お客を店に呼べない料理人が、いつもの料理を「Zoom」で出す方法
プレジデントオンライン / 2020年5月28日 9時15分
■「あのお店に、オンラインで集まろう」
「ズムメシ」とは、自宅にいながらオンラインを介して飲食店に集まり、みんなで食事やお酒を楽しむイベントのこと。Zoomを使ってご飯を楽しむ、略してズムメシというわけです。今年の3月末に第1回を実施し、5月末で第20回を迎えます。
私は食品メーカーでEC事業に携わっており、夫は飲食店のオーナーです。コロナ禍で気軽に外食を楽しむことが難しくなる中、食に関わる人間として「今だからこそ、飲食店ができることは何か」と考えた結果がこのズムメシでした。
お店の味を家で楽しむことはできないだろうか。それも単なるお取り寄せではなく、シェフや料理人から素材や調理法へのこだわりを聞いたり、他のお客さんと交流したりしながら、外食をリアルに体験する以上の価値をオンラインで提供することはできないか——。
お客さん目線の発想からたどり着いたのが、「あのお店に、オンラインで集まろう」というズムメシのコンセプトです。イメージは、レストランの厨房を囲む“ロの字”のカウンター。自宅にいながらお店の人と会話できて、他のお客さんともつながれる場所です。
コンセプトがかたまった後は、クリエイターやフードコーディネーターの友人たちに相談して運営メンバーになってもらいました。3月30日にプロトタイプとして第1回のズムメシを実施した後も、「飲食店の本当の価値は何か」「飲食店とお客さんはどんな関係にあるのか」をメンバーたちと何度も話し合ってきました。
ズムメシが目指すのは、飲食店での豊かな食体験をつないでいくこと。飲食店にとっては、目の前の売り上げを確保できるだけでなく、将来のファンづくりも期待できます。一方、お客さんにとっては、自粛生活が続く中で非日常を感じられるメリットがあります。
■ズムメシ参加者には税込7000円の通販セットが届く
ズムメシは、「飲食店」「ファシリテーター」「参加者」の三者で開催します。飲食店はメニューと開催日時を設定し、FacebookやツイッターなどのSNSを使って告知します。参加者から申し込みがあったら、食材をそれぞれの自宅へ発送して、当日はオンラインでお客さんをもてなします。
ファシリテーターは、いわば宴会の幹事役。飲食店のメニュー作りや告知を手伝いながら、SNSで飲食店と参加者をつないで開催日まで盛り上げていき、当日は司会進行を務めます。なお、この三者に加えて、食材の生産者が参加することもあります。
参加者のもとには、開催3日前に手配した食材の通販セットが、開催前日から当日までにチルド便やクール便で届きます。食材は調理済みなので温めるだけ、もしくはそのまま食べられるものばかりで、参加者は調理の手間もなく準備もラクです。通販セットの価格は店舗ごとに異なりますが、2~3人前で4000~1万円(送料税込)です。いつもの料理のほか、オリジナルメニューを提供している店舗もあります。
■「料理長や生産者の顔を見ながら話す」という新体験
ズムメシ当日は、2時間ほどの開催となります。例えば4月27日に東京・世田谷の「讃岐うどん酒房 かんま」で開催したときは、18時半から参加者が順次Zoomに入り、19時にみんなで乾杯してズムメシがスタート。
全国各地の参加者がリレー形式であいさつした後、うどん店の厨房と食材を提供してくれた富山県朝日町の泊(とまり)漁協から、料理長と生産者がメニューや食材について説明しました。
19時40分ごろからは歓談&食事タイムに入り、参加者が料理長に質問したり、参加者同士で会話したりと自由に時間を過ごします。少人数で話したい人のために、4~5人で会話できるブレイクアウトルーム(Zoomの小部屋機能)も用意しました。
20時になると、今度は奄美大島の焼酎生産者ともZoomでつながり、夜の酒蔵を案内するレポートを開始。20時20分から再び参加者たちがリレー形式で今日の感想を伝え合いました。20時35分からは「フォト鍋コンテスト」の受賞者を発表。
これは参加者がそれぞれの自宅から当日のメニューであるアンコウ鍋の写真を投稿し、“映え鍋”具合を競うもの。受賞者には、うどん店での1日食べ放題チケットや食器などがプレゼントされます。
最後に今後のズムメシを予告し、20時45分でお開きとなりました。
開催するお店によって多少の違いはありますが、これが基本的なズムメシのタイムスケジュールです。このうどん店で開催したときは、料理長が讃岐うどんの出汁の引き方や「伊吹いりこ」を使っていることなど、店ならではのこだわりについて丁寧に説明したり、参加者から「冷やかけ出汁と温かけ出汁の違いは?」といったうどん通らしい質問が出たりと、会話が弾みました。
リアルで営業しているときは厨房で調理に専念しているため、料理人がお客さんと直接会話する機会は意外と少なく、よほどの常連さんではない限り、料理についてここまで踏み込んだ話をすることはめったにありません。でもズムメシならインタラクティブなコミュニケーションが活性化され、お客さんも普段は見られないバックヤードの様子を知ることができ、生産者である農家や漁師さんとも顔を見ながら会話できる。
オンラインを活用することで、従来の飲食店にはないエンターテインメント性が生まれたことは大きな発見でした。
■東京から福岡、そしてインドまで旅できる
こうしたズムメシの魅力を運営メンバーも実感したことで、ぜひこの活動を全国に広めたいと話し合うようになりました。メンバーたちは食を求めて各地を旅している人間が多かったので、訪問先で知り合った仲間やその友人などに声をかけて、ズムメシに興味を持ってくれるお店や生産者を集めました。
その結果、ズムメシの開催店は鹿児島、広島、山形など全国に広がっていき、何度も参加してくれる「ズムメシフリーク」も現れました。ゴールデンウイークには、「日本と世界を旅するGWズムメシワールド」を企画。
オンラインで各地をつなぎ、インド、イタリア、メキシコ、青森、東京、富山、広島、福岡、奄美大島に旅できるメニューをそろえました。インド料理やメキシコ料理をオンラインで習ったり、広島の地ビールを飲み比べたり、福岡の赤崎牛を堪能したり。日本全国へ、そして世界へと、ズムメシの活動フィールドは拡大しています。
■新規顧客を開拓し、リピーターを創出する
当初の狙いだった売り上げ確保とファンづくりも、順調に機能しています。マーケティングの視点で言えば、ズムメシは「ライフタイムバリュー(顧客生涯価値)」を高める仕掛けです。一度ズムメシを体験した人が、通販のリピーターになる。あるいは、将来店舗にも行ってみようと考える。ズムメシは「新規顧客の開拓」と「リピーターの創出」という2点において、飲食店に貢献しています。
その貢献を果たすためのポイントとなるのが、コミュニケーションサポートです。ズムメシが開催されるたびに参加者のスレッドが立ち、開催の約1週間前から盛り上がって、終了後も2週間近くは自然と交流が続きます。
残った鍋の出汁やポン酢を使ったアレンジ料理を披露したり、生産者や料理人のファンになったと書き込みがあったり、「コロナが収束したら、お店や生産地がある地域を旅しよう!」という声もたくさん上がっています。
そのコミュニケーションを支えてくれるファシリテーターも各地に増えつつあり、地元飲食店のズムメシ開催を支援しています。
3月30日から5月10日まで17回の開催で、281人が参加し、150万円を売り上げています。1回あたりの参加者数15人、ズムメシセットを4000~1万円とすると、飲食店は6万~15万円の売り上げを得ることができます。各店舗で使用するオンライン決済方法はさまざまですが、売り上げはすべて開催店舗に入る仕組みになっています。
もちろんズムメシだけでは飲食店を支えることはできませんが、コロナ禍で生き残るためには少しでも売り上げを確保することが大切です。そんな想いからズムメシは始まりました。しかし今では、オンラインでの“密なコミュニケーション”を通じて、この趣旨に賛同してくれる仲間やお店のファンの人たちとのつながりができたことが、何物にも代えがたい価値だと思っています。
新型コロナとの闘いはまだまだ終わりが見えませんが、ズムメシの広がりを通して飲食店と利用者の新しい関係づくりをスタートさせ、地域の魅力度を向上させていきたいと思っています。興味のある方はぜひ、ズムメシに参加してみてください。
note: https://note.com/zumumeshi
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ズムメシ発起人 カゴメ東京本社広域営業部EC・特販グループ 課長
関西学院大学商学部卒業後、2005年カゴメ入社。九州支店での営業職を経て2010年にギフト事業部配属となり、カゴメ創業以来初の焼き菓子『トマッティーニ』の開発を手がける。15年より東京支社営業三部一課でeコマースの営業に携わる。19年10月より現職。20年3月、社外活動として、自宅にいながらお店とつながる「ズムメシ」プロジェクトを立ち上げ。趣味は銭湯と純喫茶巡り。
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(ズムメシ発起人 カゴメ東京本社広域営業部EC・特販グループ 課長 辻本 美紀)
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