「説明上手は才能ではない」頭のいい人は、なぜプレゼンで人を飽きさせないのか
プレジデントオンライン / 2022年2月28日 10時15分
※本稿は、三宮真智子『メタ認知』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。
■「メタ認知」ってなに?
「メタ認知」という言葉を、最近よく目にするようになりましたが、少し意味がわかりづらいという声も聞きます。メタ認知とは、本来、どういう意味なのでしょう?
「今日は朝から、頭の調子がよくないな。体調が悪いせいだろうか」
「さっきのAさんのプレゼンは、少しわかりにくかった。話の順序を変えるとよくなるのに」
「しまった! 同僚への説明の中で、大事なポイントを抜かしてしまった」
「息子をいきなり叱りつけたのはまずかった。まずは怒りを抑えて、冷静に話せばよかった」
「せっかくスーパーに行ったのに、卵を買い忘れた。面倒がらずに買い物メモを作るべきだった」
日常生活の中で、このように考えたことはありませんか? 実は、頭の中に湧いてくるこうした思考は、メタ認知と呼ばれるものです。もちろん、メタ認知はネガティブな内容ばかりではありません。次のようなポジティブなものもあります。
「Aさんの話が聞き手を引きつけるのは、たとえ話が適切だからだ」
「レポートの内容が頭の中でうまくまとまらなかったが、いったん書き始めると、スムーズに進むものだ」
「最近、うちの娘は、うまく意見を言えるようになった。論理的な思考ができるようになったのかな」
このように私たちは、ふだんからある程度、メタ認知を働かせているのです。
■記憶する、思い出す、理解する、考える…
「メタ認知とは、一言で言うと、認知についての認知です」
私は講演の冒頭で、このように話し始めることがあるのですが、そう言われても、初めての人にはピンと来ないでしょう。そもそも認知とは? それは、頭を働かせることです。心理学では、見る、聞く、書く、読む、話す、記憶する、思い出す、理解する、考えるなど、頭を働かせること全般を指して認知(cognition)と呼びます。頭の中で行われる情報処理と言い換えることもできます。
私たちは朝起きてから夜寝るまで、何らかの情報を処理していますから、ほぼ一日中認知活動を行っているわけです。私の専門でもある認知心理学と呼ばれる研究分野は、この頭の働きについて研究する分野です。
cognitionは「認識」と訳されることもあり、現在では一般に認知心理学と訳されるcognitive psychologyを「認識心理学」としている本もあります。同様に、「メタ認知」が「メタ認識」と表記されている場合もありますが、両者は同じ意味です。また、「メタ」という語は、ギリシア語に由来する接頭語であり、「~の後の」「高次の」「より上位の」「超」「~についての」などという意味を表します。
■頭のいい人は「メタ認知」を使いこなしている
したがって、メタ認知とは、認知についての認知、認知をより上位の観点からとらえたものと言えます。自分自身や他者の認知について考えたり理解したりすること、認知をもう一段上からとらえることを意味します。自分の頭の中にいて、冷静で客観的な判断をしてくれる「もうひとりの自分」といったイメージを描いてみると、少しわかりやすくなるかと思います。たとえば、図表1のようなものです。
本稿のメインテーマである「メタ認知」は、あらゆる認知活動について想定することができます。たとえば、記憶についてのメタ認知はメタ記憶と呼びます。何かを覚える、思い出すといった活動は、記憶という認知のレベルですが、「どのように覚えたら忘れにくいか」「覚えたことを思い出せそうか」などと考えるのはメタ認知のレベルです。
また、メタ理解は、「私はテキストの内容を理解できているか」「どのような順序で学ぶと理解しやすいか」などと考えることや、理解に関連する知識です。学ぶこと、つまり学習に関しては、メタ学習という概念があり、学習をさらに一段上からとらえた思考や知識を指します。たとえば「どうすればよりよく学べるか」と考えることや、それについての知識などです。
本稿では、効果的な学びによって頭の働きをよくすることに関わる、広い範囲のメタ認知を取り上げていきたいと思います。
■成長過程で誰もが身につける知識
私たちは、「私の記憶は完ぺきではない」ということを知っています。また、「私たちは、多数派の意見に流されやすい」といったことや「講義を聞く時には、忘れないようにメモをとるとよい」ということも知っています。こうした知識は、「水は酸素と水素からできている」「三角形の内角の和は180度である」などの知識とは異なり、自分を含めた人間の認知についての知識です。これをメタ認知的知識と呼びます。
言うまでもなく、この「認知についての」という部分が重要であり、たとえば「人間はほ乳類である」というのは、人間についての知識ではあってもメタ認知的知識ではありません。
メタ認知的知識を持つことは、メタ認知を働かせる上でとても重要です。たとえば、「私の記憶は完ぺきではない」と知っているからこそ、忘れてはならないことを記録しようと考えるわけです。また、自分の記憶とAさんの記憶が食い違っていた時にも、自分の記憶を疑ってみることができるため、「Aさんは、まちがっている」と決めつけてしまうことを避けられるわけです。もちろん、Aさんの記憶がまちがっている可能性もあり、さらには2人ともまちがっている可能性もあるわけですが。こうした、偏りのない判断をする際に、メタ認知的知識が非常に役立つのです。
■人にまつわる認知、課題を理解する認知、工夫を生む認知
さて、メタ認知という言葉を使い始めたフレイヴェルは、もともとメタ認知的知識を大きく、次の3つに分けました。
・「人変数」に関する知識
・「課題変数」に関する知識
・「方略変数」に関する知識
これらをわかりやすく言うと、メタ認知的知識は次の3つの要素に分かれるということです。
(1)人間の認知特性についての知識
(2)課題についての知識
(3)課題解決の方略についての知識
これら3つのメタ認知的知識については、例を見ていくとわかりやすいでしょう。
(1)人間の認知特性についての知識
人間の認知特性についての知識とは、私たちの一般的な認知の特性についての知識です。たとえば、「一度に多くのことを言われても覚えられない」「難しい文章でも、何度か読むと理解しやすくなる」などがこれに該当します。驚くべき記憶力の持ち主など、例外的な人もいますが、多くの人に当てはまるのが、この人間の認知特性についての知識です。他には、「思考は感情に左右されやすい」といった知識もその例と言えます。
■まず「何を要求しているのか」を理解する
(2)課題についての知識
課題についての知識は、「複雑な計算は、単純な計算よりもまちがえやすい」「討論では、雑談の時よりもわかりやすく丁寧に発言する必要がある」といった、課題の性質に関する知識を指します。レポートや論文を執筆する際にも、字数制限に応じてまとめ方を変える必要があるという知識が、これに当たります。
その課題が何を要求しているのか、その課題の本質は何なのかを知っていれば、課題に対して適切な対応をとることが容易になります。
(3)課題解決の方略についての知識
課題解決の方略についての知識は、「うっかりミスを防ぐには、何度も見直しをすることが役立つ」「ある事柄についての思考を深めるには、文章や図で表してみるとよい」といった方略、つまり課題をよりよく遂行するための工夫に関する知識を指します。課題解決の方略についての知識を豊富に持ち、これを実際に活用することによって、課題遂行のレベルを上げることができます。
■(1)と(2)を経由しなければ(3)は使いこなせない
ここで強調しておきたいのは、人間の認知特性についての知識および課題についての知識を持っていてこそ、課題解決の方略についての知識が活かされるという点です。と言うのも、人間、とりわけ自分の認知特性や課題の本質を理解していなければ、方略だけを手っ取り早く覚えたとしても、それは「小手先の知識」でしかなく、実際にはそれほど役に立たないからです。つまり、「なぜその方略が有効なのか」を十分に理解してこそ、必要な場面で役立つ方略を自ら選び出し、有効活用することが可能になるのです。
青年期前期以降は、目覚ましい勢いでメタ認知が発達するため、仲間同士で学習方略についての情報交換がしやすくなります。そこで、教師が指導するだけではなく、クラスメイトや友人と学習方略について話し合う機会があるとよいでしょう。これはもちろん、大人の学びについても言えることです。
■「分からないことを分かっている」ことの大切さ
「あっ、わかった!」と閃(ひら)めいたり、「なんか、ピンと来ないな」ともやもやしたり、行き詰まっている問題に対して「見方を変えてみよう」と仕切り直したりすることがあります。こうした活動や経験をメタ認知的活動、あるいはメタ認知的経験と呼びます。ここでは、メタ認知的活動という言葉で呼ぶことにしましょう。メタ認知的活動は、メタ認知の知識成分であるメタ認知的知識とは異なり、頭の中で起こる活動です。
私たちの頭の中では、メタレベルでさまざまな活動が起こっています。先ほどの「あっ、わかった!」や「なんか、ピンと来ないな」というのは、自分で自分の認知状態を観察しているようなものであり、メタ認知的モニタリングと呼ばれます。一方、「見方を変えてみよう」と仕切り直すのは、認知を制御するわけですから、メタ認知的コントロールと呼ばれます。この制御の中には、微調整などの調整も含まれます。
こうしたメタ認知的活動も、実は私たちが日頃から、ある程度自然に行っていることです。メタ認知的活動を活発に行うことによって、認知活動の質は高まっていきます。
■説明や教えることにとても役立つ
メタ認知的活動は、自分ひとりで考えたり覚えたりする個人内での認知活動においても役立つものですが、とりわけ人に何かを伝えたり教えたりする場合には、さらに重要な役割を果たします。
メタ認知的活動の1つに、メタ認知的モニタリングがあります。これは認知状態をモニターすることです。たとえば、「ここがよくわからない」「なんとなくわかっている」といった認知についての気づきや感覚、「この問題にはすぐ答えられそうだ」といった認知についての予想、「この考え方でよいのか」といった認知の点検、「十分に理解できた」といった評価などが、これに当たります。
メタ認知的コントロールとは、認知状態をコントロールすることです。たとえば、「説得力のある意見文を組み立てよう」といった認知の目標設定、「結論から考え始めよう」といった認知の計画、「この例ではわかりにくいから、他の例を考えてみよう」といった認知の修正などが、これに当たります。これらをまとめたものが、図表3です。
■メタ認知を使ってプレゼンのスキルを上げよう
メタ認知的活動を時系列的に見るならば、次の三つの段階に分けることができます。
①事前段階のメタ認知的活動
②遂行段階のメタ認知的活動
③事後段階のメタ認知的活動
学習活動の事前段階、遂行段階、事後段階のそれぞれにおけるメタ認知的活動をまとめたものが図表3です。たとえば、会議室や教室で、自分の調べたことを発表する(プレゼンテーションを行う)という活動を考えてみましょう。
まず、事前段階では、「この課題は、私にとってどれくらい難しいものか」「うまくできそうか」を考えるのではないでしょうか。そうした事前の評価や予想に基づいて、目標を設定し、計画を立て、方略を選択することになるでしょう。この時、自分や聞き手の認知特性、課題の特性、方略についてのメタ認知的知識が活用されます。たとえば、「私は、肝心な説明を抜かしてしまうことが多い」「説明が冗長だと、聞き手はたぶん飽きてしまう」「ビジュアル素材を活用すれば聞き手の関心を引く」といったものです。
■説明中も点検しつつ、フィードバックを忘れずに
遂行段階では、遂行そのもの、つまりプレゼンテーションに認知資源の多くが用いられるため、メタ認知的活動を十分に行うことは困難です。しかしながら、そうした中でも、私たちはモニタリングを働かせて、「思ったよりも難しい」と課題の困難度を再評価したり、「うまくできているか」「聞き手の理解や関心を得ているか」と課題遂行を点検したり、「計画通りに進んでいない」とズレを感知したりというメタ認知的モニタリングを、ある程度は行っています。このモニタリングを受けて、目標・計画の微調整や、ちょっとした方略の変更といったコントロールを行っているわけです。
課題遂行つまりプレゼンがすっかり終わった事後段階では、メタ認知的活動に多くの認知資源を投入することができます。「ある程度までは目標を達成できた」「最後が急ぎ足になったのは、時間配分に失敗したためだ」といった評価や原因判断を行い(メタ認知的モニタリング)、次回に向けて、目標や計画を立て直したり、異なる方略を選択したりすること(メタ認知的コントロール)ができます。
プレゼンスキルを向上させたいと真剣に願う人は、自分のプレゼンをビデオに撮っておき、後で視聴しながら問題点、改善すべき点を洗い出す作業をすることも珍しくありません。教員養成系大学に勤務していた頃、私は実際に、教育実習事前指導の一環として希望者を募り、小学生に対する自らのプレゼンをビデオでふり返りながら改善していくという演習を行っていました。
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大阪大学名誉教授/鳴門教育大学名誉教授
大阪府生まれ。大阪大学名誉教授、鳴門教育大学名誉教授。専門は認知心理学、教育心理学。大阪大学人間科学部卒業、同大学大学院人間科学研究科博士前期課程修了、同後期課程単位取得満期退学。1985年学術博士(大阪大学)。鳴門教育大学講師、助教授、教授、大阪大学大学院人間科学研究科教授などを歴任。著書に『メタ認知で〈学ぶ力〉を高める』(北大路書房)、『誤解の心理学』(ナカニシヤ出版)、編著書に『メタ認知』(北大路書房)、『教育心理学』(学文社)など。
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(大阪大学名誉教授/鳴門教育大学名誉教授 三宮 真智子)
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