「2%の利回り保証します」外貨建て保険のセールストークに乗った52歳独身女性を待ち受けていたワナ
プレジデントオンライン / 2021年10月19日 11時15分
■生命保険へのトラブルの内訳を見てわかった重大事実
ファイナンシャルプランナーの藤原未来さんに「金融の素人」である筆者がお金に関する疑問をぶつける本シリーズですが、前回は「保険」のイロハを教えていただきました。今回のテーマは「資産運用と保険」について。
国民生活センターが2021年6月に発表した資料によると、生命保険に関する相談が多くなっています。
相談内容は、勧誘の際の説明不足、契約時の告知に関するトラブル、解約返戻金の額などでトラブルになったものが多いようです。
——銀行に勧められるままに投資信託を購入し、トラブルになるケースは本シリーズでもお伝えしましたが、保険のトラブルも多いということですね? 具体的には、どういうトラブルがありますか?
【藤原未来(ファイナンシャルプランナー、以下藤原FP)】まずは「国民生活センター」が発表している事例を見てみましょう。
「相続対策にもなると外貨建て生命保険を勧められ、外貨預金口座を開設したが、『外貨建て生命保険の契約は慎重に」との記事を見かけた。リスクのある契約なら断りたい」
「何十年も前に保険会社から解約返戻金があると言われて契約していたが、事業譲渡後の保険会社に『引き継いだ保険は掛け捨てなので返戻金はない」と言われた。どうしたらよいか」
「将来のために2、3年前から生命保険に加入しているが、説明や書面に不備があるため、解約して返金を求めたい」
「5年前に銀行の勧めで外貨建て生命保険に加入した。リスクのない契約を強く希望したが為替差損が出ている。どうしたらよいか」
いろいろな相談があるようですが、共通して言えるのは説明不足やミスリードするような話法、さらには顧客の意向をないがしろにする対応など保険を販売する側の姿勢がトラブルの原因となっているということです。
もちろん、そのような販売姿勢は許されないことですが、買う消費者側も「その気にさせられて」ついつい契約してしまうという他人任せの判断は避けるべきだと思います。
■保険商品へのクレームの多くは「貯蓄機能」に関して
——私たち素人をはぐらかすような営業姿勢はいかがなものかと思います。でも、確かに自分たちもしっかりしないといけないというのはおっしゃる通りで耳が痛いです。どうやって防げばよいでしょうか?
【藤原FP】では、まず前回の復習です。そもそも生命保険には「保障機能」と「貯蓄機能」の二つがあります。二つのうち「保障機能」が保険商品のメインで、万一、不測の事態が生じた時の「大きな困った」に対処するための便利な道具が保険なのです。そのために「掛け捨て」の保険料を払って備えるわけです。保険料は「安心料」ということですから、安ければ安いほどよいですね。
——そうでした。「大きな困りごと」に備えるのが保険の役割でした。保険に頼らないと生活ができなくなるケースはありますものね。
【藤原FP】一方の「貯蓄機能」ですが、実はこちらが「厄介者」なのです。さきほど並べられた「国民生活センター」が発表しているトラブル事例をもう一度読み直してみると、ほとんどが「貯蓄機能」についてのトラブルでした。
・解約返戻金が想定より少なかった
・リスクのある外貨建て生命保険を勧められた
・解約返戻金があると言われて契約したのに実際は掛け捨てだった
・リスクのない契約を強く希望したが為替差損が出ている
「保障機能」を主目的とした定期保険などは掛け捨てなので、そもそも「解約返戻金」はないし、満期を迎えても「満期保険金」や「生存給付金」がもらえるものでもないのです。
死亡したら「死亡保険金」、入院したら「入院給付金」、ガンになったら「診断一時金」などが給付されますが、そのような保険事故が起きずに保険期間が満了したら給付はないわけです。
皆さんはそれを承知の上で契約しているし、死亡したのに約束された保険金が払われないということはまず起きないので、「保障機能」型の保険でのトラブルは少ないのは理解できると思います。
——たしかに死亡保険金をめぐるトラブルはあまり聞かないですね。保険金目当ての殺人事件はたまにニュースになりますが、それはまた別の問題ですからね。
【藤原FP】それに対して「貯蓄機能」型の保険商品は「それは話が違う!」ということになりやすい。なぜかというと保険料として支払ったお金(=元本)がそれ以上になって戻ってくることを期待しているからです。支払ったお金よりも戻ってくるお金が少ないということは「元本割れ」するということで、お金を増やすために始めたのにまったく意味がない、意味がないどころか損する話になるわけで、「冗談じゃない!」というのも当然です。
■「2%の利回り保証」外貨建て保険のセールストークに乗った52歳女性
——なるほど。そういえばさっきのトラブル事例にもいくつか挙がっていますが、最近は外貨建ての保険のトラブルが多いようですね。これって「貯蓄機能」型の保険も多いですよね。どうして外貨建ての保険がトラブルになりやすいのですか? 実際にトラブルになった人からの相談は多いのでしょうか?
【藤原FP】多いですよ。なぜなら外貨建ての保険に入っている人の数がとても多いからです。もっと言うと、正しく内容を理解していないにもかかわらず、「これはとてもよい商品だ」と信じ切っている人が多いからです。
トラブルで泣いている人がいる一方で、幸いなことに事前に相談いただいたのでトラブルを防ぐことができたケースもあります。事例を紹介しましょう。
■【東京都文京区在住Aさん(52歳)のケース】
相談内容:「いま解約すると30万円も損するんですけど、どうしたらよいですか?」
独身キャリア女性のAさんは、米ドル建ての生命保険に3本加入しています。以下は、Aさんが藤原FPに相談にやってきて、やりとりした内容です。
【Aさん】ちょうど1年前に3本目を契約したのですが、その年払保険料が1万2000米ドル、日本円に直すと約132万円になります(1米ドル=110円)。毎年の保険料負担が大きいのですが支払うのは最初の5年間(計6万ドル)だけで、その後、私が65歳になるまで14年間おいておけば2%の確定した利回りで増えていくという話でした。ちょうど満期になった定期預金が600万円あったのでそれを崩しながら保険料に充てればいいかな、ということで契約しました。
【藤原FP】保険の販売員の売り文句を教えて下さい。
【Aさん】アメリカの金利は日本に比べて高く、この商品は「2%の利回りが保証」されているので日本の預金で置いておくよりも断然お得である、ということでした。
【藤原FP】では反対にデメリットは何と言っていましたか?
【Aさん】デメリットは、始めた最初の頃は解約すると元本割れするから注意するようにと。7年経過してやっと払込保険料と解約返戻金がトントンになるということでした。
【藤原FP】つまり、1万2000ドルを5年間支払って合計6万ドル投資する。契約して7年経過してトントンになるのでそこから2%の確定利回りで増えるのですね。最後65歳の時にいくら戻ってくるのですか?
【Aさん】資料によると約7万ドルです。つまり、7万ドル÷6万ドル=116.7%の返戻率ということで、これは預金においていてはできないことだし、2%の利回りも最後まで保証されているので安心だと思ったんです。
【藤原FP】いや、これは少しトリッキーだと思いませんか? 昨年満期になった定期預金600万円を51歳から65歳の14年間にわたり2%で複利運用したらいくらになるか分かりますか? 答えは約792万円です。返戻率は792万円÷600万円で132%になります。
【Aさん】あれ? 先ほどの116.7%よりもよい結果ですね。おかしいな、なぜなんだろう。
■「2%の保証利回り」実は1%足らずの商品だった
【藤原FP】つまりこういうことです。5年間毎年積み立てをする。その後元本割れが解消されるまで2年間待たされる。そこから2%の運用が始まる。運用期間は65歳までの7年間。契約して満期が来るまでの14年間のうち半分の期間はお金を眠らせることになり、「2%の保証利回り」は後半7年間だけの話ということです。14年間にならしてみれば2%ではなく1%足らずの利回りになるということです。
【Aさん】あ、そういうことなのか。「2%の保証利回り」という魔法の言葉にかかってしまった。要するに14年間のうち前半7年間は無駄にしていることになるのですね。しかし、そもそもなんで最初の7年間は元本割れするようなことになるのでしょう。それが無駄ですよね。これはどういうことなんですか?
【藤原FP】そうですね、そこがポイントです。なぜかというと、この保険には当初2万5000ドル(275万円)の死亡保障がついているので、その「保障機能」のためのコストが保険料の一部から負担されているからです。
【Aさん】そうか、この保険は「養老保険」と書いてあるから保障機能もついているってことですか。その分だけ効率が悪くなるわけですね。そもそも自分はシングルなんだから死亡保障は必要ないんですよね。
【藤原FP】そこは大事ですね。Aさんのライフスタイルに合っていない部分が含まれている商品といえますね。Aさんにしてみれば「貯蓄機能」だけが必要で、その品質(収益性、流動性、安全性)が充実しているかどうかが重要なわけです。
【Aさん】その観点からみれば、収益性は「2%保証利回り」のカラクリ見破ったり、で実質1%足らずの利回りしかないとわかったとしても預金に比べればまだましですかね? 流動性はいつでも解約して換金はできるので問題ない。でも元本割れを避けるには7年間は換金不可。最後の安全性は、株式や投資信託のように値動きするようなリスクはないし、一応後半7年間は「2%保証利回り」が確保されるから安心かな。間違っていますか?
■2%の利回りでも14年後は20万円の損失のリスクあり
【藤原FP】いや、ほぼ正解です。素晴らしい理解力です。ただし、一点だけ、「安全性」の部分はもう一つ重要なポイントが置き去りになっています。それは何かというと、「為替のリスク」です。
【Aさん】あ、それか! たしかに、説明資料もすべて米ドルの数字が書いてありますね。保険料も解約返戻金も。
【藤原FP】そうなんです。すべては米ドルが前提になっているので、将来の解約返戻金のデータも米ドルをベースに「これだけ増えますよ」という説明になっているので要注意なのです。私たちは基本的には日本円で払って日本円で受け取るのですから。
保険料を払い込む時は米ドルが安くなる、つまり「円高」になったほうがよいですね。1万2000ドルを円で支払う時には1ドル110円(132万円)よりも1ドル100円(120万円)のほうが12万円もお得なわけです。
逆に解約返戻金や保険金を受け取る時は「ドル高・円安」のほうがお得ですね。でも、為替はコントロールできるものではないので、その時々の「出たとこ勝負」になるわけです。それが「リスク」なわけです。
【Aさん】「出たとこ勝負」ですか、それは安心なんかしてられないです!
【藤原FP】そうですね。極端な例を挙げれば、5年間かけて支払う6万ドルの保険料の平均為替レートが1ドル120円で、65歳に7万ドルを受け取る時の為替レートが1ドル100円だったら、元本割れですね。
6万ドル✕120円=720万円を支払って
7万ドル✕100円=700万円を受け取る。
ということで20万円の損失です。
■「今、解約約すると30万円も損します、どうしたらよいですか?」
【Aさん】んー、たしかに。しかも全くあり得ないとは言えない為替レートですね。こうなったらそのまま預金においておけばよかった! ということになるわけか。でもそういえば、営業担当が言っていたのは米ドルで受け取ることもできるから65歳時点でたまたま為替レートがよくない時は米ドルの預金にしておけばよいとのことでした。
【藤原FP】いつまで米ドルでおいておくことになるのでしょうか。使いたい時に使えないという事態も想定できそうですね。流動性がさらに失われ、自分のお金なのにコントロールできない残念な状況になるリスクもあるわけです。
【Aさん】そうか~。う~ん、そこまでは考えていませんでした。
【藤原FP】販売する側も苦しい部分ですよね。為替ほど長期的な先読みが難しいものはないので。かといって無責任な販売は許されませんので、きちんと洗いざらい説明すべきですよね。残念ながら、この保険商品はAさんにとっては使うべき道具ではないものと思われます。不必要な「保障機能」が付いているし、肝心の「貯蓄機能」も十分ではない。将来米国に移住したり、毎年旅行したりしてドルを使うようなニーズもないでしょうから。
【Aさん】え~? 今(加入1年、1万2000ドル=132万円払い済)、解約すると30万円も損するんですけど、どうしたらよいですか?
【藤原FP】結果オーライを天に祈りつつ払い込み続けるか。潔く解約して他の手段で挽回することを考えるか。どちらかの選択になりますね。
■販売側の売り文句に左右されず「トータルリターン」を把握すべき
【藤原FP】以上が、Aさんと私とのおおまかなやり取りです。
これはよくあるケースです。現在はアメリカの金利もいわゆる「コロナ前」の水準よりも一段と下がっていますので、過去のように保証利率3%を超えるような商品設計はできない環境になっています。となると「貯蓄機能」の充実は困難なのです。
それでもAさんの事例のように「2%の保証利回り」を前面に売り込まれるケースが後を絶ちません。「返戻率116.7%」などという数字を見せられるとなんだかよさそうな気がしてしまうのも無理もない話です。
——いやー、これはリアルな話ですね。Aさんのような人はたくさんいると思われます。同じような目に遭わないためにはどうしたらよいのでしょうか。
【藤原FP】そうですね。基本的には保険商品で「貯蓄機能」を期待するのは、今の金利情勢では難しいと思ったほうがよいでしょうね。Aさんが15年前と10年前に契約した2本の米ドル建て終身保険は実質利回りも3%近くあり、ある程度想定される為替リスクを吸収できるレベルなのでそのまま活用できるものかと思われます。
——それに「保障機能」が付いているかどうかも確認すべきポイントですね。それにかかるコストが実質利回りの足を引っ張るってことですものね。
【藤原FP】そうです。そして、販売側の売り文句に左右されず、冷静に「トータルリターン」を把握すべきです。「トータルリターン」は「払い込む保険料」(元本)と「受け取る給付金や返戻金」を比べて増える差額(運用収益)を契約期間(運用期間)で複利の利回り計算をすることによって得られます。
外貨建ての場合は、払い込む額も受け取る額も必ず円に直して計算します。これは自分自身ではなかなか計算しきれないと思うので、商品販売をしない中立的な立場のファイナンシャルプランナーに相談するのが早いと思います。
合言葉は、『最低保証利回り』や『解約返戻率』に惑わされるな!です。
——自分の立場に立ってくれる専門家を知っているのといないのとでは、これからの人生を乗り切っていくのに差が出ますね。自分の財産は自分でしっかり理解しながら管理するってことが大事なんだと改めて思いました。次回は「会社員とフリーランス、立場によって違う賢い保険の入り方」について、お話を伺います。ありがとうございました。
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作家
執筆、講演活動を軸に悩める女性たちを応援している。「偏差値30からの中学受験シリーズ」(学研)の著者。近著に『親の介護をはじめる人へ伝えておきたい10のこと』(ダイヤモンド社)、近刊に『神社で出逢う私だけの守り神』(企画・構成 祥伝社)、『1日誰とも話さなくても大丈夫 精神科医がやっている猫みたいに楽に生きる5つのステップ』『たった10秒で心をほどく 逃げヨガ』(取材・文 いずれも双葉社)など。
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独立系FP 株式会社SMILELIFE project代表取締役
1級ファイナンシャルプランニング技能士・ファイナンシャルプランニング技能士会代表幹事、一般社団法人 信託制度保障協会理事。1989年慶應義塾大学経済学部卒業。三井生命保険相互会社(現大樹生命保険株式会社)など経て、2017年、株式会社SMILELIFE projectを設立。100歳社会の到来を前提とした個人向けのトータルライフプランニングサービスである「ライフブック」サービスをスタート。米国モデルをベースとした最先端のFPノウハウとアドバイザートレーニングプログラムを用い、金融・保険商品を販売しないコンサルティングフィーに特化した独立フランチャイズアドバイザー制度を確立することにより、「日本人の新しい働き方、新しい生き方」をプロデュースすることを事業の目的とする。
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(作家 鳥居 りんこ、独立系FP 株式会社SMILELIFE project代表取締役 藤原 未来)
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