「世界を取るならUDONだけではダメ」丸亀製麺が社運を賭ける"米線ヌードル"のポテンシャル
プレジデントオンライン / 2022年1月27日 12時15分
■うどん弁当のヒットと欧州進出…国内外で快進撃
「うどんだけにこだわっていたら世界を取り逃してしまうんじゃないかと」
そう語るのは、讃岐うどん専門店「丸亀製麺」を運営するトリドールHDの粟田貴也社長だ。「丸亀製麺」においては、セントラルキッチンを持たず、すべての店舗に製麺機を設置し、店員が麺を打つ。2000年に1号店を開店して以来、国内830店舗以上、海外200店舗以上と順調に店舗数を伸ばしてきた。
コロナ禍ではあるが、トリドールHDは元気いっぱいだ。21年4月からテイクアウト専用の「うどん弁当」5種類(税込み390円~)を発売。約7カ月間で1500万食を売る大ヒット商品となり、V字回復に大きく貢献した。
21年7月にはイギリス・ロンドンに「丸亀製麺」を出店し、ロシアを除く欧州初進出を実現した。「チキンカレーうどん」や「とんこつうどん」といった現地オリジナルメニューがよく売れるほか、意外にも「かけうどん」の人気が根強い。
「カレーうどんなど味のはっきりしたものが好まれるという予想に反して、酸味のあるかつお節だしを使ったかけうどんがベスト5に入るまで売れている。これは意外であったが、かけうどんが好まれるなら、ロンドンでうどんが定着する可能性があるので、希望でもあった」
「丸亀製麺」が国内外で快進撃を見せる一方で、冒頭の発言のように、粟田社長は“脱・丸亀依存”を掲げている。なぜなのか。「丸亀製麺」がこれまで海外展開で成功してきた理由と、トリドールHDの今後の展望を探った。
■「天ぷらと一緒に食べる」スタイルで大人気
「丸亀製麺」が国内で大健闘を続けている時、粟田社長は全く海外進出を考えなかった。「うどん(UDON)」という日本独自の食文化が海外で簡単に受け入れられるとは考えていなかったからだ。しかし、09年に米国の外食視察でハワイに立ち寄り、朝早く日課のジョギングでワイキキ中心部のクヒオ通りを走っている時、1階建て数寄屋造りの日本家屋風の空き物件を見つけた。これが運命的な出会いとなった。
「ここに製麺機とゆで釜を置いて、丸亀製麺を開こう!」と即決し、人脈を介して物件を借りることに成功した。こうして11年4月、独立資本・直営方式で「MARUKAME UDON WAIKIKI SHOP」をオープンした。
ハワイは米国本土はじめ、欧州、アジア、日本などから観光客がやって来る。ここで「丸亀製麺」は行列のできる大繁盛店になり、グループ全店の中で常にトップの売上高を記録するようになった。
米国本土から観光でやって来る人たちは、天ぷらをたくさん注文した。米国本土には日本の天ぷらの高級専門店が進出しており、天ぷらはすし、ラーメン、焼き鳥などの日本食と同じように知名度が高く、人気が高かった。「丸亀製麺」は、「うどん」単独ではなく、天ぷらやおむすびと一緒に格安で提供したことで、人気を高めていった。
■中食に負けないようにと「オープンキッチン」にこだわった
海外に人気の天ぷらを「目の前で揚げる」という実演性も、現地の人の心をつかんだ一因だ。オープンキッチンは、00年に兵庫県加古川でオープンした1号店からずっとブレないコンセプトだ。
「商品以上にパフォーマンスが大切だと思っています。店に入れば、まず目に飛び込んでくるのが製麺機。お客さんの目の前で製麺し、ゆでて、天ぷらを揚げるという“手づくり・できたて”を創業以来貫いています」
目指したのは、子供時代、父親に連れて行かれた讃岐うどん店。国産小麦粉を塩水でこねて製麺機で引き延ばし、包丁で切って、ゆで釜でゆでて提供する。そんな光景が見えるように「丸亀製麺」でもオープンキッチン方式を導入。顧客がトレーを持って、注文したうどんや天ぷらなどをカフェテリア方式で取り、最後にレジでお金を支払う。
アメリカで海外進出支援事業を行っているFood’s Style USA Inc.(ワシントン州)の米田純社長は、「丸亀製麺のように、天ぷらをはじめ薬味、唐辛子などをセルフで選べるカフェテリア方式は、アメリカでは一般的。それまでなじみのなかったうどんがすぐに受け入れられたのも納得です」と言う。
「食べ物を作って売るだけなら、中食に負けちゃうわけじゃないですか。店舗に来ていただく動機になるような“感動体験”を味わってもらえれば、そこから広がるものは大きいはずです。国内でうどん弁当のようなテイクアウトが売れたのも、店内での“感動体験”があってこそだと思います」(粟田社長)
■強気の目標達成のためには、うどんだけでは足りない
絶好調に見える丸亀製麺の海外展開。それにもかかわらず、なぜ粟田社長は第2、第3のブランド展開を狙うのか。
「成長のステージを日本から世界に変え、果敢にトライしたい」
21年11月、粟田社長は28年3月期末に全ブランドの海外店舗数を625店(21年9月末現在)から6倍以上の4000店へ増やす目標を掲げた。だが、すし、ラーメン、焼き鳥などといったほかの日本食に比べて、うどんは海外での知名度が低い。「丸亀製麺」では、各国でローカライズしているとはいえ、うどん業態だけで世界を攻めるのは限界がある。華僑に食い込んで大成功した「味千(中国)控股有限公司」(母体は「味千ラーメン」重光産業)のように、強気の目標達成のためにはうどん以外のヌードルで海外商圏に挑戦したいという算段である。
そこで目を付けたのが「米線(ミーシェン)ヌードル」だった。米線ヌードルとは、中国雲南で古くから親しまれている米粉で作ったスープ麺だ。うどんよりもスパイシーで、中華圏では大変人気がある。
18年、トリドールHDは香港の人気チェーン「タムジャイ」を約300億円で買収。その後、タムジャイは、シンガポール、中国本土に店舗を展開。21年12月末現在、166店舗にまで増えており、将来的には1000店舗を目標としている。21年10月にはタムジャイを香港証券取引所に上場させ、約150億円の調達にも成功している。22年春には日本にも出店予定だ。
タムジャイの魅力は、さまざまなスパイスを調合したオリジナルのスープだ。唐辛子のコクと旨味に花椒のしびれがアクセントの麻辣スープや、酸味と甘味が入り混じるトマトスープ、焦がしスパイスがやみつきになるウーラースープなど、6種類の異なる味わいのスープが人気を博している。それに加えて、辛さとトッピングを自分好みに組み合わせて楽しめるのも客を飽きさせない秘訣だ。
■ゼンショーHDも複数ブランドで世界トップ5入りへ
「丸亀製麺という業態もわが社の柱だが、もう一本の柱ができたような感覚。これで海外4000店を目標とするグローバル展開の入り口に立った」
マクドナルドやスターバックスのように、世界を股に掛けて勝負している外食企業は日本にまだない。国内最大のゼンショーHDは、「すき家」を主力に世界に1万店舗以上展開、売上高は6000億円に迫り、世界外食のトップ5に躍進した。だが、それは18年11月に米国のテイクアウトすし店Advanced Fresh Concepts Corp.(本社:カリフォルニア州)を約288億円で買収したからだ。
Advanced Fresh Concepts Corp.はフランチャイズで米国に3700店舗、カナダ、オーストラリアを含めると4000店舗以上展開し、テイクアウトすし業界では世界トップ企業に君臨する。ゼンショーHDはAdvanced Fresh Concepts Corp.の買収によって世界の店舗数を一気に増やしたが、それまでは「すき家」をブラジル、中国、アジア中心に500店舗程度展開していたのにとどまっていた。要するに、米国発祥のマクドナルドのように、全世界を制覇したブランドを展開しているわけではないのだ。
■「今後は香港を中心に展開するタムジャイが一番大きな業態になるかもしれない」
トリドールHDはこれまで「丸亀製麺」の単独ブランドにこだわらず、オランダの外食大手「WOK TO WALK」などを買収し、マルチブランド戦略で世界展開を進めてきた。その過程で、タムジャイという世界に通用する強力なブランドをグループ化し、「丸亀製麺」と合わせた2つのブランドで海外4000店舗の実現に向け挑戦できる土壌ができた。
世界的に見て中華商圏は非常に大きい。中国1国だけ見ても欧米に近い数の人口が存在し、世界各国に華僑というマーケットがある。
「今後は必ずしも丸亀製麺が一番大きな業態とは限らない。タムジャイが一番大きな業態になるかもしれません」
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外食ジャーナリスト
1947年、群馬県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。流通業界、編集プロダクション勤務、『週刊サンケイ』の契約記者などを経てフリーに。日刊ゲンダイの「語り部の経営者たち」にレギュラー執筆。ネット媒体「フードスタジアム」に「新・外食ウォーズ」などを連載。著書に『居酒屋チェーン戦国史』(イースト新書)などがある。
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(外食ジャーナリスト 中村 芳平)
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