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「2年後に再び"トランプ大統領"の可能性」中間選挙を前に専門家がそう分析するワケ

プレジデントオンライン / 2022年2月1日 8時15分

2021年9月25日、アメリカのジョージア州ペリーで行われたセーブ・アメリカ集会でスピーチするドナルド・トランプ前大統領 - 写真=AA/時事通信フォト

2021年1月に大統領に就任したバイデン氏の支持率が低下している。一方で、注目を集めているのがトランプ前大統領だ。ジャーナリストの大門小百合さんによると、アメリカでは今も、トランプ氏が大きな影響力を持っているという――。

■2024年の大統領選に大きな存在感

ジョー・バイデン氏がアメリカの大統領に就任してから1年が経過した。しかし今も、ドナルド・トランプ前大統領の存在感がすごいのだ。

アメリカの政治メディアのポリティコは、「145 Things Donald Trump Did in His First Year as the Most Consequential Former President Ever 」(これまでで最も重要な前大統領として、ドナルド・トランプが最初の1年間でやった145のこと)というタイトルの特集を組んだ。大統領の座を降りて1年がたってもこのような特集が組まれる前大統領は今までにいなかっただろう。彼はこうした意味で、ある種の天才だと言う人もいる。

そして、昨年12月に行われたロイター/イプソスの世論調査でも、彼は2024年の大統領選で、他の共和党候補を圧倒的にリードしている。

「2024年の大統領選挙で誰を支持するか」という質問に対し、共和党員の54%がトランプ氏、11%がフロリダ州のロン・デサンティス氏、8%がマイク・ペンス元副大統領を選んでおり、トランプ氏が2位のデサンティス知事に43ポイントの差をつけていることがこの調査で明らかになった。

■あっという間に支持率が逆転

とはいえ、トランプ氏が注目されるのは、バイデン政権の不人気のせいもある。昨年ギャロップ社が1万2000人のアメリカ人を対象に行った調査によると、2021年の第1四半期の政党支持率では、民主党が49%で共和党の40%を9ポイントも上回っていた。しかし、同じ年の第4四半期には、民主党と共和党の支持率が逆転。共和党支持が47%となり、民主党支持率42%を5ポイントも上回ったのだ。

たった1年の間に支持率がこれほど大きく逆転した例は、ギャロップ社の過去30年の調査の中では初めてだという。そしてこれは、トランプ氏とバイデン大統領の支持率と密接な関係があると分析されている。

2020年に大統領選挙で敗れた時のトランプ氏の支持率は、彼の任期中最低の34%。一方、バイデン大統領は大統領就任後、57%の高い支持率をしばらく維持していた。ところが、夏以降、支持率は下降し40%台になってしまった。

■ワクチンの失策、アフガニスタン撤退、上向かない景気

バイデン政権の不人気の理由はいくつもある。

まずはコロナ対策。夏からデルタ株が猛威を振るい始め、昨年9月、バイデン政権は、従業員が100人以上の企業に、従業員へのワクチン接種を実質義務化する政策を打ち出した。金融業界や飛行機会社などが従業員にワクチン接種を義務付けており、従わない場合は解雇などの厳しい措置を設けているところもある。ところが、この政策は民主党員、共和党員にかかわらず不評なのだ。

1月13日、アメリカ連邦最高裁は、「政府には企業にワクチン接種の義務を課す権限はない」としてこの施策を差し止めた。このため、スターバックスやゼネラル・エレクトリックなど、従業員への接種義務化を決めていた会社は、義務化を取りやめたという。

私たち日本人の記憶にも強く残っているのは、2021年8月のアフガニスタン撤退における大混乱だ。バイデン政権は、前のトランプ政権がタリバンと結んだ合意を実行しただけであったが、早急な撤退で1日に13人の米兵が死亡、数百人の米国人が一時置き去りにされた。また、現在も続くアフガニスタン国内の生活物資不足は深刻だ。

そして何と言っても、景気が思うように上向かないことへの不満は大きい。コロナ禍の経済損失に対する刺激策を打ち出し、インフラ投資法案も成立させた。しかし、物価高でインフレ懸念もあり、国民に豊かさの実感はない。多くのアメリカ人は生活を直接支える施策がほしいと思っているのに、バイデン大統領は「民主主義を取り戻す」といった概念的な話をするばかり、とのいら立ちもあるようだ。

■トランプよりも分断を広げた

しかも、トランプ政権の下で顕著になったアメリカの分断は、バイデン政権下でさらに悪化しているようにも見える。なぜか?

これには、バイデン大統領の置かれた苦しい状況が影響している。バイデン大統領は、民主党や多くの無党派層から「アメリカに民主主義を復活させてほしい」という強い期待を持たれていた一方、トランプ氏の熱烈な支持者からは、「選挙不正で勝った大統領」というレッテルを貼られている。かなり難しい課題を背負ってスタートした政権だが、期待が高かった分、支持していた有権者は少々の成果では納得せず、落胆は大きくなる。

アメリカ政治と外交に詳しい笹川平和財団の渡部恒雄上席研究員によると、バイデン大統領の支持基盤を見ることで現在、分断が広がっている理由がわかると言う。

「バイデンの支持基盤は民主党中道で、民主党左派ではありません。でも、共和党に勝つためには、左派と中道をきっちりとまとめなければなりませんでした。僅差で選挙に勝った民主党をまとめ、党の支持基盤にアピールするためには、共和党やトランプを激しく批判しないといけない。その結果、バイデンはトランプと同じくらい、国の分断を深める発言をすることになったのです」と渡部氏は言う。

7月4日の独立記念日に星条旗をはためかせる車
写真=iStock.com/Michele Ursi
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Michele Ursi

■民主党がボロ負けすれば、逆戻り

バイデン政権の不人気や、民主党の支持率の低下を見て、すでに多くの識者が、2022年秋のアメリカ議会の中間選挙では民主党が負けると予測している。

中間選挙で大統領の党が負けることは珍しくない。しかし渡部氏は、勝てないのは想定内だが、それより深刻なのは、民主党が中間選挙で再起不能になるほど「ボロ負けする可能性がある」ことだという。そして、もしそうなった場合、アメリカはトランプ氏が主導権を握る政治に逆戻りするかもしれないというのだ。

共和党の内情を垣間見ることができたのが1月6日に下院で開かれたアメリカ議会襲撃事件1周年の式典だった。バイデン大統領はこの日、連邦議会議事堂で「われわれの歴史上初めて、選挙で敗れた大統領が暴徒の議会侵入によって、平和的な権力の移行を妨げようとした」と演説した。

1年前の事件直後、トランプ氏を激しく非難したベテラン共和党議員は数人いたが、ほとんどがその後数カ月の間にトランプ支持に戻った。結局、共和党議員ながらこの事件の調査特別委員会に加わったのはリズ・チェイニー氏(ワイオミング州選出)とアダム・キンジンガー氏(イリノイ州選出)の2人だけ。そして、1周年のこの式典に共和党から参加したのも、チェイニー氏と彼女の父のディック・チェイニー元副大統領だけだった。

共和党の支持者は、熱狂的なトランプ派と、共和党は支持したいがトランプ氏とは少し距離を置きたいと思っている人たちとに分かれている。式典に出席するとなると、かなり多くのトランプ支持者の支持を失うことになるため、それを恐れた共和党議員は出席できなかったのではないかと渡部氏は指摘する。

■民主党の最悪のシナリオ

そんな状況で民主党が中間選挙で大敗すれば、トランプ支持者や、彼の視線を気にする共和党議員らが当選し、議会で一気に増える可能性がある。そして、それは事実上、再び共和党がトランプ影響下に置かれることを意味する。

「共和党にとってはその方が(議会運営が)やりやすくなります。共和党は、中間選挙の2年後の大統領選挙で、まとまってトランプを支持してもいいし、トランプを支持するような活きのいい候補を出してもいいわけです。そうなると(中間選挙後は)バイデン氏のレームダック化がさらに進み、民主党が共和党に勝てなくなる」と渡部氏は言う。まさに、民主党支持者にとっては最悪のシナリオだ。

今の議会では、民主党がかろうじて上下院の過半数を保っているとはいえ、下院は221対213、上院は50対50(民主党のハリス副大統領が議長)で、僅差で法案の可否がひっくり返るぐらいの勢力図だ。

そのせいで民主党は議会運営に苦労しているが、今度はその逆もありうる。つまり、民主党が敗北したとしても、負け幅を僅差で抑えることができれば、議会は共和党の思うようにはならない。ただし、選挙で大敗してしまったら、民主党は非常に苦しい立場に追い込まれる。

■次の大統領選「トランプに勝てる候補はいない」

さて、そういうわけで、2024年の大統領選挙には、トランプ前大統領が共和党の候補として出馬する可能性が高い。また、そうでなくてもトランプ氏寄りの人が出てくる可能性は否定できない。

最近、可能性のある候補としてメディアで名前が上がり始めたのは、前述のロイター/イプソスの調査でも上がっていたフロリダ州のデサンティス知事だ。彼はもともと、トランプ氏の支持を得てフロリダ州の知事になっている。ただ、大統領選挙に名乗りを上げるかは定かではないし、彼自身は現在、トランプ氏とは微妙な距離を保っているようだ。

渡部氏は、トランプ氏が出馬するならば、彼に勝てる人はいないという。しかし、仮に出ない場合、昨年11月のバージニア州知事選挙の例が参考になると言う。

バージニア州では、トランプ氏が支持を表明した共和党の実業家グレン・ヤンキン氏が勝利した。つまり、トランプの支持を得ることは、共和党の中で勝ち残るためには有効な手段なのだ。

「トランプ支持者が納得するような候補者を立て、予備選の段階ではトランプの支持を全面に出しておくのです。そして選挙本戦ではトランプを隠して、トランプ色を薄める。そうすれば、トランプが嫌いな人や無党派層の票も取り込めるので、選挙で勝てる」と、そんな戦略もありだという。

■史上最高齢のアメリカ大統領

では、民主党はどうだろうか。

バイデン大統領が出馬するという見方が今のところ強いが、年齢の面から言っても懐疑的にならざるをえない。

2019年、ジミー・カーター元大統領は、2020年の選挙における大統領候補の年齢について懸念を表明したことがある。「私は、年齢制限があることを望む……。もし、私が80歳だったとしたら、私が大統領だった時に経験した職務を引き受けられるとは思えない」

そして昨年12月、テスラの創業者イーロン・マスク氏も、「70歳未満しか政治家になれないという年齢制限を設けよう」とツイートしている。現在、米国上院議員の平均年齢は64歳、米国下院議員の平均年齢は58歳だ。

トランプ前大統領は70歳で大統領に就任し最年長だったが、その後、78歳で就任したバイデン大統領がその記録を塗り替えている。バイデン大統領は現在79歳で、現役大統領として最高齢記録を更新した。2024年に仮に選挙に勝利したとすると、2期目の就任時には、82歳になる。

■何度も「ハリス“大統領”」と言い間違え

おまけに、バイデン大統領のスピーチ能力にも心配がある。彼がアドリブで話す時には、ファクトの間違いが多いと指摘されているのだ。たとえば彼は、自分が10代の頃、公民権運動に関連して逮捕されたということをしばしばスピーチの中で披露しているが、彼が逮捕されたという記録は確認できない上、逮捕されたとされる場所も曖昧で、当時の年齢についても13歳という時もあれば15歳と発言する時もあるのだ。

また、カマラ・ハリス副大統領のことを過去何度も、「ハリス大統領」と言い間違えていることでも有名だ。1月中旬に、1月6日の議会占拠1周年を記念した式で演説をした時にも、「先週、ハリス大統領と私は……」と述べ、訂正もしなかった。

これらは、大きなミスではないかもしれない。しかし、1度や2度ならず複数回も間違えるとなれば、一国の大統領としての資質を問われても仕方がないのではないだろうか。

一方、ハリス副大統領の大統領候補の可能性だが、残念ながら1年目の彼女の功績はあまりないといわれている上、担当した移民問題でも、昨年6月の中南米訪問で「(移民はアメリカとの)国境に来ないで」と発言。彼女の支持率は低い。

他にもピート・ブティジェッジ運輸長官、テキサス出身のベト・オルーク元下院議員などの名前が出ることもあるが、まだまだ民主党の候補の方は不透明である。

2022年中間選挙、2024年に向けて、分断されたアメリカは、さらに混迷を深めていきそうだ。

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大門 小百合(だいもん・さゆり)
ジャーナリスト、元ジャパンタイムズ執行役員・論説委員
上智大学外国語学部卒業後、1991年ジャパンタイムズ入社。政治、経済担当の記者を経て、2006年より報道部長。2013年より執行役員。同10月には同社117年の歴史で女性として初めての編集最高責任者となる。2000年、ニーマン特別研究員として米・ハーバード大学でジャーナリズム、アメリカ政治を研究。2005年、キングファイサル研究所研究員としてサウジアラビアのリヤドに滞在し、現地の女性たちについて取材、研究する。著書に『The Japan Times報道デスク発グローバル社会を生きる女性のための情報力』(ジャパンタイムズ)、国際情勢解説者である田中宇との共著『ハーバード大学で語られる世界戦略』(光文社)など。

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(ジャーナリスト、元ジャパンタイムズ執行役員・論説委員 大門 小百合)

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