「王者はSNSをこう使う」2カ月の休業中にスタバが採った3大施策
プレジデントオンライン / 2020年6月12日 15時15分
■開業25年で初めての長期休業
6月1日、新型コロナウイルス感染拡大防止のために休業していた「スターバックス コーヒー」の店舗が、全国の大半の店で営業を再開した。
店により異なるが、4月9日から「当面の間」として休業に踏み切った店が多く、50日以上にわたり、実店舗の営業休止をしたことになる。
「明日から休業になりますが、いつまで続くか未定なんですよ」
休業前日の4月8日、東京都内のスタバ店舗を一般客として訪れた際、女性スタッフは、接客しながら残念そうにこう話した。実際、再開時期は直前まで社内で模索した。
1996年に日本1号店を開業して以来、25年。国内に1530店(2019年12月31日現在)を展開し、店舗数や売上高ともに圧倒的首位にたつ同社(運営はスターバックス コーヒー ジャパン株式会社)にとって、初めての長期休業だった。
コロナの対応は、まだまだ油断できないが、休業によって、店と顧客との関係にも変化が生まれた。今回はそれを紹介しよう。
また、日本のカフェを生活文化から研究する立場として、少し引いた視点で「カフェの役割」を考察したい。
■「スターバックスの味わいをご家庭で」とSNSで発信
店舗が休業中でも、同社はオンラインでの販売を続けた。
「仕事がリモートワーク中心となり、多くの時間を自宅で過ごしたのもあるでしょう。オンラインストアでは、コーヒー豆や抽出器具をはじめ、ご家庭で楽しめるコーヒー関連商品の販売が好調でした。仕事や家事、育児の合間に、ゆったりとコーヒーをいれて味わうひとときが、多くのお客様の安らぎの時間になったのだと推察しています。改めて、日常に寄り添い、毎日にうるおいを与える、コーヒーの力強さを感じました」
スターバックスの広報担当者はこう説明し、次のように続ける。
「具体的な商品では、ミルクを加えるだけで、店舗のビバレッジのような味わいが楽しめる『スターバックス ヴィア ティーエッセンス ほうじ茶/抹茶』や、ミルクをふわふわに泡立てられ、ご自宅でもラテやカプチーノが楽しめる「ミルクフォーマー&カップ」が好調。ウェブサイトやSNSを通じて情報発信を行った、ご自宅でのスターバックス体験「Starbucks at Home」(スターバックス アットホーム)を楽しんでくださったお客様が多かったことがうかがえます」
スターバックス アットホームとは、「スターバックスの味わいをご家庭でも」を掲げて、オンライン上で訴求する取り組みだ。売り上げ数字は非公表だが、店に行けない間、多くのスタバ好きの“よりどころ”となったのだろう。
■休業中にファンをどうやって増やしたか
もちろん、いくらブランド力の高いスターバックスとはいえ、商品をオンライン上で並べて説明するだけでは、売り上げ拡大にはつながらない。実店舗以上の創意工夫が必要で、「待っていてもお客は来ない」のだ。
休業期間中でも、公式Twitter、Facebook、InstagramなどのSNS投稿を実施。その時々のお客の気持ちを思い、それに寄り添った発信をし続けた。
具体的には3つの企画に力を入れたそうだ。同社に説明してもらおう。
(1)「ご自宅でのコーヒーのいれ方」
SNS上で「ご自宅でのおいしいコーヒーのいれ方」に関する質問を募集。予想をはるかに上回る多くの反応をいただき、弊社のコーヒースペシャリストが、寄せられた質問に回答する形で情報交流を行いました。
(2)「Message on the mug」
ご自宅でコーヒーを楽しんでいる様子の写真をフォロワーの皆様から募集。そのマグカップに、休業中の店舗パートナー(従業員)がメッセージを載せて投稿しました。お客様からは「読んでいると力がわく」「早くバリスタさんに会いたい」など温かいコメントが多く寄せられ、企画に携わったパートナーからも、「休業中でもお客様とオンラインでつながれてうれしい」といったポジティブな反応が集まりました。
■店舗スタッフの発案で生まれた企画も
(3)「バリスタたちのおうちコーヒー」
パートナーが、自宅でのコーヒーの楽しみ方やアレンジレシピを紹介しました。この企画は、休業中のパートナーが社内SNSなどで自発的に投稿していた「Stay Home」の楽しみ方が発端です。
休業中でもコーヒーの知識を高め、仲間とのつながりを保とうとする店舗スタッフの思いに後押しされた企画となりました。
競合をしのぐ同社の強みは2つある。ひとつは社員・アルバイト・パートに限らず「スターバックスブランド」を愛する従業員が多いこと。そして立場に関係なく、自発的な取り組みを行い、それを会社も積極的に支援する仕組みがあることだ。
現に自粛期間であってもInstagramのフォロワー数は伸び続け、6月9日時点で264万人を超える。外食企業のアカウントとしては圧倒的1位だ。客観的には、時にお客以上にブランドを愛する姿勢に自己陶酔的な一面を感じるが、それが同社の躍進を支えたのは間違いない。
■コロナ禍で「サードプレイス」のあり方に変化
筆者はかつて、単行本『日本カフェ興亡記』(2009年5月、日本経済新聞出版社刊)を著した。1章では「手軽さのドトール」VS「楽しさのスタバ」と章タイトルをつけた。
スターバックスが飲食を通じて「楽しさ」を提唱するのは、いまも変わらない。ちなみに同書で記した当時の国内店舗数は、「ドトールコーヒーショップ」が1138店(2008年8月末現在)、「スターバックス」が841店(2009年2月末現在)だった。現在はスタバが1500店超に拡大したのに対し、ドトールは1100店割れと縮小気味だ。
2000年代のスタバは「サードプレイス」を強く訴求し、同書でもこう紹介した。
「サードプレイスとは、自宅(ファーストプレイス)や職場・学校(セカンドプレイス)以外に、快適に過ごせる場所の意味だ。店という空間には、ドリンクやフードがあり、接客をするパートナーがいる。そんなサードプレイスになる店づくりを、当社では最も重視している」
当時の広報担当はこう話したが、今回は次の意識で「サードプレイス」と向き合った。
「デジタル上でも店舗と同じ、ぬくもりのあるつながりを持つため、パートナー(特に休業店舗のパートナー)にも、いつもと違う形で活躍してもらい、コンテンツの制作を行いました。たとえエプロンを着けて店頭に立てなくても、参加の舞台を提供し、お客様とのつながりを保ち続けてほしい、という思いもありました」(同社)
それが前述した3つの企画に代表される活動だった。
■「やっとコーヒーが飲めるようになった」
「カフェはしゃべり場の象徴」と、何年も前から説明してきた。例えば業界団体や自治体のシンポジウムでも「××カフェ」と名づけるケースが目立ったからだ。つまり、飲食を伴わなくても、人が集まり・交流する場所には「カフェ」の名称が使われた。
だがコロナでは、会話や交流が断たれた。それが復活した時、人はどう思うのか。
今でも忘れられない光景がある。
2011年3月11日に起きた東日本大震災から11カ月後。2012年2月、仮設プレハブで営業を再開した宮城県気仙沼市の「アンカーコーヒー」取材時に、店の入り口で会った女性2人組はこう話した。
「やっとコーヒーを飲める状況になったので、震災後初めての来店です。以前はカフェラテをよく飲んでいたけど、今日は抹茶ラテでしたけどね」と笑顔を浮かべた。
被災した2人は、それまで後片付けに追われて、ゆっくりコーヒーを楽しめる状況になかった。1年近くたち、ようやくその時間を手に入れたのだ。
■実店舗だけではない「カフェの役割」
当時から8年。デジタル化が進んだ今回、スターバックスへの思いはどうだったのか。
「一部の店で営業を再開した折には、Twitterで『#スタバ再開』がトレンドワード入り(5月19日 10:30時点)。『待ってました!』『ありがとう』などのコメントが多数寄せられ、大きな反響をいただきました」(広報担当)
コロナの第2波が警戒される中、お客の衛生意識の高まりや、店の環境にもよりケアしなければならない。スターバックスも非接触で注文・決済ができる「モバイルオーダー&ペイ」と呼ぶサービスや、デリバリーサービスを拡大していくという。
スタバに限らず、カフェの役割である「サードプレイス」は実店舗だけではない。本質的には、自宅で過ごす顧客の心の中にも存在するだろう。それでも「外食の楽しさ」や「町のうるおい」として、店舗の存在は欠かせないのだ。
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経済ジャーナリスト/経営コンサルタント
1962年名古屋市生まれ。日本実業出版社の編集者、花王情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画・執筆多数。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)がある。
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(経済ジャーナリスト/経営コンサルタント 高井 尚之)
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