「雇用ズタボロ」国民に見限られたトランプのツイッターが凍結される日
プレジデントオンライン / 2020年11月11日 15時15分
■強権的な政治姿勢とコロナ対策が経済後退に影響
米大統領選挙の開票は混乱をきたしましたが、ジョー・バイデン氏が勝利というかたちでほぼ決着しました。ドナルド・トランプ氏の敗因は、強権的・独断的な政治姿勢への批判とともに、新型コロナウイルスの感染拡大による経済の後退が大きく影響したことは間違いないでしょう。
とくに、雇用が急激に悪化したことが大きいと考えられます。トランプ氏はコロナに負けたともいえるのです。
■7~9月のGDPは急回復したが、元の水準にはほど遠い
図表1はトランプ氏就任後の2017年から2019年までの3年間とその後の四半期ごとの実質GDPの成長率です。トランプ氏が就任してからの経済成長は比較的好調でした。2008年のリーマンショック、それに続く世界同時不況以降の経済成長をトランプ政権も維持してきたからです。大統領就任後の成長率は、安定的に2%台を維持していました。
しかし、コロナウイルスの影響が出始めた今年の1~3月期以降は、大きく下がりました。とくに影響が大きかった4~6月はマイナス31%と空前の落ち込みとなりました。そして、大統領選挙を控えた経済政策や、経済活動の再開もあり、7~9月は33%と大きく反転しましたが、元の水準には大きく及びません。
四半期のGDPの成長率をどう計算するかというと、「前四半期に比べて年率でいくら変化したか」を表しています。少しややこしいかもしれませんが、「前年同期比」でないことに注意が必要です。前の四半期に比べての上昇率を年率で示しているのです。
ですから、7~9月に年率で33%上昇したからといって、それまでの2四半期大きく落ちていることから、コロナ前の水準には大きく及ばない水準です。GDPは給与の源泉ですから、それがいまだに大きく落ち込んだままなので、経済は弱いと言わざるを得ません。
■雇用激減がトランプ氏を追い詰めた
とくに雇用の不振がトランプ氏を追い詰めた大きな要因だと考えられます。
前回の2016年の大統領選挙では、長い間民主党支持者が多かったミシガン州などの中西部でトランプ氏が支持を伸ばしました。ミシガン州は、デトロイトを中心とする自動車などの工業地帯ですが、産業が衰退し「ラストベルト:錆びた地帯」と呼ばれるまでになりました。
ラストベルトでは、所得の低い「プア・ホワイト」と呼ばれる白人層が増加しました。従来は、組合活動に参加し、多くが民主党支持層だったのが、2016年の選挙では、一転して共和党のトランプ支持に変わったのです。それが、トランプ大統領誕生の大きな原動力となりました。
しかし、今回の選挙では、ミシガン州では、バイデン候補が勝利しました。コロナの影響があり、雇用情勢が悪化したのです。
■「非農業部門雇用増減数」3年で660万人増加も2カ月で2200万人減少
図表2は、世界中のエコノミストたちが常に注目する「非農業部門雇用増減数」です。毎月、15万~20万人増加すると、経済は比較的堅調というように解釈されています。
トランプ大統領が就任した2017年から2019年までの3年間を見ても、毎年200万人以上増加しています。月平均では15万人を大きく超える水準を維持してきたので、格差拡大の問題はあるものの、雇用は堅調だったと言えます。トランプ氏が大統領就任以降の3年間で660万人の増加です。
失業率も3%台まで低下しました。転職の多い米国では、完全雇用の状態です。経済も雇用も堅調だったのです。
ところが、コロナの影響が出始めたころから、雇用情勢は激変します。先の図表で、今年の3月、4月の数字を見るととても大きく下がっています。とくに4月は2078万人のマイナスです。
私はこの数字を最初に見たときには、発表した人が数字を一ケタ間違えたのではないかと思ったほどです。先ほども見たように、年間200万人以上の雇用増加を長年にわたって続けてきたわけですが、それがたったひと月で一気に吹き飛んでしまったわけです。
■失業給付で労働者を保護する戦略を実施したが……
もちろん、米国では、日本と雇用についての考え方が違い、企業は「レイオフ(一時帰休)」という形で、比較的簡単に従業員を解雇できます。日本では、雇用調整助成金のような形で、失業を極力減らし、企業内に実質的な失業者をとどめる考え方ですが、米国では、企業負担を極力減らすために、解雇を認め、その代わりに失業給付などで政府が失業者を保護するという政策が採られます。
今回のコロナの状況においては、通常の失業手当に加えて、かなり大きな額の追加支給があったため、人によっては、働いている時よりも収入が多いということも生じました。これはトランプ氏の大統領選対策でもありました。
その後、景気が回復するに従い、企業は、レイオフした人の再雇用に向かっていますが、5月から10月までの数字を足しても1207万人で、3月、4月で失った雇用の合計2216万人には遠く及びません。いまだにコロナ前と比べて1000万人ほどの雇用が減少したままなのです。
失業給付が普段より多く出ると言っても、それがいつまで続くかもわからず、場合によっては、失業状態が長く続くという大きな不安を抱えていては、やはり政権への批判は高まります。
■言いたい放題ツイッターを来年1月に凍結される?
ここまで見たように、新型コロナウイルスが蔓延するまではトランプ政権の経済運営は、GDP、雇用数という観点からは、それなりに順調で合格点だったと言えます。
それが、コロナの影響で大きく反転してしまっていたのです。もし、コロナがなかったらという議論はしてもムダなことですが、コロナがなかったら、今回は僅差でバイデン氏が勝利した州でもトランプが勝利し、大統領選挙の結果も変わっていたかもしれません。
とはいえ、すでに雌雄は決しました。
「ブルームバーグ」(11月6日)は、これまでツイッターでさまざまな暴言をまき散らしたトランプ氏が1月に大統領職を退いた後も同じ調子で物議をかもす内容のツイートをした場合、違反ツイート認定されて削除され、アカウントの一時的な凍結や停止、さらには恒久的な禁止となることもあり得る、と報じています。
現在は、問題ある内容でも「米大統領」として特別扱いを受けていますが、来年1月、「元大統領」になったらその措置も打ち切られるのです。
バイデン氏は政権移行の準備を始めました。
米民主党はこれまでコロナ対策にはどちらかというと経済よりも感染防止に動きがちでした。選挙時、バイデン氏は2兆ドルの公共投資を打ち出していましたが、コロナが拡大の勢いを見せている中で、当面はコロナ対策と経済対策という難しいかじ取りを迫られることは、間違いがないでしょう。
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小宮コンサルタンツ会長CEO
京都大学法学部卒業。米国ダートマス大学タック経営大学院留学、東京銀行などを経て独立。『小宮一慶の「日経新聞」深読み講座2020年版』など著書多数。
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(小宮コンサルタンツ会長CEO 小宮 一慶)
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