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電話の売り込み「軽くあしらわれる人、聞く耳を持たれる人」は最初の1分が全く違う

プレジデントオンライン / 2021年5月31日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kokouu

元ぐるなび広報の栗田朋一さんは、「営業と同じように、広報も“心理戦”だ」と言います。「この人、何者?」と相手に思わせ、つい耳を傾けたくなる。報道関係者の心理を読んだ売り込みテクニックとは――。

※本稿は、栗田朋一『新しい広報の教科書』(朝日新聞出版)の一部を再編集したものです。

■メディアから軽くあしらわれ、社内からは責められる

「広報」と聞くと、マスコミと直接やりとりする部署なので、華やかな仕事のイメージを持つ人もいるかもしれません。しかし、実際は地道な仕事の積み重ねが求められる仕事なのです。

新商品やサービスを発表するとき、会社としてはメディアに呼びかけて、広く報道してもらいたいと考えます。そこで広報は一生懸命リリースを送りますが、「ぜひ取材をさせてください」とメディアから次々と連絡が入るということは、まずありません。よほどの大企業でもない限り、それほど注目されることはないでしょう。

そこで、メディアに直接売り込むために電話をかけたり、報道関係者にメールを送りますが、軽くあしらわれ、めったによい返事は返ってきません。そして、社内からは商品が売れないと「広報のPRの仕方が悪い」などと責められたりもします。

広報は仕事をなかなか評価してもらえない部署でもあるのです。

■相手と対等な関係を築くには

広報は「報道してもらってナンボ」という立場にあります。「マスコミにお願いしても、邪険に扱われる」と嘆く広報担当者も、大勢いるでしょう。だからといって、こびへつらって「ぜひ、○○新聞さんで取り上げてください。お願いしますよ~」と頼み込む必要はないと私は考えています。

報道関係者は、絶えず報道するための情報を探しています。こちらがいい企画を持ちかければ、情報を探す手間が省けるというメリットもあるのです。その情報をもとに記事を書いたり、番組用に撮影して評判になれば、彼らにとってもうれしいことです。

それゆえ、対等の立場だと考えて売り込んでいいのです。横柄な態度をとるのは論外ですが、ペコペコ頭を下げてお願いする必要はありません。相手が対等に接してくれない場合は、対等になるように仕向ければいいのです。

そのために私が実践している方法をご紹介します。

■広報は営業の仕事に近い

私は、広報は営業に近い仕事だと思っています。営業担当者が自社の商品やサービスを取引先に売り込むのと同様に、広報はマスコミに対して、自社の商品やサービス、そして会社そのものをネタとした「ニュース」を売り込んでいくのです。ですから広報担当者は、報道関係者の心理を考え、「そのニュース、うちで取り上げたい」という気持ちになるような売り込み方をしなければなりません。

報道関係者の心理を読んだ売り込み方を実践するには、一般的な広報の基本を説いた指南書を頼りにしていてもうまくいかないでしょう。リリースや記者会見のフォーマットなど、ニュースを売り込むための形式は説明してあっても、より現場に即した重要なノウハウが足りていないものが多いのです。

ノートパソコンに表示したリポートについて話し合う同僚
写真=iStock.com/wutwhanfoto
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/wutwhanfoto

それは、相手の心理を見抜き、心を動かすための方法論です。私も、最初から相手の心理を見抜けたわけではありませんし、心理学を専門に習った経験もありません。日々の報道関係者とのやりとりや駆け引きの中で、自分なりに考え、身につけてきました。そのノウハウを営業担当者に話すと、「あ、それ営業がよく使う手法だよ」と言われることがしばしばあります。私のように、営業のノウハウを広報という立場で活用することは、ほとんど考えられていないようです。

それでは、ここでそのいくつかをご紹介しましょう。

■売り込むときは、“資料を渡さない”

これはテレビ局のディレクターや記者に売り込むときに、私がよく使う手法です。普通はまずリリースなどの資料を渡し、それを見てもらいながら説明しているでしょう。しかし、私の場合は資料を用意していても、話の前に相手に渡しません。渡すとしても、話がすべて終わってから、念押しと確認の意味で渡します。

それはなぜか。

相手にこちらを向かせて、映像をイメージさせるためです。手元に資料がなければ、ディレクターや記者は私の目を見て話を聞いてくれ、時折、上のほうに視線をやって考えるようなしぐさをします。これは、自分の担当する番組やコーナーで、今こちらが売り込んでいる情報を取り上げたら、どのような映像になるのかを具体的にイメージしているのです。そういう映像が思い浮かばないと取材しようという気持ちにはなってくれません。したがって、映像をイメージさせるように話さなければならないのです。

資料を読みながら話を聞くのは難しいでしょう。資料に目を落として話を聞いていると、その内容は把握してくれますが、そこから先に思考が進まなくなってしまいます。人間は下を向いた姿勢でいると、想像力が乏しくなる傾向があるようです。

だから相手がテレビ関係の人であれば資料を渡さずに、互いに目を見ながら話し合うようにしています。

広報の仕事は、リリースなどを通じて、正確な情報を発信しさえすればいいというものではありません。発信した情報がメディアで取り上げられ、それが自社の活動に貢献して、初めて結果を出したと言えるのだと私は考えています。

そのためには、どうやったらニュースとして取り上げてくれるのか、相手の心を動かせるような的確なアプローチが重要になります。広報は、常に心理戦なのです。

■たった1分で「電話での売り込み」に成功

広報にとって避けて通れないのが、電話での売り込みです。知っている相手ならまだいいのですが、まったく知らない報道関係者にいきなり電話して取り上げてほしいネタを売り込んでも、やはりなかなかうまくいかないのが現実です。ほとんどの場合、「いまちょっと忙しいんで」とか「リリースを送っておいてもらえれば後で見るから」と迷惑がられます。相手に話を聞いてもらえない原因は、こちらの立場が弱い状態で売り込みをしてしまうからです。

売り込みをするのは広報側で、聞くか聞かないかの判断をするのは報道関係者。その立場は永遠に変えられないのではないかと思う人もいるかもしれません。

しかし、本当は変えられるのです。それもたった1分で。それにはまず、電話の向こう側にいる報道関係者がどんな記事を書いた人なのか、知っておく必要があります。売り込む相手をリサーチしておくのです。

■電話の最初の1分で話すべき内容

最近は署名記事も多いので、興味を持った記事があれば、それを書いた記者を調べることができます。新聞・雑誌記事のデータベースサービスの日経テレコンやグーグルで検索し、その記者が書いた過去の記事に目を通すこともできるので、必ずこの下準備をしてから電話をかけます。

このとき、こう話を切り出すのです。

「★★社の●●と申します。米国で人気の高級食材を使ったハンバーガー店を日本に誘致し、今度東京で1号店を出店します。その詳細と、現在の日本におけるハンバーガーチェーン業界の最新動向、そして弊社の参入の目的・狙いなどについてお話しできたらと思いご連絡差し上げました。これについて、▲▲さん(記者)が、○月○日の記事の中で外食産業に関する大変興味深い記事を書かれていたので、ぜひこのお話は▲▲さんにお伝えしたいと思いました。あの記事では、お客さんからの視点とお店側の視点、両方の立場から見たメリットとデメリットがわかりやすく説明されていて、とても頭の中が整理されてすっきりしました。

実はあの記事の中に出ていた牛丼店に私も早速昨日行ってきたんですよ! 昨日は▲▲さんが書かれていたとおり、男性の一人客に加え、女性の“おひとりさま”客も結構来ていました。お店の狙いどおりです。

でも、意外なことに年配のご夫婦も3組いたんですよね。あの牛丼、見た目はボリュームがあるけれど使っている素材にこだわっているし、その点をCMでもアピールしているので、年配の方が食べてもいいんだというイメージが強く残るんでしょうね」

ここまででだいたい1分間です。1分間でそんなに話せないと思うかもしれませんが、実際にやってみるとかなりたっぷり話せます。ぜひ試してみてください。

こういう前振りをしてから、「実は、今回ご紹介させていただきたい米国から来るハンバーガー店というのが、そういった年配者をメインターゲットとしたもので……」と売り込みの本題に入ります。これを読み、「何の面識もない人を相手に、いきなりこんな失礼な発言をしても大丈夫なの? 相手は怒らないの?」と戸惑う声が聞こえてきそうです。怒るどころか、これが相手と対等になるための仕掛けなのです。

■売り込み相手と“対等”になるには

この売り込み方には、いくつものポイントがあります。

「▲▲さん(記者)が、○月○日の記事の中で外食産業に関する大変興味深い記事を書かれていたので、ぜひこのお話は▲▲さんにお伝えしたいと思いました」

まず、ここで「この記事を書かれたあなただから、私は電話したんです」という意図を伝えます。私はあなたの書いた記事をちゃんと読んでいますよ。あなたの読者ですよ、ということを冒頭でしっかりアピールするのです。記者にとって読者はお客さんですから、むげに扱ったりしないはずです。

その記事に対する感想を述べ、自社の取り組みや、いまPRしたいネタとの関連性を説明します。

でも、これだけなら多くの広報担当者がやっていることでしょう。残念ながら、これではまだ立場を対等に持っていくところまではいきません。

「実はあの記事の中に出ていた牛丼店に私も昨日早速行ってきたんですよ!」

記事を読んだだけではなく、記事で紹介した店に実際に足を運んでみた、というのも強烈なアピールの一つです。一読者の域を出て、ワンランク上の読者だと思わせるには、「私はあなたの記事に影響を受け、行動を起こしました」とアピールするのが大事なのです。

記者は自分の記事に読者が影響されて何らかの行動を取ったと知れば、必ずうれしく感じます。仕事にやりがいを感じる瞬間でもあるでしょう。

■「いったい何者?」と思わせるコツ

「でも、意外なことに年配のご夫婦も3組いたんですよね」

相手を喜ばせておきながら、いきなり水を差すような発言です。

相手の感情が高ぶった状態のときに、「でもね、あなたはこんなところを見落としていましたよ」と、取材をしたその記者でさえ気付かなかった点(現場での現象)をそっと指摘すると、完全にワンランク上の読者と見てくれます。この瞬間に立場は対等になるのです。

栗田朋一『新しい広報の教科書』(朝日新聞出版)
栗田朋一『新しい広報の教科書』(朝日新聞出版)

そこから本題(ネタの売り込み)に入れば、真剣にこちらの話に耳を傾けてくれるでしょう。私はいつもこのやり方で電話をかけています。

出だしは「また売り込みか」とばかりに面倒くさそうに「はあ」「はい」と対応していた相手が、だんだん身を乗り出すような雰囲気になり、最後には「あなたは一体何者なんだ?」というように完全にこちらに興味を示す姿勢に変わっていきます。

ただし、高飛車な印象を与えない話し方を心がけなくてはなりません。

「教えてあげるよ」という態度になると、相手のプライドを傷つけてしまいます。あくまでも、一読者として、「そういえばこんなことがありました」と報告するように伝えるのです。電話での売り込みでも、確実に成果を出すためのやり方があるのをわかっているのといないのとでは、おのずと結果が違ってきます。時間を無駄にしないためにも、ぜひ実践してほしいと思います。

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栗田 朋一(くりた・ともかず)
PRacademy代表取締役
1971年、埼玉県浦和市(現・さいたま市)生まれ。明治学院大学社会学部卒。歴史テーマパーク「日光江戸村」を運営する大新東で広報を担当し、江戸村及びグループ会社全体のコーポレートPRを手がける。2003年に電通パブリックリレーションズに入社。その後、07年にぐるなびに転職し、広報グループ長を務める。現在は、自身で立ち上げたPRacademyの代表取締役を務める。著書に、『現場の担当者2500人からナマで聞いた 広報のお悩み相談室』(朝日新聞出版)がある。

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(PRacademy代表取締役 栗田 朋一)

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