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「首相続投のための策謀に国民はうんざり」自民党内からも公然と"菅降ろし"が出てくるワケ

プレジデントオンライン / 2021年9月2日 13時15分

衆院解散や自民党総裁選について、記者団の質問に答える菅義偉首相=2021年9月1日午前、首相官邸(写真=時事通信フォト)

■「総裁選では岸田氏に勝てる」という計算か

9月1日午前、菅義偉首相(72)が記者団の質問に対し、「最優先は新型コロナ対策だ。いまのような厳しい状況では、衆院の解散はできない」と述べた。自民党総裁選(9月17日告示、29日投開票)にも触れ、「総裁選の先送りは考えていない」と説明した。

これは8月31日夜の毎日新聞デジタルの特報「首相、9月中旬解散意向」を否定するものだ。毎日新聞は「菅首相は自民党役員人事と内閣改造を来週行い、9月中旬に衆院解散に踏み切る意向だ。複数の政権幹部が31日、明らかにした。自民党総裁選は衆院選後に先送りする。首相は衆院選の日程を10月5日公示、17日投開票とする案を検討している」と報じていた。

菅首相はこれまでも「感染対策が最優先」と度々強調してきたが、その言葉とは裏腹に感染が拡大したことで、内閣支持率は低迷している。今回、毎日新聞が「複数の政権幹部が明らかにした」と書いたところなどから判断すると、菅首相は総裁選を先送りして衆院解散に踏み切るという選択肢も検討していたのだろう。

総裁選にはすでに岸田文雄・前政調会長(64)が出馬を表明し、2人の対決の構図が固まりつつある。早期の解散を否定したということは、菅首相はこのまま総裁選を行っても、岸田氏に勝てると考えたのだろう。

■岸田氏は「自民党を若返らせる」と明言

「国民の声に耳を澄まし、政治生命をかけ、新しい政治の選択を示していく」
「党役員に若手を大胆に登用し、自民党を若返らせる」

岸田文雄・前政調会長は8月26日の記者会見でこう述べ、自民党総裁選への出馬を正式に表明した。

明らかに、独断専行に走る菅首相と長きにわたって幹事長を務める二階俊博氏(82)に対する挑戦のメッセージである。

岸田氏は負ければ、自民党内で確実に干される。言葉だけでなく、その表情にも覚悟が見える。沙鴎一歩は岸田氏という政治家を見直した。

岸田氏は「菅首相の無投票再選を食い止めなければならない」と主張する若手の声に押され、総裁選への出馬を決めたという。記者会見では幹事長など党役員の任期を「1期1年連続3期まで」に減らすことや、政治とカネの問題を解決していくことを掲げた。どれも岸田派(46人)の中堅・若手の国会議員が求めている政策だ。

菅首相は新型コロナ対策に何度もつまずき、その結果、支持率は低空飛行を続けている。自民党の若手からは衆参3選挙、3知事選、都議選、横浜市長選での相次ぐ敗北に不満の声が上っている。岸田氏はそんな批判を取り込んで獲得票に結び付ける作戦だろう。

自民党総裁選は、党内あげての「若手vs.古参」の戦いとなる公算が高い。

■「史上最強の官房長官」だったが、首相ではマイナスばかり

菅首相は側近や専門家の意見を聞かず、新型コロナの感染急拡大を無視するかのように東京五輪(7月23日~8月8日)と東京パラリンピック(8月24日~9月5日)の開催に踏み切った。自分が正しいと考えると、周囲の意見を聞こうとしない。おのれの考えに何ら疑問を持たずに突き進み、失敗して世論の批判を浴びている。

前首相の安倍晋三氏(66)のもとでのナンバー2という立場では「史上最強の官房長官」との評価はあったが、首相となってからは評価は下がる一方である。

一方、二階氏は歴代最長の5年以上にわたって幹事長を務めている。その間、政治とカネの問題をめぐっては「随分、きれいになってきている」との問題発言もあった。自民党の中堅・若手国会議員からは「二階幹事長が自民党に対する逆風の発生源になっている」との批判の声が上がっている。

■「自民党は新しい総裁のもとで政策を実行していくべき」

菅首相は総裁選や衆院選に先立ち、9月6日にも二階氏の幹事長の交代をはじめ、党役員人事と小規模な内閣改造を実施する意向があると時事通信など複数のメディアが報じている。

内閣支持率の低さと中堅・若手国会議員からの批判に対し、局面を打開していく作戦とみられるが、ここに来て人事権を振り回すやり方は姑息だ。菅首相という人間は、自らの続投のためなら手段を選ばないのである。それは一人の政治家としては許されるのかもしれないが、日本のトップとしてはいかがなものだろうか。

実際、自民党の中谷元・元防衛相は9月1日、谷垣グループの会合で「総裁選日程はもう決まっている。正々堂々と行い、自民党は新しい総裁のもとで政策を実行していくべきだ」「人事で『釣る』という方法もあるが、党員や国民はおそらく辟易するのではないか」と述べ、菅首相の再選に否定的な考えを示している。

自民党内で最大派閥の細田派(96人)に強い影響力を持つ安倍氏と、第2派閥の麻生派(53人)を率いる麻生太郎・副総理兼財務相(80)は菅首相の再選続投を支持している。党内随一の結束力を誇る二階派(47人)も二階氏を中心に菅首相を支持する構えだ。竹下派(52人)も石原派(10人)も菅首相支持に傾いている。いまのところ、菅首相が有利なようではある。

■石破氏などが立てば、菅首相はむしろ有利になる

しかし、今回の総裁選は前回とは異なり、全国の党員・党友も投票する。自民党の所属国会議員の383票(1人1票)と、得票数に応じて配分されるドント方式で換算した383票の地方票を取り合う。合計766票の過半数を獲得した者が総裁に選ばれる。

国会議員票は古参の派閥領袖が強い力を持っているのでまとめやすいものの、無記名投票のために完璧には縛ることができない。一般の有権者に近いとされる党員・党友の地方票は、国会議員票よりも流動的だ。おそらく岸田氏に票が集まりやすいだろう。

ただ今後、岸田氏に続いて、高市早苗・前総務相(60)や「出馬せず」から「白紙状態」に変わった石破茂・元幹事長(64)が総裁選に立った場合、菅首相に対する批判票が拡散してしまう。それに投開票日の9月29日までには、さらなる紆余(うよ)曲折もあるだろう。

ここで理解しておかなければならないのは、自民党総裁選が日本という国の舵を握る首相を決める選挙になる、ということだ。自民党には日本の未来に向け、しっかりとした礎を築ける総裁を選出する責任がある。

自民党本部
写真=iStock.com/oasis2me
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/oasis2me

■「根拠なき楽観、専門知の軽視」と朝日社説は批判

8月27日付の朝日新聞の社説は「菅政権1年の総括から」との見出しを掲げ、「自民党総裁選は岸田文雄前政調会長が立候補を正式に表明したことで、菅首相の無投票再選はなくなった。全国の党員・党友も1票を投じる選挙戦では、新型コロナ対応をはじめ、この1年間の首相の政権運営を総括し、その先の展望を描く、徹底した議論が求められる」と穏やかに書き出すが、そこは菅首相を嫌う社説だけに手厳しい批判を忘れずにこう指摘する。

「政策を決める首相の資質や政治手法自体に疑問符がつけられている。根拠なき楽観、異論に耳を貸さない独善的態度、専門知の軽視、国民の心に届く言葉の欠如……。東京都議選や横浜市長選での自民党の敗北は、そんな首相に対する有権者の不信の表れに違いない」

「首相の資質」という表現に目が留まる。沙鴎一歩も菅氏は首相という職には向かない政治家なのだと思う。

続けて朝日社説は「再選をめざすなら、首相はこの厳しい評価に正面から向き合わねばならない。自らを省み、改めるべき点は率直に認めることが不可欠だ」と主張するが、その通りである。

■自民党の若返りは日本を牽引するうえで欠かせない

朝日社説はこうも指摘する。

「菅政権の1年で問われるべきは、コロナ対応だけではない。学問の自由にもかかわる日本学術会議の会員候補6人の任命拒否は、いまだ撤回されていない。安倍氏側からの前夜祭への費用補填が明らかになった『桜を見る会』をめぐる問題や、自ら命を絶った元近畿財務局職員の遺族が公文書改ざんの真相解明を求めている森友問題など、前政権のウミを取り除こうとしない姿勢は、政治への信頼回復を阻んでいる」

日本学術会議の扱い、桜を見る会の問題、森友学園の事件など新型コロナの感染拡大で忘れられつつあるが、これらの事実は自民党総裁選後の衆院総選挙にとって重要だろう。決して忘れてはいけない。

最後に朝日社説は「前回のような派閥中心の多数派工作が繰り返されるなら、国民との乖離(かいり)は広がるばかりだろう」と指摘する。自民党は党内を若返らせることが日本を牽引するうえで欠かせないという自覚を持つべきである。

■「『土俵際』の危機感を持て」と産経社説は呼びかけ

産経新聞(8月27日付)の社説(主張)は「新型コロナウイルス禍や激化する米中対立など難局の下で行われる自民党総裁選である」と書き出し、「候補者が政見や国家観を明確に示し、競い合うものにしなければならない」と訴える。

独自の視点でのおもしろさはあるが、同じ保守の党内での総裁選だ。政策を実施するうえでの考え方となる政見はともかく、国家観まではそう大きくは対立しないだろう。産経社説は少々、大上段に構え過ぎていないか。

産経社説は「それを十分にできなければ、国民から期待を寄せられるリーダーを選ぶことにはつながらず、間近に迫る政権選択選挙の衆院選で厳しい審判を下されるかもしれないという危機感を自民党は持つべきである」とも主張するが、これは理解できる。見出しも「『土俵際』の危機感を持て」である。

派閥領袖の大半が菅首相支持でまとまりつつあり、菅首相はその上にあぐらをかいて首相続投を信じているところがある。自民党の伝統ともいえる、派閥中心の多数派工作の悪弊である。しかし、すぐに衆院総選挙が始まり、国民の審判が下る。

産経社説が指摘するように自民党は強い危機感を持って総裁選に臨むことが肝要だ。世論は菅政権に強い不信感を抱いている。自民党は世論を無視するような総裁選を行ってはならない。さもないと衆院総選挙で野党に敗れることになる。

■立候補者は「何をいつまでに実施するのか」を語るべき

産経社説は「感染力の強いデルタ株拡大への備えが追い付かず、菅内閣の支持率が下がり続けている中での総裁選である」と言及し、続けて「緊急事態宣言や蔓延防止等重点措置の発令、延長が繰り返されている。新型コロナ陽性者が日本で初めて確認されてから1年7カ月以上もたつのに、医療提供体制は各地で崩れ、入院できずに自宅で亡くなる人が相次いでいる」と指摘する。

この連載で指摘してきたように、どこの国のトップも新型コロナ対策に手こずっている。それだけ新興感染症のコントロールは難しい。日本の菅首相だけが、対策で後れをとっているわけではない。

産経社説は「有権者の視線が厳しさを増すのは無理もない」と書き、「重要課題は多く存在するが、候補者に真っ先に示してほしいのはコロナ禍をどう乗り越えるかだ。医療提供体制拡充、ワクチン接種促進の掛け声にとどまらず、今までの対応のどこが不十分で、具体的に何をいつまでに取り組むのか。それを語るべきだ」と主張する。

その通りだ。次の首相を決めることになる総裁選の立候補者は「どこが十分でなく、何をいつまでに実施するのか」を具体的に語るべきである。

さらに産経社説は「中国の覇権主義を抑え込めるかが、日本と世界の平和と繁栄を左右する。日本は中国とどのように向き合うのか、日米同盟の強化策を含め対中戦略を語ることがリーダーの必須の条件だ。国民を守り抜く決意と政策を知りたい」とも主張する。

自民党が政権を握っている限り、自民党総裁が日本のリーダー、首相となる。日本国民を守る決意と政策は必要不可欠である。翻って思うに菅首相にはその決意が欠けているのではないか。

(ジャーナリスト 沙鴎 一歩)

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