連載・伊藤詩織「"息子をもらって…"。女性は私に子どもを差し出した」
プレジデントオンライン / 2020年5月31日 11時15分
■「息子をもらって…」。私に子どもを差し出した、アフリカの母
「息子をもらってくれないか?」
アフリカ・シエラレオネの首都フリータウンの病院で初めて2歳のアドデュダイに会ったのは彼がICUにいるとき。心配そうに息子を見守る母のカディアツはこれまでに7人の子どもを失ってきた。アドデュダイは8人目の子どもで7カ月の妹がいる。
村には病院がなく、これまでは子どもが病気にかかるたびに、地元で昔から伝わるハーブなどを使った伝統的な方法で治療したが、子どもたちが元気になることはなかった。周りからは母カディアツには悪魔がとりついていると言われ、夫はアドデュダイの容態が悪くなったのを見て家を出て行った。見かねた隣人が病院に行くため首都に連れ出した。子どもを病院に連れて行くのは初めてだった。
■私といたら、またこの子が大変なことになる
アドデュダイを苦しめていたのはマラリアだった。7人の亡くなった兄姉たちもマラリアだった可能性は高いだろう。
「私といたら、またこの子が大変なことになる。これ以上子どもを失う痛みには耐えられない」。そう涙ぐみながら、取材にきた私に、養子として息子を差し出してきた。そのカディアツの姿に、胸が張り裂けそうになった。「あなたのせいじゃない。これからはきちんと病院にくれば助かるから」。あの日から2年、彼らは今も元気に生活している。
マラリアは早い段階で治療をすれば治る病気だが、医療機関が十分でない地域ではマラリアはいまだ悪魔のように恐ろしい病気とされている。2020年4月20日時点で新型コロナの死者数が世界で16万5000人を超えた一方、年間40万人以上がマラリアで命を落とす。
シエラレオネでも20年4月初旬に2件目のコロナ患者が確認され3日間のロックダウンをした。たった2人なのにロックダウンをするというのは日本からしたら驚きかもしれない。しかし発見された2件はあくまで病院で検査を受けることができた2人なのだ。医療環境の整った先進国でこのウイルスの波を食い止めなければ、その波は大きくなり医療環境の整っていない発展途上国を襲ってしまうだろう。マラリアから回復したアドデュダイとカディアツにこの波がどうかたどり着かないように。私たちは今何ができるのか。
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ジャーナリスト
1989年生まれ。フリーランスとして、エコノミスト、アルジャジーラ、ロイターなど、主に海外メディアで映像ニュースやドキュメンタリーを発信し、国際的な賞を複数受賞。著者『BlackBox』(文藝春秋)が第7回自由報道協会賞大賞を受賞した。
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(ジャーナリスト 伊藤 詩織 撮影=伊藤詩織)
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