専門家が分析、自称イクメンでも保護者会やPTAに行きたがらない本当の理由
プレジデントオンライン / 2020年10月21日 8時15分
■「なぜ私だけが」と不満を感じる人も
子どもが小学生以上になると、親は保護者会やPTAといった集まりにたびたび出席しなければなりません。平日の午後に開催されることも多いため、フルタイム共働き家庭では、夫婦のどちらかが仕事を休んで出席することになります。
普通に考えれば、その日に比較的仕事の空いているほうが休むというのが妥当でしょう。ところが、実際には保護者会の出席者はほとんどが女性。PTAも会長だけが男性で、ほかは全員女性というケースが少なくないと聞きます。男性の育児参加が叫ばれている中で、なぜいまだにこうした状態が続いているのでしょうか。
ひとつには、夫は会社員で妻は専業主婦やパートという家庭が今も多いですし、その夫婦の組み合わせがベースとなってできた慣習が根強く存在していることが考えられます。この場合、夫が保護者会に出席するには有給をとらなければなりませんが、妻のほうは比較的時間の自由がききやすい立場。こうした家庭では、特に夫婦で話し合うこともなく、妻が出席するのが当たり前になっているのではと思います。
その「当たり前」にお互い不満がなければいいのですが、問題は不満があるのに話し合いをしないままでいる場合。特に夫婦ともにフルタイムで平日は会社だと、妻のほうに「なぜ私だけが」という思いが生まれてしまいがちです。
■「イクメン=未就学児童の父親」に潜む盲点
共働き家庭は増えてはいますが、その大半は依然として夫が大黒柱であり、妻は育児のために時短勤務というケースも珍しくありません。フルタイム勤務の場合でも、保護者会のための有給は女性のほうが職場に理解してもらいやすいという現状もあります。
また、最近は男性の育児参加が推進されていますが、ここでいう育児は主に未就学児童の親を想定したもの。皆さんも、イクメンといえば乳幼児や保育園・幼稚園児の父親というイメージがあるのではないでしょうか。
実際は、子育ては幼稚園を卒業したら終わりではなく、その後もずっと続きます。保護者会は中学や高校でも続きますし、最近では大学でも行っているぐらいです。そう考えると、本当の意味で男性の育児参加を推進するのなら、幼稚園までではなく小学生以降にも目を向けるべきだと思います。
■男の沽券に関わるから行きたくないのではない
ひと昔前に比べると、家事育児をすることに抵抗感を持つ男性はかなり減りました。スーパーで買い物をしたり、子どもの送り迎えをしたりする時に「男の沽券に関わる」と考えるような男性はあまりいないでしょう。
同じように、保護者会やPTAに対して「沽券に関わるから行きたくない」という男性も少ないはずです。なのになぜ、フルタイム共働きでも妻が出席する家庭がほとんどなのか。結局のところ、「面倒なことは妻に任せる」という昔ながらの体質が変わっていないからではないでしょうか。
子どもの学校の用事は、必要だとはわかっていても正直面倒なものです。そのために有給を申請し、上司に理由を説明するのもまた面倒な作業のひとつ。できれば自分ではやりたくない、妻に任せたい──世の夫たちがそう考えるのも無理はありません。
しかし、夫にとって面倒なことは妻にとっても面倒なのです。面倒さのレベルも子育てへの責任もまったく同じなのに、出席役が妻だけに押しつけられているとしたら、これは性別を理由とした不平等にほかなりません。「男は仕事、女は家庭」だった頃の古い慣習を引きずったものと言えるでしょう。
また、現状では小学校の保護者会やPTAは女性ばかりですから、夫にとってはいわばアウェイの場。実際、「夫に出席を促してみたら女性ばかりだから行きたくないと言われた」という話も聞きます。
■子どもが未就学児のうちに夫婦間に波風を立てたほうが良い
そのように“行きたくないオーラ”を出されると、誰が行くのかという議論そのものを避けてしまう女性が多いのではないでしょうか。意思を伝えて夫婦間に波風を立てるぐらいなら、自分が我慢すればいいと考えるからです。でも、それでは男性は不満に気づきませんし、意識を変えることもできません。いつまでたっても「面倒なことは妻任せ」から脱することができないのです。
保護者会は大学まで続きます。先々を考えると、むしろ今のうちに議論して波風を立てておいたほうが賢明です。そうでないと夫婦間のアンフェアはずっと続き、保護者会やPTAへの出席も妻だけが担っていくことになるでしょう。
■「俺のほうが稼いでいる」「忙しい」という夫への対策
ただ、夫婦間での話し合いもまた面倒なものです。特に夫が「自分のほうが稼いでいるんだから」「家族のために働いているんだから」「俺のほうが忙しい」と言ってくるような人だと、そこで話が終わってしまうこともあるでしょう。
日本ではいまだに男女で賃金格差があり、夫が大黒柱の家庭も少なくありません。稼いでいるほうが仕事に集中するというのは、家計の面から考えれば確かに合理的。でも、人生における価値は「稼ぐこと」だけではないはずです。
子育てに積極的に関わる生き方にも価値がある──。多くの男性がこうした意識を持つようになれば、育児分担にまつわる問題の多くは解消するでしょう。同時に、育児参加とは幼稚園を卒園したら終わりではなく、小・中・高・大学と続いていくことにも気づいてもらう必要があります。
コロナショックの影響で在宅勤務になり、子どもと過ごす時間が増えた男性も多いのではないでしょうか。この時間を、出社できないから価値がないと感じるか、子育てにしっかり関われるから価値があると感じるかは人によって異なります。その意味では、今は夫の子育てへの意識を確認するチャンスでもあります。
この機会に夫婦で話し合い、保護者会やPTAへの出席も育児の一環であるという意識を共有したいもの。そして、子育てにかかる手間や時間はただの「面倒」なのか、それとも大いに価値あるものなのか、夫婦で見つめ直すきっかけにしていただけたらと思います。
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大正大学心理社会学部人間科学科准教授
1975年生まれ。博士(社会学)。武蔵大学人文学部社会学科卒業、同大学大学院博士課程単位取得退学。社会学・男性学・キャリア教育論を主な研究分野とする。男性学の視点から男性の生き方の見直しをすすめる論客として、各メディアで活躍中。著書に、『〈40男〉はなぜ嫌われるか』(イースト新書)、『男がつらいよ 絶望の時代の希望の男性学』(KADOKAWA)『中年男ルネッサンス』(イースト新書)など。
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(大正大学心理社会学部人間科学科准教授 田中 俊之 構成=辻村洋子 写真=iStock.com)
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