9割の企業は「コロナ収束後は原則全員出社」…働き方のニューノーマルは幻想か

プレジデントオンライン / 2021年1月26日 11時15分

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1度目の緊急事態宣言時は、何も準備ができないままにテレワークに突入した企業も多かった。ではその後、環境を整えた企業はどれほどあったのか。環境の整備が進んでいない企業が多いこと、コロナ収束後はテレワークを推奨しない企業が9割近くに上ることが調査でわかってきた——。

■テレワークによる出勤7割減は難しい

緊急事態宣言の再発令で政府は「テレワークによる出勤者7割削減」を企業に要請している。だが出勤時間帯の通勤客はそれほど減少していないという調査もあり、7割削減は難しいようだ。

それでも新型コロナウイルスの感染拡大で大手企業を中心にテレワークを軸に、在宅勤務と出社のミックス勤務やスライド勤務(時差通勤)が広がり、全員がそろって定時に出社するという働き方が大きく変わったと言われる。

一方で2020年春の緊急事態宣言解除以降、通常勤務に戻った企業も多く、テレワークが浸透していない実態もある。労働政策研究・研修機構の「新型コロナウイルスによる雇用・就業への影響等に関する調査」によると、2020年4月のテレワーク実施企業は56.7%だったが、9月は35.1%と20ポイント程度低下している。南関東地区に限定すると4月の79.7%から9月は58.9%に低下している。

■テレワーク実施率は2割程度

働く人(就業者)ベースで見るともっと少なくなる。内閣府の調査(2020年12月24日)によると、2020年5月の全国平均のテレワーク実施率は27.7%だったが、12月は21.5%と6ポイント低下。東京都23区の5月は48.4%であるが、12月は42.8%と下がっている。

感染者の多い都市部と地方圏のテレワーク実施率に大きな開きがあるのは当然としても、テレワーク実施企業が多くても全社員が利用できるわけではないことがわかる。さらに特徴的なことは、緊急事態宣言が解除されると、テレワーク実施企業と利用する社員が減少傾向にあることだ。

■コロナ収束後のテレワーク推奨企業は1割のみ

これに関して興味深い調査もある。パーソル総合研究所の「人材マネジメントにおけるデジタル活用に関する調査2020」によると、緊急事態宣言時とそうでない時期の企業のテレワーク方針に違いがあることがわかる。

「原則テレワーク/テレワーク推奨企業」(原則テレ)と社員に選択を委ねる「希望に応じてテレワーク可企業」(希望テレ)を調査している。緊急事態宣言発令時は原則テレ企業が43.6%、希望テレが27.5%の計71.1%と高い。しかし「緊急事態宣言は出ていないが、新型コロナウイルスの感染リスクがある時期」になると、原則テレ企業が23.5%、希望テレ企業が36.6%の計60.1%と下がってしまう。とくにテレワークを積極的に行っていると思われる原則テレ企業が20ポイント近くも減少している。

企業のテレワーク方針

さらに「新型コロナウイルス収束後」はどうするのかも聞いている。驚くのは原則テレワーク/テレワーク推奨企業が11.9%と大幅に減少していることだ。また、社員の希望に応じてテレワークを認める企業が32.9%。社員の希望で認めるということは原則出社である。もちろんコロナ前よりも増えているとはいっても、推奨企業が1割強というのでは、日本企業の働き方が変わったとはとても言えないだろう。

■宣言解除とともに一斉出社

緊急事態宣言をきっかけに始まったテレワークが定着しないのはなぜだろうか。そもそも昨年春の緊急事態宣言下の在宅勤務では、テレワークはできなかったという声もある。倉庫業の人事部長はこう指摘する。

「テレワークは在宅勤務、サテライトオフィス勤務、モバイル勤務の3つだが、最も難しいのが在宅だ。当社でもコロナ前からモバイルからスタートし、サテライトオフィス勤務へと慣らし運転を始めるべきだと言い続けてきたが、それができないまま緊急事態宣言で一足飛びに在宅勤務に突入した。当然、会社貸与のパソコンもなければ通信環境も整備されていない。宣言期間中は社員はメールを見るぐらいでほとんど仕事をしていなかったと思う。ほぼ休み状態だから、その間は有給休暇の取得率も下がっている。宣言が解除されると全員一斉に出社したが、今も変わらない状態が続いている」

■1度目の緊急事態宣言時は準備なしのテレワークだった

テレワークを実施するには、セキュリティが担保されたパソコンと専用のネットワークと社内システムへのアクセスなどの通信環境が不可欠だ。加えて労働時間の把握など労務管理上の規則を定めたテレワーク規定の整備と周知が必要だ。さらに継続的に実施するには書類のやりとりの電子化やペーパーレス化も必要になる。

それが何もないままにスタートした企業も多かった。実際に日本テレワーク協会にはそれに関する問い合わせが相次いだという。同協会の担当者は「在宅中の始業と終業の時間は何時に設定すればよいのか、連絡はメールでもよいのかという初歩的な質問から、どうやって労働時間を管理するのか、テレワークに合わせて就業規則を変えないといけないのかという相談もあった。また、通信費や光熱費は会社が負担しないといけないのかという執務環境に対する質問や社員の自宅のパソコンを使用してもよいのかという情報通信システムの相談もあった。突然の在宅勤務への移行で何も準備ができていない中小企業は相当とまどっていた」と語る。

手元にマグカップを置き、ノートパソコンで自宅からリモート作業
写真=iStock.com/Maryna Andriichenko
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■中小企業勤務者の6割が「テレワーク環境が改善していない」

では緊急事態宣言以降、テレワークをするための環境整備は進んでいるのか。前出の内閣府の調査(12月24日)ではテレワーク経験者に「職場の改善」の程度を聞いている。「大幅に改善した」が21.5%、「やや改善した」が42.5%の計64%。一方「あまり改善していない」「全く改善していない」の合計は29.1%と、3割の経験者が改善されていないと答えている。企業規模に格差もあり、従業員1000人以上では74.1%が改善したと答えているが、30~299人では59.8%となっている。テレワーク経験者ですらも環境整備が進んでいない実態もある。

また、テレワークを認めている企業でも一部に限定され、ほとんど進んでいないところもある。飲食チェーンの人事担当者はこう語る。

「管理部門など間接部門はテレワークを認めているが、店舗の従業員は当然出社している。どこか後ろめたい思いでテレワークをしている社員もいる。本当はテレワークをしたいが、テレワークができない現場の社員のことを考えて言い出せない社員も多く、結果的に管理部門も出社しているのが実状だ」

■一番の問題は経営者がテレワークをやりたがらないこと

出社せざるをえない社員とテレワークができる社員の間の不公平感はどの企業でも発生している問題だ。しかし、それ以上に問題なのは経営者がテレワークをやりたがらないことだと人事担当者は言う。

「緊急事態宣言下もそうだったが、オンラインでのWeb会議を嫌う経営陣も多い。『やはり対面じゃなければちゃんと意思疎通もできないし、ダメだな』と公言する役員もいる。経営者も『とくに営業は対面あっての商売』と言ってはばからないし、本音はテレワークをやりたくない。その結果、テレワークを積極的に推奨することもなければ、社内ネットワークシステムの整備やペーパーレス化も進んでいない。緊急事態宣言中は極力テレワークをするように言っているが、解除されたら元に戻るのは必至だ」

オンラインより対面重視の考え方を持つ経営者は中小企業に限らず意外と多いという話も聞く。パーソル総合研究所の「テレワーク実態調査」(2020年11月18日~23日調査)によると、テレワークをしていない人にその理由を聞くと「テレワークで行える業務ではない」と答えた人が2020年5月以降減少している一方で、「会社が消極的で、実施しにくい」と答えた人が5月の8.1%から10.4%に増加している。この結果を見ても、テレワークの実施を阻んでいる元凶は「経営者」であることはほぼ間違いないだろう。

■ワクチン普及後は「原則全員出社」が3割超

同調査ではワクチンが普及した後の企業のテレワーク方針も聞いている。「原則、全員出社にする予定だ」が31.2%、「まだ決まっていない」が43.4%となっている。

未決定の企業がどうなるのか、興味深いところだ。

前出の倉庫業の人事部長は「今は緊急事態宣言で出社制限を要請されているのでテレワークを実施しているが、本音でテレワークを続けたいと思っている企業がどのくらいあるのか疑問だ。アフターコロナになって元に戻すのか、対面とテレワークを併存させていくのか、テレワーク主体でやっていくのか、この3つの選択肢があるが、大多数は全員出社に戻ると思う」と語る。

もし、出社が原則となれば世の中に喧伝されているテレワークという働き方のニューノーマルも幻想だったということになりかねない。

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溝上 憲文(みぞうえ・のりふみ)
人事ジャーナリスト
1958年、鹿児島県生まれ。明治大学卒。月刊誌、週刊誌記者などを経て、独立。経営、人事、雇用、賃金、年金問題を中心テーマとして活躍。著書に『人事部はここを見ている!』など。

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(人事ジャーナリスト 溝上 憲文)

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