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「むしろ国産材にこそ勝ち筋がある」7年連続赤字の材木屋を継いだ5代目社長の逆転発想

プレジデントオンライン / 2021年10月22日 17時15分

丸紅木材の清水文孝社長 - 筆者撮影

ヒノキなど日本の材木を使った新規事業を次々と立ち上げている大阪の中小企業がある。木材製品の開発、販売を手掛ける丸紅木材(清水文孝社長)だ。かつては材木の輸入業者だったが、国内の森林再生に生き残りの活路を見出し、10年足らずで会社のカタチを大きく変えた。ジャーナリストの安井孝之さんが取材した――。

■森林再生に活路を見出した“小さな木材商社”の大変革

丸紅木材は8月末、天然ヒノキからつくった芳香スプレーに新型コロナウイルスを不活化する抗菌作用があることを発表した。

ひのきの香り成分が新型コロナウイルスの働きを抑えるというのだ。丸紅木材が2019年から販売している「エッセンシャルひのきミスト」を奈良県立医科大学が調べたところ、新型コロナウイルスに対する抗菌作用が確認された。社員28人の中小企業である丸紅木材が開発した商品に新たな価値が加わった。

1954年に設立された丸紅木材は元をたどると海外から木材を輸入する木材商社だった。大手商社の丸紅とは縁もゆかりない。戦後の経済成長の波に乗り、海外の木材を日本に輸入し、その利ザヤで稼いできた。

だが丸紅木材の姿は今や大きく変わっている。国産ヒノキなどを使った家具や玩具、キーホルダーなどノベルティ製品、そしてひのきの「ミスト」と国産材をフル活用する事業構造に転換しつつあるのだ。

提供=丸紅木材
新型コロナウイルスに対する抗菌効果が確認された芳香スプレー - 提供=丸紅木材

■会社がつぶれる……救世主となった中国のポプラ

清水文孝社長が丸紅木材に入ったのは1996年、17歳の時だった。中学を卒業して建設業で働いていたが、祖父が創業した同社に入社した。それ以来、熊本県にあった九州支店での現場仕事や営業を従事し、2006年に5代目社長となった。27歳の若さだった。

当時、輸入材に特化していた丸紅木材は7期連続の赤字決算を記録し、経営苦境に陥っていた。熱帯地域の森林は伐採が続き、森林面積は減少し、南洋材の確保は難しくなるばかり。日本の高度経済成長以降の輸入材の増加は、国内の旺盛な住宅需要と森林という資源を手っ取り早く外貨に換えたいという東南アジア諸国の思惑に支えられたものだった。しかし、地球環境保護を求める声の高まりで、輸入材のビジネス環境は厳しさを増していった。

清水社長は「社長になる前から、ただ単に木材を輸入し、国内で売るというビジネスは持続可能性がないと思っていました。このままでは会社がつぶれるという危機感もありました」と振り返る。

そのころ乗り出したのが中国事業。中国で植林されているポプラを中国で住宅建材として加工・プレカットし、輸入する事業だ。

成長が早く、10年以内に大きく育つポプラなら伐採しても再植林すれば森林資源を減らすことはない。環境とビジネスの持続性が確保できるうえ、丸紅木材としては木材加工という新規事業にも乗り出し、新しい価値を生み出すことができた。

カットの木
写真=iStock.com/xjrshimada
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/xjrshimada

■「もったいない」国産材の新市場に参入

さらに事業構造の転換に大きく踏み出すきっかけになったのが2015年の出来事である。九州支店で働いていたころの友人から写メが送られてきた。燃料になる木質バイオマス用に切り出されたヒノキが映っていた。友人はそのヒノキを熊本で運ぶトラック運転手だった。友人の写メにはメッセージがついていた。

「燃やすのはもったいない。何かに使えないのか? 一度見に来ないか」

清水社長はヒノキの写真を見て、「まだ使える材木もある。確かにもったいない」と思ったが、それまで国産材を扱ったことはない。国内の森林の現状も詳しく知らなかった。まずは現状を知ろうと熊本に行き、現地の山を見た。

山は荒れていた。商品にできる木材は運び出されていたが、曲がり材や根っ子、枝などは放置され「林地残材」となっていた。林地残材は土砂崩れが起きれば、流木となり住宅に流れ込み、二次被害を起こしかねない。日本の森林の荒廃ぶりに清水社長は驚いた。

「山に残されている材木を使い、日本の山も再生する事業はできないか?」

清水社長は日本の森林が抱える課題の解決に乗り出していく。それが6年前だった。

2016年に熊本県八代市に林業会社をつくり、初めて国内の山を管理し、原木を切りだすようになった。写メで山の苦境を教えてくれた友人はその後、林業学校で学び、林業会社の社長に就いた。

■会社も、日本の森林も守る新事業

林業会社は林地残材となっていた根っ子や枝などを含めてすべての木材を買い取る。国内の森林資源を捨てることなくすべてを利用するためだ。

従来木材として使われていた部分で子ども用の家具をつくり、より小さな材木は木製玩具となる。さらに小さな切れ端は木製のキーホルダーやSDGsバッジづくりなどに生かされる。おが屑は天然の消臭剤や精油となり、芳香ミストにも生まれ変わる。

丸紅木材資料から
丸紅木材資料より

森林資源を無駄なく使い切り、新たに加わった付加価値を植林事業に回すという構想が出来上がった。国内の森林を持続可能なものにし、しかもそこから新たな経済的な価値を生み出すサプライチェーンを創り出そうとした。

自然環境を維持し、そのうえで自然をさらに豊かにするグリーンな事業に自社の事業構造を変えていく――まさにカーボンニュートラル(CO2の実質排出量ゼロ)の実現に向けて注目されるグリーントランスフォーメーション(GX)、そのものだった。

清水社長はこの構想のブランド名を「IKONIH(アイコニー)」と名付け、全国の材木業者に声をかけた。ちなみに「IKONIH」は今では日本だけで伐採される日本を代表する木であるヒノキのローマ字表記を逆さまにしたものだ。

「IKONIH」の木製玩具
筆者撮影
「IKONIH」の木製玩具 - 筆者撮影

■国産木材を、ベトナムから世界へ

これまでに北海道から九州までの9社の材木業者がIKONIHに参加し、地元の森林の植林・整備、集材、IKONIHの販売を手掛けている。丸紅木材を含め10社が集めた材木は、2018年にベトナムで新設した工場に送られ、家具や玩具などに加工される。

ベトナムに生産拠点を作ったのは①日本にはなくなりつつあった玩具などのモノづくり技術がベトナムにはあったこと②労働集約型の作業が多く労働コストが安いこと③日本だけではなく中国、韓国、台湾、オーストラリア、米国など世界への供給拠点にすること、などが理由だった。

国内材でつくられた家具や玩具などは国内に戻り販売されるとともに、ベトナムから世界へと輸出されるようになった。清水社長は「2015年にプロジェクトを立ち上げ、中小企業としては大変な赤字を抱えてきましたが、ようやくこの1、2年で単年度黒字になりました。これからはIKONIHを会社の中心に据えていきたい」と話す。

現在、IKONIHの売上高は約10億円。清水社長が始めた中国からのポプラ材の輸入が約40億円と多いが、これを逆転させ、ゆくゆくはIKONIH事業だけで生きていける会社にしたいという。

■“危機感”と“持続性の追求”が会社を変えた

この6年間でIKONIH事業のサプライチェーンをつくり上げ、事業変革への基盤を整えた。短い間に会社のカタチを大きく変えられたことに驚く。

「IKONIH」の木製玩具-はNHKの朝の連ドラに登場した
「IKONIH」の木製玩具はNHKの朝の連ドラに登場した(筆者撮影)

新規事業を始めたころには南洋材の輸入業にどっぷりつかったベテラン社員は反発したが、南洋材の輸入業がメインだったころの取引先は今では売上高の1.2%にまで減った。現在の取引先のほとんどは清水社長が就任後に開拓した取引先である。

なぜ劇的に事業変革は進んだのだろうか。

清水社長が取材中、何度も口にしたのが「事業の持続性」というキーワードである。15年前に社長になったころに感じたのは、海外の森林を収奪するような持続性のない事業はしたくないという思いだった。

だからこそ清水社長は荒れた国内の森林を再生し、廃材も出さない仕組みをつくり、国内の森林の持続可能性を高めた。一方で国内だけでは競争力を維持できないと考え、生産性を高めるためにグローバルで効率的な生産、販売システムをつくり上げて、競争力の持続性を確保したといえる。

変化の激しい時代に会社が生き残っていくには変化を恐れてはならないことは自明である。そのためには「このままの事業では持続性がない。会社がつぶれてしまう」という強い危機感を持たねば変化には踏み出せない。事業の持続性をひたすら追求すればこそ変化への動きが加速したのだと思う。それが結果的に地球環境の持続性を担保しようとするSDGsともシンクロする結果になっているのだ。

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安井 孝之(やすい・たかゆき)
Gemba Lab代表、経済ジャーナリスト
1957年生まれ。早稲田大学理工学部卒業、東京工業大学大学院修了。日経ビジネス記者を経て88年朝日新聞社に入社。東京経済部次長を経て、2005年編集委員。17年Gemba Lab株式会社を設立。東洋大学非常勤講師。著書に『2035年「ガソリン車」消滅』(青春出版社)、『これからの優良企業』(PHP研究所)などがある。

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(Gemba Lab代表、経済ジャーナリスト 安井 孝之)

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