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「在宅勤務中もタバコを吸ってはいけない」なぜ日本の大企業は社員を子ども扱いするのか

プレジデントオンライン / 2021年10月19日 12時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kuppa_rock

リモートワークの導入企業が増える中、「在宅勤務中の禁煙」を求める企業が相次いでいる。ワークスタイル研究家の川上敬太郎さんは「社員を子ども扱いしているように見える。このようなマネジメントに固執すると、今後、多くの弊害を生み出す懸念がある」という――。

■就業中の喫煙禁止は社員を子ども扱いしている

今年9月、国内証券最大手の野村ホールディングスが「10月から就業時間中は全面禁煙とする」と発表し、大きなニュースになりました。イオンや味の素、カルビーといった企業でも「在宅勤務中の禁煙」を導入済みで、そうした大企業の動き自体がニュースになった形です。

これらはいわゆる「健康経営」の一環でしょう。社員の健康を思いやるだけでなく、「ESG」の取り組みとして投資家などにアピールする狙いもあるのだと思います。ただ、飲酒のように明らかに業務へ支障がでるものとは異なり、喫煙が業務に悪影響を与えるとは言えないでしょう。

宮崎駿監督のアニメーション映画『風立ちぬ』で、主人公の堀越二郎が仕事をしながらタバコを吸うシーンがあったように、かつては職場で仕事しながら喫煙する光景がよく見られました。仕事しながらコーヒーやお茶を飲むのと似た感覚です。

周囲が受動喫煙にさらされるなら問題ですが、同僚に影響の出ない在宅勤務中に、席を外さず仕事しながら喫煙するのなら、大きな問題があるとは思えません。そうなると、在宅勤務者への禁煙要請は、職場環境の整備や生産性の向上というよりは、喫煙者自身の健康への配慮が目的なのでしょう。

■社員の健康を守る一方、終身雇用をやめる矛盾

喫煙による健康被害は本来社員個人が責任を負うべき問題です。健康を考えれば喫煙しないほうが良いはずですが、本人に吸いたいという意思があれば、法律で禁止されていない以上、会社が強制的にやめさせるわけにはいきません。

また、喫煙による健康被害で社員が寿命を縮めることを心配する一方で、経済界は終身雇用が難しいと宣言し、早期退職を募集して高齢社員を辞めさせようとするのは、矛盾した行為のようにも感じてしまいます。

会社が終身雇用を放棄するのであれば、喫煙する社員からすると、健康管理は個人に任せて、在宅勤務中の喫煙も自分に判断させてほしいという気持ちかもしれません。

会社としても、周囲に迷惑をかけない限り、喫煙判断は大人として本人に委ね、仕事でしっかり成果を出してもらえば良いように思います。

社員の意思や自律性を最小限に抑え込み、他律的に制御しようとする姿勢は、まるで社員を子ども扱いしているように見えてしまいます。

■他律的マネジメントを軸にする日本企業が抱える弊害

これまで日本企業の多くは、他律的マネジメントを軸にしてきました。

他律的マネジメントとは、個々の社員の職務を詳細までは定めず、管理職はその日の状況や経営陣からの指示を踏まえ、時に担当範囲を超えた職務に社員を従事させるなど、献身的で従順な対応を求めるスタイルです。

在宅勤務者に禁煙を求め、社員個人が責任を負うべき範囲まで踏み込んで会社が制御しようとするスタンスもまた、他律的マネジメントの一環です。

それは、組織が歩調を合わせて高い統率力を発揮させる上では、有効で優れたスタイルなのかもしれません。

しかしながら、社員を組織の思い通りに動かそうとする他律的マネジメントは、いくつもの弊害をもたらす可能性もあります。中でもポイントだと思う弊害について、在宅勤務中の喫煙と関連づけながら以下に3つ挙げたいと思います。

■①自律的に動ける社員が育たず他社との差が開くばかり

会社から在宅勤務でも禁煙しなさいと指示されれば、他律的マネジメントに慣れていて真面目で従順な社員は、たとえヘビースモーカーであってもタバコを我慢すると思います。

しかし、一方では隠れて喫煙している社員もいるということになってしまうと、正直者がばかを見ることになります。

会社としては、そうならないように監視の目を強化する必要が出てきます。例えば、勤務中はZoomなどのテレビ会議システムを常時接続しておいて、喫煙状況を確認するといった具合です。

常に社員の状況が見えるようにし、社員も常に会社から見られていることを意識して振る舞えば、他律的な統制は保たれるかもしれません。

しかしそれは、社員にとって窮屈であり、その反面自己管理が不要で組織への依存度が高まり、自律性が育ちにくい環境だと言えます。

そんな他律的マネジメントの下では、社員は自ら考えて能動的に動く必要性がほとんどありません。管理職から言われた通りに動けばよいという意味ではラクであり、指示待ち傾向が強くなります。

変化が激しく先が読みづらい時代に、現場の最前線にいる社員が自律的に判断して動ける組織と、他律的で統制はとれているものの指示がないと社員が動けない組織とでは、競争力や生産性において、いずれ大きな差が生まれていくように思います。

■②管理職に無意味でどうでもいい仕事を増やす

管理職は、社員の不祥事など、管轄する部門内で生じるすべての出来事に対して監督責任を負う立場です。

会社が在宅勤務中であっても社員に禁煙を求めた場合、会社の目を逃れて喫煙している社員がいたと発覚すれば、上司である管理職も監督責任を問われることになります。管理職としては、在宅勤務であっても社員に禁煙を順守させなければなりません。

しかし、在宅勤務中に喫煙していないかどうかを監督するのは極めて困難です。

①で示したようにテレビ会議システムを常時接続したとしても、管理職がずっと社員の様子を眺めていられるわけではありません。自分が席を外している間に、部下がこっそり喫煙していることだって考えられます。

当然ながら、社員の監督以外にも管理職にはたくさんの仕事があります。

在宅勤務者の喫煙を監視するという、到底コンプリートできるはずのないミッションに時間と神経と労力を費やすことに、果たしてどこまで意味があるのか疑問です。

もし、在宅勤務者への禁煙要請などあくまで形式的な表向きの方針にすぎないという、暗黙の了解があるのだとしたら、ブルシット・ジョブ(無意味でどうでもいい仕事)そのものです。

得てして、他律的マネジメントを軸にした会社はそんなブルシット・ジョブを生み出し、管理職を含むあらゆる社員の不毛な仕事負担を増やしてしまいがちです。

自宅で仕事中、トラブルに頭を抱える男性
写真=iStock.com/kazuma seki
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kazuma seki

■③「テレワークは無理」柔軟な働き方が機能しない

他律的マネジメントの職場は、社員が自分の仕事の“終わり”を決められません。

自分ではその日の仕事が終わったと思っていても、帰宅しようとした寸前に管理職から「ちょっとこれやっといて」と仕事を振られて残業することになったりします。

有給休暇を取得しようと思っても、休みを取得した日に、もし管理職から想定外の業務が振られてしまったら、自分が休んだために他の同僚たちにその業務が振られてしわ寄せが行くことも考えられます。

そんな心理が働いてしまうため、仕事が自律的にコントロールできない職場は、どうしても休みがとりづらくなってしまうのです。

また、自分の仕事が自分でコントロールできない職場はテレワークもしづらくなります。管理職としては、出社して目の前で仕事している社員から得られる情報量に比べ、目の前におらず、自宅や遠隔地で仕事している社員から得られる情報量は圧倒的に少なくなります。

その場で得られる情報を踏まえて管理職が都度適切に判断し、社員に細かな指示を出していく他律的マネジメントは、テレワーク環境にはなじまないスタイルです。

■社会が大きく変革する時代に他律型はなじまない

在宅勤務中の喫煙さえ社員に委ねられず、会社が何でも制御しようとする他律的マネジメントのままであっても、メッキを施すかのようにうわべだけ制度を整えるのは可能かもしれません。

しかし、テレワークを組織の中で機能させて生産性を高めようと思うのであれば、社員が自律的に仕事に取り組めるよう業務そのものを設計し直す必要があります。つまり、他律的マネジメントから自律的マネジメントへとゲームチェンジしなければならないということです。

チェンジはチャンス
写真=iStock.com/eternalcreative
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/eternalcreative

冒頭で触れたように、「在宅勤務中の禁煙」は、野村ホールディングスやイオン、味の素、カルビーといった錚々たる会社で導入されています。いずれも日本を代表するすばらしい会社であり、組織改革にも積極的な印象があるだけに、在宅勤務者に禁煙要請するような他律的マネジメントへの“固執”が、今後の組織機能にマイナスの影響を及ぼさないか気になります。

①~③に見たような弊害を防ぎ、少子化による人口減少が続く日本社会において働き手から選ばれる職場であり続けるためにも、他律的マネジメントから自律的マネジメントへゲームチェンジすることは、とても重要な鍵を握っていると思います。

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川上 敬太郎(かわかみ・けいたろう)
ワークスタイル研究家
1973年三重県津市生まれ。愛知大学文学部卒業後、人材サービス企業役員、業界専門誌『月刊人材ビジネス』営業推進部部長 兼 編集委員、調査機関『しゅふJOB総合研究所』所長、厚労省委託事業検討会委員など、様々な立場から雇用労働関連事業の運営に従事。現在は“ワークスタイル”をメインテーマにした研究・執筆・講演、事業運営や広報ブランディングアドバイザリーなどの活動に携わる。男女の双子を含む4児の父で兼業主夫。

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(ワークスタイル研究家 川上 敬太郎)

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