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コロナ禍でなぜ、パンを作る人が爆増しているのか。暇すぎるのか

プレジデントオンライン / 2020年5月4日 11時15分

Googleトレンドで過去1年間の「手作りパン」のトレンドワードの推移(4/27時点)。

■巣ごもり需要で新たなブーム

今、世界中で「おうちでパン作り」のムーブメントが起きています。コロナ禍で従来のビジネスや経済が停滞する中、巣ごもり消費によって新たな消費が巻き起こっているのです。これまで起きていた巣ごもり消費と言えば「映画」「ゲーム」「読書」などビフォーコロナから余暇時間で取り組んでいたものにすぎませんでした。しかし、ここへきて手作りパンというコロナショック前にはなかった新たな動きがブームとして巻き起こっています。

なぜ、ウイルスの世界的大流行は、突然手作りパンの世界的流行を引き起こしたのでしょうか?

日本でも緊急事態宣言が発令され、多くの日本人がコロナのリスクを本格的に理解して日本全国民による対ウイルス総力戦が始まりました。これにより多くの人が多くの時間を自宅で過ごすようになったのと同じようなタイミングで、急激な手作りパンブームが起きたのです。

■材料・道具の専門店は注文殺到の「異常事態」

パンやお菓子作りの材料・道具を取り扱うcottaによれば、今年は製菓材料の売り上げが例年4月と比べて3倍もの売れ行きを記録しており、同サイト内でも注文が殺到していることで配送の遅れが生じていると告知されています。他のお菓子専門店でも注文殺到により、配送遅延が生じている旨の告知がなされている「異常事態」です。

商品配達の遅れには、食材需要の急騰だけでなく、昨今の巣ごもり消費に端を発する宅配便の増加や、配達員の感染による物流停止なども影響していると見られます。

cottaサイトでは注文殺到で配送遅延との告知がされている(4/27時点)。
cottaサイトでは注文殺到で配送遅延との告知がされている(4/27時点)。

ツイッターやインスタグラムでは、おのおのの手作りパンの作品の品評会が催されており、ユーチューブでは手作りパンレシピ動画が人気を博しています。また、手作りパンにとどまらず、同様の動きが餃子やパスタ、ピザなど「手作りブーム」が起きているとみられます。

忙しい現代人がコロナショックで足を止め、わざわざ自宅でパンをはじめとした小麦生活をスタートさせているのです。

■世界規模で同時多発的に起きる手作りパンブーム

手作りパンのブームは、コロナウイルス対策に奔走する米国においても同様です。CNNの記事によるとパン作りに必要な材料の需要が「手に負えないレベル」に急上昇していると言います。

アメリカのレッドスターイースト社をはじめ、フランス、イタリア、カナダ、スイスのベーキング用品の販売業者も「イーストが棚からすぐに消えるなんて誰も予測できなかった」と口をそろえています。まさにグローバル規模でこの手作りパンブームは起きていることが分かります。

そしてなぜ、このようなブームが沸き起こっているのか? 同記事では「コロナ禍でパンを焼くことは、ストレスを軽減し、癒やしを与えてくれる」と示唆しています。

パン生地をこねる工程は気のめいるようなエンドレスに続く「消毒、アルコールの拭き取り、漂白スプレー」という一連のルーティンに対抗する手段になりえるというのです。また、パンを手作りすることは微生物との親交を深め、同時に眠っていた酵母を目覚めさせ、小麦粉に栄養を与える「命を吹き込む」行為と言えるでしょう。

■危機下で消えかける「グルテンフリーブーム」

「この手作りパンブームには面白さを感じます。1カ月前は、誰もが健康を考えてグルテンフリーの食事をしていたのに、今や突然に誰もがパン屋になってしまいました」とパンの研究者であり、元々パン屋をしていたマッダレーナボルサトさんは言います。

グルテンフリーとは小麦や大麦、ライ麦などに含まれるグルテンを抜く健康法で、近年グルテンフリー市場は急拡大を続けていたという背景があります。アメリカのグルテンフリー市場規模は2015年に45億6000万ドル、2020年には75億9000万ドルになると予想されていました(MarketsandMarketsの調査結果より)。健康意識を高めていたアメリカ人も、ここへきて「コロナウイルス・ベイキング」に目覚めたことで突然踵を返して、再びグルテンに向き合うことになりました。コロナショックによる、人々の意識改革はこんなところにも起きていたことがわかります。

なぜ、パン作りをする人が世界で急増しているのか? 日本だけでなく文化の異なる国においても、同様のムーブメントが起きているわけですから、文化を超えた「人間の本質的な欲求」に突き動かされているものと予想します。

■自粛生活で受動的な娯楽に飽き飽きしている

まず1つ目はコロナが起こした「おうち時間」の創造によると考えます。今は家族みんながおうちで時間を過ごす、歴史的にも初めての「おうち時間」が起きています。会社に通勤していた夫はリモートワークで在宅勤務、学校に通っていた子どもは長い春休みと外出自粛でずっと家にいる「家族全員が在宅」という核家族での過ごし方に、惑う人も多いのではないでしょうか。

一緒に生地を練る母と息子の手
※写真はイメージです(写真=iStock.com/Maksym Belchenko)

パンの手作りはこれまでの「時短・簡単クッキング」「フードデリバリー」「外食」のブームとは真逆をいくものです。30分間から1時間程度の発酵作業が2回も必要なので、手間も時間もかかります。しかしながら、「おうち時間」を持て余した家族が絆を深め合うのにパン作りは一役買ってくれるのでしょう。

そして2つ目の理由、それは「受動的な娯楽への飽き」です。コロナ禍により、外出自粛、ロックダウンで、自宅のインターネットのトラフィックが急増しています。動画配信、ゲームなどの娯楽で時を過ごす人も増えています。動画配信サービスの中には期間限定で無料配信をスタートさせるなど、休館中の水族館や博物館が動画配信で「バーチャル鑑賞」ができるようにと工夫を凝らしています。ですが、こうした受け身の娯楽に飽きてしまう人も出てきたのではないでしょうか。パン作りは待っているだけでは、おいしいパンはできません。

■SNSに投稿する新しいネタに困っている

手に力を込めるだけでなく、美しく見せるための製作技術も要求されるクリエイティビティの高い活動であり、外出自粛中の今だからこそ、じっくりと取り組む人が増えたのではないでしょうか。

さらに3つ目の理由は「手を使う脳への刺激効果」です。これはアートセラピーやそば打ちなどにも通じるところがあるのですが、手作りパンを取り組むうえでは手先を使うことで脳への刺激があると言われています。「手は第2の脳」「手は外部の脳」などと言われるほど脳との密接なつながりがあり、手をよく使うことで大脳の3分の1に及ぶ領域を刺激することになります。近代調理器具は「手間いらずで時短」と省力化を進めてきましたが、ここへ来て自宅での時間を得た現代人がパン作りを通じた触覚刺激に回帰しているものと考えます。

最後、4つ目の理由には「SNSの存在」があります。人の動きが止まり、経済活動を止めて感染拡大防止に努める今、人々は「新しいネタ」に困っています。ニュースもコロナの話題ばかりで辟易(へきえき)としている今、おのおのの自宅内でパン作りという創造性の末の成果物を、SNSを通じて品評し合うのはニュースの創出と言えます。

■パン作りは「デジタルデトックス活動」の一環

単にパンという食品を作るにとどまらず、そこには親子の人心交流なども見られて、見ている人に癒やしを与えるでしょう。

このような4つの事情により、人々は手作りパンにハマっていると考えます。

以前からITテックの総本山、シリコンバレーでは、パン作りなどに勤しむ人が増えてきていることが話題になっていました。テクノロジーとロジックの世界で疲労した心と脳を癒やすために、彼らは「デジタルデトックス活動」の一環として手先を使って無心になれるこのアクティビティにハマっています。

何かと予想外の展開が続くコロナ禍、今は世界中でおうち時間をパン作りに染め上げているのです。

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黒坂 岳央(くろさか・たけを)
フルーツビジネスジャーナリスト
果物専門店「水菓子 肥後庵」代表者

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(フルーツビジネスジャーナリスト 黒坂 岳央)

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