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藤田晋「ドラは出世の妨げだ」声に出して読みたい麻雀名言

プレジデントオンライン / 2020年4月30日 11時15分

サイバーエージェント代表取締役社長 藤田 晋氏

この国のインターネット産業の中心には、いつの時代もサイバーエージェントの名前がとどろいている。最強のIT企業を牽引する社長・藤田晋は、筋金入りの麻雀打ちで、プロ顔負けの腕前を持つことでも有名だ。彼から飛び出した「声に出して読みたい麻雀名言」の数々。彼がそこまで打ち込むのはなぜなのか。(第3回/全3回)

■覚えておけ!ドラは出世の妨げだ

麻雀では名言がたくさん飛び出します。

「ドラは出世の妨げ」
「金持ち喧嘩せず」
「慌てる乞食はもらいが少ない」

どれも四角い卓を囲んだ小さな世界を通じて人生の縮図のように身に沁みるものがあります。

ドラ(※1)を大事にして手牌を育て、高打点を狙いにいくのか、はたまたドラを捨ててでもスピード勝負に出るのか、麻雀では常に二者択一を迫られます。高い手牌が好きな人でも、時にはスピードを優先してドラを切り捨てないと、出世が遅くなるように上がりから遠のくものです。

実社会でも、学歴や語学力といったものはドラみたいなものです。いい大学を卒業したとか、英語が話せるだけとか、それでは仕事そのものはできませんよね。ドラ単独では役にならないので上がれないのです。

(※1)持っているだけで得点が上がる牌のこと

ところが仕事ができる人で、なおかつ学歴が高かったり、英語ができたりすれば、評価が跳ね上がります。そのような性質のものです。社会に出て仕事を始めたら、まずは「仕事ができる人」にならなければ話になりません。

麻雀では常に二者択一を迫られます

それにもかかわらず、なんとか語学力を活かしたいと固執しているような人や、学歴がプライドになって仕事を選んでいる人を見かけることがありますが、それはドラが出世を妨げている状態と言えるでしょう。

また、序盤で大物手を連発して点数を稼いでしまったときは、「金持ち喧嘩せず」という言葉を心掛けたいところです。

懐深く構えることの大切さも、麻雀が教えてくれます

大差をつけて1位でいるときは、2位が追い上げてくるリスクをそんなに考える必要がありません。先制リーチを受けても、無理をせず様子見を決めていたら、2位以下がお互いに振り込み合うなど、点差があまり変わらないまま対局が進んでいくこともあるからです。

2位以下はトップを走る“金持ち”に追いつくためにも、できれば直接打ち取りたいと思っています。しかし、全然参戦してくれない、と。前回のコラムで、「戦略は相手が嫌がることを」と書きましたが、潔く参戦することで相手を喜ばせてはいけません。

金持ちではないときも、心に余裕が必要です。そうでなければ「慌てる乞食はもらいが少ない」という状態になりやすいからです。

大きな手が狙えるチャンス手が入っても、鳴いて安く上がってしまう、なんてことは心のどこかで焦っているときに起きやすい。また、プラスしているときに、大きな勝利を収めることができない人は、もっと稼げるのに早く勝ちを確定させて安心したくて、慌てている状態です。まさに「慌てる乞食はもらいが少ない」です。

株式投資などでも、ちょっと利益が出たタイミングで売って利益を確定してしまい、後からもっと上がって後悔した、なんて経験がありますよね。マイナスするときもプラスするときも、懐深く構えることの大切さも、麻雀が教えてくれます。

■セゾン林野会長の麻雀熱・麻雀愛

前々回、ドン・キホーテ元会長の安田隆夫さん(現・創業会長兼最高顧問)は、麻雀が強いという話を紹介しましたが、経営者の中で、私と同様に麻雀愛がとても強いのはクレディセゾン代表取締役会長CEOの林野宏さんです。著書『誰も教えてくれなかった 運とツキの法則』の中でもたくさん麻雀について触れています。

私が立ち上げたMリーグは麻雀プロのリーグ戦ですが、林野会長は社会人リーグを立ち上げています。「麻雀企業対抗リーグ」というもので、クレディセゾン、富士通、エイベックス、凸版印刷など、業種を問わずさまざまな企業が参加し、各社の麻雀が強い社員4~10名くらいが代表選手となって腕を競い合っています。我々サイバーエージェントも参加しており、もちろん私自身も選手として出ることがあります。

参加してみて、歴史ある大企業はやはり麻雀が強いなという印象を持ちました。

麻雀は人生経験のようなものが色濃く反映されるゲーム

中でも林野会長率いるクレディセゾンは本当に強く、毎回上位争いをしています。サイバーエージェントも200名はいる麻雀部の中から数名の成績上位の選手で参戦しているのですが、不思議なほど楽には勝たせてもらえません。

こんなに本気で麻雀に取り組んでいるうちの会社がなぜ勝てない? とも思いますが、当社の選手はまず年齢が若い。私以外は役職者ではなく、現場の社員が多いです。

一方、クレディセゾンさんなんかは本当の会社の上層部の方がずらりと代表選手に並んでいます。冗談ですが、もしかして麻雀が必修科目でできないと出世できないのかな? と疑いたくなるほど麻雀が強いです。やはり仕事ができることと麻雀が強いことは、なんらかの相関性があるのかもしれません。

麻雀は人生経験のようなものが色濃く反映されるゲームなので、若い人よりも人生経験が豊富で老練な人のほうが強い傾向があるのは確かです。

もちろん林野会長ご自身も麻雀が非常に強いです。実質ゼロからクレディセゾンを立ち上げ、さまざまな逆境を乗り越えてきた熟練の経営者です。麻雀の戦い方にも、一筋縄ではいかないしぶとさと勝負強さが滲み出ています。

林野会長は今77歳でいらっしゃいますが、「引退後は麻雀の発展に尽力する」と仰っています。特にシルバー層への普及に興味をお持ちのようです。麻雀は手と頭を動かすのでアルツハイマー病予防に効果があるのは医学的にも証明されています。また、対人ゲームなので友達もできて、コミュニケーションも増えるし、これ以上ない老後の趣味になるのではないでしょうか。

以前、麻雀企業対抗リーグのスピーチで、林野会長は「麻雀は世界で一番面白いゲームです。世の中のあらゆる遊びをしてきた私が言うのだから間違いない(笑)」と仰っていました。とても説得力のある話ですね。

■麻雀AIに人間は勝てるか

昨今では将棋のAIが話題になっていますが、麻雀もAIの研究が進んでいます。麻雀のネット配信も、オンラインゲームのユーザー対戦も、そういう意味ではビッグデータ。膨大なデータが蓄積されています。

麻雀AIに人間は勝てるか

インターネット上の麻雀文化が進歩していることで、これまでの麻雀のセオリーが変わってきました。「流れが来ている」「こういう状況では、こういう打ち方が一番的確だ」というような、以前はオカルトの世界で何とでも言えたようなことが、全部データで出てきています。

麻雀AIに、いずれ人間は勝てなくなるでしょう。

実際に、4人の人間がそれぞれの判断で打つ麻雀は、情報が多すぎる。見えている牌の確定情報、伏せられている牌の不確定情報、そこに人間の心理まで絡んできます。真面目にすべてを把握しようとしても、人間の脳ではついていけないのです。

そんな相当高度なコンピュータ処理でなければできないことを、人間が全部知ろうとしたらどうなるか。簡単に言えば「木を見て森を見ず」ということになるのです。細かな情報にとらわれて、一番大事な全体を見落としてしまうという意味です。

麻雀にはいい意味での「いい加減さ」も必要です。

これも経営の仕事に似ていますよね。たくさんの人間が働いている会社組織で、外部環境も知らないところで目まぐるしく変わる中、すべての情報を知ることなんてできないし、正確に未来を予測することも不可能です。経営者には大局観で判断するしかない局面も多いですが、たくさんの情報から正確に正解を導き出すことは誰にもできません。するといい意味での「いい加減さ」を持って、この辺だろうと決断できなければなりません。

これは簡単なようで、責任ある立場だと不安でなかなかできない人も多いです。それを、「今ある情報の中から可能な限り、最善を選択しました」といった部下の立場のような姿勢と、「絶対に勝たなければならない。そのために決断した」という全責任を1人で背負った経営者のような姿勢は、勝負の世界では同じ内容のことを言っても全く違います。

麻雀において、理論や期待値の積み重ねだけでは勝てないというのは、結局はそういう姿勢の違いなのです。

■自分のタイミングで勝負をするんじゃない

麻雀を見て楽しむ、「見る雀」が流行り始めています。ハマっている人は自分がプレイする麻雀の誘いを断って、観戦を優先するほどです。

サイバーエージェントがテレビ朝日と共同で立ち上げたABEMA(旧AbemaTV)では、麻雀の専門チャンネルを設けて24時間365日麻雀の対局を放送しています。これがかなりの人気チャンネルになっていて、視聴者層も、ビジネスマンから学生まで幅広いです。

中でも、前回のコラムで紹介したプロのリーグ戦「Mリーグ」は一番の人気コンテンツです。

プロ野球やJリーグの試合が落ち着く10月から開幕し、毎週月火木金曜、夜7時から生中継しています。これは、スポーツ観戦などの娯楽が少ない冬の時期に楽しんでもらおうという狙いがあります。

実際、試合がない水曜日に「Mリーグロス」という言葉がSNSで飛び交うほど、熱狂している人がたくさんいます。

かく言う私も、毎日会食が終わるとスマホで結果を見てしまわないように気をつけながら帰宅し、ABEMAの追っかけ再生機能で頭から試合を見るのが日々の楽しみになっています。これ、スポーツの観戦の仕方そのものだと思いませんか?

麻雀を見て楽しむことのポテンシャルはABEMAを立ち上げる以前から感じていました。

以前からドワンゴのニコニコ生放送などで、草の根的にチャンネルを開設して放送する人たちが増え、同時にそれを見るファン層が着実に広がっていたのです。ただ、当時は通信環境などの問題があって画質が悪く、牌がよく見えなかったり、アマチュアによる制作なので番組のクオリティが低かったりといった課題がありました。

そこにスマートフォン、Wi-Fiの普及など環境面の後押しがあり、高画質で高品質な番組作りをしたABEMAの麻雀チャンネルを誕生させたのです。参入のタイミングは、早すぎもせず、遅すぎもせず、ベストだったと思います。

麻雀で心掛けなければならないことの1つに「自分のタイミングで勝負しない」というのがあります。自分の事情ではなく、環境面が揃ったタイミングで勝負しなければいけないという意味です。麻雀は失点したり後手を踏んだりすると心理的に焦りを感じるゲーム。早く上がって楽になりたいからという理由で、無謀な勝負に出たりして自滅する人が多いのです。

■なぜ麻雀中継がこんなにバズるのか

現在、インターネットの動画ビジネスは、YouTubeやNetflixなど、さまざまなサービスが伸び盛りです。これはスマホやWi-Fiなど、環境面の変化が動画市場の拡大を後押ししてくれるタイミングがやってきたからです。しかしながら、この環境になる前に参入が早すぎた、あるいはタイミングが訪れるまで我慢して待てなかった動画サービスはたくさんあります。

サイバーエージェント代表取締役社長 藤田 晋氏

自社の既存事業が厳しくなったタイミングで、代わりの新規事業として立ち上げたとか、先が見通せない時期に、早く結果を出さなければいけないという理由で、一発逆転を狙って無謀な投資をしたとか、これらは勝てるタイミングを見極めていません。会社も麻雀と同じく、失敗の多くが自分のタイミングで勝負したことによるものなのです。

まだ十分にブロードバンドが普及していない時代を思い出してください。そこで動画を見てもらうのは厳しかったですよね。デバイスがガラケーだった時代は、あの画面で映画のようなクオリティの高い映像を見てもらうことが難しかった。これらは冷静になれば誰でもわかることです。

しかしながら、自分になんらかの事情があって勝負したいと焦っていると、立派な経営者であっても、こんなに簡単なことを意外にも見落としてしまうものです。

麻雀では、自分の事情がいつもつきまといます。もう半分過ぎて南場なのにまだ一回も上がってないとか、トップだったのに放銃(※2)してしまったから早く取り返したいとか。そこで焦って仕掛け始めても、平常時にやらないことを強引にやっても、成功する確率は低いです。

(※2)他のプレイヤーに自分が捨てた牌で上がられること

■勝負というタイミングがやってくる

逆に、配牌が悪くてもツモが利かなくても、忍耐強く我慢し、半荘やっていれば、一回くらいはここが勝負というタイミングがやってくるものです。そこできっちりと上がってモノにすればいいのです。

時には一回もチャンスが来ないまま終わってしまった、なんてこともあるのが麻雀です。が、それでも腐らず自分のペースでやり続けることが、結局は失点を防ぐことに繋がります。だから長い目で見れば、自分のタイミングで無理な勝負をしないことが大切なのです。

麻雀を見て楽しむという意味でもう1つ、Mリーグではパブリックビューイングが大変盛り上がっています。実際に現場に足を運んだことがない人は信じられないかもしれませんが、1000人近く入る会場で、8500円もするチケットが、あっという間に完売します。手元のスマホで誰でも無料で見られるにもかかわらず、です。

選手は別会場で試合をしています。麻雀なので、観客が騒いでしまうと相手に手牌がバレてしまうからです。それでもみんなで麻雀を観戦するというのは大変面白いのです。

何しろ見ている側は、全員の手牌が見えています。会場では、贔屓の選手が当たり牌を掴むと悲鳴があがり、応援しているチームが高い手を上がると、サポーター同士で周りの人とハイタッチで盛り上がっています。一番静かなのは実際打っている選手たち張本人かもしれません。麻雀はポーカーフェースで澄ました顔で打つので、会場の盛り上がりとのギャップがまた面白いです。

2000年代半ば、ヒルズ族という言葉が流行っていた時代、「ネットとリアルの融合」という言葉が盛んに使われていました。それから10年以上の間に、ネットはどんどん仮想空間で完結するようなものではなくなってきました。ネットでMリーグを知り、ファンになった人は、ツイッターなどのSNSを通じて、同じ趣味を持つ人と容易に繋がることができます。オンラインで多くのコミュニケーションをとっていると、今度は実際に会ってみたいという欲求が出てくるのだと思います。

可能性広がる麻雀ファンビジネス

オンラインのネットの普及で、オフラインのリアルイベントはむしろ成長産業になっています。それでもまさか麻雀を見るイベントが大きな会場を埋めるほどの人気になると予想できた人はほとんどいないでしょう。

今、現在進行中である「ネットとリアルの融合」の幅の広さを、麻雀が例示できたのではないかと思います。

▼可能性広がる麻雀ファンビジネス
2020年2月にEXシアター(六本木)で行われた観戦イベントは、8500円のチケットが即完売。各チームのパーカー(8000円前後)も売れ行き好調だ。Mリーグのファンクラブは年会費6500円。他のプロスポーツ、たとえばプロ野球・東京ヤクルトの2500円(ライト会員)と比べるとやや高めの水準。麻雀好きは男性が多いイメージだが「ファンは女性や高校生も多い」と女性Mリーガーの岡田紗佳選手(KADOKAWA)は語る。

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藤田 晋(ふじた・すすむ)
サイバーエージェント代表取締役社長
1973年、福井県生まれ。青山学院大学卒。98年にサイバーエージェントを設立、2000年に当時の史上最年少(26歳)で東証マザーズ上場、14年に東証一部へ市場変更した。同年に麻雀最強戦に初出場し、優勝を果たす。18年にMリーグ機構を設立、初代チェアマンに就任した。

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(サイバーエージェント代表取締役社長 藤田 晋 構成=プレジデント編集部 撮影=泉 三郎 写真提供=M.LEAGUE)

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