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「4000万匹を突破」中国の独身女性たちがこぞって猫を飼う切実な背景

プレジデントオンライン / 2020年7月23日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/undefined undefined

■日本では「猫を飼う」のは高齢世帯が多いが…

中国で猫ブームが巻き起こっている。2019年に発行された「中国ペット業界白書」によると、中国で飼われている猫は約4064万匹と過去最高で、前年比8.6%増だった。日本も猫ブームだが、日本では比較的高齢の2人以上の世帯で飼っていることが多いのに対し、中国では20代の若者が突出して多いという特徴がある。なぜ、中国の若者は猫を飼うのか?

「仕事から帰ってきてこの子たち(猫)の顔を見ると、疲れが吹き飛びますねー。癒やされて、つい顔が緩んじゃうんです」

広東省深圳市に住む25歳の女性は2年前に猫を飼い始めた。友人から譲り受けたという。コロナ禍の中にあった今年4月にも上司の家で生まれたばかりの猫をもらってきた。種類はどちらも「中華田園猫(チョンフォア ティエンユエンマオ)」だという。調べてみると、日本の三毛猫やトラ猫のように中国固有の猫のようだ。「世界で最もネズミを捕獲する猫」としても有名だという。

一人で2匹の世話をするのは大変だろうと思うが、本人は「全然苦にならない。猫がいる生活は楽しいです」とイキイキとした様子。SNSを見ている限り、彼女の投稿の3分の1は飼い猫の動画や写真で、猫が心の支えになっていることがよくわかる。

■人気はラグドール、ブリティッシュショートヘア、田園猫…

ここ数年、中国の若者の間では猫を飼うことが一大ブームになっている。「中国ペット業界白書」(2019年)によると、中国のペットの市場は約2000億元(約3兆円)で、年々増加の一途をたどっている。中国のサイトで人気がある品種ランキングを見ると、「ラグドール」「ブリティッシュショートヘア」「アメリカンショートヘア」「中華田園猫」などの名前が挙がる(日本では、ランキングによって多少入れ替わるが、スコティッシュフォールド、マンチカン、アメリカンショートヘアなどが人気)。

私も中国で取材をしていて、数年前から、雑談の中で「家で猫を飼っている」と話す機会が増え、そのことを実感していたのだが、同調査の結果を見て納得した。そして、目を引いたのは、飼育者の内訳だった。

■飼い主の中心は20代前半、女性が8割

深圳市の女性が飼っている中華田園猫
深圳市の女性が飼っている中華田園猫(写真=筆者提供)

飼育者の年代を見ると、20代と30代が圧倒的に多く、特に中国で95后(1995~1999年の間に生まれた若者)といわれる人々が飼育者全体の35%にも上っている。また、飼育者の80%以上が女性で、しかも単身者(独身)が約半数を占めているという特徴があった。

さらに、大学や高等専門学校を卒業しているなど高学歴で、所得も比較的高いホワイトカラー、北京や上海、広州などの大都市に住んでいる女性が多いということまでわかったのだ。ちなみに、日本ペットフード協会が行っている「全国犬猫飼育実態調査」(2019年)を見たところ、日本では中国と異なり、飼育者の年代に大きな偏りはないが、全体的に年齢は高めで、20代は比較的少ない。単身者ではなく2人以上の世帯、つまり中高年のファミリーが猫を飼っているケースが多かった。

日本も中国も同じように猫ブームが到来しているとはいえ、飼育者の実態にはかなりの違いがあるという興味深い結果だった。

■「仕事は忙しいし、実家は遠くて帰れないし…」

背景には何があるのか。中国で猫を飼っている若者らに取材してみると、聞こえてくるのは「孤独」「プレッシャー」などの言葉だ。それらの解消を求めて、癒やしや安らぎ、安心感を与えてくれる猫を飼っている様子が浮かび上がってくる。

前述の深圳に住む25歳の女性は、湖南省から広東省にある大学に進学し、そこで寮生活を送った(中国ではほとんどの大学生が寮で集団生活を送る)。3年前に就職し、初めて1人暮らしをすることになったのだが、「仕事がメチャメチャ忙しくて、なかなか友だちにも会えない。実家も遠くて、簡単には帰れない。そんな寂しい生活の中で、かわいい猫を飼って、少しでもホッとする時間が欲しいと思ったんです」と話す。

飼育者の多くが大都市に住んでいる独身の若者であることから、「1人暮らし」も猫を飼うきっかけとなっているようだ。中国では、大都市出身の若者は結婚するまで「実家暮らし」が当たり前だとされている。北京や上海は家賃が非常に高いため、家があるのに、わざわざ家を飛び出して、同じ都市内で1人暮らしをしようと思う理由はほとんどないのだ。一方、地方出身者が大都市の大学に進学し、そのままそこで就職する場合は、必然的に1人暮らしにならざるを得ない。

■都市生活のプレッシャーに疲れた若者たち

データにあるように、大都市の単身者の若者が猫を飼っているということは、その多くは地方出身者ではないか、と思われる。

広大な中国で、地方出身者が北京や上海などの大都市で働くことは、日本の地方出身者が東京や大阪の企業で働くよりもずっと強いプレッシャーがかかる。日本には存在しない戸籍問題やそれにまつわる差別などもあるし、前述のように高い家賃も払わなければならない。

上海の単身者用のマンションの家賃は(地区によって多少異なるが)全般的に東京よりも高い。地方出身者の場合、中国社会で必要とされるコネがないケースも多く、何事においても、人一倍がんばらなければいけない、というつらい立場に置かれている。

そうした日常的なプレッシャーに加え、煩わしい職場の人間関係に関わりたくないというところも、おとなしい猫に惹かれ、猫を飼う理由なのではないかと感じる。中国人といえば「アグレッシブ」「アクティブ」というイメージを持つ日本人が少なくないと思うが、昨今の若者は草食系でナイーブな人が多い。

仕事はもちろんしなければいけないが、他人との競争はできるだけ避けて、穏やかに過ごしたいと思っている。結婚や恋愛にも消極的で、ひとりでゲームをしたり、まったり過ごしたりしたいという。

■猫ブームは「結婚しない人々」を反映している

中国の20代の特徴については、7月6日の記事「『30日以内は離婚を撤回できる』珍制度を導入した中国政府の狙い」で、「今の30代以下は基本的に一人っ子ですから、自分がいちばんだと思って、未熟なまま大人になってしまう人が多い」という声を紹介した。

この記事では、中国で結婚しない若者が増えた理由として、女性の高学歴化、男女ともに高所得化、草食化しているから、と書いた。それはそっくりそのまま「猫ブーム」を形成している若者そのものだといってもいいだろう。

前述の「全国犬猫飼育実態調査」(2019年)によると、日本人が猫を飼う理由も同じく「安らぎが欲しかったから」がいちばんに挙がっているが、それ以外を見ると「過去に猫を飼ったことがあるから、また飼いたいと思った」など、これまでの経験も大きいことがわかる。日本では、実家で猫を飼っていたり、友だちの家や近所の家で飼っていたりした、という経験がある人は非常に多いと思うが、中国人にはこれまでそうした経験はほとんどなかった。初めて到来した猫ブームだからだ。

1人でも構わないが、家に帰ったときに待ってくれている存在や温もりは、やはり欲しい……。それが、中国の若者の間で猫ブームが巻き起こっている理由だといえるだろう。

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中島 恵(なかじま・けい)
フリージャーナリスト
山梨県生まれ。主に中国、東アジアの社会事情、経済事情などを雑誌・ネット等に執筆。著書は『なぜ中国人は財布を持たないのか』(日経プレミアシリーズ)、『爆買い後、彼らはどこに向かうのか』(プレジデント社)、『なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか』(中央公論新社)、『中国人は見ている。』『日本の「中国人」社会』(ともに、日経プレミアシリーズ)など多数。

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(フリージャーナリスト 中島 恵)

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