岡村隆史さんの「年の差婚」を羨ましがる中年男性に降りかかる現実
プレジデントオンライン / 2020年10月30日 18時15分
■芸能人は「年の差婚」が多い?
ナインティナインの岡村隆史さんが、10月22日深夜のラジオ生放送で、自身が結婚したことを報告しました。50歳で初婚の岡村さんに対して、お相手は30代の一般女性と報道されているので、少なくとも10歳以上の年(とし)の差婚となります。
半年ほど前、自らの発言が炎上した岡村さんですが、皮肉にもその出来事がきっかけとなり、落ち込む彼を彼女が支えてくれたとのこと。それが今回の結婚に結びついたようです。ネット上でも、祝福の声が相次ぎ、好意的に受け取られました。中には、「あの岡村でさえ50歳で30代との年の差婚ができたんだから、俺にもワンチャンある」と希望を見いだした同年代の未婚男性もいることでしょう。
さて、現実はどうでしょうか?
芸能人の結婚報道において、よくこの「年の差婚」が取り上げられることがあります。
確かに、過去においても、俳優の西島秀俊さんは43歳で、16歳下の一般女性と、俳優の福山雅治さんは46歳で、女優の吹石一恵さんと13歳の年の差婚をしました。お笑い芸人の千原ジュニアさんも41歳で、18歳年下の方と結婚されています。
こう書きだすと、芸能人には「年の差婚」が多いイメージを抱きがちですが、それは注目度が高いがゆえの単なる錯覚です。芸能人であったとしても、決して「年の差婚」が多いというわけではありません。
■未婚の多さは「若者の結婚離れ」ではない
日本では「未婚化」が進んでいます。2015年国勢調査時点で、男性の生涯未婚率(50歳時未婚率)は23.4%、女性は14.1%で、2040年には、これが男性3割、女性2割に増えると推計されています。つまり、50歳まで未婚のまま過ごす人がそれだけいるということであり、50歳まで未婚の人はその後も結婚する可能性が極めて低いのです。
同時に、晩婚化も進んでいます。皆婚時代だった1970年代と比較すれば、40代以上で初婚の男性の数は増えています。しかし、これは中年男性が結婚しやすくなったわけではなく、単純に昔と比べて40代以上の未婚男性の絶対数が増えたからです。
未婚というとどうしても若者を想起しがちです。「イマドキの若い男は草食化している」などという意見もそれを反映したものでしょう。ところが、それも事実と反します。未婚者は、もはや若者だけではありません。
男性の20~30代の若者未婚数と40代以上の中年未婚数との比率を比較すると、1955年には、若者未婚が中年未婚の44倍もいましたが、2015年ではそれがわずか1.5倍と、その差はかなり接近しています。そのうち、40歳以上の未婚人口が若者未婚を上回ります。
日本の未婚化問題とは、もはや未婚おじさん問題となりつつあるのです。
■「夫が年上」のパターンは激減している
そもそも、日本の婚姻において、夫が年上である「夫年上婚」は激減しています。
厚労省の2019年人口動態調査によれば、この年の婚姻数は59万9007組でした。2018年と比較すると「令和婚効果」のおかげで、若干増えましたが、婚姻数がもっとも多かった1970年代と比べるとその数はほぼ半減しています
また、初婚数だけを抽出すると、2019年は33万9418組で、これも1970年の初婚数と比べれば、半減どころか57%減少、組数にして約44万組も減っています。この激減の原因の大半が「夫年上婚」の減少なのです。
1970年から2019年までの婚姻の組み合わせ推移をみれば、それは明らかです。全体の婚姻数が大きく減っているのに対して、実は「夫婦同い年婚」および「妻年上婚」の数は、婚姻数が多かった皆婚時代とほぼ変わりません。大きく減少しているのは夫年上婚だけなのです。
1970年と2019年を比較すると、日本の婚姻数(再婚含む)は約44万組減少しているのですが、それは前述した通り、「夫年上婚」の減少と完全一致します。つまり、日本の婚姻が減った最大の要因は、年上の男性が結婚できなくなったからだとも言えます。
■「お見合い」が盛んな時代は多かったが…
これは、いわゆる「見合い結婚」の減少とリンクします。戦後からしばらくは、「見合い結婚」が7割以上を占めていました。「見合い結婚」と「恋愛結婚」の比率が逆転したのが1965年ごろです。その後、伝統的な「見合い結婚」は全体の5%台まで落ち込みます。この「見合い結婚」の減少と「夫年上婚」の減少とは強い正の相関にあります。
言い換えれば、戦後から1980年代まで「夫年上婚」が多かった要因は「お見合い」によるものだったと推測できます。今後、伝統的な見合いによる結婚が増えるとはとても考えられません。よって、今後はより一層「夫年上婚」は減少し続けるでしょう。
芸能人の特別な事例が印象的であるため、「若い女性との年の差婚をする中年男が増えている」と錯覚するようですが、そんな事実は存在しません。むしろ年を取った男性はどんどん結婚できなくなっていると考えるべきでしょう。
結婚において「女の上方婚志向、男の下方婚志向」とよく言われます。これは、女性は、自分より収入や年齢や学歴が上の男性と結婚したがり、男性はその逆であるということです。もっと単純化すると、女性は自分より年収が上の男性との「玉の輿婚」を希望し、男性は自分より年齢が下の女性との「トロフィーワイフ」を希望するというものです。身も蓋もない言い方をすれば、結婚とは「男の年収と女の年齢とのトレードオフ」なのです。
■10歳以上若い女性と結婚できる割合は0.2%しかない
しかし、すべての結婚がそうとはなりません。高収入男性と結婚できる未婚女性は決して多くありませんし、実は理論上も不可能です。2017年就業構造基本調査によれば、年収400万円以上の未婚男性は、20~50代まで年齢層を広げても3割もいません。7割は300万円台なのですから、どだい無理なのです。
同時に、若い女性と結婚できる中年未婚男性もごくわずかです。2019年の人口動態調査で、40~59歳までの未婚男性が初婚で10歳以上年の若い女性と結婚できる割合は、たったの0.2%。1000人に2人しかできません。芸能人になる確率よりは楽かもしれませんが、通常では可能性は低いということになります。
晩婚化とはいえ、今でも初婚においては、男性は5割以上、女性は6割以上が29歳までの結婚で占められています。その多くは、同い年くらいの相手と、同じくらいの収入の相手と結婚しています。現実の結婚は、年齢も収入も近い「同類婚」が増えているのです。年齢および収入の同類婚が増えるということは、有り体に言えば、貧困同士、裕福同士の同い年カップルばかりになっているということです。「玉の輿」も「トロフィーワイフ」も一部のごく少数の人にしか実現できない「現代のおとぎ話」にすぎないのです。
おとぎ話の虚構をいつまでも追い求めて、高年収の男を探し回る女性と、「若い女」に執着しすぎる男性だけがいつまでも結婚できないことになります。
■「男も女も実は結婚したい」のウソ
とはいえ、世の中のすべての男女が「結婚したい」と思っているわけではありません。メディアではよく「結婚したい男女は9割」などと報道されますが、あれは事実と反します。
このデータは、出所が厚労省「出生動向基本調査(対象18~34歳)」によるものですが、選択肢が「いずれ結婚するつもり」か「一生結婚するつもりはない」の二者択一です。どちらかを選べと迫られたら、現段階で「一生結婚するつもりはない」という強い意志をすでに持つ人以外は、「いずれ結婚するつもり」を選ぶしかなくなるのではないでしょうか。
また、同調査ではこの後に、詳細を聞いています。「いずれ結婚するつもり」を選んだ人に対して、「1年以内に結婚したい」「理想の相手ならしてもよい」「まだ結婚するつもりはない」のいずれかを回答させているのです。これら2つの回答をまとめた未婚男女の結婚意思を数値化すると、「結婚に前向き」なのは男性4割、女性5割程度におさまります。この傾向は同調査でほぼ30年間変化がありません。
つまり、実質「結婚したい」と思っている未婚男性は、半数にすぎないわけで、「9割が結婚したい」という不正確なデータだけを切り取って、「みんな結婚意欲はあるのにできない男たち」みたいな印象を作り上げようとしているとしか思えません。
■「1人は寂しい」と思う独身男性ほど注意
僕は、かれこれ独身者を延べ10万人以上調査していますが、個々人によって「ソロ生活耐性」というものがあることが分かりました。「誰かと一緒にいないと寂しい」と思う者と「1人でいても寂しくない」と思う者は、未婚男女とも大体半々です。「誰かと一緒にいないと寂しい」という男女ほど結婚意欲は高いようです。
後者のソロ生活耐性のある人間は、独身だろうが1人で生活していようが、快適以外の何ものでもないのですが、前者の人間は、無理してでも若いうちに結婚しておいたほうがいいと思います。
よく若い未婚男性が「金がないから結婚できない」と言いますが、それこそ「女は上方婚だ」という呪縛にとらわれている証拠です。百歩譲って、金を稼げるようになってから、40歳を過ぎて結婚しようと思っても、その時には女性から選ばれなくなってしまいます。「金があっても結婚できない」状態になります。「誰かと一緒にいないと寂しい」というソロ生活耐性のない人にとって、これはしんどいのではないですか?
繰り返しますが、「年の差婚」は、おとぎ話です。幻想です。
最後に、故樹木希林さんの名言を置いていきます。
「結婚なんて若いうちにしなきゃダメなの。物事の分別がついたらできないんだから」
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コラムニスト・独身研究家
ソロ社会及びソロ男女を研究するソロもんラボ・リーダー。早稲田大学法学部卒業。博報堂入社後、自動車・飲料・ビール・食品・化粧品・映画・流通・通販・住宅等幅広い業種の企業プロモーション業務を担当。独身生活者研究の第一人者として、テレビ・ラジオ・新聞・雑誌・Webメディアなどに多数出演。著書に『結婚滅亡』(あさ出版)、『ソロエコノミーの襲来』(ワニブックスPLUS新書)、『超ソロ社会―「独身大国・日本」の衝撃』(PHP新書)、『結婚しない男たち―増え続ける未婚男性「ソロ男」のリアル』(ディスカヴァー携書)など。
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(コラムニスト・独身研究家 荒川 和久)
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