なぜワイドショーは「個人的な意見」しか言えないコメンテーターを重用するのか
プレジデントオンライン / 2020年5月27日 15時15分
■専門性よりも大切な「話術」「見た目」「呼びやすさ」
以前、私が担当していたニュース番組で、ひとつの方針を決めたことがあります。それは、「専門家をキャスティングするときには、必ず『本当に詳しい人』を呼ぼう」ということ。
例えば、弁護士さんをキャスティングする場合は、そのニュースで問題となっていることについて、「日本では第一人者だ」と弁護士さんの間で言われている人物にまず声をかけ、断られたら2番目に詳しい人、それもダメなら3番目に詳しい人……という方針です。
ニュース番組の準備は時間との勝負ですから、そうやってお願いしていっても次々に断られる場合も多い。でもそれでも最低限、必ず「専門分野がきちんと合っていて、実際にその事例を多数経験している人」にお願いするということにしたのです。
事件について話を聞きたいのに、スタジオにいる弁護士さんの専門が「民事」だったりしたらお話になりません。
しかし、この方針はキャスティング担当者から思わぬ不評を買いました。まずは作業の負担が大きすぎるということ。そして、「その人の話が面白いかどうかは分からない」ということがその理由です。
それよりはテレビ番組に出演し慣れていて、話が上手い弁護士さんに解説してもらった方がいい、というのです。
■コロナ問題を機に「コメンテーター不要」の思いが強くなった
日頃からお付き合いがありますから、出演交渉も簡単ですし、番組サイドが「どんな話をしてもらいたいのか」ということも心得てくれていますから、確かに都合がいい。でも、その人は本当はその分野について特に詳しいわけじゃない。
テレビの業界人はついつい「話がわかりやすくて」「見た目が良かったり爽やかだったりして」「テレビ的なことを理解してくれている」人を優先して番組に呼びがちです。専門家の場合もそうですが、「コメンテーター」と呼ばれる人たちは特にそうです。
僕は以前から、「ニュースや情報番組にコメンテーターは実はいらないのではないか」と少し思っていて、新型コロナウイルスの問題を契機に、その思いが一層強くなってきています。
■取材者を泣かせる「ピントがズレたコメント」
なぜ以前から「コメンテーターはいらないのでは」と思っていたかというと、僕がニュースや情報番組のディレクターをしていた時に、何度も悔しい思いをしたことがあるからです。
例えば、ひとつの事件について、ディレクターとしてかなりの日数をかけて勉強をして、取材・撮影・編集をしてVTRを完成させて放送したのに、スタジオでコメンテーターに「ちょっとピントがズレたような意見」を言われてしまい、僕が現場で知った問題点や、伝えたかったこととは少し違う方向に結論づけられてしまったりすることがたまにありました。
そういう少しズレた意見をいうコメンテーターは、大概そのニュースの専門家ではない場合が多かったように思います。ベテラン記者ですが、ずっと政治を取材してきたはずの人に、事件について少しズレたコメントをされてしまった……となると、その事件の現場に行き、たくさんの関係者から話を聞いたディレクターはとても悔しい。
そもそも、ひとりの人間が専門分野を超えてどんな話題にでも「個人的意見」をいう「コメンテーター」というシステムはニュース番組には要らないのではないか、と考えるようになったのです。
■視聴者は「事実」と専門家の「科学的知見」を求めている
これが「バラエティ番組」や「トーク番組」であれば話は別です。ひとつの「ニュース的な話題」をテーマとして、いろいろな立場の人がそれぞれの意見を言い合い、論争をすること自体を楽しむ番組も、それはそれで「アリ」だと思います。
この場合、あえて「専門家ではない一般の人」の意見や、「別ジャンルの専門家の見方」なども意味はあると思います。また、「ニュースの性質」によっては、ニュース・情報番組の中でもひとつの問題についていろんな人が意見を闘わせる「激論コーナー」のようなものが有効なこともあると思います。
例えば、「憲法改正の問題」のように、みんなで議論をすることが大切で、様々な立場の人の考え方を知ることで自分もより一層考えを深めることができるような問題については、そうした演出方法は有効だと思います。
しかし、新型コロナウイルスの問題は、そうではないと思います。人々は何より「正しいことが知りたい」と強く願っている。しかし、新型のウイルスですから、専門家の方であっても本当のところは分からない部分も多い。
そんな中、できるだけ多くの「事実」や「専門家の科学的な予測」を知り、この先どうなるのか、自分がどうするべきなのか、を判断する材料にしたいと思ってテレビを見ている人がいま多いのではないでしょうか。
■コメンテーターの「単なる意見」は求められていない
そういう視聴者には「専門家ではない一般の人」の意見や、「別ジャンルの専門家の見方」はとりあえず必要ないと思いますし、場合によっては邪魔に感じることも多いと思います。「感染はこれからどうなるのか」であれば、感染症の専門家の話が聞きたい。「コロナで経済はどうなるのか」であれば、その分野の専門家の詳しい分析・予測が聞きたいはずです。
みんなが知りたいのは、新型コロナウイルスについての「事実」と専門家の「科学的知見」です。コメンテーターの「単なる意見」は必要ないのではないでしょうか。
僕は、本来テレビのニュース・情報番組に出演するのは、「キャスター」と「専門家」と「取材者」だけでいいと思っています。先ほど書いたように、「問題については詳しいのだけれど、説明がそんなに上手ではないのでわかりにくい」専門家の方のお話についてはVTRできちんとわかりやすく整理すればいい。
あるいはスタジオでキャスターがボードなどを使ってわかりやすく説明し直したり、取材した記者やディレクターが補足すればいいと思います。
コメンテーターを登場させる番組演出はもう、必要とされなくなってきているのではないかと思うのです。
■玉川さんは、取材の報告者として出演すればいい
こうした中、コメンテーターによる発言が問題となり、炎上したりする事例も出てきています。テレビ朝日「羽鳥慎一モーニングショー」の玉川徹コメンテーターは4月29日、新型コロナウイルスの検査機関についての自らの発言が誤っていたとして謝罪しました。
発言を誤った原因は「テレビ朝日の記者が都庁のレクチャーを取材したメモの解釈を間違えた」からということでしたが、これは本来、レクチャーを実際に取材した都庁担当の記者がスタジオ出演して解説すれば防げたことかもしれません。
玉川さんは、僕の先輩なのでよく存じ上げています。とても優秀な取材をなさる方なので、あるいはコメンテーターとしてではなく、ご自身で取材をなさってその報告者として番組にご出演なされば良いのではないか、と僭越ですが思ってしまいます。
そもそも、日本のテレビは朝から晩までニュースと情報番組ばかりになってしまっています。こんなにニュースと情報番組ばかりやらなくても良いのではないか? とも個人的には思うのですが、それはこの際置いておきます。
その長い放送時間を埋めるためにコメンテーターのトークで内容を伸ばしている、つまり「事実を意見で水増ししている」と視聴者の方々に思われてしまっては大変です。少なくとも、「事実を伝えている部分」と「意見を述べている部分」を明確にわかるように演出する方法を考えた方が良いのではないでしょうか。
■テレビ局は「事実」をもっとたくさん報道するべきだ
コメンテーターに依存した番組構成では、さらに深刻な問題を引き起こす恐れがあります。
意見が一方向に偏ってしまうと、「世論を何らかの方向に誘導しようとしているのではないか」と視聴者に疑われてしまいます。そうすると根本からメディアに対する信頼を損なってしまう可能性さえあるのです。
せっかくニュース・情報番組がたくさんあるのですから、もっと「事実」を扱う数を増やしたら良いと思います。これほどたくさんのニュース・情報番組がなかった20世紀と比べても、残念ながら扱うニュースの項目数は増えていないような気がしますし、下手すれば減っているのではないかとすら思えます。
新型コロナウイルスの関係で日々取材にあたっている記者やディレクターにどんどん出演してもらい、解説してもらうのも良いと思いますし、新型コロナウイルス以外にもたくさん大切なニュースはあるはずです。
ニュースが「コロナ一色」になってしまい、他の問題をいくら取材しても放送してもらえないという不満の声を記者やディレクターから聞くこともあります。彼らが日々頑張って集めてきている「事実」をもっとたくさん放送すれば良いのに、なぜしないのだろう? と不思議に感じます。
■コロナでテレビニュースのあり方が問われている
最近よく、TBS「Nスタ」のキャスターをしている井上貴博アナウンサーが、「私たちの報道のあり方も問われている。反省しなければならない」といった趣旨のことを放送で口にされています。
井上さんがおっしゃるように、いま私たちテレビのニュース・情報番組はそのあり方を問われているのだと思います。現場からこうした声が上がってくるのは素晴らしいことだと感じます。
まさに、新型コロナウイルスの問題を契機に、もう一度テレビニュースは自分たちの姿を見つめ直し、考え直さなければならないのではないでしょうか。
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テレビプロデューサー・ライター
92年テレビ朝日入社。社会部記者として阪神大震災やオウム真理教関連の取材を手がけた後、スーパーJチャンネル、スーパーモーニング、報道ステーションなどのディレクターを経てプロデューサーに。中国・朝鮮半島取材やアメリカ同時多発テロなどを始め海外取材を多く手がける。また、ABEMAのサービス立ち上げに参画。「AbemaPrime」、「Wの悲喜劇」などの番組を企画・プロデュース。2019年8月に独立し、放送番組のみならず、多メディアで活動。上智大学文学部新聞学科非常勤講師。公共コミュニケーション学会会員として地域メディアについて学び、顔ハメパネルをライフワークとして研究、記事を執筆している。 Officialwebsite:https://shizume.themedia.jp/ Twitter:@shizumehiro
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(テレビプロデューサー・ライター 鎮目 博道)
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