時間を創り出す、伊勢丹"敏腕"バイヤーの「メモの魔力」
プレジデントオンライン / 2020年4月23日 9時15分
■聞いたことをそのままメモしない
私が初めて一人旅をしたのは小学校3年生のころでした。お小遣いを貯めて特急に乗り、大宮から宇都宮へ。それ以来、日本各地を食べ歩くのが趣味になり、就職も食品売り場で働きたくて百貨店を選びました。
当時の新人は、掃除、試食づくり、ストックの整理の繰り返し。単純に見えるかもしれませんが、覚えなくてはいけないことが多く、メモは必須でした。使っていたのはミニ6穴のシステム手帳です。食品売り場は毎年同じようなスケジュールで動くため、過去2年はさかのぼって確認できたほうがいい。その点、中身を自分でアレンジできるシステム手帳は便利でした。当時のメモの内容は多岐にわたりました。品番や内線番号といった業務上欠かせない情報や、仕事で気づいたこと、自分の気持ちなどを書いていました。
入社5年目、私はアシスタントバイヤーとしてお中元やお歳暮の商品コントロールを配送センターで担当していました。ところがある理由から上司の仕事も担うことになり、本来の仕事だけではなく、中元歳暮ギフトカタログ作成とそれに伴う取引先との商談も担当することに。それから2カ月ほどは目が回るほどの忙しさでした。
■同じように悩む場面が出てくるかもしれない
しかし、このときもメモは欠かしませんでした。記録を残しておかないと、またいつか同じ場面に遭遇したときに同じように悩む場面が出てくるかもしれない。自分がそこでどのように問題に対処したかを残しておけば、躓きを減らせるのではないかとメモを続けたのです。
アナログの手帳は時間を感覚的にとらえることに向いています。たとえばページの厚みが1つの物差しになって、「もう次のページにいくから準備しないと間に合わない」「厚みがあるからまだ大丈夫」と感覚でわかります。この物差しが自分の中にできると見開きの1週間の予定を見たときに「ここはまだ余裕があるな」と俯瞰することができ、仕事でもプライベートでも時間をつくることができるようになります。
時間のやりくりで印象に残っているのは、催事担当バイヤーのときに企画した大阪物産展。最初上司に大阪でと提案したときには「大阪は粉もんしかないだろ」と却下。情報収集や根回しのための出張も認めてもらえませんでした。しかし、私は自信があり、改装予定の催事場のこけら落としでどうしても大阪をやりたかった。そこで、京都への出張を利用しました。京都の物産展は定番なので、催事担当は頻繁に京都に出張します。そのついでに大阪まで足を延ばして、少しずつお店に声をかけていったのです。
もちろん京都は京都で成功させる必要があり、全力で仕事に当たりました。さらにそのうえで時間をつくって大阪に行くのですが、バイヤーになってから時間のやりくりがうまくなっていたので、苦ではありませんでした。それでも準備に3年かかったでしょうか。最終的に上司からOKが出て、こけら落とし第3弾で大阪物産展を開催。改装でフロア面積は約半分になったのですが、大阪物産展は改装前の他の催事と変わらない売り上げを記録。おかげさまで大成功でした。
今はマネジメントの業務が多くなり、メモの内容も変わってきました。昔は自分が感じたことをそのままメモにしていましたが、今はそれを人に伝えるための言葉に置き換えてからメモしています。間隔があくと、最初に感じたこととズレが生じやすい。それならば、感じた瞬間に人に伝えられる言葉へと翻訳してからメモしたほうがいいので。私もまだ完ぺきではありませんが、日々意識してメモを取っています。
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1968年、埼玉県生まれ。早稲田大学大学院理工学研究科数学専攻修了後、94年伊勢丹(現・三越伊勢丹)へ入社。婦人服、ギフト、催事のバイヤーなどを経て、2018年より現職。
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(伊勢丹新宿店 新宿食品・レストラン営業部 営業部長 村山 慎一 構成=村上 敬 撮影=市来朋久)
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