オンライン会議で「相手の目を見てしっかりうなずく」がNGな理由
プレジデントオンライン / 2020年10月21日 11時15分
※本稿は、野村絵理奈『オンラインで伝える力』(ポプラ社)の一部を再編集したものです。
■生の歌舞伎にはない「リモート歌舞伎」のメリット
対面でも同じことが言えますが、コミュニケーションをとる際に、相手と目線を合わせることはとても大事です。
そして、目線を合わせることに関しては、ある意味オンラインの方が対面よりも簡単かもしれません。
対面で相手が複数いる場合、目線を合わせたくてもすべての人の目を見て話すのは不可能ですが、オンラインの場合なら、テレビのアナウンサーがそうであるように、カメラ目線で話すことで、一斉に画面を見ているすべての人と目を合わせることができるからです。
2020年の6月に、Zoomを使った史上初の〈図夢(ズーム)歌舞伎〉が上演されましたが、その際も、舞台上の役者さんたちがカメラを見るたびに、観客は自分と目を合わせてくれたように感じ、それによってグイグイ引き込まれたという声が多く上がったのだそうです。これはまさに、生の歌舞伎にはない、リモート歌舞伎ならではのメリットの一つだと言えるでしょう。
また、相手の目を見て話すということが苦手だという人でも、オンラインの場合は、実際に見るのはカメラなので、そのハードルはグッと下がります。
視線を合わせるタイミングは、自分が話し終わるタイミングや資料が変わるタイミング、問いかける時などがおすすめです。これなら自然に相手と目線を合わせることができますし、信頼感や親しみといった印象を効果的に与えることができます。
■オンラインでの「何気ない目線そらし」は誤解を招く
また、目線を合わせるのと同時に、語尾に気持ちをのせ、相手の側にそっと置くような意識をもつと、さらに効果的です。このテクニックは相手に質問をする際にも使えます。慣れるまでは、難しいと感じるかもしれませんが、目線を合わすテクニックと同様に相手との心理的な距離を縮めるという意味でもとても有効なテクニックです。
一方目線に関するデメリットとしては、その乱れが対面以上に気になる点が挙げられます。
対面で話しているときなら、たとえあなたが相手の後ろにある絵画や窓の外の風景、時計などを見たとしても、相手はさほど気になりません。あなたが何を見ているか理解ができるため、その意図を相手も察することができるからです。窓の外を見ていたら「風景が気になるのかな」と考えますし、時計を見る様子が目に入れば「そろそろ時間かな」など、目線の先にあるものから、あなたの気持ちを相手も推察することができるのです。
しかし、オンラインで話している時に、あなたが何気なく視線をそらした場合、相手は何を見ているのかの想像がつきません。そのせいで、全く関係のないところを見ているように伝わり、話に集中していないかのような印象を与えてしまいかねないのです。
それを防ぐためにもオンラインでは目線の配り方に配慮し、手元の資料を見ている、メモを取っている、画面で共有された資料を見ているなど、相手から見て、あなたが何を見ているのかがきちんと伝わるようにしましょう。
■相手の目を見てうなずいても意味がない
また、オンラインの場合は特に、話し手側は相手がちゃんと聞いてくれているかどうかが気になるものなので、傾聴時は「きちんと聞いている」ということを伝えるためにも、話している相手と目線を合わせる意識をもつほうが良いと思います。相手と目を合わせているつもりで、画面に映る相手の目を見ながらうなずいている人が時々いますが、すでにお話ししたように、カメラを見なければ目線は合いません。
感覚的に目が合っているように勘違いしがちなのですが、時折画面から目線を外し、PCカメラを見るようにしないと、相手からはあなたがずっと目を伏せているように見えてしまうので、注意してください。
このようにオンラインの特性を利用した目線の配り方を身につければ、オンラインにおける〈印象力〉を高めることができるでしょう。
■何度も聞き返されてしまうときの対処法
ごく普通に話をしているつもりなのに、相手に何度も聞き返されてしまうといった悩みをよく聞きます。
このような悩みは、対面に比べて音声も聞き取りにくくなるというオンラインにおいては、さらに顕著になります。
つまりオンラインの場合、相手の立場に立ち、聞き取りやすさに配慮するなら、対面で話すとき以上にクリアに発音する必要があるのです。
ポイントは、対面の時よりも、口を大きく開けてゆっくり丁寧に発音することです。「ボソボソ、モゴモゴ話す」という言葉があるように、口の動きが小さいと、音が口の中にこもってしまい聞き取りにくい発音になります。
また、口の開きは、母音を決定するため、正しい口の形で発音しないと、違った音に聞こえたり、メリハリのない発音になってしまいます。反対に、口を大きく開けて発音すると、口の中に音がこもらずしっかりと外に音が出ていくため、聞き取りやすくメリハリがつくだけでなく、明るい印象の話し方になります。また、オンラインでは複数の相手に向かって話すことも多くなるため、一度で聞き取れるスピードで丁寧に話すことを心がけることも大切です。
■オンラインでは「ファ」の音のトーンで話す
次に声の出し方ですが、高すぎる声はマイクを通すとキンキンとうるさく聞こえるので注意しましょう。
対面の場合なら、明るい印象を与えるために、第一声は音階でいうところの〈ソ〉のトーンで話すことをおすすめしていますが、オンラインでは少し高すぎます。また高音で話すと自然に声も大きくなってしまうという人もいますので、オンライン上では少し高さを抑えた〈ファ〉くらいのトーンを意識すると良いでしょう。小声でそっと「♫ドレミファ」とうたってみれば、〈ファ〉のトーンは見つかります。
また、表情を伝えるのが難しいオンラインでは、やる気や熱意も伝わりにくく、自分では普通に話しているつもりでも、不機嫌な印象を与えてしまう危険性もあります。
私はアナウンサー1年目に、ニュースの中の生中継のコーナーを担当していました。毎週、中継現場から、季節の話題などその時の旬の話題を中継するのですが、最も苦労したのが、現場の感動をそのまま視聴者に伝えることでした。
例えば、桜の名所から桜の美しさを伝えるとき、家でテレビの前にいる視聴者が現地で実際に桜を目にしているかのように感じさせるのがアナウンサーの役割です。そのためには、映像にのせて自分が受けた感動を言葉で表現して伝えねばなりません。ところが、実際に中継のVTRを見返してみると、私が受けた感動はまるで表現できておらず、むしろ淡々と伝えているようにさえ見えました。
■画面越しでは3倍増しのテンションで
その後も同じようなことが続き、「一体、何が悪いのだろう」と悩んだ私は、中継の上手な先輩に相談してみることにしたのです。
「中継では、私がその場で感じた感動をそのまま表現しようと頑張っているんですが、どうもうまく表現できなくて……」
するとその先輩は、こうアドバイスしてくれました。
「そのまま表現するから伝わらないんだよ。カメラを通して、自分の感動をそのまま伝えるには、3倍くらいオーバーに表現しないと伝わらないよ」
その場にいるわけでもない、自宅で何気なくテレビを見ている人の心をつかみ、そのままの感動を伝えるためには、3倍増しの表現が必要だということに、私は初めて気が付いたのです。
ビジネスでのやる気や熱意をテンションと言い換えるなら、オンライン上では自分が表現したテンションのうちの3分の1くらいしか伝わらないと思ってください。だからこそ、自分の思いを温度差なく伝えようと思えば、「テンション3倍」を心がける必要があるのです。
■テンションUPでも声は落とす
テンションを上げる時に、注意しておくべき点があります。それは声の大きさです。
テンションを上げてください、というと、ほとんどの方が大きな声を出そうとします。対面の場合なら大きな声も自分の熱量を伝える要素になりますが、オンラインの場合は、声が割れてしまったりして、それが聞き苦しさにつながります。
テンションを上げようとすると、声も大きくなる傾向は確かにあるので、オンラインコミュニケーションでは、気持ちが盛り上がってきた時こそ、あえて声を落とす意識をもつことが大事だとも言えます。実際に、大きな声を出さなくてもテンションを上げることはできます。
例えば、テレビやスクリーンを通しても、その役を演じる役者さんが醸し出す感情はひしひしと伝わってきます。だからといって、必ずしも大きな声を出しているわけではありません。ときにはひと言も発しないことさえあります。つまりうまい役者さんほど、気持ちだけを上げるスキルをもっているのです。言葉には、〈言霊(ことだま)〉という不思議なパワーが内在しています。言葉とは単なる音声表現ではなく、伝えたいというエネルギーがそれにのせられることで初めて伝わるものなのです。
そんなの思い過ごしでは? と思うかもしれませんが、対面においても、伝えたいというエネルギーを言葉にのせることを意識して話すようにすると、普段よりずっと伝えたいことが伝わりやすくなることを感じるはずです。オンラインの場合は、そのエネルギーを3倍にする必要があるということなのです。
また、声と同じくテンションに引っ張られ、ジェスチャーが増えてしまうことにも注意が必要です。頻繁な手の動きや雑なジェスチャーはノイズとなり、小さな画面の中で強調され、相手はそれが気になって話に集中できなくなってしまいます。
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元NHKキャスター、気象予報士
1975年、兵庫県生まれ。同志社大学法学部を卒業後、NHKキャスター、気象予報士を経て2005年KEE'Sを設立。独自の教育メソッドを確立し、これまで5万人以上にコミュニケーション、話し方、プレゼンなどの企業研修を行っている。著書に『年収を2倍にしたければその話し方を変えなさい』(ポプラ社)など。
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(元NHKキャスター、気象予報士 野村 絵理奈)
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