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「今夜は狼になっちゃうゾ」ゾッとするほど気持ち悪い"おじさん構文"の根本的な問題点

プレジデントオンライン / 2022年2月4日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kickimages

LINEなどで使われる中高年男性特有の言い回しは「おじさん構文」と揶揄されることがある。なぜ他の世代に不快感を与えてしまうのか。ライターの安田峰俊さんは「絵文字やポエムを使うこと自体がダメなのではない。自己陶酔的になっていて、受け取った相手の気持ちを考えていない点に問題がある」という――。(聞き手・構成=フリーライター・上原由佳子)

■「ユニバーサル文章術」とはなにか

——『みんなのユニバーサル文章術 今すぐ役に立つ「最強」の日本語ライティングの世界』(星海社)では、LINEの返信の仕方やツイッターで一目置かれる書き方を紹介するなど、これまでの文章術の本とは一風変わった内容になっています。まず、「ユニバーサル文章術」とは、どういったものでしょうか。

安田峰俊『みんなのユニバーサル文章術 今すぐ役に立つ「最強」の日本語ライティングの世界』(星海社)
安田峰俊『みんなのユニバーサル文章術 今すぐ役に立つ「最強」の日本語ライティングの世界』(星海社)

【安田】日本語を母語とする令和の現代人なら誰でも読めて、誤解なく理解できる文章を書く技術、と理解してもらえればOKです。加えていえば「日本でちゃんと商業流通している新聞や雑誌に載っているような文章」というところでしょうか。

——安田さんは中国のルポを書くイメージが強いのですが、今回はなぜ文章術を?

私、今年でライター歴16年目なんです。マスコミに勤務したりライター学校に通ったりした経験はなくて、完全に叩き上げ。昔は無記名で中国と無関係なムック本や情報商材の原稿も書いていた。長編小説と詩以外はほとんどの文章を書いたことがあるはずです。

そういう事情もあって、日常生活で商店街のチラシとか学級通信なんかの普通の人が書いた文章を見ると、なんだか気になっちゃうんです。「ここは何か違和感あるな」「俺ならこうリライトするよな」みたいに考える習慣がありまして。

■「損してんなあ」という文章が多すぎる

【安田】最近、たまに若手の作家志望者やライター志望者から「原稿を読んでください」みたいな連絡がくるんですよ。しかし、それらの9割くらいは、内容以前に「文章がやばい」。表記とか改行とか句読点の打ち方とか言葉選びとかタイトルとかいろいろやばいわけです。「ああ、損してんなあ」と思うことが多い。

——なるほど……。

ダメな文章について直すべき部分は、多くの人に共通点があるんです。それを言語化できないかと思って、「note」に書いたらよく読まれた。そのとき、旧知の編集者(星海社社長、太田克史氏)から「次著のネタない?」と尋ねられたので、本書の執筆に至ったわけです。

——ジャーナリストが書いた文章術の本だと、本多勝一さんの『日本語の作文技術』(朝日文庫)がありますね。現在でも、ライター学校や新人新聞記者の研修で、教科書になっている本です。

私も若いときに『日本語の作文技術』を読んでいます。句読点をどう考えるかをはじめ、日本語の感覚を鋭敏にするためにはいまでも読むべき本です。ただ、初版発行が50年ぐらい前なので、実は現代ではしっくりこない部分も多い。『日本語の作文技術』の日本語は、すでに令和の日本人にとって読みやすい日本語ではないんです。

■伝わるLINEやツイッターをバズらせたい人のために

【安田】例えば「改行」です。現代の一般向けの文章だと、長くても数百字に1回くらい改行しますし、ウェブ記事だともっと短くて120字ごとくらい。一方、『日本語の作文技術』の本文には、見開き2ページに1回しか改行がない、みたいな文章が普通に出てくる。現代人にはけっこうキツいですね。

——たしかに。安田さん自身は、過去に他にはどんな本を参考にされていましたか。

樋口聡『フリーライターズ・マニュアル』(青弓社)、吉田典史『年収1000万円! 稼ぐ「ライター」の仕事術』(同文舘出版)あたりは若いときに参考になりました。比較的近年だと、古賀史健『20歳の自分に受けさせたい文章講義』(星海社新書)もよかったですね。

ただ、特に前の2冊はガチで「ライターになりたい人」向けの本です。しかし、いま文章術の本を手に取る一般の人は、おそらく文筆業をやりたいわけじゃない。分かりやすいメールを書きたいとか、伝わるLINEで異性を落としたいとか、ツイッターやnoteをバズらせて有名になったりお金儲けしたりしたい、みたいな人が圧倒的多数でしょう。

本書では改行の大切さも説く。アメブロで開設されている叶姉妹のオフィシャルブログ『ABUNAI SISTERS』の2021年6月20日15:05:19付</a>け記事の文章。「こちらは」「どうか」など、1文どころか1文節で改行するファビュラスな文体で書かれている。
本書では改行の大切さも説く。アメブロで開設されている叶姉妹のオフィシャルブログ『ABUNAI SISTERS』の2021年6月20日15:05:19付け記事の文章。「こちらは」「どうか」など、1文どころか1文節で改行するファビュラスな文体で書かれている。

■読者の気持ちを考え、「書く目的」を意識する

——本書にも「LINEの短い会話や定型文のメールなんかも含めると、35歳の既婚サラリーマンは年間に新書15冊ぶんの文章を書いている」という話があります。スマホ時代になってから、一般の人が文章を書く機会も量も増えましたね。

【安田】はい。でも、そういう「ガチじゃない」人向けの、本当に役立つ文章術の本はあまりない。インフルエンサーの文章術はいくつかありますが、意識高い系のノウハウって、短期で結果を出す以外の場にはあまり向かない。日本の一般的な社会人が、周囲の人の信頼を得ながら持続可能性を持って豊かになりたい場合は、相性が悪いんです。なので本書を書いたわけです。

——ユニバーサル文章術でいちばん重要なことは「読者の気持ち」を考える(=受け手の立場を想像して書く)とありました。言い換えるとどういうことでしょうか。

あらゆる文章に言えることですが、「書く目的」を意識して、目的を達成するために最適化された文章を書くことです。例えば学術論文なら、研究の内容を論証することや、学位を取ること、業績を増やすことなどが「目的」。メールなら、ビジネス情報を誤解なく簡潔に伝達すること、場合によっては相手と信頼関係を醸成することなどが「目的」となる。婚活アプリで異性に送るメッセージなら、もちろん、会えるようになること、交際に発展させることが「目的」です。

■「うまいこと言った」は常に切り捨てていく

【安田】逆に言うと、目的外のことはやっちゃいけないのです。文章を書いていると、「話の流れからは浮いちゃうけど、この1文は入れたいなあ」みたいなこと、ありませんか? LINEで長文を書くときなんかも含めて。

——たしかにありますね。

そういう1文は、書いたほうが読者の理解が促進されると考えるなら入れるべきです。でも、「自分がうまいこと言ったから」とか「せっかく辞書で調べたのにもったいない」みたいな理由なら、それは読者のためじゃなくて自分のためですよね。こういう箇所は、常に切り捨てていきましょう。

ノートパソコンの上に置かれたメモ帳とペン
写真=iStock.com/Demianastur
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Demianastur

もちろん、論文の冒頭で自分の一族の歴史を延々と語るとか、メールに無関係な自社のアピールをゴテゴテ詰め込むとか、異性へのメッセージで自分に酔った言葉遣いをするとかは論外です。それらを書くことで自分自身は気持ちいいとしても、「読者の気持ち」にそぐわず、「書く目的」にも合致しない。なので書いてはダメなのです。

——厳しいですね……。

私自身、過去にけっこうやらかしているので。ゆえに分かるというか。今回の『ユニバーサル文章術』は、そういう往年の失敗にもとづく経験と、そこから得た教訓を落とし込んだ本でもあるんですね。

■営業で「いつ来られますか?」はダメ

——この本はメールやウェブ記事だけではなく、異性へのLINEや婚活アプリの文章術など、「変わりダネ」の文章も扱っていますよね。ちなみに私、キャバクラでの勤務経験をもとに地元沖縄の夜職の事情をよく書いています。ちょっと変な質問ですが、例えばホストクラブやキャバクラのキャストが営業LINEを送るときは、どう書けばいいでしょうか?

【安田】なるほど……。まず、キャバクラの営業LINEを「書く目的」は、お客をお店に呼んでお金を落としてもらうことですよね。なので、まず明らかにダメな事例は「今月ピンチなんです。お店来られますか?」とか「次はいつ来ますか?」みたいな文面です。

——お金を落としてもらうのが「書く目的」なのに、「店に来て(=お金使って)とは言ってはいけないのですか?」

はい。確かに「書く目的」はその通りですが、「読者の気持ち」を想像してみてください。「お前、カネくれ(意訳)」と言われて、気分が良くなる人はあまりいません。そもそも、露骨に営業を感じさせるメッセージはうざいですよね。発信者の都合ばかりで、情報の受け手のことをまったく考慮していない身勝手なコミュニケーションです。勝手に家にポスティングされるチラシに通じるものがある。

■「おじさん構文」はなぜキモいのか?

——それでは、どうすればいいでしょうか。

【安田】あくまでも一例ですが、あえて直接的に来店をうながさず、相手の自由意思にゆだねる(ように見えて行動をコントロールする)手法はどうでしょう? 例えば、常連客が前回の来店時に「◯◯屋のラーメンがうまい」と話していたとすれば、後日に「めっちゃおいしいです! ありがとうございます!」みたいなメッセージと、◯◯屋のラーメンをバックにした自撮り写真1枚だけを送る。

「店に来て」みたいな現実的な要求は一切言わないで、「◯◯屋のラーメン」という2人だけが通じる符丁を示して、行動をうながすわけです。お客さんも「俺のことだけ見てくれている」と感じられれば、たとえ営業でもそこまでイヤな気はしません。やがて、こちらのラーメン1杯への投資の何倍もお金を落としてくれるかもしれないですよ。

——本書では、痛々しい「おじさん構文」や、「◯◯ちゃんに逢いたい。君を想ってる」のような自分に酔っている文章も登場します。

ツイッターには、夜のお姉さんたちが、気持ち悪いお客さんが送ってきたメッセージのスクショを大量にアップしている「#クソ客がいる生活」っていうハッシュタグがあって、あれを見ると実例がたくさん分かりますね。おじさん構文のほかに「恋愛系のJ-POPの歌詞を送りつける」というパターンもあるようです。

■不特定多数の前に流出しても恥ずかしくない文体を

——私も昔そうしたメッセージをもらったことがありますが、あれはきつかったです。ヘタに褒めると、もっと歌詞が送られてくるし、返信のしようがない。

【安田】あれがダメな理由は「これが俺だ、分かってくれ」みたいな姿勢ですよ。男性側が夜のお姉さんへのLINEを「書く目的」って、身も蓋もないことを言えば「プライベートで会いたい」「セックスしたい」じゃないですか。それならば、目標が達成できる情報発信を心がけないと。すくなくとも「読者の気持ち」を考えて、相手が受け取って不快にならない文体ぐらいは想像をするべきですよね。

文体や絵文字を使う量って各人や世代によって大きく違うのですが、普通にLINEを3~4通やりとりすれば、相手の基準みたいなものがだいたい検討がつく。相手が受容できるかを無視して、「31日夜はずっと暇カナ? おじさん狼になっちゃうゾ」みたいなコテコテのメッセージとか、J-POPの歌詞とかを送っちゃダメですよ。

「おじさん文章ジェネレーター」より作成
「おじさん文章ジェネレーター」より編集部作成

——うーむ。でも、自分に酔っている人が自己を客観視できるものでしょうか。

LINEやメールの文章は、スクショが不特定多数の前に流出しても恥ずかしくないことを書くことが大事ですよね。異性へのNG表現だけじゃなく、パワハラやモラハラ表現のNGラインの基準になると思いますが。家族や部下に送るメッセージでもこの点は注意すべきでしょう。

■「おじさん構文」が許されるケースもある

——「読者の気持ち」を考えれば、おじさんがスマートに女の子を誘うことも可能なのでしょうか? 過去の経験上、不快にならない誘い方をする人はほぼいませんでしたが……。

【安田】うーん。例えば、相手が寿司を好きな場合は「昨日、後輩に奢ったんだけど、この寿司屋すげえ良かったよ!」と書いて、1人2万円くらいの寿司屋のURLを送っちゃうとか? ここでのポイントは「後輩に奢ったんだけど」という一文です。よっぽど鈍感な人じゃない限り、女性はここから「あなたにも奢る」というメッセージを読み取るでしょう。

とある居酒屋のインテリア
写真=iStock.com/tma1
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/tma1

——たしかに、「昨日、後輩に奢ったんだけど、この寿司屋すげえ良かったよ!」には「連れてってください!」と返しますね。

「おじさん狼になっちゃうゾ」と比べたら、欲望を垂れ流さないきれいな誘い方だとは思います。

——本書では「おじさん構文」を厳しくダメ出しする一方、許されるシチュエーションもあると書かれていますよね。

ええ。例えば「ヤッホー! 由佳子ちゃんはおうちカナ? 大好きダヨ(ハート)今日ははやく逢いたいネ(ハート)」みたいなバリバリのおじさん構文のLINEメッセージを、65歳の山田清さんが送ったとして……。

——いや、無理です。無理。

でもこれ、相手の「由佳子ちゃん」が、おじさんの奥さんの山田由佳子さん(65)だったらどうでしょう? キモさはゼロで、シニア夫婦が仲良くて幸せじゃんで終わる話です。そして由佳子さんも「ありがとうキヨシくん、待ってるネ(ハート)」とか返事を書くと。

——かわいい会話ですよね。全然キモくない。

その表現の文化を共有している相手同士で送り合うなら、「おじさん構文」はぜんぜんアリなんです。相手が受け取って気持ちいい文章なら、それでいいんですよ。

キモいのは「おじさん構文」それ自体じゃなくて、不倫とかパパ活のワンチャンを求めて、文化を共有しない若い女の子を相手に、欲望ダダ漏れの文章を送るおじさんの姿であると考えたほうがいいでしょう。

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安田 峰俊(やすだ・みねとし)
ルポライター、立命館大学人文科学研究所客員協力研究員
1982年生まれ、滋賀県出身。広島大学大学院文学研究科博士前期課程修了。著書『八九六四 「天安門事件」は再び起きるか』が第50回大宅壮一ノンフィクション賞、第5回城山三郎賞を受賞。他の著作に『現代中国の秘密結社 マフィア、政党、カルトの興亡史』(中公新書ラクレ)、『「低度」外国人材』(KADOKAWA)、『八九六四 完全版』(角川新書)など。近著は2022年1月26日刊行の『みんなのユニバーサル文章術』(星海社新書)。

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(ルポライター、立命館大学人文科学研究所客員協力研究員 安田 峰俊 聞き手・構成=フリーライター・上原由佳子)

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