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「日本も法律で規制すべき」転売ヤーが仕入れに使っている"自動化ツール"の月額料金

プレジデントオンライン / 2021年12月30日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/DragonImages

フリーマーケット市場の拡大に伴い、転売目的で商品を買い占める行為が横行している。成蹊大学客員教授の高橋暁子さんは「転売目的の仕入れに特化した自動化ツールが存在する。月額3980円といった有料制で、こうしたツールが高額転売をエスカレートさせている。アメリカでは法規制の議論が進んでいるが、日本は対策が遅れている」という――。

■予約開始直後から定価の数十倍の商品が出回る

2021年は「転売」が話題になることが多かった。たとえば、SONYプレイステーション5(PS5)だ。抽選販売形式で手に入りづらいにも関わらず、予約開始直後から定価の数十倍にもなる転売が多発。その後も抽選販売形式は現在に至るまでに続き、CMは流れるにも関わらず抽選に落ち続けて手に入れられない人たちからは、転売ヤーたちへの恨みの声が多く聞かれた。

「抽選に落ち続けると落ち込む。ありとあらゆる抽選に落ち続けて、しかもそれが高額転売されているのを見ると、何で転売ヤーが手に入れられて自分はダメなのかと怒りがわく。抽選に申し込み続けるのがストレスで、高くてもいいかと転売品に手を出しそうになった」と、ある40代男性は言う。「何とか当選して買えてよかったが、本当にほしい人が手に入れられるようにしてほしい」

転売容認発言で退職処分になった例もある。ホビー雑誌「月刊ホビージャパン」は、Twitter上でプラモデルなどの買い占め、高額転売を容認する発言を行ったとして、該当の編集者を退職処分にしたと発表した。

■盗難品を高額転売する、明らかな犯罪も

「転売を憎んでいる人たちは、買えなかった欲しいキットが高く売られているのが面白くないだけだよね」「頑張って買った人からマージン払って買うのって、普通なのでは」などの発言が問題視され、「プラモデルの販売をするホビージャパンが転売を容認するのか」と炎上状態になっていた。

同編集者が退職処分となっただけでなく、常務取締役、同誌編集長と副編集長がそれぞれ、取締役、副編集長、デスクに降格処分というきわめて厳しい処分となった。プラモデルを販売する雑誌であること、メーカーやユーザーにとって転売行為は迷惑行為であることを重くとらえたための厳しい処分と言えるだろう。

今年はその他、冬コミのサークルチケットや日本シリーズチケット、Appleのポリッシングクロスなども転売ヤーの餌食となった。電動自転車のバッテリーなど、盗難品が転売されて問題になっているものもある。2020年の新型コロナウイルス感染拡大初期には、使い捨てマスクや消毒液の需要が急激に高まり、定価を大きく上回る高値で転売されるケースが相次いだ。

このように本当にほしい人が手に入れられない一方で、ほしいわけでもない転売ヤーが手に入れて高額転売で儲けている事態が、呪詛を生んでいるのだ。

■転売批判の矛先となるメルカリも動き出した

フリーマーケットサイトはたびたび高額転売に利用され、一般消費者の非難の対象となることが多い。こうした状況を受け、業界最大手メルカリは一部商品で対策を始めている。

11月、メルカリとUSJはメルカリ上で高額転売されているUSJの商品やチケットなどの転売対策で連携を発表。2社間で商品発売情報を事前に共有することで、特定の新商品発売前後の注意喚起や権利侵害品対策を実施した。まずは人気漫画『鬼滅の刃』とのコラボグッズ「禰豆子ポップコーンバケツ」を対象としている。

メルカリは続く12月、セブン-イレブン・ジャパン、ファミリーマート、ローソンのコンビニ3社とも、転売対策に向けた包括連携協定締結を発表している。事前共有した情報を基に出品物を監視して、高額転売品や不正入手した商品などについて、コンビニ各社と協議しながら出品を防止するという。

■PS5購入者は外箱に「×印」「名前記入」

冒頭でご紹介したPS5でも、販売店舗で転売対策が行われている。GEOでは店頭での受取時にコントローラーの梱包材に×印を記入させ、ノジマでは油性ペンなどで箱の内外に購入者の名前を記入させる対策をとっている。ゲーム機買い取り業者が箱などに何かが記入されている場合にはPS5を買い取らない、あるいは中古品として査定すると発表しており、転売対策となると考えられるためだ。

PS5
写真=iStock.com/Girts Ragelis
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Girts Ragelis

その他ビックカメラでも、人気のトレーディングカードの新商品販売時には、箱を包むシュリンク包装をその場で開封してもらう措置をとるなど、各店舗で転売対策は進んでいる。

しかし、このような対策があってもなお転売行為は止まらない。先ほど例に挙げたUSJの「禰豆子ポップコーンバケツ」も、メルカリは価格が急騰しているとして冷静な判断を呼び掛けているが、実際には7千円~1万円超の高値で取引が成立している。

■アメリカが規制強化を目指す「ボット」とは

転売が横行する背景には、ただ儲かるからだけでなく、転売行為がやりやすい環境が整ってきていることがある。限定品や目玉商品、トレンドの品など、入手困難なものは高額で転売できるとわかっていても手に入らないものだ。実は、最新の転売ヤーによる買い占めは、もはや人間の手によるものではなくなっている。

オンライン ショッピング
写真=iStock.com/Tevarak
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Tevarak

「グリンチボット」というものをご存知だろうか。転売ヤーたちは、ボットと呼ばれるソフトウェアを使って人気の商品などを買い占め、転売を行っている。このような買い占めボットは、子ども向け絵本『いじわるグリンチのクリスマス』に登場する緑色の生物グリンチに由来して、グリンチボットと呼ばれるようになった。

アメリカで2016年に成立した法律「Better Online Ticket Sales Act of 2016(BOTS法)」は、チケットの大量購入・転売を禁止する法律であり、チケット以外には適用されない。そこで今年11月、BOTS法の適用対象をすべてのオンライン小売店に広げる内容となる「ストップ・グリンチ・ボット法(Stop Grinch Bots Act)」と呼ばれる法案が米民主党議員等によって提出された。

調査では、トイザらスで14.99ドルで売られていた人気おもちゃのフィンガーリングがAmazonとeBayで1000ドルで出品されるなどしていたという。2020年に起きたニンテンドーSwitchの品不足も、マスクや消毒薬不足も、少なくとも米国ではこのボットによる買い占めが影響していたと言われている。

■日本でも確実な仕入れのため利用されている

さらにボットの開発者は、Discordなどのサーバー上にカスタマーサポートを構築、ユーザー支援を行っている。米国の転売ヤーたちはDiscord上に開設したサーバーを利用して在庫を確保。商品がいつどこで販売されるかという内部情報を共有したり、どこに在庫があるという情報が共有され、その直後に品切れになるという事態も起きている。

このように転売行為は海外でも問題視され、対策が始まっているが、転売行為が止められていないのが現状だ。なお、日本でもこのようなボットは複数確認できる。高額転売が可能な商品を探すサービスは月額3980円、12800円など有料で販売されているほか、自動購入ツールはライセンスキー代として2000円程度を支払うなどして利用できる。

このような自動購入ツールを使えば、Amazonや楽天市場などの上で、登録した商品を手動よりも圧倒的にスピーディに仕入れできるようになる。どのサイトでも使えるわけではないこと、サービスの料金のみでなく、自動購入ツールを24時間動かすために仮想サーバーを建てる必要があり、サーバー代といった運用費が別途かかるなどの注意点があるようだ。

同じボットを使う同業者も増えており、ほしいものが必ず仕入れできるわけではないが、それでも手動よりは確実に仕入れ、転売できることは間違いない。しかしこのようなものに対して、日本では規制なども特になく、それが転売ヤーの跋扈(ばっこ)につながっているのではないか。

■転売でメリットがあるのは転売ヤーだけ

日本では2019年に「チケット不正転売禁止法」が施行され、チケットの高額転売は違法行為となった。また利益を出すことを目的として転売を繰り返していると、古物営業に当たる可能性がある。この場合は古物営業法を遵守する必要があり、違反すると罰せられる。逆に言えば、それ以外の転売行為そのものは違法とはいえないのだ。

それではなぜ、転売が問題となるのだろうか。まず、本当にほしい人が適切な価格で手に入れられないことだ。さらには、余分に支払ってもメーカー側は一切潤うことがないどころか、デメリットしかないことも大問題だろう。

転売行為がはびこり適正価格で販売できないことで、初期需要を失うこともある。それならば、と増産して商品の供給が安定化すると、転売ヤーも価格を下げて販売するが、その結果、ブームが沈静化したという印象を与えて実際にマーケットが小さくなることさえある。転売行為でメリットがあるのは中間搾取をする転売ヤーだけであり、メーカーにもユーザーにもデメリットしかないのだ。

実際、高額転売されることが多い日本酒「獺祭」製造元の旭酒造は、2017年に「お願いです。高く買わないでください」との新聞広告を出したことがある。適切な温度管理などをしないことによる品質の劣化が考えられ、ブランドに傷が付く可能性が懸念されたためだ。

■転売ヤーを「爆死」させる一番簡単な方法

転売品を購入することはリスクを伴う。たとえばPS5はレシートや領収書など購入を証明するものがない場合、もし故障したとしても1年間の無料保証が受けられない可能性があるのだ。

店舗やメーカーなどが転売ヤー対策を行うだけでは、転売行為は抑えられない。転売しやすい環境が整っており、高額でも買う人がいる限り、転売ヤーの悪質な転売行為は終わらないのだ。

もし転売品を誰も買わなくなれば、在庫を抱えて仕入れ費の元が取れない「爆死」につながり、転売行為から足を洗う可能性が高い。ほしい人が適切価格で手に入れられるよう、一人ひとりが高額転売品には決して手を出さないことが最も大切なのだ。

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高橋 暁子(たかはし・あきこ)
成蹊大学客員教授
ITジャーナリスト。書籍、雑誌、webメディアなどの記事の執筆、講演などを手掛ける。SNSや情報リテラシー、ICT教育などに詳しい。著書に『ソーシャルメディア中毒』『できるゼロからはじめるLINE超入門』ほか多数。「あさイチ」「クローズアップ現代+」などテレビ出演多数。元小学校教員。

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(成蹊大学客員教授 高橋 暁子)

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