「これからカラオケ店は大復活しそう」経済アナリストがそう考える理由
プレジデントオンライン / 2020年10月17日 11時15分
■“カラオケ喫茶”と“カラオケボックス”は全く別物なのに…
厚生労働省ならびに内閣官房新型コロナウイルス感染症対策室は、「カラオケボックスでのクラスターは発生していない」という旨のコメントを出しています。それにもかかわらず、「カラオケで飛沫(ひまつ)感染する」というイメージから、カラオケ店舗への客足が大幅に減っており、すでに全国で約1割の店舗が閉店に追い込まれています。
緊急事態宣言が発令されて以降、ほぼすべてのカラオケ店が営業の全面自粛を強いられ、東京都が8月3日から出していた時短営業要請が9月15日に解除されたあとも、復調の動きはなかなか見えない状態です。なぜ、ここまでカラオケ離れが進んだのでしょうか。
「カラオケでクラスターは発生しているでしょ?」。そう思った方がいるかもしれません。しかしクラスターが発生しているのは、「昼カラ」と呼ばれるカラオケ喫茶です。昼間にカラオケを楽しめる飲食店では、事実クラスターが発生しています。昼カラは、高齢者の居場所となっている側面もあり、「唯一の生きがい」と言う人もいます。
昼カラに絡む感染は6月に北海道で発生し、千葉県や石川県でもクラスターが発生。8月には北九州市でもクラスターが発生しています。
カラオケ喫茶は“喫茶店”であって、密室のカラオケボックスとは、そもそもお店の構造が違います。カラオケ喫茶は窓を開けて換気できる建物であり、必然的に換気扇の力は小さくていいわけです。ただ、騒音による近所迷惑を考えると結局窓を閉めることになります。どうしても閉鎖空間になり十分な換気ができないことからも、感染のリスクはかねて指摘されていました。
■新幹線並みの速度で換気が行われている
昼カラでクラスターが発生したという事実と、カラオケボックス自体が密室で飛沫(ひまつ)が飛び交うイメージがあることから、「カラオケ」のイメージ全体が悪くなっているのです。いくらカラオケボックスの換気設備が整っていても客足が戻りにくい理由の一つになっているのでしょう。
では、密室のカラオケボックスはカラオケ喫茶より、どういった点で安全なのでしょうか。カラオケボックスは防音のために窓が無く、いかにも密室です。しかし、実はそういう構造だからこそ建築基準法でかなりの換気設備を要求されており、実際は基準以上の換気を実現している場合が多いのです。
全国カラオケ事業者協会のウェブサイトには、コロナウイルス感染症対策で知られる藤田医科大学医学部の吉田友昭教授のコメントとして、「カラオケボックスでは通常の法的基準の約3~4.5倍、新幹線並みの非常に速い速度での換気が実現されている」と書かれています。換気が整っている理由は、食事の臭いなどを次の利用者に感じさせないためだったようですが、こうした設備が整っていることから、カラオケボックスではクラスターが発生していないと考えられます。
全国カラオケ事業者協会のサイトには、スモークを用いた実験結果が掲載されています。これをみると、スモークが毎秒20~40cmの速さで舞い上がってく様子が確認できます。
■生活に支障をきたさないカラオケは客足の戻りが遅い
ただ、事業者がどれだけ安全性をアピールしても、心理的な不安の払拭は簡単ではありません。また10月1日から動き出した飲食店支援事業の「Go Toイート」でもカラオケは除外されています。国が後押しするキャンペーンの対象から除外されていれば、消費者の気持ちは動きにくいといえるでしょう。
一方で、同じ余暇消費にあたる、ネイルなどを含む理美容サービスは客足が戻り始めています。日経MJは全国の消費者1000人に調査した結果として、「8月の利用者は16.8%と、19年に平均月1回以上利用した割合を2.6ポイント上回っている」と伝えています。
余暇消費の回復にも、順番があるのです。まずは外食需要が戻り、髪の毛やネイルなどの飛沫(ひまつ)感染がしにくいもので、かつ、生活に密着しているものへも徐々に需要が戻り始めています。余暇消費のなかで、生活に支障をきたすとまでは言えないスポーツジムやカラオケなどが順番としては最後になってしまうのでしょう。
■政府の後押しがあれば消費は戻る
余暇消費が復活するためには、国民の感情が緩和される必要があります。日本人のマインドを考えると、そのためには政府の後押しが重要です。たとえばオリンピックが開催されることになれば、一転するきっかけになるかもしれません。
観光庁は、7月22日から9月15日までのGo Toトラベル事業における利用実績について、利用人泊数は少なくとも約1689万人泊、割引支援額は少なくとも約735億円と公開しています。政府が、「GoToトラベルキャンペーン」によって、旅行や移動を推し進めることで、これだけの効果が出たわけです。政府の後押しがあれば、日本人は活発に消費するのです。
Go Toイートの経済効果は6000億円規模であり、東京の追加でGo Toトラベルは年間7700億円の個人消費の押し上げ効果が期待されています。
カラオケはキャンペーンの対象外ではあるものの、クラスターが発生していないことや換気が優れているといった安全性の認知が浸透することで、利用者が戻る可能性があります。
■「ワーキングスペース」としての活用は生き残り策になるのか
その他、自宅での作業がしにくい会社員がカラオケ店でリモートワークをするといった使い方もあります。例えば、ビッグエコーでは法人向けに、ソフトドリンク飲み放題付きの60分で、1名利用500円、6名以上の会議で2500円という「テレワークプラン」を打ち出しています。
カラオケ店に昼間から入店することに抵抗感が強い方も多いかもしれませんが、この辺りも、世の中の「当たり前」が変化することで「普通」のことになるかもしれません。
事実、音楽とは関係のない使い方をしている人も多いのです。カラオボックスを「歌わない」で利用したことがある人は42%に及ぶといった調査結果もあります。カラオケボックスの施設数は全国で9344施設、ルーム数は12万9200ルームで、「個人が自由に使える空間」としてのポテンシャルはとても高いと思います。
個人で利用する場合は料金体系も手頃なことが一般的です。例えば、ビッグエコー八丁堀店であれば、フリータイムの一般料金は990円(税込)である一方で、ひとりカラオケの料金は会員の場合で880円(税込)です。時間貸しのワーキングスペースだと考えれば、ずいぶんとリーズナブルな価格です。
■カラオケボックスはコンサート生配信と相性がいい
カラオケボックには「暗い」というイメージもありますが、今は自宅のような明るい部屋もあり、プライベート空間としても楽しめるようになっています。また大画面と大音量を提供する設備があるため、コンサートの生配信を鑑賞する「ライブビューイング」としての利用も期待できます。
友達と同じ時を共有する「コト消費」への需要がますます高まるなか、身近にあるプライベート空間であるカラオケルームを、自由なカタチで活用する潜在的需要はあるでしょう。
安全性の認知度が高まることで、この先、オリンピックの開催時にはパブリックビューイングとしての活用も考えられます。
コロナ禍のカラオケボックスは「世間の思い込み」で打撃を受けました。ですが、新たな使い方を打ち出していくことで苦境を打開しようとしています。既存の価値観があっという間に変化していくいまの時代に何が当たり前になるか分かりません。
個人も企業も新しい生活様式のなかで、新しい情報を常にアップデートして前に進んでいくことで、ミライが開かれるのです。
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経済アナリスト
認定テクニカルアナリスト。京都大学公共政策大学院を修了後、法人の資産運用を自らトレーダーとして行う。その後、フィスコで上場企業の社長インタビュー、財務分析を行う。
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(経済アナリスト 馬渕 磨理子)
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