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「家計はじわじわ苦しさを増す」値上げはいつまで続くのか…経営コンサルが予想する"残酷すぎる未来"

プレジデントオンライン / 2022年2月3日 17時15分

イオンが2022年3月末まで価格を据え置くと発表したプライベートブランド(PB)「トップバリュ」の日用品や食品=2021年12月21日午前、千葉市美浜区のイオンスタイル幕張新都心

食料品の値上げラッシュが起きている。いつまで続くのか。経営コンサルタントの鈴木貴博さんは「オイルショックのときと同じ“悪いインフレ”が起きている。これから家計は真綿で首を絞められるようにゆっくり苦しくなる」という――。

■値上げラッシュはグローバルな要因で起きている

2022年は値上げラッシュの1年間になりそうです。1月は小麦価格の値上がりでパンや小麦粉、パスタなどが3~9%ほど値上げされました。2月から3月にかけては牛・豚・鶏などの食肉価格の値上がりによるハムやソーセージの値上げや、マヨネーズや冷凍食品の値上げ、昨年から数えて5度目のサラダ油の値上げが予定されており、4月にはついにウイスキーまで値上げ品目入りします。

生活必需品が次々と値上げされていくということで消費者にはたまらない状況です。関心事としては、「いつまで続くのか?」「どこまで上がるのか?」ですが、実は値上げラッシュが起きている背景事情を知れば知るほど、悪い未来が予想できるのです。今回は生活防衛のために、その値上げラッシュのメカニズムについてなるべくわかりやすく解明してみたいと思います。

今起きている値上げラッシュは3つの要因で起きています。残念なことに3つとも日本政府がコントロールできないグローバルな要因です。それは、

1.物不足
2.原油高
3.円安

の3つです。

■「物不足」は需要の回復によるもの

まだオミクロン株が猛威を振るうさなかではありますが、ひとつめの「物不足」は、新型コロナのワクチン接種と治療薬の承認で、世界経済がようやく元に戻る方向に動き始めたことがきっかけです。

昨年の秋、人々の外出が増え、消費意欲も増したことで、世界で一気に需要が増えました。同じタイミングで、会社や工場に労働者が戻り生産拡大が始まりました。ところが、生産が再開されてからその商品が届くまでには、必ず数カ月のタイムラグが発生します。

つまりコロナからの回復期には世界的に、先に需要が立ち上がって、商品の供給は遅れて立ち上がる。このことで物不足が起きることになります。

■農作物の世界的な価格上昇が起きている

そのような物不足は工場であれば数カ月で回復するかもしれませんが、実は今問題になっているのは世界的な農作物の価格上昇です。新型コロナの影響で、農業も20年、21年と世界的に活動が抑えられてきました。いざ経済が回復しようとしたら農作物の数が足りない。ですから小麦粉、油からコーヒーまで農作物の価格が世界的に上昇します。

これが工場の製品とは違って数カ月ではなく1年は続くことになります。食肉の値上がりも同じで、畜産農家ではコロナで需要が減って減産したうえに、飼料となる穀物の国際相場が値上がりして生産コストが上がってしまいました。これから出荷される肉の価格は上昇せざるをえないのです。

肉用牛
写真=iStock.com/PamWalker68
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/PamWalker68

■「原油高」の背景は政治的なもの

さて2番目の要因の「原油高」についても状況は深刻です。都内のガソリン価格は1リットル=167円まで値上がりしています。世界的に石油の需給がひっ迫しているのですが、その原因をひとことで言えば、産油国が必要以上に石油の供給を絞っているのです。おそらくその理由は政治的なものです。

現象面としては先進国中心に「石油が足らないので増産してほしい」と産油国に要請をするのですが、産油国側がなぜか増産に前向きにならない。ヨーロッパ諸国はロシアからのパイプラインに頼っている国も多いのですが、なぜかパイプラインからの供給が滞ったりもするといったことが起きています。

■2020年代に「第3次オイルショック」が起きてもおかしくない

公式な理由説明とは裏腹に、おそらく真実は産油国全体が脱炭素の流れに反対だということだと思われます。このまま先進国の思惑通りに進めば、2030年には世界の石油の使用量は半減し、2050年には石油に依存しなくてもいい未来がやってくる。そうなる前に、脱炭素の動きに対して何らかの歯止めが必要だと産油国が考えるのはおかしな話ではありません。産油国それぞれの思惑が異なっても、行動としては原油の減産が起きるのは自然な帰結といえるでしょう。

これまで2度、1973年と1979年にオイルショックが起きていますが、もし産油国が今以上に足並みをそろえて脱炭素に対抗しようとしたら、2020年代に第3次オイルショックが起きるかもしれません。そこまでにはいかないにしても、原油高は工場やオフィスの光熱費コストの上昇と、プラスチックなど石油由来製品価格の上昇という形で、物価高に大きな影響を及ぼすことになります。

■「円安」が値上げラッシュに追い打ちをかけている

3つめの要因が「円安」です。昨年の1月、1ドル=104円だった為替相場は2022年1月には1ドル=115円まで10円以上も円安に振れました。簡単に言えば、海外から買う物の価格が為替の影響だけで10%値上がりしたことになります。アメリカの小麦や大豆にしても、インドネシアのコーヒーにしても、サウジアラビアの原油にしても、もともと「物不足」「原油高」の影響を受けて世界中で値上がりしている。そこに日本ではさらに「円安」が加わって家計に厳しい状況が生まれているのです。

足元の円安の動きは、日銀とアメリカの連邦準備銀行(FRB)の金利政策の違いから生まれています。アメリカではアフターコロナに向けて、金利を上げて加熱経済の引き締めをはかろうとしています。一方で日本は政府が国債をじゃぶじゃぶ発行している関係で金利を上げることができない。そこでグローバルにドルを買って円を売る流れができてしまい、円安が起きたのです。

世界通貨レート
写真=iStock.com/narvikk
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/narvikk

■2020年代の日本では「円安」が悪者になる

ここで考えなければいけないのが、日本では今や「円高」よりも「円安」が悪者になりはじめているということです。過去10年では東日本大震災の後に1ドル=79円という円高が起きて「日本経済の復興に悪影響を与える」と超円高が禍の元であるかのごとく取り沙汰されました。自動車などの輸出産業では、為替が1円だけ円高に進んだだけで1社あたり100億円の利益が吹き飛ぶといわれるからです。

ところが2020年代に入り、日本は輸出依存よりも輸入依存度が高まりました。多くの商品分野では製品の輸入依存度が25%、かつて日本が強かった家電商品にいたっては35%まで輸入に頼るようになってきています。そうなると状況は逆で、円安こそが悪者で、円安が進むと家計が圧迫されるという新しい問題の方が問題視されるようになってきているのです。

■今は「悪いインフレ」が起きている

さて、この3つの要因から生まれた値上げラッシュは、経済学で言う「悪いインフレ」です。

かつて安倍政権がアベノミクスで掲げてきたデフレ脱却は、労働者の給料が上がることでいいインフレが起きて、経済が回復しながら物価が上がっていくことを目指していました。ところが今起きていることは逆で、給料が上がらず、ないしは雇用が失われて収入が減っているにもかかわらず、物価だけが上がっている。これを経済学ではスタグフレーションといって、庶民の生活にとっては最悪の状況です。

1973年にオイルショックが引き金で起きたスタグフレーションは我が国が経験した最悪のインフレです。突然いろいろな商品価格が1.4倍から2倍ぐらいの幅で引き上げられて、多くの家庭が本当に生活に必要な商品以外は買うことができないといった状況に追い込まれました。

今起きている値上げラッシュは、スピードはオイルショックのときと比べると非常に緩やかなのですが、起きているメカニズムと向かっている方向は同じスタグフレーションであることは間違いありません。違いは急激に経済が大不況に陥るのか、それとも家計が真綿で首を絞められるようにゆっくりとゆっくりと苦しくなっていくかの差なのです。

■値上げラッシュは長く続く可能性がある

今回の値上げラッシュのうち、工場再開のタイムラグで起きた物不足が原因のものは夏頃までには解消されるでしょう。農作物などコモディティ価格の上昇も1年後には落ち着いている状況を期待していいと思います。

一方で脱炭素が進む以上、原油高は続くでしょうし、今の日本経済を前提に考えると長期的な円安傾向はこれからも続きそうです。このメカニズムを前提にすると値上げラッシュは1月から4月にかけて起きるイベントではなく、その先も長く続く可能性がある。その前提で自衛策を考える必要がどうやらありそうです。

スーパーのカート
写真=iStock.com/shironosov
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/shironosov

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鈴木 貴博(すずき・たかひろ)
経営コンサルタント
1962年生まれ、愛知県出身。東京大卒。ボストン コンサルティング グループなどを経て、2003年に百年コンサルティングを創業。著書に『日本経済 予言の書 2020年代、不安な未来の読み解き方』など。

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(経営コンサルタント 鈴木 貴博)

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