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コロナ危機の今、思い出したい「経営の神様・稲盛和夫の名言」

プレジデントオンライン / 2020年7月26日 11時15分

稲盛和夫氏

先を見通すのが難しい今、稲盛和夫はどんな言葉を語るのか──。稲盛氏の評伝『思い邪なし』の著者で作家の北康利氏が、稲盛氏がこれまで残した金言と、その裏に隠された経営の神髄を解説する。

■頂点を極めた人に共通するもの

私はこれまで、さまざまな分野で頂をきわめた人たちの評伝を書いてきました。彼らには共通点があります。それは、人間の本質をつかんでいるというところです。経営であれ、政治であれ、教育であれ、それらはすべて人間の営みなのですから、人間というものは何かがわかっていなければ、成功を収めることはできません。

常に「人間とは」と問い続け、それを伝える言葉を磨き続けてきた京セラの創業者・稲盛和夫氏の発する言葉にも、真理が宿っています。

かつて、日本と中国の間で尖閣諸島の領有権問題が過熱した際、中国では反日運動が起こり、本屋から日本関連の本が軒並み撤去されました。ところが、稲盛氏の本だけは最後まで残されていたそうです。また、近年日韓関係が悪化してもなお、京セラ本社ビルの隣りにある稲盛ライブラリーには、多くの韓国人が訪れています。稲盛氏が海外の人たちをも魅了してやまないのは、彼の哲学や成功法則が日本だけでなく、世界で通用する証拠です。

■仕事にも人生にも法則がある

彼の著書『「成功」と「失敗」の法則』(致知出版)には、「仕事にも人生にも法則がある。その法則にのっとった人間は成功し外れた人間は失敗する」と書かれています。

鹿児島大学を卒業し、京都の松風工業に入社。会社のひどい経営状況に、同期5人で「こんな会社早く辞めよう」と言っていたという。
鹿児島大学を卒業し、京都の松風工業に入社。会社のひどい経営状況に、同期5人で「こんな会社早く辞めよう」と言っていたという。

昨今の新型コロナウイルスの流行で、社会は大きく変わりました。突然それまでのやり方が通用しなくなり、多くの人がどこに向かったらいいのか途方に暮れています。そんなとき、人間を熟知した稲盛氏の言葉は、航路を示す灯台の役割を果たしてくれるはずです。

稲盛氏は新卒で入社した松風工業で、20代にしてセラミックスを扱う特磁課の実質的なリーダーとなります。そのころから経営者の視点で仕事に取り組んでいた彼は、取引先の実力者から「若いのにあなたはフィロソフィ(哲学)を持っている」と絶賛され、それ以後自分の経営哲学を、「フィロソフィ」にまとめるようになったそうです。

まさに言葉は神なり。稲盛氏のフィロソフィにある文言にはどれも、人を動かす力強さが宿っています。そのフィロソフィの中で、コロナ後の社会に立ち向かおうという今、もっとも心に留めておきたいのが「人生・仕事の結果=考え方×熱意×能力」です。

なんといっても強い熱意がなければ、何ごとも成すことはできません。稲盛氏はこれを「燃える闘魂」と表現しています。製品開発で行き詰まった部下に対して「製品の語りかける声に耳を澄ませ」と叱りつけたという逸話もあるほどですから、ものづくりへの熱意はすさまじいものだったのでしょう。

1997年、65歳のときに在家得度を受け仏門へ。2005年からは山陰、四国、信州、東北などを回り、托鉢を行った。
1997年、65歳のときに在家得度を受け仏門へ。2005年からは山陰、四国、信州、東北などを回り、托鉢を行った。(読売新聞、AFLO=写真)

しかし、どんなに熱意があってもマイナスの発想法をしていたら、大きなマイナスの力を生むだけです。ゆえに考え方が正しい方角を向いているかに注意する必要があります。そこで常に「動機善なりや、私心なかりしか」と自問自答を繰り返したと言います。第二電電(現KDDI)の創業やJAL再生といった重要な局面でも、社員たちにもその自問自答をさせました。

なぜ私心ではだめなのか。自分の利益が第一だと、一時的に儲けることはできても、儲け続けることはできないからです。目的が社会のためでなければ、長期的に成功することはできないのです。

「『私たちは今後どうなりますんや』と部下に聞かれたら『我々はこうなるんだ』と間髪入れずに答えられるようでなければ経営者失格である」とインタビューのとき話してくれました。私心がなく世の中のためになることをやっているなら、自信を持って答えられるはずだと、彼は言っているのです。いまの時代、経営者はもちろん、多くの働く人も胸に手を当てて自らに問い直すチャンスかもしれません。

■危機に直面したとき稲盛氏を支えた言葉

2019年の今ごろ、まさか世界がこんなふうになっていると誰が想像できたでしょう。まさに人知を超えたことが起こったのですから、パニックに陥るのも無理はありません。もちろん稲盛氏だって何度も危機に見舞われています。それでも自分を見失わなかったのは、心を落ち着ける習慣があったからです。それには、母親から、阿弥陀様はいつでも「見てござる」と言われながら育ってきた環境も影響しています。

2010年78歳のときに、日本航空の会長に就任。約2兆3000億円の負債を抱え事実上倒産状態だったJALは、わずか2年8カ月で再上場を果たす。
2010年78歳のときに、日本航空の会長に就任。約2兆3000億円の負債を抱え事実上倒産状態だったJALは、わずか2年8カ月で再上場を果たす。(毎日新聞、AFLO=写真)

私が取材に訪れた際にも、「この言葉を口にすると生かされているということを実感させられるんですよ」と教えてくださったのが「なんまん、なんまん、ありがとう」という言葉。幼いころ父親と訪れたお寺で習ったのをいまだに覚えているのだそうです。ちなみに、なんまんは南無阿弥陀仏の意味だとか。

ワコール創業者の故塚本幸一氏をはじめ、宗教心によって心の平静を保つと語っていた経営者は数多くいます。今のように先が見えない時代には、心を静めることの重要性がより増すのではないでしょうか。それには茶道や華道をたしなむのもいいと思います。

京セラフィロソフィには、「一人一人が経営者」という章があります。全員が経営に参加するということを、稲盛氏は若いころからことのほか重視してきました。これは組織の中に指示待ち人間をつくらないということでもあり、誰もがリーダーになり得るという稲盛流経営の基本方針の1つです。同様に、稲盛氏が「渦の中心になれ」と口にするとき、その対象には若手社員も含まれているのです。そして、その際大事なのが、全員のベクトルを同じ方角に合わせるということ。それにはみんなが利他の精神を発揮しなければなりません。

また、アフターコロナの世界では、「値決めは経営だ」という稲盛氏の哲学もいっそう輝きを増すに違いありません。なぜ京セラが創業以来、1度も赤字を出さずにこられたのか。セラミックスの原料というのはもともと原価が小さいのに、現金主義を徹底するなどしてさらに仕入れ値を下げ、粗利を厚くして究極の付加価値を生み出すことに成功したからです。利益を出し続ければ、セラミックスという社会のためになる製品を、供給し続けることができます。世の中の役に立つのだからこの金額で売る、こういう動機善なりやのビジネスモデルを、苦しい今の局面こそ、改めてすべての経営者には目指してほしいものです。

人に伝わるように「言葉」を磨く

■【生き方篇】

▼「仕事にも人生にも法則がある。その法則にのっとった人間は成功し外れた人間は失敗する」
▼人生・仕事の結果=考え方×熱意×能力
▼「仕事で大成功を収め、地位や名声、財産を獲得したとします。人はそれを見て、『なんと素晴らしい人生だろう』とうらやむことでしょう。ところが実は、それさえも天が与えた厳しい『試練』なのです。成功した結果、地位に驕り、名声に酔い、財に溺れ、努力を怠るようになっていくのか、それとも成功を糧に、さらに気高い目標を掲げ、謙虚に努力を重ねていくのかによって、その後の人生は天と地ほどに変わってしまうのです。つまり、天は成功という『試練』を人に与えることによって、その人を試しているのです」
正しい考え方が、精神の静謐を保つ

■【精神篇】

▼「動機善なりや、私心なかりしか」
▼「なんまん、なんまん、ありがとう」
▼「俗世間に生き、さまざまな苦楽を味わい、幸不幸の波に洗われながらも、やがて息絶えるその日まで、倦まず弛まず一生懸命生きていく。そのプロセスそのものを磨き砂として、おのれの人間性を高め、精神を修養し、この世にやって来たときよりも高い次元の魂をもってこの世を去っていく。私はこのことよりほかに、人間が生きる目的はないと思うのです」
どんな立場の人にも通じる経営指針

■【実践篇】

▼「ベクトルを合わせろ」
▼「渦の中心になれ」
▼「値決めは経営だ。値決めの中に経営者の才覚があらわれる」
▼「製品の語りかける声に耳を澄ませ」
▼「『私たちは今後どうなりますんや』と部下に聞かれたら『我々はこうなるんだ』と間髪入れずに答えられるようでなければ経営者失格である」

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稲盛和夫(いなもり・かずお)
1932年、鹿児島県生まれ。59年に京都セラミック(現京セラ)を設立。97年から名誉会長。また84年第二電電(現KDDI)を設立し、同会長に就任。2001年に同最高顧問。10年には日本航空会長に就任。15年同名誉顧問。私財を投じ、稲盛財団や国際賞「京都賞」を設立。経営塾「盛和塾」の塾長を務めた。

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北 康利(きた・やすとし)
作家
1960年、愛知県生まれ。東京大学法学部卒業後、富士銀行(現みずほFG)に入行。2008年にみずほ証券を退職し、作家に。著書に『思い邪なし 京セラ創業者 稲盛和夫』『白洲次郎 占領を背負った男』など。

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(作家 北 康利 構成=山口雅之 撮影=若杉憲司 写真=毎日新聞、読売新聞、AFLO)

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