「Google出身で資産は100億円」ビジネス系YouTuberはなぜウソをつき続けられたのか
プレジデントオンライン / 2020年11月7日 11時15分
■「自己紹介」のほとんどがウソではないかという疑惑
10月、ネット上で一人のビジネス系ユーチューバーに経歴詐称疑惑の声があがった。
YouTubeチャンネル登録者数37万人を数える「竹花貴騎MUPビジネスカレッジ」を運営する竹花貴騎氏だ。
竹花氏は海外の大学を卒業後、Googleに入社。東証一部上場企業グループの海外拠点の最高執行責任者(COO)やリクルートを経て独立し、2017年にLimを設立した。
その後「Google出身者が開発」を売りにしたインスタグラム集客ツールを販売(現在は売却)。現在は国内外に複数の拠点を持ち事業を展開するほか、MUPビジネスカレッジというビジネススクールを立ち上げ、数万人の会員を持っている。28歳にして資産は100億円を超えている。
さらに、竹花財団という財団を作り、アジアの恵まれない子供たちを支援するほか、故郷の東村山市に1億円の寄付をするなど社会慈善活動にも熱心に取り組んでいる経営者である。
……と、ここまでの話は彼がMUPの会員たちに向けて話していた自己紹介だが、その内容のほとんどがウソではないかという疑惑がネット上で持ち上がったのだ。
Twitterでビジネス系インフルエンサーとして知られる田端信太郎氏が竹花氏に問い合わせたところ、Googleは業務委託で働いていたことが発覚。
さらに、バリに所有するとされた別荘は民泊で7万円で借りられる物件で自己所有のものではないことが明らかになったほか、海外事務所の写真はすべて合成写真で、竹花財団が運営している学校も、別の団体が運営している学校であることがわかったのだ。
次々に明らかになる竹花氏の嘘の経歴に、「竹花氏の経歴詐称は極めて悪質」と語るのはかつて青汁王子と世間から呼ばれ、年商130億円の企業を経営していた三崎優太氏だ。竹花氏は自身のSNSで、同じ若手経営者である三崎氏のフォロワーを中傷するような発言を繰り返していた。
三崎氏は、今回の竹花氏の経歴詐称には、より重要な「本質的問題」があると話す。
■実績を偽って商品を売っていた
【三崎優太氏】竹花氏の経歴詐称疑惑が持ち上がったのは今から3週間ほど前のことですが、以前から私は彼の業績について疑念を持っていました。
YouTubeチャンネルでは「世界数カ国で事業を展開」と謳っていましたが、彼の事業内容を見ても現実的ではないと思っていたのです。
そこで、彼の経歴について一度詳しく調べてみようと思った時に、今回の騒動が発生しました。
現在、竹花氏は経歴についてもっとも批判が浴びせられていますが、それよりも元Googleと言って商品を売っていたことが最大の問題と言えるでしょう。
さも、よい商材である根拠を「Googleにいた」という経歴で担保していたからです。
むろん、今回の経歴詐称は刑事罰に値するものではないのかもしれませんが、海外拠点も実態が怪しいものばかりで、いわば実績を偽って商品を売っていたという意味では限りなく詐欺に近いと言えるでしょう。
■完全犯罪の一歩手前だった竹花貴騎氏
ただ、今回の竹花氏の経歴詐称について一つ勉強になったことがあります。
それは、いまのネット社会において、経歴を偽って作り込めば、数万人の人は騙せて、ビジネススクールを立ち上げるまでの教祖になれるということです。彼は虚像でここまで利益をあげることができてしまったのです。
おそらく、彼はその虚像をこれから実像に変えようとしていたのではないでしょうか。
実態のないビジネスをMUPの売り上げで新規事業として始め、さらにその利益で本当に海外にオフィスや別荘を構え、寄付をする。
その道半ばで今回の経歴詐称が発覚してしまった。
その意味で、彼は虚像を実像に変えるという完全犯罪の一歩手前だったと私は考えます。あと1年この嘘がバレなければ、竹花氏は東村山市以外にも寄付先を増やし、収益を増やして本物の経営者になっていたかもしれません。
しかしそのプロジェクトはネット上の一人のビジネスインフルエンサーの目に止まり、頓挫してしまったのです。
結果として、彼がオーナーを務めるLimの海外支社のオフィス写真は合成で、
■なぜ今まで竹花氏の経歴詐称はバレなかったのか
しかし、ここで一つ素朴な疑問が生まれないでしょうか。
なぜ彼はここまで経歴詐称がバレなかったのでしょうか。
それは、彼が主戦場としているのがTwitterではなくインスタグラムとYouTubeだったというのが挙げられます。
インスタグラムは、リツイートがないためTwitterに比べて拡散されにくいSNSです。
いわば、興味を持った人だけをフォローし、興味を持った人の投稿だけを見るSNS。しかも、“インスタ映え”という言葉に象徴されるように、自分を盛ることを目的とした投稿が多いのです。
いわば、背伸びした投稿が当たり前のメディアと言うことができるでしょう。
そんな「背伸び投稿」をしていれば、Twitterならばすぐにツッコミが入ります。
しかし、インスタグラムは雰囲気が重視されるSNSであるためそんなツッコミが入らないばかりか、盛っている世界観を構築しやすいのです。
事実、竹花氏のインスタグラムの投稿を見ると、東南アジアの高級リゾートホテルで過ごす姿など「成功者の象徴」のような写真が目立ちます。
簡単に言えば、彼は「インスタ映え」する写真を載せ続けていたので、インスタグラムを通して竹花氏を知った人は、彼に憧れて“信者”になった可能性が高いのです。
さらに、彼のYouTubeチャンネル「竹花貴騎MUPビジネスカレッジ」は国際色豊かであることを顕示するように、プライベートジェットで世界を渡り歩くシーンを挿入しています。最後は外国人男性が不必要に英語で話し、チャンネル登録を促してきます。
一口で言えば、他のYouTubeチャンネルに比べて竹花氏のそれは「海外っぽさ」を雰囲気として醸し出している。この、「なんとなく金持ち」「なんとなく海外で活躍してそう」「なんとなくお金を持っていそう」といった“なんとなく”のコンテンツこそが彼の影響力の本質だったのです。
■竹花氏はTwitterの使い方があまりにも下手
その点で、今回経歴詐称疑惑を指摘した田端信太郎氏がTwitterで人気を集めている事実と比較すると、竹花氏はとても対照的な存在と言えます。
竹花氏は真面目にツッコまれることに慣れていないのです。
それを裏付ける事実として、竹花氏はTwitterの使い方があまりにも下手という点が挙げられます。彼はこの炎上以降、批判的なTweetやリプライをするアカウントはすべてブロックし、都合の悪い情報をすべてシャットアウトしています。
しかし、Twitterはブロックをされたアカウントが「この人にブロックされた」とツイートする傾向があり、「都合の悪い声は耳を傾けない」ということがむしろ露呈され、火に油を注ぐことになってしまうことが多いのです。
そして、竹花氏も現在同じ道をたどっています。
そもそもの経歴詐称に注目が集まったきかっけは、彼がYouTubeチャンネルで私や、堀江貴文氏や田端信太郎氏など大物ビジネス系インフルエンサーに対しなりふり構わず批判的なコメントをし、かみ付いていたことが大きいと言えるでしょう。
その批判こそが、Twitterで積極的に発信する私たちの目に留まり竹花氏の実態を調べるきっかけになってしまったのです。
■「海外で活躍」は実績を検証しにくいのでウソがバレにくい
他にも彼の嘘まみれの経歴がバレなかった理由はあります。
それは、彼がビジネスの拠点を海外に置いていると言い張っていた点です。
国内でビジネスを展開している場合、共通の知人がいたり、商品を見ればどれだけ普及している(普及していない)のかを確かめることができます。
が、香港など海外での収益が大きいと言われれば日本国内で売り上げが少なくても怪しまれることはありません。
他には、学歴についても海外留学をしていたと言われれば簡単にその真偽を確かめることができません。竹花氏はハワイ大学卒と名乗っていましたが、実態は語学学校の短期コースを受けていただけという指摘が現在なされています。
どうやら、日本人はなんとなく「海外で活躍している」という話に弱いのです。
他にも、プレスリリースで自社サービスの売却を発表しているため、事業の実態があると感じてしまう点も挙げられるでしょう。
■怪しい経営者はどう見抜くか
では、今後第二、第三の竹花貴騎氏が出てきた場合、どのようにして嘘の経歴を見抜けばよいでしょうか。
私が実際に行っている対策として、まずネットで会社名を検索するのをおすすめします。実態があり、売り上げもそれなりに立っている会社ならば、転職サイトの口コミ評価が出てきたり、他媒体から取材を受けた社長や社員のインタビュー記事も出てきます。
これが自社が発信する情報のみだった場合、かなり怪しいと判断すべきです。
さらに、私のような経営者の場合、取引しても問題ないかを確かめるべく、帝国データバンクで調査票をとって企業の利益と売り上げの額を把握したり、外部投資家が入っているかなどをチェックします。
ここで雇われ社長だったり、売り上げがほとんど立っていない企業の場合はほぼ黒と判断します。中には、情報開示自体を断っている企業もあり、こういった企業はまず取引はしません。
現在の竹花氏の場合、嘘を嘘と認めないばかりか、うやむやにしようとしている態度をとっています。典型的な“怪しい経営者”と判断できます。
■竹花貴騎氏は今後再起できるのか
では、今後竹花氏にはどのような未来が待っているでしょうか。
私の近著のタイトルは『過去は変えられる』(扶桑社)ですが、彼はイメージ悪化という「過去」を変えることができるのでしょうか。
それは、竹花氏が今回の騒動についてMUP生にしっかりと謝罪できるかにかかっているでしょう。
しかし、現時点で竹花氏はYouTubeやインスタグラム、Twitterで本件について一切真剣に謝罪していません。
彼はTwitterやYoutubeで経歴詐称に関する投稿はしているものの、そのどれもがふざけた調子で話しているもので、ビジネスを行っている者とは思えない不誠実さです。
ちなみに、謝罪動画については先週まで公開されていましたが、11月4日現在はその動画は削除されています。
彼はすでに火消しに走り、経歴詐称による炎上をなかったことにしようとしているのかもしれません。
ここ最近の有名人のスキャンダルを見ると、「まず謝る」をしないばかりに、問題を長引かせて復帰が遅れてしまうというケースがとても多い印象があります。
もはやここまで自分の経歴を偽ってビジネススクールを開けたのだから、謝罪後は開き直って、すべての疑惑を説明し、宗教法人をやってもよいかもしれないとすら私は思います。
私も過去に知人の詐欺に巻き込まれ、架空の広告宣伝費を計上し、約1億8000万円の脱税で有罪判決を受けました。そこに至るまでに体験したのは、国税局からの常軌を逸した鬼気迫る取り調べでした。「三崎さんはいつも高級なお店で食事をしていますよね。俺なんていつもコンビニ弁当なのに」とこぼす調査官からは、職務以上の私怨を感じました。私がふだん散財をメディアで披露していたからでしょう。周りの経営者も、「あれくらいの金額なら修正申告で済むはずなのに」と不思議がっていました。
「派手な生活ぶりをメディアやSNSで喧伝して失敗した」という点で、竹花氏と私は共通しています。私は国税局から恨みのこもった取り調べを受けましたし、竹花氏は実態とのギャップの大きさで大炎上しました。だからこそ、私は竹花氏に物申したいのです。
私は現在執行猶予中の身ですが、贖罪として100万円を180名に配ったり、新型コロナウイルスの影響で夢を閉ざされた学生や起業後苦難に立たされている若手経営者などを対象に支援を行ったりと、更生へ向けてさまざまな取り組みを行っています。ぜひ竹花氏もまずは謝罪をして、「過去を変える」第一歩を踏み出してほしいと思っています。
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メディアハーツ元代表
1989年、北海道出身。高校時代に始めたアフィリエイト広告で月収400万円を売り上げるなど、若くしてビジネスの才能が開花。高校を二度退学後、パソコン1台で起業し、18歳でメディアハーツ(現:ファビウス)を設立。2014年には美容通信販売事業を開始、2017年に「すっきりフルーツ青汁」が累計1億3000万個の大ヒットとなり、年商131億円になる。「青汁王子」と呼ばれ、メディアにも多数出演。現在は、若手経営者への多岐にわたる事業支援を精力的に行う実業家として活躍。
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(メディアハーツ元代表 三崎 優太 構成=鈴木俊之)
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