急増! 在宅ワーク中のリモート「パワハラ・セクハラ」どう対処すればいいか

プレジデントオンライン / 2020年8月25日 6時15分

※写真はイメージです(写真=iStock.com/kokouu)

在宅勤務中に上司がプライベートの領域に踏み込んできたり、強くあたったりする「リモートハラスメント」が増えているという。企業の人事部長たちが明かすその実態とは。そして、被害者が泣き寝入りしないためにできることとは――。

■意外と多いリモハラの実態

新型コロナウイルスの第2波の感染拡大で再び8割出社制限と同時にリモートワークに踏み切る企業が増えている。第1波の時は通信環境の不備や労働時間の管理など在宅勤務ルールが未整備なままリモートワークに突入した企業も多かった。

最近では通信環境なども整備され、以前よりは在宅ワークに慣れてきた人も多いが、一方でリモートワーク特有の労働問題としてパワハラ、セクハラなどのリモートハラスメント(リモハラ)も発生している。IT企業の人事部長はこんな事例を紹介する。

「ある部署のチーム内のZoomのミーティング中に先輩社員が後輩の社員にふざけて『彼女が部屋にいるんだろう、紹介しろよ』と何度も言い、怒った後輩がZoomを切ってしまったそうです。最初はちょっとした笑い話かと思いましたが、別の部署でも『奥さんに挨拶したいから、顔を見せてよ』と言ったという事例もある。リモートワークで仕事とプライベートの境の区別がつかない社員もいますし、リモートワーク中の禁止事項など、新たなルールを設ける必要を感じています」

たとえ在宅であっても勤務時間中であれば職場であり、本人が嫌がる行為を何度も繰り返すとパワハラに当たる。

■在宅の部下をZoomで呼び出す“毎日出社部長”

管理職の中には在宅中の部下がちゃんと仕事をしているのか不安でしょうがないという人も少なくない。中には顔が見えるオンライン会議を一日に何度も行い、結果的に部下の仕事を妨害してしまう上司もいる。

広告業の人事部長は会社でこんなことがあったという。

「出社制限下でも毎日出社している部長がいます。職場に部下がいないと安心できないのか、しょっちゅう在宅の部下をZoomで呼び出しているそうです。あるとき特に用事もないのに『皆出て来い、元気か?』と呼び出した。女性社員の一人が化粧をしたくないのでマスクを着けて顔を出したら『なんで家にいるのにマスクをしているんだ!』と叱られたそうです。女性社員にとっては余計なお世話です」

この事例もプライベートな領域に踏み込んだパワハラに近い行為だ。また、上司の頻繁すぎる連絡や仕事をちゃんとしているかを確認するために常時監視するような行為は部下に過度のストレスすら与える。

■8割の部下が上司にストレスや不快感

ダイヤモンド・コンサルティングオフィス合同会社が実施した調査(2020年5月22日)によると「在宅でのテレワークに際して、上司とのコミュニケーションでストレスや不快感を感じたことがあるか」との質問に「何度もある」と答えた人が41.8%、「ある」が37.2%。合計79%に上る。

不快感やストレスの内容については「やたらとWeb会議をやりたがる」(38歳)、「仕事をさぼっていないかいちいちチェック」(38歳)、「Slack上での言葉がきつい」(31歳)といった声が挙がっている。

また、テレワーク中に上司から受けた行為で最も多かったのは「常に仕事をしているのかの連絡や確認」(46.4%)、次いで「オンラインでのプライベートに関する内容の質問」(40.0%)である。プライベートに関する質問は、仕事の進捗状況の管理や在宅で仕事をする部下を気遣うために、上司の職責として一定の範囲内は許されるだろう。だが、頻繁に監視したり、過度にプライベートに踏み込んだりすることはハラスメントと受け取られる可能性も高い。上司の行為の中には「リモートでの会議の場での強いあたりの言動」(23.6%)、「参加したくないリモート飲み会への勧誘」(21.8%)といったパワハラに近い行為もあった。

■パワハラ防止法はリモートワークにも適用される

ところでパワハラに関してはこれまで法的に何らの罰則もなかったが、今年(2020年)6月1日に「パワハラ防止法」が施行された(中小企業は2022年4月施行)。もちろんパワハラはオフィス内だけではなく、リモートワークでも適用される。

法律ではパワハラを①優越的な関係を背景とした、②業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動により、③就業環境を害すること(身体的もしくは精神的な苦痛を与えること)と定義し、この3つの要素をすべて満たせばパワハラとなる。優越的関係とは上司と部下の関係だけではなく、同僚や部下からの集団による行為も入り、そうした行為に抵抗または拒絶することが困難なケースもパワハラに該当する。

新しくできた法律は事業主にパワハラ防止措置を義務づけるだけではなく、行政は措置の履行確保を図るために企業に事実確認など書類の提出・報告を求めることができる。報告しない、あるいは虚偽の報告をすれば20万円以下の罰金が科せられる。また企業の措置義務が不十分であれば、助言、指導、勧告という行政指導を行う。勧告してもなお従わない場合は、企業名が公表される。

また、会社が十分な対応をしてくれない場合に個人を救済する機能も整備された。パワハラ被害者が会社の措置に不満がある場合などは都道府県労働局長による調停(行政ADR)を申請できる。紛争調停委員会が関係当事者の出頭を求め、その意見を聞くが、委員会が必要と認めれば、使用者側の代表やパワハラの加害者だけではなく、職場の同僚なども参考人として出頭を求められる。これはセクハラに関しても同様だ。そのうえで調停案を作成し、関係当事者に対し、受諾を勧告することになる。もし会社が受諾しなければもちろん裁判に訴えることができるし、これまで以上に被害者に有利な判決が出る可能性も高い。

■パワハラの6つの類型

では具体的にどんな行為がパワハラに該当するのか。

上記の①~③の定義を満たすものとして法律の「指針」では以下の6つの類型を示している。

イ.身体的な攻撃(上司が部下に対して、殴打、足蹴りするなど)
ロ.精神的な攻撃(上司が部下に対して、人格を否定するような発言をするなど脅迫、名誉毀損、侮辱、ひどい暴言)
ハ.人間関係からの切り離し(自身の意に沿わない社員に対して、仕事を外し、長期間にわたり、別室に隔離したり、自宅研修をさせたりするなど隔離、仲間外し、無視)
ニ.過大な要求(上司が部下に対して、長期間にわたる、肉体的苦痛を伴う苛酷な環境下での勤務、直接関係のない作業を命じるなど、業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制・仕事の妨害)
ホ.過少な要求(上司が管理職である部下を退職させるため、誰でも遂行可能な受付業務を行わせる事例など、業務上の合理性なく能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと)
ヘ.個の侵害(思想・信条を理由とし、集団で同僚1人に対し、職場内外で継続的に監視したり、他の従業員に接触しないよう働きかけたり、私物の写真撮影をしたりする事例など私的なことに過度に立ち入ること)

■リモートワークでとくに起こりやすい事例とは

ではリモートワーク時に受けた行為が6つのどれに当てはまるのか。さすがに在宅なので身体的な攻撃はないが、SOMPOリスクマネジメントは特に起こりやすいハラスメント事例を挙げている(「新型コロナウイルスにまつわるハラスメントとコンプライアンス体制」2020年5月22日)。

「精神的な攻撃」では「電子メール等により一度に多くの従業員に対し情報共有する際、特定の従業員の人格や能力を否定したり、罵倒する内容を送信」を挙げている。「人間関係からの切り離し」では「Web会議に一人の従業員を参加させず、孤立させる」「特定の従業員からの連絡に応じない」といったことが該当する。

「過大な要求」には冒頭で紹介したような「チャットアプリやPCのカメラ等の常時接続状態にするよう要求し、監視する」「業務時間終了や残業の確認のために遅い時間にチャットアプリで呼び出す、Web会議を設定する」行為も入っている。またオンライン飲み会に関しては「部下から終了を告げづらい状態のオンライン飲み会で、上司が自分の話を聞くよう要求する」行為も入る。

「個の侵害」には「リモート会議中に部屋や同居の家族等を見せるよう、しつこく要求する」ことが該当する。前述した「彼女を見せろ、奥さんを出せ」といった事例は個の侵害に当たる。

また、意に反する性的言動により不利益を与えるセクハラ行為の事例として「1対1のWeb会議を設定し、『在宅勤務で太った?』『今日はすっぴんなの?』『パジャマが見たい』など、職場ではしない発言をする」行為が含まれる。

■証拠となる記録を残すことが重要

リモートワークの場合はオフィスと違い、たとえパワハラやセクハラ行為があっても1対1のオンライン面談や電話だと“密室”と変わらない状態ともいえる。問題が発生しても職場の同僚など第三者が見ているわけではなく、双方が言った、言わないというだけの曖昧な決着になってしまう可能性もある。たとえばオンライン会議の場合は録音・録画機能を使って証拠を残しておくのも1つの方法だ。

在宅勤務だと職場と違って緊張感が緩みがちになる。リモートワークでパワハラやセクハラを受けないためには決して気を許してはならない。前述した「精神的な攻撃」「過大な要求」「個の侵害」を受けた場合、今回の法律で義務づけられた会社の相談窓口に通報することだ。それでも聞き入れられない場合は都道府県労働局に相談することをお勧めする。その際、証拠となる記録を残しておくことも重要だ。

一般的に不況になり、企業業績が悪化するとパワハラ件数が増える傾向にある。コロナショックで業績が悪化するなかで今後はリモハラが増える可能性が大いにある。くれぐれも注意してほしい。

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溝上 憲文(みぞうえ・のりふみ)
人事ジャーナリスト
1958年、鹿児島県生まれ。明治大学卒。月刊誌、週刊誌記者などを経て、独立。経営、人事、雇用、賃金、年金問題を中心テーマとして活躍。著書に『人事部はここを見ている!』など。

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(人事ジャーナリスト 溝上 憲文 写真=iStock.com)

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