「日本経済が破綻したときのために外貨を」と考える人の致命的な勘違い
プレジデントオンライン / 2021年8月25日 8時15分
■外貨保有に関する大誤解2つ
投資についての話題のひとつに「資産分散の方法として外貨を持っておくべきだ」という話があります。多くの人はそう言われると「なるほど、そうかもしれない」と考えがちですが、これについてはもう少し深く考える必要があります。
どうもこの考え方の根底には、外貨を保有することについて次の2つの誤解があるとしか思えないからです。
①外貨を持つことと外国資産を持つことの意味の混同
②外国為替に投資することで利益が得られると思う勘違い
■日本円しか持たないのはリスクなのか
私は外国資産を持つことは意味があるし、必要なことだと思いますが、外貨そのものを持つことには全く何の意味もないと思っています。なぜなら我々は日本に住んで生活しています。当然日常の生活で使う通貨は「円」です。いくら外貨をたくさん持っていてもそのまま使うことはできませんので両替するしかありません。頻繁に海外に行くとか、海外に家族が暮らしていて定期的に送金が必要という人でもない限り、外貨そのものを持っていてもそれだけでは使いようがないのです。
こう言うと、「いや、これからの日本経済は恐らく衰退するだろうから日本円だけしか持っていないというのは大きなリスクだ」という意見が戻ってきます。もっと極端になると「日本経済が破綻して円が紙切れになってしまうかもしれないということを想定して一定のドルを持つべきだ」という人もいます。でも本当にそうなのでしょうか?
■外貨ではなく外国資産を持つべき
日本経済は衰退するからというのであれば、投資すべきなのはドルやユーロや人民元といった通貨そのものではなく、アメリカや欧州や中国の企業や不動産に投資をすべきです。それは外貨を持つことではなく、外国資産を持つことなのです。この考え方は正しいです。
国がどこであれ、成長性のある企業は存在します。例えばこの20年ぐらいの間を考えると米国株に投資をしてきた人は、日本株だけにしか投資しなかった人に比べて何倍も資産を大きく増やしています。中国株も同様です。GAFAと言われる米国の成長企業群は日本ではなかなか育っていません。したがって、世界に幅広く成長性の高い企業を求めて投資をするというのはとても良いことです。それはおおいにやるべきだと思います。
しかしながら通貨だけを持っていても仕方ありません。通貨そのものは単なる記号、データでしかなく、それ自体が新たな価値を生み出すものではありません。海外の企業に投資をするにあたってはドルやユーロに両替しないとできないから仕方なくするだけの話です。
また前述のように「日本経済が破綻して円が紙切れになってしまう」という人は、全く現実を理解出来ない人です。なぜなら、もしそんな事態になったなら社会は大混乱するでしょうから、恐らく外貨を持って海外に出るなどということは難しくなるでしょう。したがって外貨を持っていれば安心というのはあくまでも机上の空論に過ぎず、実効性という点では何ら意味がないことだと考えるべきです。
■外国為替に投資することで利益が得られると思う勘違い
また、こんな風に考える人もいます。「1ドル70円台とか80円台の円高の頃にドルを買っておけば、儲かったではないか。だから外国為替に投資しておくことは儲かる可能性がある」と。もちろんそれはその通りですが、それは価格の変動に賭けた単なる為替投機に過ぎません。外国為替に“投資する”という概念がそもそも根本的な勘違いなのです。
為替取引というのは要するに異なる通貨を“両替”することであり、為替レートというのはその両替をする時の比率です。したがって為替取引というのは決して投資などではなく、あくまでも通貨を両替する時の比率の変動に“賭ける”という一種の投機なのです。株式のように成長する会社の株をずっと持ち続けていれば、誰もが利益を得ることができるという性質のものではありません。
■為替取引は博打のようなもの
要は取引に参加している人の利益と損失の総和が等しくなる「ゼロサムゲーム」なのです。ですから為替で博打を張ろうというのであればそれは結構ですが、長期に資産作りをするために資産分散として通貨を保有し続けるということにはほとんど意味はありません。もちろん博打ですからたまたま上手くいって儲かることがあるのは言うまでもありません。でも繰り返しますが通貨というものはそれ自体が新しい付加価値を生むものではありませんから、通貨の両替比率に賭けるという行為は決して投資ではなく、投機すなわちある種の博打と考えるべきです。
■海外の高金利債券も妙味があるわけではない
さて、ここまでのお話で外貨自体を持つことにはほとんど意味がないことはおわかりいただけたかと思います。では単に外貨を持つのではなく、外貨建て資産のひとつとして、海外の高金利債券に投資することはどうでしょう。今の日本の金利はほぼゼロに等しく、預金だって債券だって全くお金が増えません。そこで海外の高金利を得るために外債に投資すればいいのではないか、というアイデアが出てきます。しかしながら実は同じ外国資産でも株式を持つことには意味がありますが、債券を保有することはほとんど意味がありません。その理由は何でしょうか?
金利が高いということは何を意味しているのかよく考えるべきです。それは基本的にはその国の物価が上昇しているからです。通貨の値打ちというのは、「そのお金でどれだけの品物が買えるか」、すなわち購買力です。通貨を両替する時の基準となる「為替レート」は最終的には二国間での購買力が等しくなるように調整されるという性質を持っています。これは為替レートを決定する要因としてはおおむね正しいと言って良いでしょう。
もしその国の金利が高いというのであれば多くの場合、その国がインフレ傾向にあるということですから、物価の上昇によってその国の通貨の購買力は低下するということになります。したがって購買力の低下幅がより大きい通貨は、低インフレで低金利の通貨に対して長期的にはその交換レートが下落することになりますから、いくら高金利通貨の債券を持っていても最終的には為替で調整され、国内の債券を持っているのと何ら変わりはなくなります。これが長期における為替変動のメカニズムなのです。したがって海外高金利債券を持っていてもあまり意味はありません。もちろん短期的には儲かることもありますが、それは前述した投機でうまく行った結果にすぎませんから、資産形成手段としては不適と言って良いでしょう。
■手数料の高い外貨建て商品に要注意
最近では海外株式に投資する投資信託はずいぶん手数料も下がり、わかりやすくシンプルな構造のものが増えてきています。にもかかわらず、多くの金融機関で外貨建て個人年金保険のような複雑な商品を熱心に勧めてくるのは「金利の高い外貨建て商品」はほぼ金利がゼロに近い円商品よりも厚い利ザヤを彼らが稼げるというのがその理由だからです。
でもこれはあらゆる金融商品に言えることですが、シンプルで手数料の安いものこそが顧客にとっては良い商品なのです。「これからは通貨分散が必要だ」という一見納得性のありそうな勧誘文句につられて、やたら手数料の高い外貨建て商品を買ってしまうことのないよう、注意することが必要です。「外貨を持つこと」と「外国資産を持つこと」は明らかに違うということをぜひ知っておいてください。
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経済コラムニスト
大手証券会社に定年まで勤務した後、2012年に独立し、オフィス・リベルタスを設立し、代表に。資産運用やライフプランニング、行動経済学などに関する講演・研修・執筆活動などを行っている。近著に『定年前、しなくていい5つのこと』(光文社新書)など。
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(経済コラムニスト 大江 英樹)
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