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「実力社長のセクハラを咎めた役員が次々とクビに」名門メーカー電気興業の大混乱

プレジデントオンライン / 2021年6月25日 15時15分

経営トップだった松澤幹夫氏 - 写真=電気興業 第94期 報告書より

■「オリンパス事件」にも似た深刻なガバナンス不全

電機メーカーの電気興業が6月22日夕刻、ニュースリリースを発した。見出しは「内部通報に基づく社内調査の実施、再発防止に向けた取り組み、及び処遇について」。中身を見ても、ほとんどの株主は何のことやらわからないだろう。

それは、このニュースリリースには肝心なことが書かれてないからだ。その中身は、10年前の今頃、筆者が報じた「オリンパスの損失隠し事件」にも似た深刻なガバナンス不全である。同社に成り代わって問題を詳報しよう。

東証一部上場企業の電気興業は、1938年創業の元国策会社で、現在は高周波機器や電気通信機器の製造・販売を手掛けている。売上規模は400億円台とやや小ぶりだが、自己資本比率が75%もあり、現預金も潤沢。財務内容は健全そのものと言っていい。

しかし健全な肉体に不健全な精神が宿ったか。上記のニュースリリースに掲げられた(1)ハラスメント行為、(2)不明瞭な交際支出、(3)利益相反の疑いのある取引――が内部通報によって浮かび上がった。

■「社長→会長→名誉顧問→辞退」と目まぐるしく異動した松澤氏

電気興業をウォッチしている投資家は、今年2月以降、同社の取締役の降格や退任が異様なほど相次いでいることを不思議に思ってみていたに違いない。特に経営トップだった松澤幹夫氏は今年2月以降の短期間のうちに社長から会長に異動し、会長から名誉顧問への異動が発表され、さらに冒頭のリリースによると「健康上の理由」により名誉顧問就任を辞退したのだから。

一方でナンバー2だった石松康次郎専務がヒラの取締役に降格し、今年の株主総会で役員から外れるほか、久野力取締役も退任する。3人の社外取締役と、同じく3人の監査役も交代するというから、役員の大半が入れ替わることになる。一方で昨年6月に取締役に選任したばかりの近藤忠登史氏がそのわずか8カ月後、松澤氏に指名され社長昇格が決まった。

筆者の取材に対し、電気興業は一連の役員人事を「当社の持続的な企業価値向上を実現する上で最適な経営体制の構築を目的として従前から検討していた」と説明しているが、それを鵜呑みにするわけにはいかない。松澤氏には女性社員に対する度重なるセクハラとそれに伴う不明朗な支出――つまり上記の(1)と(2)――があり、電気興業では今年2月、内々にそれらを調べ、松澤氏は追い詰められた。

■いつのまにか切り崩されていた社内取締役たち

ところが2月10日に石松氏や久野氏ら社内取締役たちは雲行きが怪しくなっていることに気付いて驚く。その日の取締役会で、松澤氏がセクハラ問題に何ら触れることなく、会長に退いたうえで近藤取締役を後継社長に指名する動議を提出したのだ。会長に退いて社内で影響力を温存し、責任を追及する邪魔な取締役らのクビをはねるつもりだったのだろう。

松澤氏のセクハラ問題に対処するために足並みを揃えていたはずの石松専務と伊藤一浩常務、下田剛取締役、久野力取締役、そして当時は末席の取締役だった近藤氏らは、いつのまにか切り崩されていた。

切り崩しに動いたのが3人の社外取締役であった痕跡が、各種の資料や音声データに動かぬ証拠として残っている。しかも石松氏らはいつの間にか<松澤氏らと行動を共にしながら、セクハラを止めようとしなかった善管注意義務違反が認められる>と社外取締役らから責任追及を受けるようになった。

電気興業のウェブサイト
電気興業のウェブサイト

■取引先や経営トップと親密な人物が社外取締役を占めている

社外取締役は弁護士の太田洋氏と、元横浜中税務署長で税理士の須佐正秀氏、元SMBC日興証券副社長でSUZUKI NORIYOSHI OFFICE代表の鈴木則義氏の3人。関係者によると、太田氏と松澤氏は、遅くとも電気興業がアクティビストファンドの米スティール・パートナーズの標的になった2007年以来の付き合いで、太田氏が所属する西村あさひ法律事務所にとって電気興業は取引先である。

鈴木氏も「松澤氏と30年来の付き合いがある」(関係者)といい、社外取締役は電気興業の取引先からの出身者や、経営トップの知り合いで固められていたことになる。同じように取引先や経営トップと親密な人物が社外取締役を占め、企業統治が機能不全を起こしていたオリンパスと重なる部分が多いのだ。

しかもニュースリリースの「(3)利益相反の疑いのある取引」とは、西村あさひがSUZUKI NORIYOSHI OFFCEに支払いを求めたコンサルティング費用を電気興業に支払わせたことや、鈴木氏が代表取締役を務めていたエドモン・ドゥ・ロスチャイルド・日興との取引を指しているが、電気興業ではこれを問題なしとして片づけている。経営トップのお目付役であるはずの社外取締役がこんなことで疑われるだけでも恥であろう。

では電気興業はなぜ株主総会の直前になって、わざわざこれらの恥をHP上に掲載したのか。

■記事が出るのを察知して、ダメージコントロールに動いたか

実はリリースが掲載される4日前の6月18日、筆者は電気興業に「松澤氏がセクハラを働き、これが理由で退任したと聞いている。詳しい話を聞きたい」と質問状を送って取材を申し込んだ。取材は21日に電気興業側の弁護士2人が立ち会ってリモートで行われた。私は内部資料を多く集めていること、そしてオンラインメディアで株主総会前に記事を配信することを伝えた。もう言い逃れはできないことを悟らせるためだ。

さらに私は、監査役会がまとめた調査報告書や、外部の弁護士が5月11日付で監査法人トーマツに送付した「コンプライアンス通報・報告」と題する長文の資料や、監査役会が6月1日付でまとめた調査報告書など数々の物証を入手していると告げ、正確で誠実な情報開示を求めた。無条件降伏を迫ったと言い換えてもいい。

これを受けて翌22日には電気興業で取締役会が開かれ、決議したのが冒頭のニュースリリース発信だった。記事が配信される前に自主的にセクハラその他について開示したのは、筆者の記事が配信される前に、同社がダメージコントロールに乗り出したことを意味している。

■被害者女性に「100万円でいい?」と迫ったのが近藤社長

ところがその開示姿勢は松澤氏に対する忖度や斟酌がにじみ出ている。このニュースリリースは東京証券取引所の適時開示情報伝達システム「TDNET」で広く発表されたものではなく、電気興業のHP上にこっそり掲載されただけ。ハラスメントを働いた役員についても松澤氏の名を出さずに「代表取締役」としか記されていない。

現社長の近藤忠登史氏(写真=電気興業ウェブサイトより)
現社長の近藤忠登史氏(写真=電気興業ウェブサイトより)

このリリースを見る限り、セクハラや不明朗な交際支出、利益相反取引のいずれも「当該事案の対処として問題があるとは言えない」「私的流用はない旨の念書の提出を受けている」「外形的には利益相反取引に該当するものの、実質的には利益相反状況にはない」など、大した問題ではなかったと言わんばかりだが、はたしてそうだろうか。前述の「コンプライアンス通報・報告」は弁護士が作成したもので、これらの判断がいかに疎漏なものであるかを28ページにわたってえぐり出しているのだ。

それに電気興業は事後処理で大きな過ちを犯している。経緯から考えて、セクハラ被害者に対する損害賠償は松澤氏が個人で負うべき性質のものでありながら、松澤氏と電気興業は被害者に連帯債務を負う旨の合意書が2月18日付で交わされている。

そこには被害者女性と松澤氏の署名捺印に加え、松澤氏から代表取締役の職務代行指示書を受けていた近藤取締役(現社長)の署名捺印がある。関係者によると、被害者女性に「(損害賠償額は)100万円でいい?」と合意を迫ったのが、近藤氏だった。

■取材に対しては「連帯債務はない」と虚偽の回答

こんな連帯債務にゴーサインを出しておいて、近藤社長は株主にどう説明するのか。また、問題の調査に当たった社外取締役や監査役は行きがかり上、この合意書の存在を知らないはずはなく、その取り交わしに反対しなかったのか。

しかも取材に応じた浅井貴史管理統括部長は、私に対して「(質問状には)当社が連帯債務を負うと記載されていますが、当社は、被害者に対して金員を支払っておらず、今後も合意内容に従って支払う債務を負っているわけではありません」と虚偽の回答している。

しかし実際には連帯債務はもちろん、損害賠償の支払い期日や支払い方法まで合意書には記されているのだ。浅井氏の説明は真っ赤なウソを含んでおり、29日に開催される株主総会で取締役への昇格が議案に上っている浅井氏の適格性に疑問符を付けざるを得ない。

電気興業の悪質性が際立つのは、責任の所在をねじ曲げるために取締役会議事録の作成段階で出席者の発言を捏造しようとさえしたことだ。事実を取締役会の暗闇に沈めようとしたとしか思えない。

これでも東証一部上場企業なのだ。国内外の投資家は、こうした市場をどう見るか。ガバナンス不全は、一企業の問題にとどまらず、日本の株式市場全体の信頼性と沽券にかかわる。残念ながら「オリンパス事件」から10年を経ても東京市場は変わっちゃいなかった。

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山口 義正(やまぐち・よしまさ)
ジャーナリスト
1967年生まれ。 愛知県出身。法政大学法学部卒。日本公社債研究所(現格付投資情報センター)アナリスト、日本経済新聞社証券部記者などを経て、現在は経済ジャーナリスト。月刊誌『FACTA』でオリンパスの不透明な買収案件を暴き、第18回「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞」の大賞を受賞。 著書に『サムライと愚か者 暗闘オリンパス事件』(講談社)などがある。

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(ジャーナリスト 山口 義正)

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