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「生かしたまま民族を消滅させる」中国共産党がウイグルで進めている恐怖のプロジェクト

プレジデントオンライン / 2021年9月30日 15時15分

2021年8月5日、英国・ロンドンで、中国の新疆ウイグル自治区で進行中の人権侵害をめぐり、ウイグル人を支援するデモが行われ、ロンドン中心部の中国大使館の外に集まった人々。 - 写真=AA/時事通信フォト

なぜ中国政府は、国際社会から非難されても、ウイグル族などへの弾圧をやめないのか。大学院大学至善館教授の橋爪大三郎さんは「中国の少数民族は漢民族より広いテリトリーを持っている。独立は国家の存亡にかかわるため、少数民族を抹殺するのではなく、『思想改造』で中国人につくり替えようとしている」という――。

※本稿は、橋爪大三郎、中田考『中国共産党帝国とウイグル』(集英社新書)の一部を再編集したものです。

■なぜ中国共産党はウイグル人を“洗脳”しているのか

中国の本質をどう理解すればよいかについては、もう少し議論していきたいと思います。今現在、巨大な中国の過酷で凶暴な姿が露になりつつあります。これは想像を超えている部分があるので注意しなければなりません。

まずここまで過酷な類例を探すと、ナチズムがユダヤ人を虐殺したケースがある。あれは本当にひどいことをやった。中国はそこまではやってないじゃないか、というようにも見える。

ではなぜ中国共産党は、ウイグルの人びとを教育施設なるものに閉じ込めて、拷問や虐待をしながら思想改造をやっているのであろうか。今、ジェノサイドという言葉が出ましたが、ウイグル人の絶滅を願っているのなら、なぜ全員を殺さないのだろうか。

その理由は、もしも全員殺してしまったら、新疆(しんきょう)ウイグルが中国であると主張する正当化の根拠がなくなってしまうからだと私は思う。新疆ウイグルがウイグル人の土地で、ウイグル人が中国人だから、新疆ウイグルは中国なのです。同じことは内モンゴルでもチベットでも言えます。

弾圧のために反対派を閉じ込めたり、処罰したり、殺したりしても、それは少数者であって、大部分の人は生かしておかなきゃならない。中国の公民として、中国人として。それでこそ、そこが中国であると言える。

そのための教育であり、思想改造なのです。

■言語・信仰・考え方を抜き去り、中国語を注入する

身体は元のまま生きていて、考え方が別のものになる。中国政府、中国共産党に都合がよいものになる。これが思想改造の本質なんですね。

そうすると、彼らは協力者になり、中国公民になって、中国ナショナリズムのよき担い手になるわけだ。しかも中国政府にとって、それが漢民族ではなく、もともと新疆ウイグルに住んでいた人びとであるという点がとても大事なわけです。

考え方を別のものに入れ換える。そんなことができるのかと思うけれど、それを無理やりやっているのが中国です。民族を弾圧するのだけれど、民族を生かしておく。これが、ユダヤ人の身体を抹殺してしまう、ナチス(国家社会主義ドイツ労働者党)のユダヤ人迫害との違いです。

天安門に掲げられた毛沢東主席の写真
写真=iStock.com/SCM Jeans
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/SCM Jeans

先ほども言いましたが、新疆の人びとは、漢民族でもないし、顔が違い、言葉が違い、社会、風俗、歴史が違い、何から何まで違って、外国人なのです。その外国人を中国公民にしてしまうにはどうすればいいかと言うと、いろいろなものを頭の中から抜き去らなければならない。

言語を抜き去る。信仰を抜き去る。今までの考え方を抜き去る。そして、中国語(漢語)を注入する。中国語の考え方をオウム返しさせる。そして、社会組織や就業の構造や地域の在り方を中国風にしてしまう。民族の抹消です。身体は生きているけれども、ウイグル民族そのものを存在しなくさせてしまう。こういうものですね。

■「個別の文化集団を、地球上から消滅させるための人格改造だ」

【編集部】収容者の監禁や教化、懲罰の状況を記録している中国政府の公文書が流出して、その内容がBBCパノラマによって確認されています。収容施設では希望者に、過激思想に対抗するための教育と訓練を提供していると説明していますが、文書の内容を見るとそうではないことがはっきりとわかります。

記事によれば、収容施設の責任者らに宛てた連絡文書には、次のような指示が書かれていたとあります。

「絶対に脱走を許すな」
「違反行動には厳しい規律と懲罰で対応せよ」
「悔い改めと自白を促せ」
「中国標準語への矯正学習を最優先せよ」
「生徒が本当に変わるように励ませ」
「宿舎と教室に監視カメラを張り巡らせて死角がないことを(確実にしろ)」

そして、収容者が自分の行動や信条や言葉を変えたと示すことができて初めて解放されるのだということが何度も詳細に書かれています。さらに文書には、収容者の生活も細かく監視、管理されている状況も示されています。

「生徒のベッド、整列場所、教室の座席、技術的作業における持ち場は決められているべきで、変更は厳しく禁じる」
「起床、点呼、洗顔、用便、整理整頓、食事、学習、睡眠、ドアの閉め方などに関して、行動基準と規律要件を徹底せよ」

BBCが意見を求めた人権問題に詳しい専門家は、「巨大な洗脳計画」「個別の文化集団を、地球上から消滅させるための人格改造だ」と答えています。また記事によれば、外国の市民権を持つウイグル人の逮捕や、外国で暮らすウイグル人の動向を追跡する明確な指示も出されていて、かなりナチズムに近い狂気を感じます。

もちろんこの報道に対して中国当局は、そんな公文書は偽物と断じて、「自治区ではテロ事件など一件も起きておらず人びとは生活を楽しんでいる。西側は中国の国内問題に介入し、新疆における中国のテロ対策を妨げ、中国の順調な発展を妨害する口実を作ろうとしている」と、反論しています(参照:BBCニュース「中国政府、ウイグル人を収容所で『洗脳』公文書が流出」2019年11月25日)。

【橋爪大三郎】はい。つまり生かしたまま抹殺するということですね。ユダヤ人は殺してしまった。殺しはしなくても、それに匹敵するほどのひどいことを中国共産党はやっているわけです。

■ナチスによるユダヤ人虐殺との決定的な違い

ユダヤ人がなぜ抹殺されたのかと言えば、ドイツの社会からユダヤ人の要素を一掃するためです。

一掃して、ユダヤ人の居場所を、ヨーロッパのどこにもみつけられなかった。ユダヤ人を抹殺しても、ナチスは痛くもかゆくもない。だから、奇妙なイデオロギーに基づいて、国家的な大犯罪を起こしてしまった。

中国が少数民族を抹殺すると、中国は痛いんです。困るのです。中華民族は、漢民族を超えた、少数民族も含む政治団体であって、そのテリトリーは漢民族の倍ぐらいある。それを考えれば少数民族の独立などはありえない。国家の存亡に関わることなのです。

ということを中華人民共和国は主張しているので、それを実現させるまでこうした思想改造プロジェクトは続くだろうと思います。

■「思想改造プロジェクト」の行きつく先は台湾侵攻

この思想改造プロジェクトは今、着々と進行しつつあります。

内モンゴルでは2020年9月から、従来モンゴル語で授業を行っていたモンゴル系公立学校で、モンゴル語での授業を禁止し、中国語(漢語)で授業を行うように決定しました。モンゴル人から言語を奪うための決定です。

これもウイグルと並行する政策だと思います。どう並行しているかと言うと、モンゴルは北と南に分かれていて、北はモンゴルという国になっている。南は内モンゴルとして中国の一部にされてしまっている。

モンゴルは本来、ひとつの民族ですから、民族自決の原則からいえば、モンゴルと内モンゴルが合わさってモンゴル国になるはずです。それは、トルコ系の人びとが東トルキスタン(ウイグル)と残りの地域とで合わさって、トルコ系の共和国をつくるのが自然なのと、同様のことですね。

でもそこに中国の国境線があって、その南側の内モンゴル人を中国人につくり替えようとしている。同じプロジェクトなんですよ。

これには中華人民共和国と中国共産党の存在理由がかかっている。存在理由がかかっているから絶対にやるはずです。

赤い壁に描かれた中国と台湾の国旗の間に大きな亀裂
写真=iStock.com/Andrew Linscott
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Andrew Linscott

このプロジェクトは、台湾の解放でピリオドを打つ。台湾の解放は、文字どおり中国とアメリカが正面衝突する話です。アメリカと正面衝突しようとこのプロジェクトは実行しなければならないというのが、中国の指導部が今、考えていることだと思います。

この話の最後はそこに行き着くと思いますが、その前に、新疆ウイグルの苛烈な政策の本質をしっかりと押さえておきましょう。

■中国史のなかでたびたび起きたジェノサイド

中国の政治には、抗争がつきものです。その抗争が、統治者の間の争いにとどまっていれば、人民に被害は及ばない。でも、このまま中国がこの苛烈な政策を強行していくと、場合によっては、人民もこの紛争の中に巻き込まれて、大きな損害を被ると考えられます。

例その一

統一中国ができ上がる前の戦国時代。いろいろな国、諸侯が争っていました。国が七つぐらいあって戦争を繰り返している状態ですから、これは内戦ではなく、敵の軍隊は外国軍なんですね。外国軍と戦って、勝てば数十万人の兵士を捕虜にしたりする。

趙の国(周代・春秋時代・戦国時代にわたって存在した国。戦国七雄のひとつ)だったと思うが、戦いに敗れてどうなったかというと、捕虜になった数十万人の兵士らにまず自分で穴を掘らせる。穴を掘らせ、その中に入らせて、上から土をかける。

こうやって数十万人をすべて生き埋めにしてしまった。趙という国を二度と立ち上がらないようにするためのジェノサイドのやり方です。戦闘員が全員死んでしまうので、まだ村にいる非戦闘員はもう抵抗できない。そうしてだんだん同化が進んでいく。こういうことが中国の歴史ではよく起こるのです。

■中国共産党政権下でも数千万人単位の犠牲が出ている

例その二

王朝が交代するときによく農民反乱が起こります。農民反乱が起こると無秩序状態になる。そんなときによく起こるのは、地主への襲撃です。

借用証書が焼き捨てられ、土地の権利書が破棄され、地主はたいてい殺害されてしまうのです。それで、農民らは小作地を取り戻す。次の王朝がそれを正当化する。これがずっと繰り返されているのですね。多くの人民の犠牲の上に次の政権が成り立つというのが、中国の標準的なやり方なのです。

橋爪大三郎、中田考『中国共産党帝国とウイグル』(集英社新書)
橋爪大三郎、中田考『中国共産党帝国とウイグル』(集英社新書)

太平天国の乱(*1)は、キリスト教系新宗教の反乱ですが、1864年に鎮圧されるまでの13年間で、人民の死亡者は5000万人とも言われています。単一の事件でこれだけの人数が死ぬことはそうそうありえないわけです。

その後、抗日戦争、国共内戦があり、やはり数千万人の犠牲者が出ました。建国後も、反右派闘争などがあった。大躍進でも数千万人が亡くなっています。文化大革命でも数千万人の犠牲が出ている。そういうことは、中国では時々起こるし、中国共産党政権の下でも数千万人単位の人民の被害が少なくとも二回起こっているわけです。

反乱や革命が起こるたびに、膨大な数の人民が巻き添えになる。ウイグル問題を考えるときも、中国の政治メカニズムのそういう凶暴な本質があることを頭の隅に入れておいたほうがいいと思います。

(*1)太平天国 清朝末期の1851年、洪秀全を指導者とする上帝会が中心となり建国された国家。キリスト教をもとに清朝打倒、土地私有反対等を主張したが、清とイギリス軍人ゴードンが率いる常勝軍の連合軍に鎮圧された。

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橋爪 大三郎(はしづめ・だいさぶろう)
社会学者
1948年神奈川県生まれ。大学院大学至善館教授。東京工業大学名誉教授。77年東京大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。『4行でわかる 世界の文明』(角川新書)、『はじめての構造主義』(講談社現代新書)、『皇国日本とアメリカ大権』(筑摩選書)、『中国VSアメリカ』(河出新書)など著書多数。共著に『ふしぎなキリスト教』(講談社現代新書、新書大賞2012を受賞)、『日本人のための軍事学』(角川新書)など。

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(社会学者 橋爪 大三郎)

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