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「次は日本の市場が狙われる」韓国製EVが欧州で急速にシェアを広げる理由

プレジデントオンライン / 2022年3月1日 12時15分

IONIQ5(Hyundai Mobility Japan公式ホームページより)

■フォルクスワーゲンの牙城に食い込む

韓国の自動車メーカーの電気自動車(EV)が欧州で絶好調だ。Hyundai(ヒョンデ)や同社グループ系列のKia製を中心に破竹の勢いでシェアを広げ、「自動車業界、驚きのシャッフル」「韓国EV、テスラよりも売れそう」と伝える記事さえも出てきた。

韓国車に馴染みが薄い日本のユーザーにとっては「なぜ?」という疑問が湧くかもしれない。実際のところ欧州でも、韓国製のクルマの存在感は2022年に入るまでそれほど大きくなかった。

欧州全体では、独フォルクスワーゲン(VW)が圧倒。フランスやイタリアでは、自国の自動車メーカーが幅を利かせ、自国とその周辺の購買者が持つ「愛国心」に訴えながらシェアを確保してきた。一方、日本や韓国のメーカー各社は米国ではそれなりのシェア獲得に成功してきたが、欧州では「存在自体は知られている」ものの、欧州メーカーと比べるとそこまでのシェアは取れずにいた。

しかし、そんな業界図に変化が生じている。英国における2021年のEVモデル別販売台数では、「Kia e-Niro」がフォルクスワーゲン「ID.3」を上回り2位につけた。登録台数は前年同月比でヒョンデが81.5%増、Kiaが67.5%増と、日本メーカーがいわば足踏み状態にあるEV市場で、英国や欧州市場で地位を築きつつある。

■新型「IONIQ 5」が北米、欧州で発売

ヒョンデの「IONIQ」は、環境車としてすでに各国の市場で着実に販売実績を上げていた。2016年の初代IONIQは、同じプラットフォームを使ったEVとプラグインハイブリッド(PHEV)がある。日本では販売当初から「トヨタのプリウスに酷似」という批評も聞かれるが、HEV車としてプリウスが不動の地位を築いている欧州では、IONIQとプリウスを混同する声は聞いたことがない。

新型の「IONIQ 5(アイオニック・ファイブ)」は、2019年のフランクフルトモーターショーでお披露目されたのち、2022年に入ってから北米と欧州市場に本格登場した。ボディデザインは、韓国の独自生産車として普及した「ポニー」を踏襲したとするものの、実車を見ると薄いヘッドライトとクラムシェルフードのフロント形状が印象的だ。

後述するが、このIONIQ 5は日本でも5月に発売される。最低価格は479万円(金額は税込み、補助金など含まず)。

■「後発EV」でどうやってシェアを広げたのか

後発EVにもかかわらず、韓国メーカーはいかに欧州マーケットに食い込んだのか。まず、Kiaがスロバキアに2004年、続いてヒョンデがチェコに2008年、いずれもかつての東側陣営に製造拠点を建てた。ここを拠点に安価な労働力を使って欧州全体に販売を図った。VWなどの小型車に比べて廉価だったものの、個人購入よりもむしろレンタカーやリース向けといった「フリート販売」で実績を積んでいった。

韓国車の日本における評価は、マーケットから撤退した経緯もあって、残念ながら高いとは言えない。あるいは、日韓間の外交上の懸案などを原因とする交流の冷え込みから、韓国メーカーにとって日本が「売れない市場」になった事情もある。

テスラ車が「路駐」されている風景もロンドンでは日常的に
筆者撮影
テスラ車が「路駐」されている風景もロンドンでは日常的に - 筆者撮影

しかし、英国で実際にレンタカーとして乗ってみたら、加速性能や乗り心地の点で、日本車と比べ「乗ってて困るほどの違い」は見つからなかった。むしろ、「そこそこの値段で借りられてよく走る」という手ごろな性能の良さに好感が持てたほどだ。

英国もかつては日本のように、EVが持つ航続距離への懸念、充電場所探しの面倒などから、フルプラグインタイプのEVは敬遠気味だった。英国市場におけるEVは、日産の「リーフ」をはじめ、BMWの「i3」、はたまた三菱の「i-MiEV(欧州向けモデルはプジョー iOn、シトロエン・C-ZERO)」などが先行モデルとして販売されていたが、普及が大きく進むまでには至らなかった。

■「廉価版EV」が意識高い系の中間層に刺さる

それが、テスラの成功で人々の目は一気にEVへと向かった。英国における2021年の乗用車販売台数統計を見ると、ガソリン、ディーゼル車を含む全体で、テスラの「モデル3」がランキングの2番手にまでのし上がっている。EVに限ったランキングでは圧倒的なトップに輝いた。

ただ、車両価格が最低でも4万2500ポンド(英国での販売価格、約650万円)と高価で、いくら政府が補助金を打っても庶民にはやはり手が出づらい。

Covid stalls 2021 UK new car market but record EV sales show future direction
出典=Covid stalls 2021 UK new car market but record EV sales show future direction

そうした市場に、3万ポンド(460万円)前半という廉価なEVを送り込んだのが韓国メーカーだ。EVが欲しいと考える「環境への意識が高い中間層」への訴求効果は抜群だったと言えようか。

「最も売れているEV」であるテスラには及ばないが、昨年の統計を見ても韓国製EVの躍進は目覚ましい。「モデル3」が3万4783台だったのに対し、Kiaの「e-niro」とヒョンデ「Kona」を合わせた数字は1万9470台に達している。

【英国における環境車の販売台数の伸び(2021年の前年比)】英国自動車製造販売協会(SMMT)より
・電気自動車(EV)……76.3%増
・ガソリンハイブリッド車(HEV)……34%増
・プラグイン・ハイブリッド車(PHEV)…… 70.6%増
・マイルド・ハイブリッド車(mHEV)……ディーゼル車が62%増、ガソリン車が66.2%増

■テスラばかりのロンドンで韓国EVも混じるように

21年の英国の新車販売台数は、全体の17.5%がEVまたはPHEVとなっている。つまり、新車の6台に1台はプラグインで動力を得るクルマというわけだ。これにシェア9.0%に達するハイブリッド車と合わせると、新車市場の26.5%が内燃機関(エンジン)を使わないクルマになっている。

英国での原動機別車両の市場シェア(単位:%)

ロンドンの街を歩いていると、韓国製EVのシェアが急激に伸びていることが肌感覚でも分かる。ロンドン中心部と同市の空の玄関・ヒースロー空港とを結ぶ国道沿いでEVの普及具合を見るべく、走行台数を数えたことがある。

昨年末のクリスマス前は、EVといえばテスラ車が圧倒的で、1分に1台以上は通りかかるという状況だった。ところが2月中旬時点では、テスラよりはやや少ない割合で新車でピカピカな韓国EVが混じるようになった。目下のところKiaのEVモデルが多いが、発売されたばかりの「IONIQ 5」もよく見かけ、着実に韓国EVのマーケットシェアが伸びていることが分かる。

■「環境車といえばプリウス」だったが…

一方で、環境に優しくないとされるガソリン車やディーゼル車の市場シェアは目に見える形で減少している。英国では2030年、EUでも35年には化石燃料で走るクルマの新車販売が打ち止めになると決まっている。欧州全体でも脱炭素の動きは着々と進んでいる背景もあって、EVへの買い替え組が増えるのは無理もない(もっとも、欧州が原子力発電由来の電力を「環境にやさしいもの」と定義づけたことに問題を感じなくもないが)。

気になる充電施設だが、これまでに「足りなくて困る」という状況は起きていないと見ている。街の随所に設けられた高速充電スペースはいつも空いているし、ついには石油元売り大手のBPが、ガソリンスタンドの空きスペースを使って充電施設を設けるほどになっている。バッテリーの性能が上がり、航続距離が大幅に伸びていることも追い風となっている。

欧州では2000年代の後半以降、テスラの登場まで、「環境車といえば、トヨタのプリウス」という認識が一般的だった。その後、コンパクトカーの「ヤリス」が広まり、ハイブリッド車(HEV)が大きく市民権を得た。ヤリスは2021年の「ヨーロッパ・カー・オブ・ザ・イヤー」を受賞、高電圧(144V)のリチウムイオン電池(LIB)を搭載する本格的なHEVでもあることから、しっかりと顧客層をつかんだかに見えた。

■消費者の「欲しいタイミング」を完全に逃した

ところが、欧州市場で日本製環境車のシェアを脅かす2つの大きな動きが生まれた。

ひとつは、テスラの普及で消費者が「EVに大きく移行するムーブメント」が起きたタイミングで日本製EVの新型モデルが市場に存在しなかったことだ。せっかく、トヨタがHEVで欧州市場に確固たる地位を築いたにもかかわらず、EV需要に応えられるだけのモデルを用意できていなかった。そこへ、圧倒的な安さで売り込む韓国製EVが登場、日本製に流れそうな需要を一気にかっさらってしまう事態が起きた。

もう一つは、簡易的な機構を持ったマイルド・ハイブリッド車(mHEV)が、欧州で一気に普及したことだ。ブレーキ時の回生エネルギーをバッテリーに蓄え、その電力を必要に応じてモーターを回し、エンジンをアシストするという仕組みを持つ。これにより、信号待ち時のアイドリングを防げる、加速性能が増すといったメリットが生まれる。しかもLIBにかかる電圧を許容接触電圧である50Vより低い48Vにとどめた。

感電防止にかかる機構を簡略化したことで車体価格が下がった。この分野で、欧州の既存メーカーがさまざまなモデルを出したことで、相対的にプリウスなどの日本製HEVのシェアが削られたというわけだ。韓国のヒョンデやKiaもmHEVを積極的に投入、欧州ユーザーの選択肢を増やしている。

住宅地の公衆充電スタンドを使用中のKia「e-Niro」
筆者撮影
住宅地の公衆充電スタンドを使用中のKia「e-Niro」(ロンドン西郊外の住宅地にて) - 筆者撮影

■「環境に配慮したZEV」2種を引っ提げ日本に再上陸

日本市場からいったん撤退したヒョンデだが、先ほども触れた通り、ゼロエミッション車(ZEV)の2モデルを引っ提げ、5月の再上陸が決まった。どんなモデルなのか、改めて見てみよう。

2月8日の発表によると、販売されるのはEVの「IONIQ 5」と水素燃料電池車(FCEV)である「NEXO」の2車種。市場参入の背景は、「世界規模で高まる環境配慮への意識や、一人ひとりが個人の価値観を重視した商品選択を行う傾向の高まりを背景に、日本社会の変化に対応する商品を投入する」としている。また、ディーラー網を持たず、購入申し込みはウェブで完結。今年5月よりオーダー受付開始、7月からのデリバリーを予定する。

なお「IONIQ」というモデルは、プロトタイプ登場以来、2~4を名乗ったバージョンはなく、いきなり5を付したモデルが出てきた格好となっている。

一方の「NEXO」だが、水素と大気中の酸素で電気を生成し、それでモーターを回して走るもので、排出する物質は水しかないため、極めて環境にやさしいとされる。日本でもすでにトヨタが「MIRAI」というFCEVを販売しており、実車を市中で見かけることもある。しかし、FCEVは燃料となる水素の充填場所が普及していない、という最大の問題を伴う。「NEXO」の価格は776万8300円で、航続距離は水素満タンで最大820キロ走るのに対し、「MIRAI」は最安モデルで710万円、最大で850キロ走る(金額は税込み、補助金など含まず)。

■このままでは国内シェアすら奪われる

米国の専門家の論評には、IONIQ 5について「テスラよりも売れそう」と評価するものも出てきた。デュアルモーターAWDのテスラ「モデルY」と、「IONIQ 5 Limited AWD」との比較によると、「モデルYは、フル充電時の航続距離と性能の両方の概念を極限まで高めている一方、IONIQ 5 Limitedは、モデルYよりも大幅に低い価格帯で、活発なパフォーマンス、巧妙な機能、堅実なビルドクオリティを持つことに感動した」としている。

EUが脱炭素への達成目標を明確に立てて、自動車業界にもその対応を求める中、2022年はコロナ禍からのV字回復の波に乗り、新型EVのワールドプレミアや市場投入が最も多くなると予想されている。自動車業界でも「50種類に及ぶEVがデビューまたは発売される予定で、そのほとんどがSUV」と見込まれている。

ロンドン西郊外のHyundai(ヒョンデ)ディーラーには、納車待ちの「IONIQ-5(左側)」が停まっていた
筆者撮影
ロンドン西郊外のHyundai(ヒョンデ)ディーラーには、納車待ちの「IONIQ 5(左側)」が停まっていた - 筆者撮影

世界的なEVルネッサンスの時代がやってくるにもかかわらず、日本メーカーは残念ながら市場の流れに取り残されているような気がしてならない。快進撃を続ける韓国メーカーが日本に再上陸すれば、世界どころか国内市場のシェアを大きく侵食してくることすら危ぶまれる。欧州でのEV販売で手応えを得ている韓国メーカーが強気に攻めてくる中、日本の各メーカーはこれにどう立ち向かうのだろうか。

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さかい もとみ(さかい・もとみ)
ジャーナリスト
1965年名古屋生まれ。日大国際関係学部卒。香港で15年余り暮らしたのち、2008年8月からロンドン在住、日本人の妻と2人暮らし。在英ジャーナリストとして、日本国内の媒体向けに記事を執筆。旅行業にも従事し、英国訪問の日本人らのアテンド役も担う。■Facebook ■Twitter

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(ジャーナリスト さかい もとみ)

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