に行われた2人の記者会見は、「日本流コミュニケーション」のダメダメさを凝縮したような大変残念なものだった。
一方、アメリカでは、ニューヨーク州のアンドリュー・クオモ知事が天才的なコミュニケーション手腕を発揮し、絶望的な状況での「希望の星」として、人気を集めている。
今回は、リーダーとは危機のときにどんなコミュニケーションを心がけるべきかについて考えたい。
■「ご協力を」「きめ細かな支援」……抽象的な言葉を並べた安倍首相
安倍首相は3月28日、コロナウイルスの感染拡大について3回目の会見を開いた。
その会見スタイルはこれまでと同じで、プロンプター(原稿が映し出される透明のボード)を見ながら、用意された原稿を一字一句漏らさず、読み上げていた。安倍首相は両側に設置されたプロンプターを交互に見るため規則的に左右に目をやる。その姿はロボットのように不自然で、聞き手(視聴者である国民)からすると、誰を向いて話しているのかわからない居心地の悪さがある。
何より、「彼自身の言葉」という感じが全くしない。
「ご協力を」「徹底的に下支え」「きめ細かな支援」「笑顔を取り戻す」といった抽象的な言葉を並べながら、行間にメッセージをにじませる。これこそ日本のお家芸である「以心伝心」「忖度」のコミュニケーションスタイルだろう。
■「○○してまいります」という未来形に国民は不安を覚える
また、これまでと同じく「○○してまいります」という未来形が続くため、本当にこれで有事対応できるのかと心配になる。
もちろん人々の安全を確保しながら、経済を回すというのは大変に高度なかじ取りを求められる。あいまいな物言いをしなくてはならないのだろう。だが、そのあまりの歯切れの悪さ、中途半端さが、なんとももどかしい。
さらに気になるのは、このご時世に、ぎゅうぎゅう詰めの記者席だ。記者は記者で、事前に用意してきたような質問を順番に読み上げているようで、緊張感も臨場感もない。結局、せっかくの記者会見が「記者クラブ向けの内輪の儀式」になっていて、国民に正面から向き合っているようには見えない。
世界のリーダーたちは違う。ドイツのメルケル首相、イギリスのジョンソン首相などは、動画を通じて、国民に向けて直接メッセージを送るというスタイルをとっている。
会見にせよ、ビデオメッセージにせよ、本人の思いのこもった切実なメッセージであるべきで、国民一人ひとりの心にしっかりと届くような情報発信の形を考える必要があるだろう。
■小池都知事はデータや医学的根拠がなく、あいまいな説明に終始
一方、小池都知事は3月25日夜に新型コロナウイルスについて初めての会見(※)を行った。フリップ(説明用の資料)を用意し、「感染爆発 重大局面」と視覚的にアピールするなど工夫も見られたが、データや医学的根拠がなく、あいまいな説明に終始した。たとえばこんな発言だ。
非常にまどろっこしい。外出を控えるのはこの週末だけで、平日はいいということなのだろうか。「お急ぎでない」とは何だろうか。なぜ、「職種にもよるが、仕事はなるべくご自宅で行い、今後は、平日・夜間・週末を含めて、外出は控えていただきたい」とシンプルに言えないのだろう。
彼女のプレゼンでの強みは、決して怒りを見せない感情のコントロール力である。それは今回も発揮され、常に柔らかい表情をつくっていた。ただ、ときおり笑顔ものぞかせていた。それは緊張を和ますための戦略なのか、単なる愛想笑いなのか。平時ではない「重大局面」にありながら、なんだかひとごとのような、のんびりとした印象を受けた。
■言葉を発すれば伝わると思い込んでいる
小池都知事は3月27日と30日にも会見を開いたが、残念ながらその印象は初回から変わっていない。直近の30日の会見は表情が厳しくなり、配布資料なども用意されたが、結局、印象に残ったのは、「夜のクラブやバーを控えて」と言うメッセージだけ。「外出自粛」を求めるものではなく、これでいいのかと戸惑いを覚えるものだった。しかも会見場はぎっちりで、ゴホゴホとせきをしている人がいるのがとても気になった。
有事のときのリーダーは、自らの一挙手一投足が国民一人ひとりにメッセージを発していることを強く意識すべきだ。しかし日本の多くのリーダーは、ただ言葉を発すれば伝わると思い込んでいる。それだけでは意図通りの効果を発揮するとは限らない。
言葉を発することはあくまで手段であり、目的とすべきはどういった行動や感情を喚起するかだ。安倍首相や小池都知事をはじめ、日本の多くのリーダーはそうしたゴールイメージを計算できていない。
「プレゼンやスピーチは音響芸術である」
これは、くしくも、安倍氏のスピーチライターで、内閣官房参与である谷口智彦氏が筆者に述べた言葉である。であれば、こうした非常時にはなおさら、舞台装置も演出もジェスチャーも声も含めた総合的なパフォーマンス戦術を徹底して考え抜き、「演じ切る」覚悟が必要なのではないか。
■事態が深刻なNY市民を励ますクオモ州知事の「神会見」
海外に目をやれば、アメリカではトランプ大統領が、相変わらずの「スタンドプレー」という迷走を繰り広げている一方で、ニューヨーク州のクオモ知事は、現場の第一線に立ち、精緻にして大胆なコミュニケーション戦略を展開して、人気を高めている。
ニューヨーク州はアメリカの中でも、最も事態が深刻で、非難の声もある。だが、クオモ知事の毎日のブリーフィングによって、全米中の人々が励まされている。
クオモ氏は、ニューヨーク州知事を務めた父のもとに生まれ、弟は、CNNの有名なアンカーマン。バツイチ、独身の62歳である。かつては「人間ブルドーザー」「すべての人を釘とみなす『ハンマー』」と称されたこともあり、決して好感度の高い人物ではない。しかし、こうした危機時には、その独自のスタイルが奏功している。
毎日行われるブリーフィングが本当にすごい。何がすごいのか、筆者はそのポイントを以下の10項目に整理できると感じた。
■クオモNY州知事のここがすごい
①迅速かつ頻繁
毎日、一回一時間ぐらいをかけて、何が起こったか、何か起きているのか、これから何が起こるのかをきめ細かくブリーフィング。もちろん、記者たちなどオーディエンスはたっぷりと間隔をあけて座っている。
②徹底した情報開示
「11万のベッドが必要になるかもしれません。一方で、われわれの現在のキャパシティーは5万3000ベッド。3万7000人がICUで呼吸器付きのベッドが必要となるかもしれません。しかし、今あるのは3000。これは、皆さん、問題です」。ファクトに基づき、具体的な数字を上げながら、ネガティブな情報も一切包み隠さずに開示する。
③圧倒的なわかりやすさ
彼は原稿を見ず、すべて自身の言葉で話す。その動画の横にはパワーポイントの映像が映し出されており、口頭ではわからない数字やデータ、ポイントがビジュアルで、すぐに理解できるようになっている。さらに感染者拡大のカーブを「波」に例え、「皆さん、カーブの話をしていますね。このカーブは波。高ければ、医療システムを破壊します」と効果的に比喩を使う。「ピークの山」の話も彼の手にかかると、子供から高齢者まで全国民があっという間に理解できる。
④劇場感
ビジュアルな臨場感を演出するため、時には、山積みになったマスクや医療機器の前で、時には、臨時病院に転用した大規模コンベンションセンターに並んだ病院ベッドの前で、ブリーフィングを行う。見る人に「ここまで準備をしている」と直感的にわかってもらうのだ。
⑤専門性
常に専門家の医師や軍人など専門家と並び、一体になり、高い専門性をもって事態に対処していることをアピールする。
■大乱気流を乗り切る「パイロット」に必要なコミュニケーション力
⑥ワンチーム
「アメリカはいつも逆境やチャレンジを乗り越えてきました。そうやって、われわれの世代を偉大なものにしていくのです」「われわれのつながりと人間性こそがわれわれの最大の強み。ニューヨーカーたちがお互いを思いやる姿、それは何にも負けない強み」「われわれは強い。そしてわれわれは愛情深い」。常に「私たち」と言う言葉を使い、国民、ニューヨーカーとしての団結を呼びかける。
⑦エモーショナルサポート
「ウイルスより悪質なのは、われわれが今、直面している恐怖」「われわれは同じ戦いを戦っている。われわれは今、みんな同じ塹壕(ざんごう)にいるのだ」。人々の苦悩、不安、悲しみ、絶望に徹底的に寄り添い、共感し、「必ず乗り切れる」と不安を鎮めようとする。医療関係者などへも惜しむことなく感謝と称賛の言葉を送る。その口調は、一方的に読み上げるスタイルとはほど遠く、「まるで一緒の食卓で家族を励ます父親のよう」と形容される。
⑧責任の所在を明確にする
「もし、何かであなたが腹を立てているのであれば、私に腹を立ててください。責任は私にある。あなたの街の市長がレストランやバーやジムや学校を閉めたのではない。私がそうしたのですが。私がすべての責任を取ります」と言い切る。
⑨誇りと希望を喚起する
「こうした危機はあなたの魂をありのままにさらけ出す」「ニューヨークはあなたを愛している」「より良き自分たちを見つけ出し、道を示していきましょう」とニューヨーカーの誇りを刺激し、必ず、終息することを約束し、希望を植え付ける。
⑩圧倒的な信頼感
地道なコミュニケーションの努力に、ニューヨーク市民だけではなく、多くの米国民が励まされ、有事のリーダーに最も求められる、圧倒的な信頼感を勝ち得ている。
アメリカの有名トークショー番組のホスト、トレバー・ノアは「リーダーはパイロットのようなもの。優れたリーダーは、事前にこれからどんな状況になるのかを説明し、乗客の不安を最小限に抑え、理解を得なければならない」と形容した。まさに「危機感と安心感」をいかにバランスよく伝えるかがカギとなる。
視界は極端に悪く、事態は予断を許さない。
果たして日本のリーダーはパイロットとして、この大乱気流を乗り切ることができるのか。そうあってほしいわけだが、であれば、コミュニケーションを一瞬たりともおろそかにしてはならない。リーダーシップとはコミュニケーションそのものなのであるから。
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コミュニケーション・ストラテジスト
早稲田大学政治経済学部卒、英ケンブリッジ大学大学院国際関係学修士、元・米マサチューセッツ工科大学比較メディア学客員研究員。大学卒業後、読売新聞経済部記者、電通パブリックリレーションコンサルタントを経て、現在、株式会社グローコム代表取締役社長(http://glocomm.co.jp/)。企業やビジネスプロフェッショナルの「コミュ力」強化を支援するスペシャリストとして、グローバルな最先端のノウハウやスキルをもとにしたリーダーシップ人材育成・研修、企業PRのコンサルティングを手がける。1000人近い社長、企業幹部のプレゼンテーション・スピーチなどのコミュニケーションコーチングを手がけ、「オジサン」観察に励む。その経験をもとに、「オジサン」の「コミュ力」改善や「孤独にならない生き方」探求をライフワークとしている。
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(コミュニケーション・ストラテジスト 岡本 純子)
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