怒りという感情のゴミを1分で消す「REACHメソッド」
プレジデントオンライン / 2020年5月6日 11時15分
■人間関係を壊す「パッシブ・アグレッシブ」
「怒り」は人にダメージを与える感情です。怒りに任せて他人を怒鳴ったり、なじったりして言うことを聞かせている人は、相手とのコミュニケーションにいつかほころびが出ます。
それは誰もがわかっていること。「私は人に対して声を荒げたりしない」という人も多いでしょう。しかし、ここで取り上げるのはもっと巧妙な「怒りの使い方」です。
上司に仕返しをするため、作業の速度を落として困らせてやろう。
親子なんだから、言わなくてもわかるだろ?
夫婦なのに、なんで察してくれないんだろう?
こうした「怒り」の感情が土台となった周囲の人たちへのネガティブな行動やイラ立ちは、「パッシブ・アグレッシブ(受動的攻撃性)」と呼ばれ、じわじわと人間関係を壊します。
■「負の注目」は人生をみじめにする
怒りを直接的に表現することがなんらかの理由でできないとき、無視やサボタージュ、妨害・遅延行為、皮肉などによって相手を困らせ、遠回しに攻撃するのです。たとえば、親に怒られた後、すねて口をきかなくなったり、つくってくれた晩ごはんを食べなかったり、自分の部屋に引きこもって出てこなくなったり……。
こうした心理を、アドラー心理学のアルフレッド・アドラーは「負の注目」という言葉で解説しています。
「人は正しいことをして注目されないと、ときに『負の注目』を集めようとする。人生をみじめにするような努力はやめるべきだ」
■やがて人が離れていく人の習慣
人は「褒められる」「認められる」という「正の注目」を得られない状態が長く続くと、「負の注目」を集めようとします。
以前、私が相談に乗ったクライアントは、「いつも不機嫌でイライラしていてデスクの上に物を置くときもドスン、バタンと必要以上に音を立てる部下」に頭を悩ませていました。まさに負の注目を得るための態度です。
怒りを全面に出すわけではなく、しかし、その怒りの感情によって周囲の同情やなぐさめを買う人は周囲から煙たがられ、腫れ物に触るようなあつかいを受けるだけ。子どもっぽい幼稚な怒り方ですが、意外と無意識でやっている人は多いものです。
■感情のゴミは、自分だけの「ノート」に捨てる
パッシブ・アグレッシブは多くの人がついやってしまう行動です。もし、わずかでも自分にも思い当たる節がある……と感じるなら、「怒りの感情ノート」をつけてみてください。「今日の私、あのときの態度は少しおかしかったかも?」と感じたら、怒りの感情と取った行動の振り返りをしてみましょう。
「怒りの感情のノート」には、怒りを感じた「日付」と「怒りの詳細」と「その怒りの感情を引き起こした原因(きっかけ)」、「原因をどうとらえたことで怒り、その結果、どんな行動を取ったのか」を書き出します。
「怒りの感情ノート」で怒りの感情を抱いた1日を振り返ると、「負の注目」を集めようとする行為のデメリットに気づくことができます。そうして、自分の感情を態度でわからせようとするのではなく、うまく言葉にして、冷静に相手に伝える方法を探してください。表出した怒りを鎮めるのも“自分”です。
■思いどおりにならない他人を消化する
ずいぶん昔のことだけど、今でも思い出すとムカついてくる……。
そんなふうに人を強く恨んでしまう感情は誰しも持っているものです。その対象は子どものころから折り合いの悪かった親であることもあれば、別れた恋人やパワハラ上司、ひどい裏切り行為をした昔の友人かもしれません。
なかには会ったこともない人に対しても恨みの感情を抱いてしまうことはあります。いまテレビに映る、あなたの考えとはちがうことを主張する「あの人」などもまさにそうでしょう。
しかし、特定の人を恨み、許せないとき、あなたはその相手にとらわれているといえます。「恨みや許せないという気持ちを抱え続けること」=「相手の支配下にいる状態」なのです。
■嫌な人ほど心の中で、「お元気で、さようなら」
まるで片思いの相手のように、1日中「憎たらしいアイツ」のことを考えているって、冷静に考えるとちょっとショックではないですか?
私のクライアントに、こんな経験を語ってくれた女性がいます。
美容業界で働いているEさんは、長らく理不尽な同僚に腹を立てていました。その同僚は、理由もなくEさんを無視し、本人のいないところで事実ではない噂話を広げ、ミーティングの内容を伝えずに仕事の邪魔までしてくるといいます。
しかし、原因がわからないので解決の方法も見つかりません。こちらから積極的に話しかけてみれば好転するかもと試してみても無視されてストレスが溜まるだけ。ならばと、こちらも無視するようにしてみたら、逆に同僚の存在が心の中でふくらんでいき、恨みの感情や、「許せない」というネガティブな心情が強くなってしまいました。
そんなとき、久しぶりに会った学生時代の先輩に相談すると、「嫌な人ほど『お元気で、さようなら』って心の中で言ってみて」とアドバイスされたそうです。「対人関係で嫌なことがあったら、私はそう考えるようにしているよ」と。
これは、「恨み」や「怒り」の支配下から抜け出る的確なアドバイスです。今後も、嫌な相手と物理的につき合いが継続するかどうかに関係なく。
「嫌な人ほど、お元気で、さようなら」は、嫌な相手を気にするのをやめ、自由になりましょうということ。つまり、ネガティブな感情を手放すことです。
■人間関係に自信を持つ「REACHメソッド」
こうした「許し」や「手放し」の方法は、心理学のメソッドとしても確立されています。
ここではアメリカの心理学者エベレット・ワーシントンが考案した「REACHメソッド」という方法を紹介します。紙とペンをご用意ください。
REACHは、Recall(思い出す)、Emphasize(目立たせる)、Altruistic Gift(視点を変える)、Commit(許し、手放す)、Hold(維持する)の頭文字からきています。
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相手を恨み、許せないと思うようになったきっかけについて思い出します。ポイントは、そんな扱いを受けた自分を責めたり、相手に憤ったりするのではなく、何があったかを客観的に書き出すこと。同時に、そのときあなたがどんな感情になったかも書いておきます。
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相手がなぜ、あなたを傷つける言動を取るのか。その理由を相手目線に立って想像し、書いてみましょう。他人を攻撃する人たちにとって、こちらに落ち度があったかどうかは、さほど重要ではないことが見えてきます。
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相手とあなたの関係からいったん離れて、あなたがほかの誰かにきつく当たった場面を思い起こします。そして、その相手から許されたとき、どういう感情になったのかを書き出します。このステップを踏むことで、他人を許すことそれじたいが本人にとっても、相手にとっても精神的に利益(ギフト)をもたらすことがわかります。
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「嫌な人ほど、お元気で、さようなら」というふうに、恨み、許せない相手を許し、手放しましょう。ステップ1と2で書き出した内容を振り返ることで、不愉快な相手にこだわることのむなしさに気づくはずです。人に対してつまらない態度を取ることしかできない相手の人格を許し、あなたの中にあるネガティブな感情を手放しましょう。
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あなたが許し、手放したとしても、相手の嫌な態度は変わらないかもしれません。ふたたびいら立ち、恨みや怒りの感情が湧き出すこともあるでしょう。
■許し、手放すと健康になる
ステップ1~4をくり返すことで、ネガティブな感情に対処してください。嫌な相手が目の前から消えていなくなるわけではありません。また、嫌な相手を記憶から抹消することでもありません。今後、そういった別の人物に遭遇したときの自分の反応を変えるのが「REACHメソッド」の狙いです。
ちなみに、恨みや怒りの感情にとらわれている状態と、許し、手放した後の健康状態を比較した研究によると、後者はストレス症状を改善させ、血圧を下げ、免疫力を上げ、睡眠の質の向上に貢献、心と体の健康レベルを確実に高めてくれるということがわかっています。
一度手放したあともまた、恨み、許せないという気持ちが生じそうになったら、次の質問を自分に投げかけてみてください。
「執着することで、自分は幸せなの?」
「ネガティブな感情に引っ張られる状態は、自分に合っているの?」
たったこれだけでも、スーッと心の重荷が取れるはずです。
このメソッドは、最初は10分程度時間がかかると思いますが、慣れてしまえば、2回目からは1分でもできるようになります。思いどおりにならない他人のせいで自己肯定感を下げるのはもったいない。どんどん消化して、先に進む習慣をつけましょう。
※本稿は、中島輝『1分自己肯定感』(マガジンハウス)の一部を再編集したものです。
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作家。著書に『何があっても「大丈夫。」と思えるようになる 自己肯定感の教科書』など多数。
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(心理カウンセラー 中島 輝)
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