「大幅下落に備えよ」日経平均にとって米金利上昇が危険信号である理由
プレジデントオンライン / 2021年2月26日 18時15分
■株価上昇は長くは続かない
金融緩和策による“カネ余り”と、ワクチン接種によって経済の正常化への期待に支えられて、日経平均株価は約30年ぶりの3万円台まで上昇した。2月に入り、世界の主要株式市場を見回しても日経平均株価の上昇率は高い。ワクチン接種で世界経済の正常化が進むとの期待が盛り上がって、海外投資家も世界の景気敏感株である日本株の購入に動いている。
その一方、米国では景気回復への期待などから長期(10年)と超長期(30年)の金利(国債の流通利回り)が上昇している。日本の金融市場でも金利が少しずつ上昇しているものの、今のところわが国をはじめ主要国の株価は総じて堅調さを維持している。おそらく、主要国の株価にはもう少し上昇余地があるだろう。
ただ、株価上昇が長く続くことは考えづらい。米国で想定以上のペースで物価が上昇すれば、短期から超長期までの金利には強い上昇圧力がかかり、世界的に株価は調整する可能性がある。今すぐそうした展開が鮮明になるとは考えづらいが、米金利の動向がわが国の株価に与える不透明な要素は軽視できない。
■30年ぶりの高値をつけた背景
2月15日、日経平均株価は1990年8月以来の30,000円台を回復し、その後も上昇した。世界の投資家は、米国を中心に世界的な低金利環境が続くとの見方に加えて、ワクチン接種によって世界経済が正常化する展開を期待し、自動車、機械など在来産業が多い日本株を買い始めた。
海外の投資家にとって日本株は、世界経済が上向くと業績が回復する景気敏感株の代表格だ。日経平均株価が上昇する状況下、米国の株式市場でもIT先端分野から景気敏感株に投資資金がシフトした。その一方で、半導体などIT関連銘柄の多い韓国株の上値は重い。
2月初めから24日までの主要株式インデックスの変化率を見ると、在来産業の株を中心に構成されたニューヨーク・ダウ工業株30種平均株価が6.6%、GAFAMなどIT先端銘柄が多いナスダック総合指数は4.0%だった。同じ期間、日経平均株価の上昇率は7.3%と高かった。足許、わが国の株価は3~4割程度の増益を織り込んでいると考えられる。
つまり、年後半にかけての企業業績の拡大を見込む海外投資家は増えている。それ以上の増益達成を期待する海外のファンド・マネージャーもいる。
■長期金利の上昇を警戒する向きもあるが…
また、世界経済の正常化期待は、米国を中心に長期、超長期の金利を上昇させている。2月24日までの月初来で、米10年金利は0.3ポイント、30年金利は0.4ポイント程度上昇した。わが国でも長期金利は上昇している。理論的に、金利上昇は株価にマイナスだ。そのため、長期金利の上昇が日米をはじめ世界的な株価を下落させるのではないかと警戒する投資家は少なくない。
しかし、今のところ、米国国債の利回り曲線(横軸に残存期間、縦軸に金利水準をとり、各期間と対応する金利水準の点を線でつないだグラフ)の急峻(スティープ)化は、株価を大きく下落させるには至っていない。むしろ、IT関連銘柄の高値警戒感から、売りが出た局面を押し目買いのチャンスと考える投資家は多い。
逆に言えば、世界の株式投資家の過半数は、目先は長期、超長期の金利上昇が株価下落の要因にはならないと考えているようだ。
■物価動向の重要性が高まっている
少し長めの目線で考えると、米国の物価は上昇し、金利は一段と上昇する可能性がある。その時の状況にもよるが、さらなる金利上昇は株価の下落要因となり得る。重要なのは、どの程度の期間(ターム)で、中央銀行が目指す物価水準が達成されるかだ。
現在の米FRB(連邦準備理事会)の金融政策にもとづくと、いつ、どの程度のスピードで2.5%程度の物価上昇率が実現するかが重要だ。年前半と後半以降に分けて、その点を考えてみたい。
まず、2021年前半の米国経済を考える。4月から6月にかけて、FRBが物価動向を評価する指標として重視する“コア個人消費支出(PCE)の価格指数”の変化率が、前年同月比で2%を上回る可能性はある。その要因として、2020年4~6月期、コロナショックによる需要の落ち込みからコアPCE価格指数の伸び率は鈍化した。
その分、本年の4月以降の物価上昇率は上振れやすい。ワクチン接種の進行や、バイデン政権の追加経済対策も物価を上昇させる一因だ。
■日経平均株価「1000円超下落」はその予兆である
徐々にではあるが、米国債市場ではインフレ率が2%近辺まで上昇する展開を念頭に置く投資家が増えている。現在のFRBの金融政策では2%程度の物価上昇率は許容される。その点に関して、2月24日の議会証言にてパウエルFRB議長が長期にわたって金利が低位に推移するとの見方を示したことは、投資家が当面は低金利環境が続くことを再認識する重要な機会だった。
短期的に、米長期国債の流通利回りが上昇したとしても日米を中心に株価は上昇基調を維持する可能性がある。言い換えれば、今後数カ月の間に米国のインフレ率が2.5%程度に達し、FRBの金融政策が変更される展開は多くの投資家にとって想定外といえる。翌25日の日経平均株価の上昇を見る限り、世界の株式投資家の多くが、パウエル議長の発言に安心感を覚えた。
ただし、長い間、わが国などの株価が上昇トレンドを維持する展開は考えづらい。どこかのタイミングで株価は下落に転じるだろう。2月最終営業日となる26日、日経平均株価は一時1000円超下落した。これはその予兆といえる。今後の展開を考える上で、年後半の物価動向と米2年金利の推移が重要だ。
■短期債の2年国債をどう読むべきか
現在、米国の国債市場は、長期、超長期に比べて短期債の利回りはほとんど上昇していない。それは、短期債の指標ともいえる2年国債を見ると分かりやすい。
高値警戒感や長期金利上昇への懸念からIT先端銘柄を売った投資家は、資金の一部を日本株などの敏感株に再配分する。彼らは、残りの資金を価格の変動リスクが相対的に小さい米2年国債をはじめ短期の債券などに回しているようだ。それは、米2年金利の低位安定を支える一因だ。なお、2020年末以降、米国の2年よりも短い金利に顕著な上昇圧力はかかっていない。
今後、世界が集団免疫を獲得し、米国のインフレ率が2.5%程度に上昇すれば、金融政策の正常化観測が台頭する。その場合、金融政策の動向を反映しやすい米2年国債の流通利回りには上昇圧力がかかる。その展開が鮮明となれば、投資家は価格変動のリスクを回避して株式などを売却し、価格変動リスクのない現金を保有しようとするだろう。
■相場が過熱すれば、売りが売りを呼ぶ動きも
今後の展開を考えるシナリオの一つとして、2021年の後半、あるいは2022年以降、米国の2年金利に上昇圧力がかかり、世界的に株価が調整する可能性は否定できない。そのタイミングが前後にずれる可能性もある。
それ以外にも、株価に下落圧力をかける要因はある。財政支出増大への懸念から米国の長期金利がさらに上昇すれば、ナスダック市場に上場するグロース銘柄を中心に世界の株式市場には調整圧力がかかりやすい。2月に入り、米長期金利が上昇する一方でテスラなど成長期待の高い企業の株価は下落した。その状況に関して、「いつ大幅な株価の調整があってもおかしくはない」と指摘する経済の専門家もいる。
一部のグロース銘柄の割高感(過熱感)はかなり強く、長期金利上昇の影響は増大するだろう。また、相場の過熱感を警戒して一部の投資家が利益確定の売りを入れ、売りが売りを呼ぶ展開も考えられる。感染長期化の可能性も排除できない。短期的にわが国をはじめ世界的に株価は堅調な展開を維持する可能性があるが、徐々に株式市場の不安定感は高まるだろう。
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法政大学大学院 教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授などを経て、2017年4月から現職。
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(法政大学大学院 教授 真壁 昭夫)
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