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富裕な高齢者を狙い撃つ「半グレ詐欺」がどんどん増えている根本原因

プレジデントオンライン / 2021年6月1日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/artoleshko

半グレによる犯罪が増え続けている。なぜここまで問題が深刻化したのか。龍谷大学嘱託研究員の廣末登さんは「半グレとされる集団は全部グレており、暴力団の偽装離脱者までをも含む曖昧な概念だ。つまり、犯罪者を十把一絡げにした半グレというネーミングが、当該集団について曖昧さを助長している可能性がある」という――。

■更生保護の現場でも目に付く半グレの犯罪

半グレによる犯罪が止まらない。もはや、誰が半グレで、誰がそうではないのか、アングラ専門の「ヤクザ博士」と呼ばれる筆者にも分からなくなりつつある。

この原稿を書いている5月にも、さまざまな犯罪報道があった。

少年らを使って大麻を密売していたとして、準暴力団「チャイニーズドラゴン」のメンバーの男が逮捕された事件。大麻を共同で所持したとして、慶応大の女子学生らが逮捕された事件。新型コロナウイルス対策の「持続化給付金」をだまし取った疑いで、北海道札幌市の会社経営の男らが再逮捕、福岡県北九州市の会社役員と自営業の男らが逮捕された事件。特殊詐欺グループで受け子の統括役をしていたとして、ベトナム人の男ら2人が逮捕された事件。とりわけ詐欺と薬物に関する事件が目に付く。

筆者は2018~19年度に、法務省保護局の福岡県更生保護就労支援事業所長の職にあり、罪を犯した人たちと接してきた。彼ら彼女らの罪種は、生まれながらに不幸な境遇にあって社会的ハンディを負い、生きづらさから窃盗、覚醒剤乱用、傷害致死などの犯罪を犯した人などさまざまである。

そうした中で、目に付くのが詐欺犯罪である。この犯罪の対象者は、10代の若者から40代の会社員まで幅広い。なかには名の知れた企業に技術者として在籍していた人も居た。

■誰もが人生のレールから転落する可能性がある

彼らの話をじっくり聞いてみると、この社会に敷かれたレールの脇には、底なしの穴が口を開けており、誰しも転落する可能性があることを知った。危機感を抱いた筆者は、アングラ社会で活動している半グレといわれる人たちと接触し、調査した。その結果をまとめたのが、2021年2月に上梓した『だからヤクザを辞められない 裏社会メルトダウン』(新潮新書)である。本書は、サブタイトルの「メルトダウン」に重きが置かれている。

メルトダウンは、現在も進行中である。コロナウイルス同様に、半グレも変異を繰り返しながら、さまざまな人たちの人生を食い荒らしており、一刻も早い対策が望まれる。筆者は、世間に警告を発する意味から、この目で見たリアルな裏社会の実態を、前後編に分けて読者の皆さまに紹介する。

■暴排条例で多様な半グレが雨後のタケノコのように勃興

当局は半グレをどのように認知してきたのだろうか。

13年、警察庁は「この種の集団は暴力団と同程度の明確な組織性は有しないものの、これに属する者が集団的、常習的に暴力的不法行為等を敢行しており、中には暴力団等との密接な関係がうかがわれるものも存在しているとして、準暴力団と位置付け」ている(「準暴力団に関する実態 解明及び取締りの強化について(通達)」2013年3月7日付警察庁丁企分発第26号)。

警察政策学会資料第71号(2013年7月)では、「『これからの安心・安全』のための犯罪対策に関する提言」において半グレという用語が登場している。そこでは、半グレを「暴力団とは距離を置き、堅気とヤクザの中間的な存在である暴走族OBである」とした溝口敦氏の『暴力団』(新潮新書、2011年)における記述が紹介されている。

溝口氏が「半グレ」と名付けた当時、この病理集団は20~29歳の年齢層で構成される暴走族OBであった。しかし、2010~11年に全国で施行された暴排条例で動きが取れなくなった暴力団の斜陽に伴い、多様な半グレが雨後のタケノコのように勃興してきた。この間、半グレは変異しており、もはや暴走族OBだけではなくなった。

■統計から読み取れる半グレの跋扈

図表1を見てもらいたい。一般刑法犯は過去最低を更新し続け、日本社会は安心・安全になったと言われるが、高齢者の被害割合は右肩上がりである。高齢者が特殊詐欺の標的になりやすいことを考えると、特殊詐欺事件が増加していると考えることもできるだろう。

【図表】65歳以上の刑法犯罪被害認知件数
出典=令和2年版「高齢社会白書」

若者に蔓延する大麻事犯も同様に増加している(図表2)。いずれも、半グレの代表的シノギである。

【図表2】大麻取締法違反等 検挙人員の推移(罪名別)
出典=令和2年版「犯罪白書」

筆者は、半グレ構成員への面談調査を通して情報を収集した。その結果、2010年代前半に半グレと呼ばれた者と今日のそれとでは、構造や活動が変容していると考えるに至った。

■「パクられる覚悟」があれば明日からでもオッケー

筆者の見るところ、近年では半グレの低年齢化が進んでおり、暴力団のような下積み期間が無いために加入のハードルも低い。筆者が取材した半グレは、次のように述べ、ハードルの低さに言及した。

「半グレは盃がないからスタートラインに立ちやすい。明日からでもオーケー。用意するとしたら『パクられる覚悟』だけ。でも、カッコだけで入ってくるバカは、これが分かってないやつが多いですね」

電話で話す男性
写真=iStock.com/kuppa_rock
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kuppa_rock

暴力団、元暴アウトロー(社会復帰に失敗した暴力団離脱者や計画的な偽装離脱者で、常習的に犯罪を行う者)も半グレと協働している。こうした実態から、マスコミ報道等において、集団で犯罪を行う者を半グレとくくる傾向には注意を要する。

民暴の専門家である東京弁護士会民事介入暴力対策特別委員会委員長(当時)の齋藤理英氏は、東京商工リサーチのセミナーで半グレの存在に警鐘を鳴らしている。

「半グレは定義が曖昧だが、新たな反社会的勢力と評価して差し支えなく、準暴力団や暴力団偽装離脱者などを含む概念だ。半グレの実態は半分どころか全部グレている」と(2019年12月19日開催「特別情報セミナー 反社リスクに備える・与信担当者が知っておきたい反社対策」)。

■半グレとされる集団は全部グレている

齋藤弁護士の指摘通り、半グレとされる集団は全部グレており、暴力団の偽装離脱者までをも含む曖昧な概念である。つまり、犯罪者を十把一絡げにした半グレというネーミングが、当該集団について曖昧さを助長している可能性がある。

2019年9月から11月にかけて、筆者は半グレのメンバー5名と面談した。併せて、法務省保護局による更生保護就労支援の一環として、特殊詐欺に関わった3名の支援を通し、半グレの実態を聴取した。さらに、「博多金塊強奪事件(2016年)」の主犯である元半グレN氏(40代)と文通し、聴取した内容を当事者目線でチェックしてもらった。

その結果、青少年非行の延長線上にある半グレ集団と、犯罪傾向が顕著な職業的半グレとは同一視できないとの考えに至った。先述した通り、半グレの定義は曖昧である。筆者は、10代の不良も、20代の青年も、40代の元暴アウトローも一緒くたにして、半グレとくくるのは大ざっぱすぎるのではないかとの疑問に端を発している。

もっとも、マスコミ報道などで用いられている「半グレ」という呼称に異を唱えるつもりはない。今後、犯罪学者等により、半グレの調査・研究が活発となって適切な定義・分類がなされること、それぞれの特性に応じた対策を講じることは、将来的な課題であろう。

■暴力団から仕事を請け負っている場合も

筆者が面談した半グレは、総じてみると、少年も青年も生育家族に何らかの機能不全がみられ、初発型非行傾向(学童期からの非行傾向)がある。家庭の放置から街角家族的な非行集団に属し、非行を深化させつつ犯罪に至っている。ただし、昔の非行少年のように顕著な貧困傾向は認められない。

主な犯罪は、特殊詐欺、大麻や眠剤などの薬物の密売、ヤミ金融、債権回収、面倒見料の徴収代行等である。半グレの中でも、少年院から成人刑務所に収容経験がある者は、職業的犯罪者として10代の半グレを使嗾(しそう)して犯罪を行っている。

さらに注意すべきは、職業的犯罪者である半グレが地元の暴力団に利用され、暴力団の犯罪を請け負っている。つまり、犯罪の元受け——孫請けの構図が形成されており、犯罪のネタ元である暴力団の存在は、元受けの半グレしか知らない。犯罪で得た利益は、元受けの半グレから上納されることで暴力団の資金となる。ここに、暴力団とは異なる半グレの匿名性という本領が発揮される。

■十把一絡げの半グレを4つに分類してみる

8名の半グレに対する面接調査に加え、更生保護就労支援の現場や、病理集団構成員との面接で聴取した範囲から、半グレと呼称される病理集団には、少なくとも4パターンが存在すると仮定するに至った。

それは、①関東連合等に代表される草創期の半グレ、②特殊詐欺等の実行犯(昨今ではそのまま暴力団や準暴力団の手先となっているケースが多い)、③犯罪に従事しつつ正業を持つグループ、④偽装離脱や社会復帰に失敗した元暴アウトローの存在である。

まず、①の関東連合OB等に代表される半グレは、暴力団になるのは面倒くさいが10代の頃の非行集団関係を引きずり、暴力団に近い準暴力団的な活動(ミカジメ徴収や薬物関係、債権回収等)を業としている集団。なお、このカテゴリーには、AV業界に進出する者もいる。人気女優を在籍させるプロダクションを立ち上げることで、AV業界で成功を収めている(AV業界のスカウトは、プロダクションよりも上位に位置し、暴力団の縄張り内での活動となるため、暴力団のシノギに直結する)(「OCC Summer No.6」立花書房、2019年)。彼らは暴力団と密接な関係がある。

次に、②の特殊詐欺に従事する青少年。まっとうに働きたくはないがカネは欲しく、暴力団や準暴力団になりきれない層。年齢的にも若いことが特徴である。かれらは暴力団や準暴力団犯罪の実行役となる傾向がある。筆者が担当した保護観察中の少年の多くがこのカテゴリーに該当する。なお、彼らは、使い捨てにされるケースが多く、逮捕時などにはトカゲの尻尾切りとなる消耗要員である。

■暴力団時代に蓄積した人脈や知識で犯罪を行う半グレもいる

さらに③は、①、②と異なり正業を持っている集団である。腕力を競う地下格闘技団体に所属するなど裏社会とのコネクションを築きやすい位置にいる。ITベンチャーの若い社長などのボディーガード的な役割等から、徐々にITビジネス関係に詳しくなり、金融系取引に従事する者たち。あるいは、風俗・飲食店などを経営する小集団を指す。ただし、彼らは地下格闘技などを通して、①とも交わる集団である。

最後に、④の暴力団並みに犯罪性が強い病理集団、元暴アウトローである。近年、暴排条例の影響により暴力団離脱者は増加傾向にある。しかし、職業社会に復帰して更生する者は僅少である。さらに、離脱者の一千人あたりの再犯率をみると、2011年に離脱した者のうち、その後2年間で検挙された者は、一般刑法犯の再犯者検挙人員と比べ約60倍である(警察庁組織犯罪対策部「平成二十八年における組織犯罪の情勢」)。

暴排条例の規定により「暴力団員等」とみなされ、社会復帰に失敗した者は元暴アウトローとなる。行き場のない彼らは、結局、薬物犯罪や闇金、オレオレ詐欺等の犯罪を重ねる。

また、このカテゴリーにはシノギに窮して偽装離脱した元暴も含まれる。この元暴アウトローがなぜ厄介かというと、犯罪のプロである暴力団に所属していたからである。そこで蓄積された人脈や知識を有するが故に、社会的な脅威といえる。

■半グレと青少年不良団、元暴アウトローを同一視する危険性

以上で紹介した性質が異なるグループが、現在、十把一絡げに半グレと見做(みな)されており、実態が判然としない。特殊詐欺等やミカジメ徴収、薬物販売に関係する者たちが半グレだというのであれば、正しくは①③のカテゴリーに属する者たちであろう。

廣末登『だからヤクザを辞められない 裏社会メルトダウン』(新潮新書)
廣末登『だからヤクザを辞められない 裏社会メルトダウン』(新潮新書)

②の青少年非行の延長で犯罪に手を染めている者は、いわゆる青少年不良団である。見方を変えれば無知ゆえの被害者であり、社会的援助や支援サービスの提供によっては更生の可能性がある。

筆者がオフレコで新聞記者に調査依頼したところ、特殊詐欺に関与した未成年は銀行口座が開設できない者もいることが分かった。これでは、彼らの更生の機会を奪い、成功の望みの無い細い道に追い込む結果となるので、再犯の可能性が否めない。

④の者は、警察では「暴力団員等」という範疇に分類されている。筆者は、このカテゴリーに関しては、暴力団現役時代に犯罪スキルを磨き、犯罪的ネットワークを有する元暴アウトローとして、半グレとは別枠で把握すべきであると考える。

以上、筆者の見聞きした範囲で、現時点における半グレの実態を整理した。後編では、実際にどのような人たちが半グレになっているのかというリアルな疑問に応えたい。その上で、政府による半グレ対策の現状、筆者が考える半グレ対策の懸念などにつき、言及したいと思う。

(後編に続く)

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廣末 登(ひろすえ・のぼる)
龍谷大学嘱託研究員、久留米大学非常勤講師(社会病理学)
博士(学術)。1970年福岡市生まれ。北九州市立大学社会システム研究科博士後期課程修了。専門は犯罪社会学。青少年の健全な社会化をサポートする家族社会や地域社会の整備が中心テーマ。現在、大学非常勤講師、日本キャリア開発協会のキャリアカウンセラーなどを務める傍ら、「人々の経験を書き残す者」として執筆活動を続けている。著書に『若者はなぜヤクザになったのか』(ハーベスト社)、『ヤクザになる理由』(新潮新書)、『組長の娘 ヤクザの家に生まれて』(新潮文庫)『ヤクザと介護――暴力団離脱者たちの研究』(角川新書)など。

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(龍谷大学嘱託研究員、久留米大学非常勤講師(社会病理学) 廣末 登)

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