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プロは絶対にやらない…「株で損する人」ほど信じているテクニカル分析の落とし穴

プレジデントオンライン / 2022年2月4日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/monzenmachi

株式投資で成功するにはどうすればいいのか。『東大生が学んでいる一生役立つ「株」の教科書』(SBクリエイティブ)を出した伊藤潤一さんは「ロジカルで再現性のある手法で負けないことが大切だ。チャート分析はオカルトと同じでアテにはならない」という――。

■「プロの投資家」と「素人の投資家」の決定的な違い

本屋の投資本コーナーに行くと、たくさんの投資本が並んでいる。特に株式投資に関連した本でめちゃくちゃ多いのが、「チャート分析」の本だ。

チャートというのは、もともと「海図」のことで、船を運航する時に使う、海底の地形や水深などが書かれている地図のようなものだ。

それが転じて、株価や為替、最近では暗号資産など、値動きのある資産が過去にどのような値動きをしたのかを記したものを、チャートと呼んでいる。株式関係のウェブサイトでも個々の銘柄のチャートを紹介しているサービスはいろいろとある。

あまり株に詳しくない方に説明を添えておくと、このチャートの動きを分析することによって、将来、株価などがどのように動くのかを予測することを「チャート分析」、あるいは「テクニカル分析」と呼んでいる。書店に行くと、とにかくこれに関連した本がたくさん並べられている。

逆に、私たちプロ投資家が投資判断を下す際に用いているバリュエーション、つまりその企業の価値が、今後その企業が生み出す価値に比べてどれだけ割高か割安かを弾き出す「ファンダメンタルズ分析」の本は、本当に少ない。書棚の片隅に追いやられているというのが実態だ。

なぜチャート分析の本ばかりが並んでいるのかというと、それはバリュエーションを理解するのに比べて、チャート分析のほうが簡単だからだと思う。

こう言うと、チャート分析を信奉している投資家からいろいろ言われてしまいそうだが、私が知っている限り、チャート分析を用いて株価の将来を予測しているプロの投資家はいない(ここで言うプロの投資家とは、顧客のお金を預かって運用する人のことを指す)。

いや、こう言うと語弊があるので、より正確な言い方をすると、「チャート分析だけで銘柄を選別したり、株価の将来を予測したりしているプロの投資家は少ない」のだ。

なぜなら、チャート分析は「ロジック」がないため、「再現性」に劣るからだ。

■チャート分析で株価の未来は予測できるのか

ここで、ちょっとした実験をしてみよう。3つのチャートを用意してみた(図表1)。さて、これを見て6カ月後の株価はそれぞれの取引最終価格に比べてどうなったのかを考えてみてもらいたい。いずれも作り物ではなく、実際の株価の値動きだ。次にあげる4択のうち好きなものを選んでもらいたい。

①10%以上の値上がり
②10%以上の値下がり
③10%未満の値上がり
④10%未満の値下がり
【図表1】これから上がる? 下がる?
出所=『東大生が学んでいる一生役立つ「株」の教科書』

さて、みなさんは、ここにあげた3つのチャートの6カ月先を、どのようにして予測するだろうか。

勘で答えざるを得ない、という人もいるだろう。勝負勘の強い人なら、結構な確率で当ててくる可能性はある。しかし、それは再現性のある方法とは言えない。

■プロの投資には「再現性」がある

ここで「再現性」について話をしておきたい。

プロが行っている投資は、ロジカルで、再現性が高いものだ。ロジカルというところを一言で言えば、「なぜその価値があがったのか」を説明できるかどうか、ということだ。

「なぜそれが高くなったのか」がわからなければ、半ばギャンブルと同じことになる。

僕らのようにヘッジファンドに在籍しているプロの投資家は、大口のお客様から巨額の資金を任されて運用している。ヘッジファンドというと以前は「ハイリスクハイリターン」だと思われていたが、今はお客さんに損をさせないことが重要になっている。

顧客のお金を預かって投資をするのであれば、そんなギャンブルのような投資をすることはできない。したがって「ロジカル」で「再現性」がある投資をしていくことが求められる。

■チャートは再現性がなく、ロジカルに説明できない

そうした「再現性」のある「ロジカル」な考え方で、将来の株価を、このチャートから予測できると自信を持って言える人はどのくらいいるだろうか。

おそらく、再現性のある方法でここにあげた3つのチャートの6カ月後を正確に予測できる人は皆無に近いのではないだろうか。チャート分析というのは、その程度のものなのだ。

ディスプレイ上のトレーディングチャート
写真=iStock.com/da-kuk
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/da-kuk

では、答えを言ってみよう。

【答え】
チャート[A]の値動きは、7.1%の値下がり(選択肢の④)
チャート[B]の値動きは、30%以上の値上がり(選択肢の①)
チャート[C]の値動きは、30%以上の値上がり(選択肢の①)

ということになった。全問正解者はいただろうか。いるとは思うけれども、なぜ、それがその動きになるのか、論理的に説明できるだろうか?

■チャート分析は「従」

実は、この話をするにあたって、僕の知り合いであるヘッジファンドのポートフォリオ・マネジャーにある質問をしてみた。何を質問したのかというと、「自分の投資判断において、どの程度、チャートを使っているのか」ということ。

その答えなのだが、とりあえず概略を言うと、平均して投資判断の16%くらいはチャートを用いるという結果になった。

もちろん、これは平均値なので、なかには30%くらいチャートに依存しているという人もいたし、ゼロ%という人もいた。ただ、結局のところ「チャート分析で全部OK!」なんて人はいなくて、みんな補足としてチャートを使っているだけだった。

ちなみにプロ投資家の人たちからは、こんなコメントが返ってきている。

「モメンタムがついているかどうかを見るために使っている」
「転換点がどこなのかを判断するのに使っている。特に足の幅を見ている」
「移動平均線からの乖離(かいり)を見ている」
「3カ月と6カ月の移動平均線が下がり気味、あるいは26週移動平均線が下がる傾向にあるものは買いを控える」

「モメンタム」とか「移動平均線」とか、ちょっと専門的な言葉があるけれども、そこは気にしなくてもいい。ここで私が言いたいのは、「チャートは主ではなくて、あくまでも従の存在である」ということだ。

■「チャートはオカルトのようなものだ」

古今東西、チャートには様々な分析方法がある。「グランビルの法則」とか「エリオット波動」、「ギャン理論」、「柴田罫線」、「酒田五法」など、いろいろあって、それぞれに正当性を主張するものだから、どれが本当に正しいのかわからない。

しかし、それだけいろいろな方法があるということは、どの方法も正解ではない、ということだ。

だから、僕の知り合いであるプロ投資家の多くが、「チャート分析はあくまでも売り買いの背中を押してもらうだけのこと」と言っているのだ。

そして全員、銘柄を選ぶ時のベースはファンダメンタルズ分析だ。企業の財務状況や業績をもとにして、株式の本質的価値を算出し、判断している(というと、やっぱり難しそうなので、初心者でもわかるように本を出版させていただいた)。

伊藤潤一『東大生が学んでいる一生役立つ「株」の教科書』(SBクリエイティブ)
伊藤潤一『東大生が学んでいる一生役立つ「株」の教科書』(SBクリエイティブ)

チャートはあくまで目先の動きで、本質的な価値で判断しているわけではない。

だからこそ、チャートはオカルトのようなものと言ったのだ。

同様に、FXや、金などのコモディティ商品も「なぜ上がったのか」「なぜ下がったのか」が論理的に説明しづらいため、プロの目としては投資しない商品だ。

人生100年時代と言われるような時代に、ギャンブルのような方法で資産設計を行うのは、プロとしても勧めない。長く資産をつくっていきたいのであれば、ぜひ「ロジカル」で「再現性」のある手法を学んで、続けていただきたいと思う。拙稿『東大生が学んでいる一生役立つ「株」の教科書』(SBクリエイティブ)が、みなさんの資産作りの一助になれば幸いだ。

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伊藤 潤一(いとう・じゅんいち)
クラウドワークス執行役員・CHRO(最高人事責任者)、東大金融研究会主宰
1993年東京大学卒業、旧三和銀行(三菱UFJ銀行)入行。その後、モルガン・スタンレー・アセット・マネジメント、ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントを経て、2002年にヘッジファンドの世界へ。グローバル大手のミレニアム・キャピタル・マネジメントなどを経て現在はダイモン・キャピタル・マネジメント。一貫して日本株のロング/ショートのポートフォリオ・マネージャー。約20年間ヘッジファンド在籍は日本人では稀有。同時に、2019年12月に東大金融研究会というサークルを作り、この1年間で在籍数は900名を超える。2021年9月からクラウドワークス執行役員・CHRO(最高人事責任者)。著書に『東大生が学んでいる一生役立つ「株」の教科書』がある。

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(クラウドワークス執行役員・CHRO(最高人事責任者)、東大金融研究会主宰 伊藤 潤一)

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