コロナ禍でラブホテルが特殊清掃業者に教えを乞う深い理由
プレジデントオンライン / 2020年5月27日 11時15分
■コロナ禍でラブホテルが特殊清掃ノウハウを学ぶ理由
コロナ感染拡大の影響を受け、多くの企業が倒産の憂き目にあう中、比較的、売り上げが堅調なのが「ラブホテル」である。遊興施設が軒並み休業し、デートができなくなった結果、カップルがラブホテルに集まってきているからだと推測できる。
ラブホテルは宿泊施設に該当し、緊急事態宣言下においては各自治体が適切な感染防止対策の協力を要請するものの、基本的には休業要請の対象には入っていない。現在全国にはおよそ8000施設のラブホテルがあるが、多くの施設が営業を続けているとみられる。
ただし、安心・安全に利用するには徹底した空間の除菌が必要となる。ラブホテルは、法律上は宿泊名簿は置くことになっているものの、実態としては名簿を記入する客は少ないと考えられる。したがって、感染ルートが追えないリスクがある。絶対に感染者を出してはいけない施設といえる。
そんな中、ラブホテルのクリーニングを手掛ける「除菌のプロ」が現れた。
■ダイヤモンド・プリンセス号のクリーニングをした業者に依頼殺到
福岡県久留米市の特殊清掃業者「友心まごころサービス(以下、友心)」である。特殊清掃は、孤独死や自殺・殺人などで汚れた部屋をクリーニング、除菌し、何事もなかったかのように元の部屋に戻すサービス。特殊清掃業者がコロナウイルスの除染で活躍している事例は、3月23日に「あのクルーズ船の『特殊清掃』を任された業者が、次に抱えている仕事」の見出しで公開したダイヤモンド・プリンセス号のクリーニングの様子を紹介した記事に詳しい。
友心の社長岩橋ひろしさんはかつて、殺人現場となったラブホテルから血痕の清掃依頼を受けるなど、ラブホテルの清掃実績は少なくない。同時に、ウイルス感染のリスクの高い部屋の除菌清掃は日常茶飯事だという。
独居状態の人がウイルス性肝炎で亡くなり、そのまま部屋で腐敗してしまったケースなどは特殊清掃業者も感染リスクにさらされる。そのため、友心では常にウイルスの防除を念頭においたトレーニングと、クリーニングを徹底してきている。また、除菌を手掛ける業者の急増によって、消費者が迷うのを防ぐために業界団体の一般社団法人除染作業管理協会の理事も務め、業界の指導にあたっている。
岩橋さんの元に、あるラブホテルチェーンの社長から連絡が入ったのは今月初旬のこと。依頼主は福岡県内で6施設展開するプランタンホテルグループ(福岡市博多区)の森藤紳介社長だ。グループ施設のひとつで、郊外型ラブホテル「ホテル&スイーツフクオカ」(博多区金の隈)の除染と清掃スタッフの指導を行ってほしいという。
■新型コロナウイルス感染を防止するための「特別な薬剤」
森藤社長は、同チェーンの繁華街型ラブホテルでは今回の新型コロナによる影響で売り上げの4割以上が減少していると説明する。プランタンのホテルでは、平時であれば1室1日あたり、平均3組ほど利用がある。しかし、現在では1組ほど。
森藤社長は「繁華街型ラブホテルでは、周辺の派遣型風俗店が休業した影響が大きいです。一方で郊外型は派遣型風俗店の割合が少なく、影響は繁華街型ほどではない。常連客の足は遠のいているが、一方で新規の客が目立っています」と話す。
岩橋さんと森藤さんはそもそも、地元経営者同士のつながりの関係だった。「特殊清掃業の技術をもってコロナウイルスに対処すれば、より万全。お客様とスタッフの両方が安心できるよう、除菌のノウハウを得たい」として今回、岩橋さんに白羽の矢を立てた。
そして、岩橋さんによるホテル&スイーツフクオカの実地レクチャーが実施されたのが5月14日のことだった。
ホテル&スイーツフクオカは、これまでのラブホテルの概念を覆す施設である。エントランスを入ると、白を基調に明るく広々としたロビーが迎えてくれる。1階にはレストランも備え、客はスイーツビュッフェが無料で利用できる。驚くことにシェフやパティシエもいる。「女子会プラン」なども用意し、ビジネス利用(テレワーク利用含む)もできるラブホテルだ。
従来のラブホテルの「人目を忍ぶ」的な要素はまったく感じられない。そもそも一般ホテルとの垣根が、あいまいになってきているこうしたラブホテルのことを「レジャーホテル」と呼んでいるらしい。
岩橋ひろしさんは、2室を使って、特殊清掃の除染の技術を披露した。ポイントは主に「手の届かない天井などのクリーニング」「見えないウイルスをとらえる清掃技術(見える化)と、ウイルスを除去する特別な薬剤の提供」そして、「ウイルスが溜まりやすい場所の把握」である。
■ラブホ内の「ゴミ箱」「テーブル」清掃は要注意
岩橋さんは自社開発の薬剤「サイレントバスターレッド(改良型次亜塩素酸ナトリウム)」を使って、天井の除菌まで徹底的にやっていく。
「ゴミ箱には、マスクが捨ててある可能性があり危険です。ゴミを取り出す際には、風圧でウイルスを含んだダストが吹き上がり、顔を直撃するので注意してください」
「テーブルを拭く時は使い回しのテーブルクロスではなく、使い切りのキッチンペーパーなどで拭いてください。拭き方は右左と往復してはダメ。かえってウイルスを広げてしまいます。必ず一方方向に拭き切って」
■清掃の技術に自信があるラブホがわざわざ特殊清掃に教えを乞うワケ
そもそも、ホテルは利用者が変わる度に室内清掃をし、清潔を保っている施設だ。特にラブホテルは休憩利用が多いため、1日に何度もクリーニングに入る。
また、一般的なホテルの洋室は土足で入るのが通例だが、多くのラブホテルでは玄関に靴を脱ぐ「たたき」があり、スリッパに履き替えて室内に入る構造になっている。そういう意味では、宿泊施設の中でもラブホテルは、より清潔が保たれている空間と言える。
清掃スタッフは一般のホテルが外注しているのに対し、ラブホテルは自社で清掃スタッフを抱える。そのため、衛生意識を、自社スタッフにしっかりと伝えることができるメリットがあるという。プランタンホテルグループでは60人の清掃スタッフを抱えている。
森藤さんは説明する。
「そもそも、われわれは清掃の技術・スピードには自負を持っていました。社内イベントでお掃除コンテストもやっているくらいです。今回の特殊清掃のスキルを目の当たりにして、コロナ時代のホテル業界にとって大変、心強いと感じました」
あるスタッフは「ものすごく納得感があった。結果的に自分たちの身を守る情報も得られたのがよかった」と感想を述べた。
岩橋さんの元にはラブホテルだけではなく、学校施設でのクリーニング・除菌指導の要請も舞い込んでいるという。何の不安もなくラブホテルを利用できる日がやってきた時こそ、「ウイルスとの戦いに勝った」と言えるかもしれない。
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浄土宗僧侶/ジャーナリスト
1974年生まれ。成城大学卒業。新聞記者、経済誌記者などを経て独立。「現代社会と宗教」をテーマに取材、発信を続ける。著書に『仏教抹殺』(文春新書)など多数。近著に『ビジネスに活かす教養としての仏教』(PHP研究所)。佛教大学・東京農業大学非常勤講師、(一社)良いお寺研究会代表理事。
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(浄土宗僧侶/ジャーナリスト 鵜飼 秀徳)
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