東大理Ⅲ式・医者が実践する「頭がよくなる食事術」AtoZ
プレジデントオンライン / 2020年5月5日 11時15分
■納豆卵かけご飯は最強の頭脳食
英語を学ぶなら、脳を元気に働かせることが効率アップの秘訣だろう。
近年「コリン」という栄養素が脳によいと注目されていたのだが、2019年、世界トップレベルの米臨床栄養学会雑誌『アメリカン・ジャーナル・オブ・クリニカル・ニュートリション』にその効果が発表された。
東フィンランド大学らが42~60歳の認知症のない男性2497人を対象に「コリン摂取と認知症リスク発症」を調べると、コリンの摂取が多いほど認知症発症リスクが低下し、また「記憶機能のパフォーマンスが向上する」という結果だったのだ。日本臨床栄養学会幹事の板倉弘重医師(品川イーストワンメディカルクリニック院長)が解説する。
「非常に大事な論文発表です。コリンは脳にとって2つの重要な要素があり、1つは認知症患者の脳内で減少する神経伝達物質『アセチルコリン』を生成するもとになります。コリンを摂取すると記憶力や注意力を保つ作用があるんです。もう1つは、親からの遺伝ではなく、後天的な食生活の影響で人の遺伝子が変異し、糖尿病やがんなどの病気になる面がありますが、コリンはその遺伝子変異を抑える働きがあると期待されています」
それではコリンが含まれている食品は何? と答えが知りたくなるに違いない。あらゆる食品で最も多くコリンが含まれているのは「卵」で、100グラムあたり294ミリグラムだ。ちなみに米国では1日に男性550ミリグラム、女性425ミリグラムのコリン摂取が推奨されている。
また、コリンに脂肪酸が結合すると「レシチン」という成分になり、これも脳にとてもよい。レシチンが欠乏するとイライラして、神経衰弱を招き、反対にレシチンを十分に取ると集中力、思考力、記憶力などがよくなる。
「レシチンは細胞膜の主成分で、脳神経や神経組織を構成します」と話すのは、平成横浜病院の東丸貴信医師だ。
「レシチンは大豆レシチンと卵黄レシチンの2種類があり、その名の通り大豆レシチンは大豆や大豆製品、卵黄レシチンは卵黄に多く含まれています」
つまり、大豆や卵はレシチンやコリンが十分に含まれ、優秀な頭脳食といえよう。もちろん大豆加工食品である味噌、醤油、豆腐、納豆などもOK。板倉医師は子供の頃からよく「卵」を食べていたと言う。
「卵かけご飯を食べたり、たっぷりの肉や野菜を入れたすき焼きをドバッと卵につけて食べていました」
そう、実は抗酸化作用のある「野菜」も脳の老化抑制に働く。どんな野菜や果物でもいいが、とりわけトマトにはリコピンやβカロテンといった抗酸化物質のほか、脳細胞を活性化するγアミノ酪酸(略称GABA)も豊富でお勧めだ。GABAは神経の高ぶりを抑え、降圧作用がある。つまりは脳への血流の流れをよくするのだ。
「抗酸化作用が高く、GABAが含まれるという点で緑茶もいいでしょう。実はせっかく脳によいと摂取したレシチンも胃腸で酸化されると、体に悪影響を与えるという報告があります。ですからレシチンを含む成分と一緒に、抗酸化作用のある食品を取ることも大切ですね」(板倉医師)
■TOEIC受験前はカツカレーがいい!?
ここでもう1つ、近年の研究で明らかになりつつある脳にまつわる新情報をお伝えしよう。ストレスが続くと下痢が起きるように、これまでは脳からの指令で腸が動くと考えられてきたが、反対に腸からも脳に影響を与えることがわかってきた。これを「脳腸相関」という。勉強によるストレスなどで腸内環境が乱れて下痢や便秘に傾くと、ストレスが増大するという悪循環に陥るのだ。
さらには腸内環境が悪いと脳内のアセチルコリンが減少し、認知症を引き起こしたり、うつ病などの精神疾患を発症する可能性も指摘されている。どのような腸内環境だと病を発症するリスクが上がるのかについては研究中だが、不調を感じない程度に「便通を整えること」が“脳のストレス”を減らすことになるのは間違いない。
コリン、レシチン、抗酸化物質を摂取して、腸内環境を整えるとともに、「脳によい栄養素」の最必須といえば、魚の脂肪に含まれるDHA(ドコサヘキサエン酸)&EPA(エイコサペンタエン酸)だ。一時期「頭がよくなる」とブームになったので、名称を耳にしたことがある人も多いだろう。
■中高年以降は特に意識して摂取を
アンチエイジングに詳しい和田秀樹医師(和田秀樹こころと体のクリニック院長)は「脳の機能を維持するために、脂ののった魚は非常にいいです。体内で活性酸素が発生しやすくなる中高年以降は特に意識して摂取を」と話す。
とりわけDHAには神経細胞の膜を柔らかくして、脳細胞の働きを高める神経伝達物質を増やし、情報を送ったり受け取ったりする伝達が活発になる作用があるとされる。脳細胞の脂肪には平均して10%のDHAが含まれているが、記憶学習の機能を持つ「海馬」には20%以上のDHAが含まれるため、十分なDHA摂取は頭の回転をよくすることに貢献する。
「DHA、EPAは血液をさらさらにして血管の柔らかさを保ち、脳動脈硬化症や脳卒中による認知症を予防します。1日に合計1グラム以上の摂取が望ましいとされます。焼いたサンマなら1尾、小型のイワシなら2尾。刺身であればマグロ(トロ)で2~3切れ、ブリで4~5切れです」(東丸医師)
イワシやサバ、サンマ、マグロなどの身の部分や目の裏のゼリー状の脂肪にDHAはたっぷり含まれる。「さば水煮」や「いわし味付」「さんま蒲焼き」などの缶詰にも豊富だ。
また、脳のエネルギー源となる「糖質」も欠かせない。脳のエネルギー消費量は非常に多く、成人男性で1日500キロカロリーにものぼる。そのため、主食をしっかり取ることも忘れずに。
「特に受験生や、何らかの試験を受ける日は、当日の朝に炭水化物をしっかり取ってください」と和田医師。和田医師は試験日前日に縁起担ぎの「トンカツ」も理にかなっていると説明する。
「心を安定させる脳内ホルモン『セロトニン』を増やすには、材料となるトリプトファンを取ることが必要です。セロトニン不足は気分が鬱っぽくなったり、試験日にパニックになりやすいですからね。トリプトファンはアミノ酸の一種で、豚肉や納豆などに多く含まれています。脳の栄養素という意味ではまず魚の脂が大事ですし、次に気分の安定では肉が、脳を動かすためには炭水化物も必要ということです。3つをバランスよく取りたいですね」
ここぞというときに「目覚めたい」なら、カレーやコーヒーを。カレーに使われるスパイスは血流を促進し、脳を活性化させ、集中力を高める。野菜や肉などの具をきちんと入れることで一層の効果も望めるだろう。そしてコーヒーは、勉強を始める30分前に。覚醒作用があるカフェインは全身に行き渡るのに摂取後30分かかる。胃への刺激となる空腹時を避け、食後に飲めば脳がスッキリと目覚めるはず!
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品川イーストワン メディカルクリニック院長
和田秀樹こころと 体のクリニック院長
平成横浜病院
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ジャーナリスト
1978年生まれ。「サンデー毎日」記者を経て、2018年よりフリーランスに。著書に『週刊文春 老けない最強食』(文藝春秋)、『救急車が来なくなる日 医療崩壊と再生への道』(NHK出版新書)など。
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(ジャーナリスト 笹井 恵里子)
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