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なぜ中国政府は新型コロナを世界中に広めた責任を認めないのか

プレジデントオンライン / 2020年5月25日 18時15分

2020年5月22日、北京で開かれた全人代に出席する習近平国家主席(中央)と李克強首相(右) - 写真=AFP/時事通信フォト

■5月に入って武漢市や吉林省で集団感染が起きている

中国の国会に当たる「全国人民代表大会(全人代)」が5月22日、北京の人民大会堂で開幕した。2カ月半遅れの開幕だ。新型コロナウイルス感染拡大の影響で延期されていた。会期は通常の半分の1週間に短縮された。

この全人代で話題を呼んだのが、翌23日に出された国家衛生健康委員会の発表だ。中国本土で22日に確認された新型コロナウイルスの新規感染者が「1人もいない」つまり「新規感染者ゼロ」というものである。

しかし、調べてみると、別にまとめている不顕性(無症状)の感染者は新たに28人いる。さらにおかしいのは、中国では1月23日に最初に感染の起きた湖北省武漢市をロックダウン(都市封鎖)し、2カ月半後の4月8日にその封鎖を解いたが、5月に入って武漢市や吉林省で集団感染が起きている。

このため、欧米は中国政府による感染情報の信頼性を疑問視する。アメリカのドナルド・トランプ大統領もツイッターに「世界規模での大量殺戮(さつりく)を行ったのは他でもない『中国の無能さ』だ」などと投稿し、中国批判を繰り返している。

「新規感染者ゼロ」は中国政府が防疫の成功を国内外に誇示し、全人代を盛り上げるための目玉の発表なのだ。習近平(シー・チンピン)政権は世界制覇をもくろんでいる。世界中に新型コロナウイルス禍を広げた責任などこれっぽっちも感じていない。

■なぜか最高指導部は「マスクなしの素顔」で出席

全人代の光景は、さらに驚かされるものだった。全体会議では中国各地から集まった約3000人の代表全員がPCR検査を済ませてからマスクを着用して出席。一方、習近平国家主席ら最高指導部のメンバーはマスクなしの素顔だった。しかも彼らの座席は例年同様に密集しており、中国政府が国民に求めるソーシャル・ディスタンス(社会的距離)の確保ができているとは思えない。

習近平氏ら中国共産党の上層部には感染しないという自信があるのだろうか。一党独裁国家らしい中国の異様さが伝わってくる。

出入りする報道関係者にもPCRと体温の検査が課せられた。対面による記者会見は中止され、代わりにテレビ会議やインターネット中継が行われた。現場の取材は、中国政府の認める報道機関に限定された。中国政府は感染の再発にピリピリしている。

■香港の民主化運動を抑え込む「国家安全法」の施行が焦点に

沙鴎一歩が22日に始まった全人代で心配なのは、国家分裂や中央政府の転覆を狙う活動を禁じる「国家安全法案」の審議が行われていることである。習近平政権は香港で輪が大きく広がっている民主化運動をこの法案を使って直接、抑え込もうと画策している。

法案では国家安全に危害を加える行為・活動を強制力によって防止できる。処罰も可能となる。中国の国家安全当局が香港に出先の機関を設けることもできるようになる。中国政府が香港政府に代わって主導権を握り、強権を発動するわけだ。法案が可決されると、全人代常務委員会が具体的な法律を制定した後、香港で施行される。

決して国家安全法を成立させてはならない。国際社会は香港の民主化を支えるべきである。とくに中国ににらみが利くアメリカは、あらゆる国際的な手段を駆使して中国に圧力をかけるべきだ。

沙鴎一歩も香港の民主化運動にエールを送る。香港の運動が習近平政権の野望を打ち砕く唯一の防波堤だからだ。

22日の全人代では王晨(ワン・チエン)常務副委員長が、制度案の説明を行った。その説明の中で王氏は香港で立て続けに起きている民主化運動のデモを批判し、香港の安定と国家安全が「無視できない危機に直面している」と語った。今年9月には香港の議会に相当する立法会の選挙が行われる。

習近平政権はその前に民主化運動を抑えておきたいのだ。現在の立法会選挙制度は、中国側に有利な構造になっているが、それでも民主化勢力が初の過半数を獲得する可能性が高いとみられ、中国・香港政府に危機感を抱かせている。

■「天安門事件」の悲劇だけは繰り返してはならない

その香港では24日、国家安全法案に反対するデモが行われた。デモは今年1月に新型コロナウイルスの感染が拡大し始めて以来、最大規模となった。市民や学生にインターネットで呼びかけ、香港政府の許可なしで行われた。香港警察は不法な集会で、集会を禁じた感染予防対策にも違反すると判断し、催涙弾や放水車を使って取り締まり、180人以上の市民が身柄を拘束された。

「国家安全法案」は28日に全人代で可決される見通しだ。香港の民主化運動がこれを阻止できるかが、注目されている。

中国政府は国家安全法が成立して香港で施行された場合、さらに強硬な手段を取ることが予想される。民主化候補から立候補の資格が次々と取り消されるような事態が起こる恐れもある。言論の自由が厳しく統制され、民主化要求運動が武力弾圧され多くの犠牲者を出した1989年6月の天安門事件のような悲劇もあり得る。

これまでにも沙鴎一歩は強く訴えてきたが、天安門事件の悲劇だけは繰り返してはならない。日本をはじめとする国際社会は香港をしっかり監視する必要がある。

■コロナ危機でも国防予算を高い水準に保つ中国の異常さ

5月23日付の朝日新聞の社説は、全人代で公表された中国の今年度の国防予算案の増大に警鐘を鳴らす。見出しも「中国の国防費 危うい軍拡いつまで」である。

「前年実績比6.6%増の1兆2680億元(約19兆1700億円)。伸び率は前年比0.9ポイント減だが、依然として高い水準にある。米国に次ぐ世界第2位の規模は変わらず、日本の防衛予算の4倍弱に上る」
「詳細な内訳は非公表であり、中国軍が何をめざすのか、よく分からない。少なくとも『軍民融合』の強化方針のもと、人工知能やサイバー、衛星利用といった新たな技術分野の開発も推進されていると伝えられる」

コロナ危機で中国の経済力も弱っている。全人代で経済成長率目標も示せず、ライフラインなど公共サービスの予算が大きく削られた。にもかかわらず、国防費だけは高く維持する。異常な国だ。国民の生活よりも国家の維持と繁栄、世界制覇の実現なのである。

■「世界の不確実性の高まりは中国にとっても深刻な脅威」

朝日社説は強く訴える。

「中国から見れば、米国との対立などを受けた安全保障上の懸念が強まっている、との意識が強いのかもしれない」
「だが、力による問題解決や一方的な現状変更に踏み出せば、国際社会全体の安定が損なわれる。世界の不確実性の高まりは中国にとっても深刻な脅威であることを自覚するべきだ」
「中国がなすべきは、自ら率先して米国やロシアなどを巻き込む軍縮を始めることだ。軍拡を続ける限り、『平和的発展』の言葉を世界は信じない」

中国が安全保障の問題を心配するのは分からなくもない。自国第一主義が幅を利かせ、それが批判される時代、中国のような一党独裁国家の在り方も厳しく問われる。だが、中国は国際社会の安定に目を向けてほしい。それができなければ、一人前の国家とはいえないし、大きな国には成長できない。

新型コロナウイルス禍で世界中が絶望の危機にさらされているいまだからこそ、世界各国が協力し合う必要がある。それが「連帯」である。

■今回の全人代は「自国宣伝」「軍事力の増強」「香港への威圧」

中国を嫌う産経新聞の社説(5月23日付)は、1本社説という朝日社説の2倍の扱いでまずこう書く。

「極めて残念なのは、全人代が新型ウイルス対応に成功を収めたとする習近平政権の宣伝(プロパガンダ)と、軍事力の増強や香港の人々への圧力を公然と示す場になったということだ」
「李克強首相は活動報告で『感染症対策は大きな戦略的成果を収めている』と胸を張った。『国際協力を積極的に展開し、感染症情報を適時開示した』とも語った」

産経社説の指摘の通りだ。「自国宣伝」「軍事力の増強」「香港への威圧」など、まさに今回の全人代を象徴する言葉である。そして中国政府はコロナ対策で国際協力を行ったとはいえない。

産経社説も「だが、事実とかけ離れている」と指摘し、こう解説する。

「新型ウイルスは中国・武漢から広がった。発生当初に感染情報を習政権が隠蔽したため、パンデミック(世界的大流行)になったのではないかと指摘されている。全人代で自画自賛しても、むなしいばかりではないか」
「世界では感染者と死者が増え続け、パンデミック収束の見通しはついていない。中国でも吉林省などで感染の再度の広がりが報じられている」
「習政権は、初動の対応を含め全てを明らかにすると約束すべきだ。中国の影響下にある世界保健機関(WHO)を隠れみのにするのではなく、感染症に詳しい国々からの専門家を含む国際調査団を受け入れてもらいたい」

全人代での表明は産経社説が指摘するように自画自賛にすぎない。初動の対応など全てを正しく公表すべきだ。それができて世界は中国という国家を理解し、真に評価するはずである。

■安倍首相は「習近平氏の国賓来日」をうまく利用できるのか

最後に産経社説は習近平氏の国賓としての来日を取り上げる。

「新型ウイルスの感染拡大で今年3月、習国家主席の国賓訪日が延期された。日中両政府は日程を再調整する意向を示している」
「だが、尖閣などで対日圧力を強めながら、関係が悪化の一途である米国への牽制策として国賓訪日を利用しようとする中国のしたたかな政治手法を、安倍晋三政権は見抜くべきだ」

中国は感染拡大が続くにもかかわらず、ここぞとばかりにその軍事力を世界に見せつけた。空母の演習訓練など南シナ海への海洋進出や、ベトナムやフィリピン、台湾に対する威嚇行為だ。日本に対しても中国公船が沖縄県の尖閣諸島近くの日本領海外側の接続水域を何度も徘徊している。領海侵入もあった。とうてい許される行為ではない。

「安倍首相は今こそ、中国が姿勢を根本的に改めない限り習氏の国賓来日を認めない方針に転じてもらいたい」

産経社説は「国賓来日はあり得ない」(小見出し)と強調する。習近平氏は国賓来日を免罪符に使ってアメリカのトランプ大統領の攻撃を少しでもかわしたいのである。安倍晋三首相はそこを逆手に取って中国外交を日本の有利な形に持っていきたい。「外交が得意」といわれる安倍首相だったらできるはずである。

(ジャーナリスト 沙鴎 一歩)

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